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暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第1章 謎の暗黒騎士
18/195

それぞれの想い

◆知恵と勝利の女神レーナ


「大変だったね、レーナ」


 エリオスにある住居の近くまで戻ると声をかけられる。

 声がした方を見ると1人の男がいた。

「何か御用ですかアルフォス」


 双子の兄神であるアルフォスに要件を聞く。

 私は不機嫌になる。私はこの兄神があまり好きではない。私と容姿は良く似ているらしいが中身は別だと信じたい。


「なんでも、暗黒騎士に命を狙われたみたいだね、レーナ」

「わざわざ、そのような事を聞きに?」


 少し不機嫌そうに言う。

「ああ、聞くねレーナ。あの暗黒騎士は少々問題だよ」

「彼が問題なのは知っています」


 アルフォスは首を振る。


「彼は今しがた聖騎士団を壊滅させた」

「はいっ?」


 聖騎士団は神王オーディスに仕える人間の英雄と天使族の精鋭で構成された騎士団だ。

 この世界における最強の騎士団であり、エリオスの最強の精鋭部隊である。

 そんな彼らに匹敵するのはモデスに仕える暗黒騎士団ぐらいだろう。

 その聖騎士団が壊滅したとは一体何があったのだろう?


「エリオス近辺の空は彼らの管轄だからね。聖レナリア共和国上空も当然その範囲だ。彼はその空を飛行したのさ」


 空は神々の領域だ。基本的に鳥などの例外を除きその空を飛翔する事は許されない。あの勇者達には何とかお願いして飛翔しないでもらったぐらいだ。

 天使達は言うに及ばず、人間の英雄は天馬に乗って空を警備する。うかつにその空を飛べば彼らに捕まるだろう。


「そして、彼は捕縛しようとした彼らと戦闘になり彼らを壊滅させた。まあ暗黒騎士団を壊滅させた勇者を倒した男だ、それぐらいできても不思議じゃない」


 アルフォスは淡々と言う。

 私は暗黒騎士ディハルトを思いだす。とてもモデスの配下とは思えない容姿だった。

 闇色の髪に少し影のある精悍な顔つき、そして、切れ長の目に浮かぶ少し青みがある瞳が印象的だった。なぜ彼はモデスに仕えているのだろう。


「あれ、嬉しそうだねレーナ」


 アルフォスは言う。


「えっ!? そうかしら?」


 私は口元を抑える。


「それでオーディスはどうするつもりなの?」

「ああ、モデスと和睦したよ」

「和睦!?」


 それは意外な言葉だった。


「決定は神々の会合無しにはできないはずでは?」


 神々の決定、一般的にオーディスの決定と呼ばれるそれはエリオスに属する神々を拘束する。

 オーディスの決定と呼ばれるがオーディスが好きに決定してよいものではない。会合で出た意見を元にオーディスが最終決定を下すのだ。そしてオーディスには会合の意見に沿う義務がある。そうでなければ誰もオーディスに従わないだろう。


「私はそのような意見が出た会合に参加した覚えはないわ」


 会合への参加は義務ではないが、自身の知らない所で不利な決定をされるリスクがある。

 そして私は会合に不参加だった事はない。

 また会合を知らせる通知は必ずエリオスの神々に送られなければならないはずで、それがない時は決定の無効を主張できるはずだ。


「違うよレーナ、オーディスのみが和睦したのさ。だから他の神々は従う必要はない」

「どういう事なの?」


 確かにそれなら会合なしでも良いだろう。


「君が反対すると思ったんだろうねオーディスは、和睦の条件によってはね」

「確かにそうね」

「だからだろうね。オーディスは、モデスの持つ召喚の道具の破壊と引き換えに自身がナルゴルに攻め込まないという約束を結んだのさ」

「なんですって!!」


 約束の上ではオーディスのみが攻め込まないというだけだが、オーディスは神々の王だ。オーディスが攻め込まないならエリオス全てが動かないだろう。

 実質的にモデスは召喚の道具と引き換えにエリオスと不可侵条約を結んだようなものではないか。


「オーディスとしては、モデスより勇者やその暗黒騎士の方が問題だったのさ、何しろ単騎で聖騎士団を壊滅できる化け物なのだからね。だからこれ以上召喚をさせないためにモデスの持つ召喚の道具を処分したかったのさ」

「では、今いる勇者達やディハルトはどうするの? 問題なんでしょう?」

「ああ、彼らは君に何とかして欲しいとの事だ。何しろ君が召喚したのだからね」


 痛い所を突かれた。

 最初はもっと簡単に済むはずだった、モデスを倒し彼らを異界へ返せば全て終わりのはずだった。しかし、あと一歩の所で暗黒騎士が現れてしまった。

 しかも、召喚の道具は全てなくなってしまった。

 召喚は禁止され、その道具の作成の禁止もつい先日に決定してしまった。

 今後勇者達を動かすのは大変になるかもしれなかった。


「ちょっと待って、ディハルトを召喚したのは私ではないわ!!」


 ディハルトはモデスが召喚した者だ、私ではどうすることもできない。


「ああ、それなんだが、モデスが言うには暗黒騎士の行動は勇者次第との事だよレーナ。だからやっぱり君次第というわけさ」


 オーディスが攻め込まなくても勇者が攻めてきたらモデスは終わりだ。モデスとしては当然の要求だろう。


「だからねレーナ、僕はその事を伝えに来たのさ。勇者がエリオスの利益に反しないようによろしくして欲しいとね」


 私には何も言い返せなかった。

 モデスを倒せない以上、勇者の行動を管理しなければならない。彼らに下手な行動を取られては私のエリオスでの立場がなくなる。


「わかりました、勇者は何とかしましょう。そして用件がそれだけなら、帰ってくれませんか」


 私は怒ったように言う。


「すまないね、後もう1ついいかな」

「今度は何ですかっ!?」


 アルフォスを睨む。だが、そんな事で怯む兄ではない。


「レーナ、君は結婚はしないのかい?」

「はあ?」


 いきなり何を聞くのだろう。


「それも、オーディスの言づてですか?」

「違うよ、独り身の妹の心配をした兄の言葉さ」


 余計なお世話だと思う。


「エリオスの男神達は皆、不誠実です。そんな神と結婚する気はありません」


 エリオスの男神は皆愛人がいる。私に求婚しておきながら、愛人を沢山作るとはどういう了見だろう。

 そして、私がこの兄神を嫌いなのもその点だ。彼は独身だが愛人は2000を超えるだろう。兄もそれに群がる女も嫌いだ。


「おや、誠実な神もいると思うがね」

「ブサイクはもっと嫌いです」


 誠実かどうかはわからないが明らかに不誠実な神を除けば容姿が悪いのしか残らない。

 だからこそ、私は独り身なのだ。


「それでは神でないなら、勇者は?」

「それはありえません、彼はあなたに似ています」


 レイジはどことなくアルフォスに似ていた。だから、あまり好きになれなかった。


「それは手厳しいね。なら誰だったら良いのかな?」


 私は少し沈黙し答える。


「そんな人はいません!!」


 そう言うと兄は少し嬉しそうに笑う。


「それなら、しかたがないね。嫌われた兄は退散することにしよう。またねレーナ」


 兄は帰っていく。私はその背中を睨む。

 そして、私は考え込み首を振る。

 なぜ、ディハルトの顔が浮かんだのだろう?





◆勇者の仲間の少女チユキ


 帰れなくなってしまった。

 まさか召喚の道具が壊されるとは思っていなかった。

 あの後、1人飛び出して行ったシロネを私達は追いかけた。

 そもそも、私にとってレーナよりもシロネの命の方が大事だ。レーナを助けるためにシロネが犠牲になるなんて馬鹿げている。

 追いかけたが間に合わなかった。途中でスパルトイに遭遇したからだ。

 レイジは本調子ではなく、カヤはお酒でつぶれたキョウカを守るため同行できずにいた。前衛がほぼ不在の状態で戦わねばならず私達は苦戦した。また建物の中であるため私やリノの火力が大きい魔法が使えず、スパルトイを中々倒せなかったのだ。

 そして、ようやく辿り着いた部屋に入ったときに見たのはわんわん泣いているシロネとその前に立ちつくしているディハルトだった。

 ディハルトは私達を見ると剣を収め去っていった。

 後でレーナに聞いたのだが、ディハルトはレーナが新たな召喚をすると勘違いをして、召喚を阻止するために来たらしい。

 本当はまったくの逆なのにだ。

 どこで情報が漏れたのだろう?しかし、その疑問はナオが解決してくれた。最近変な小動物らしき物が神殿に入りこんでいたらしい。

 その小動物はおそらく敵の使い魔にちがいないだろう。そして、帰還の準備をしていたレーナを見て勘違いをしたのだ。

 その事に後から気付いたナオが皆に謝っていた。しかし、もう後の祭りである、今更どうしようもなかった。

 ディハルトは召喚の道具を壊す事だけが目的だったみたいで、あの襲撃で死んだ人は1人もいない。

 だから、シロネも助かった。

 シロネと合流した後、私はシロネを叱った。私達がどれだけ心配したと思っているのだろう。

 シロネは泣きながら謝っていた。

 実はシロネは武術をやっていただけで、本当はか弱い女の子だ。それでも剣を持っている間は何とかなるが、剣を失った途端にその弱さが出てしまう。

 シロネの話ではディハルトに全く敵わなかったそうだ。改めてディハルトの強さに気付かされる。

 レイジの怪我が治っても魔王討伐はしばらく延期したほうが良いだろう。

 ちなみにレイジも叱ろうとしたが、レイジにはいう資格がないので黙ってもらった。

 それにしてもディハルトの事が良くわからない。無用な殺生はしないならレイジと一緒だが、レイジは自分に剣を向けた相手は確実に殺すのに対してディハルトは剣を向けた相手の命をも奪わない。それでは悪逆非道の魔王の手下っぽくないではないか。

 それともレイジと一緒で女性の命は奪わないのだろうか?でもそれなら神殿の騎士等を眠らせるだけで殺さない説明がつかない。

 やはり、魔王の手下らしくない。あの魔王モデスは自身は何もせずナルゴルに引きこもり、世界征服は部下達にやらせているような奴だ。その魔王の部下達による被害はひどく、その襲われた国を見た事があるが凄惨だった。本当にあのディハルトは何なんだろう。

 だが、今はそんな事を考えても仕方がない、何か理由があったのだろう。

 それよりも今はこれからの事を考えなければならない。

 召喚をするための道具は修理はできない上に、もう手に入らないそうだ。

 そのため、当面は帰還するためにも召喚術を使える人を探さなくてはならない。他にも使える人がいる事はレーナに確認済だ。

 レーナにその人物の事を聞くと、自分以外に使えると言う情報があるだけで心当たりがないそうだ。そのとき、変な顔をしたのが気になるがまあ良いだろう。

 その人物を見つけるにはキョウカを襲った変質者を探すのが手っ取り早い。正直気が進まないが仕方がないだろう。

 私はため息をついた。




◆魔王モデス


「そうか、ディハルト卿と勇者の女の1人はそのような関係であったか……。ご苦労だったぞナット」

「はいでヤンス」


 その言葉にナットが礼をする。

 先ほどまで、目の前にいるルーガスの肩にいるナットから報告を受けていた。


「で、今ディハルト卿の様子はどうだ?」

「はい。見た所、特に変わりはないように見えます。ただ……」

「ただ?」

「この地に来たばかりの陛下に似ているように思えます」

「なるほど……」


 ナットの報告では神殿の中で何があったのかわからない。

 だが、きっと女性がらみで嫌な事があったのだろう。

 あの時の自分は泣いていた。そんなにも自分は嫌われていたのかと。

 立ち直る事が出来たのは、モーナを造る事を考え付いてからだ。

 モーナを造るため、持ち前の魔力と生命創造ピグマリオンの秘術にレーナの髪とその他の媒体、そして友であるヘイボス神の道具を使い組み合わせた。

 自分を追い出したエリオスの女神に負けない自分の女神を造ろうと頑張った。

 その結果がモーナだ。

 モーナの事を考える。


「でゅふふふふふふふふふふふふふふ」

「あの……陛下どうかなされました?」


 ルーガスが心配するような声をかける。

 モーナとの夜の事を考えてしまい、知らないうちに声が出てしまった。

 いけない、いけない。


「おお、すまない、ディハルト卿のことだったな」

「ああ、はい」

「そうだな、ディハルト卿を元気づけるには女神を与えるしかあるまい」

「モーナ様のようなですか?」


 ルーガスの言葉に頷く。

 ディハルト卿にはできればこのナルゴルに居ついてもらいたい。

 そして、このモデスとモーナとの生活を守ってもらいたい。

 ではどうすれば良いか?

 そのためには女を宛がうのが一番だろう。

 しかも、エリオスの神々が禁止した模造の女神を与えるべきだ。

 そうすれば、彼も神々の敵だ。彼は否が応でもナルゴルに住み着くだろう。

 ナルゴルに帰還するついでに聖騎士団を壊滅させるほどの強者だ。彼が味方につけば怖い物なしだ。

 自然と笑みがこぼれてくる。


「ぐふふふふふふ」

「あの陛下」


 ルーガスの心配する声がするが笑い続けた。




◆暗黒騎士クロキ


 魔王城のモデスが自分に与えてくれた部屋はとても広かった。

 もっとも広いだけで家具はベッドと机と下に敷くカーペットぐらいしかなかったのだが。

 自分の専属使用人である熊のような顔をした魔物が言うには必要な物がわからなかったそうだ。必要な物があれば言って欲しいらしい。

 自分のナルゴルでの待遇はかなり良いようだ。

 だがナルゴルは貧しい土地ではないが、美しい土地でもない。窓の風景も殺風景であり、陰鬱な空気が漂っている。

 またナルゴルは生活用品になる素材が手に入りにくい土地らしく、ベッドも旅の途中で泊まったエルフの物と比べると格段に落ちる。

 だが、このベッドも机もナルゴルでは一級品らしかった。

 日本にいるより良い生活はできなさそうだと思った。

 これからどうしよう。自分はベッドに寝転ぶ。

 シロネ達の状況もわかった。シロネ達はあの召喚術では帰還できない事を知らなかった。

 あの女神レーナに騙されているのだ。このままレーナの元にいれば危険かもしれない。

 助けるべきだろうか?

 いや、その必要はないだろう。エリオスから召喚するための道具の作成はつい先日禁止されたそうだ。よって、少なくとも異界送りにはならないだろう。

 それに、そんな回りくどい事をするくらいだ。正面から勇者達に危害を加える気はないと思う。そして、レーナから言う事を聞かなければ帰さないと、脅される心配はないだろう。

 だから、当面はシロネ達を無視しても良いだろう。

 頭を振る。今までの考えを否定する。

 本当はあまり関わりたくない。それが真実だった。

 それに、何が悲しくてレイジ達を助けなくてはならないのだろうと思う。

 もう彼らがナルゴルに攻めないかぎり、関わるのをやめるべきだ。うんそうしよう。

 彼らは自分達で何とかするはずだ、何しろ自分は1人だが向こうは大勢の仲間がいる。別に羨ましいわけではない、本当だとも。

 ……だめだ、考えを変えよう。

 これから何をするべきか考えよう。

 まずは彼らとは別に帰る方法を探すべきだろう。モデスは探してくれると言ったが、すぐには見つからないかもしれない。

 当面は、この世界で生きていかねばならないだろう。

 そして、そこで気付いた。

 ずっとこの世界で暮らさなくてはいけない可能性があることに。

 いやだなと思った。なぜならここには仲間がいない。

 この世界にずっと生きていかねばならないなら、仲間が欲しいと思った。

 モデス達はいるが、自分が求める物とちょっと違う。

 やっぱりレイジは羨ましい。沢山の仲間がいて。

 しかも、みんなきれいな女の子だ。

 そして、モデスの言葉を思い出す。

 模造の女神。

 モデスの報酬を受けようかなと思った。

 それに、可愛い彼女ができれば何か色々ふっきれそうな気がした。

 よし受けよう。

 ぜ~ったい可愛い彼女を造ってやろう、そう思った。



ようやく一部完結です。小説を書くのって難しいですね。

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