表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第9章 妖精の森
178/195

出会いと再会

◆暗黒騎士クロキ


「ここからは自分が相手になるよ」


 自分は目の前の赤毛の狼人(ウルフマン)に剣を向ける。

 狼人(ウルフマン)は訝しげな目でこちらを見ている。


「グルルルル! 何者だ!? 貴様!? このヤサブの剣を受け流すとは!!」


 そう聞かれても正直に答えるわけにはいかない。

 そもそも、自分は正体を隠してここにいる。

 今の自分は暗黒騎士クロキではなく、流浪の剣士クロキだ。


「自分はただの流浪の剣士。小さき子が健気に立ち向かう姿を見て、助太刀しようと思っただけだよ」


 相手を警戒しつつ、後ろに少し目を向ける。

 そこには小さな子どもとエルフ達がいる。

 自分が戦いの場に辿りついた時、ちょうど子どもがヤサブと名乗った狼人(ウルフマン)を突き飛ばした時だった。

 その後、子どもは必死にエルフを守ろうとしていた。

 震えながら、拙く剣を振るう姿を見て、これは急いで助けなければと間に割って入ったのである。

 幼い子でありながら中々勇気がある。

 まあ、狼人(ウルフマン)を突き飛ばせるあたり、普通の子ではないのだろう。

 だけど、まだまだ狼人(ウルフマン)を相手にするには小さすぎる。

 ここからは自分が相手だ。


「ガアアアアアアアアアア!!」


 ヤサブと名乗った狼人(ウルフマン)が蛮刀を振るってくる。

 自分は重心を崩さないように体勢を変えて躱す。

 無茶苦茶な振りのように見えるが、微妙に剣の軌道を変えている。

 見た目に反して、かなりの剣の使い手だ。

 足腰の動き、上半身の振り、手首の返し、その全てを駆使して繰り出される剣技。

 どれだけ修練を積んだのだろう?

 元から体格に恵まれているように見えるのに、さらに上を目指そうとする事は素晴らしい事だと思う。

 しかし、だからと言ってやられるわけにはいかない。

 相手の動きを良く見て、こちらの剣を相手の蛮刀に小さく当てる。

 蛮刀は剣を当てられた事で、さらに軌道を変えられてこちらにはあたらない。

 ヤサブは次々と蛮刀を繰り出す。

 それを同じように軌道を変える。

 蛮刀は自分の体の周りに風を起こすだけだ。


「ヤサブ!? 何をしているんだい!? 遊んでないでさっさと倒してしまいな!!」


 年老いた狼人(ウルフマン)の女性が叫ぶ。

 周りの狼人(ウルフマン)達も不思議そうな感じでこちらを見ている。

 どうやら、ヤサブが自分をもて遊んでいると思っているのだろう。

 勘違いさせたままでも良いが、このままだと埒が明かないので反撃する事にする。

 そのまま少しずつ踏み込む。


「グウッ!?」


 自分が踏み込むとヤサブは呻き声を上げて後退する。

 後退しながらもヤサブは全力で蛮刀を振るう。

 その一撃を受け流すと、相手の刀身に剣を滑らせて相手の腕を斬る。

 それを見て周りの者達から驚きの声が上がる。

 ヤサブは後ろに飛ぶと自分から距離を取る。


「貴様!? 何者だ!?」


 ヤサブは腕の傷を抑えながら叫ぶ。

 深く斬ってはいない。狼人(ウルフマン)の回復力を考えるとすぐに治るだろう。

 もはや周囲はざわついていない。

 むしろ、静かになっている。


「ただの流浪の剣士だよ……。特に名前はない」


 正体を隠している以上本名は言えない。

 自分とヤサブは睨みあう。

 睨みあって数秒たった時だった。どこからともなく変な匂いが漂ってくる。

 どうやら辿り着いたようだ。

 ドワーフの野伏(レンジャー)は狼の鼻をごまかす匂いを出す煙玉(スモークボム)を使う。

 これはその匂いだ。

 さらに大きな音も聞こえる。

 匂いで鼻をごまかし、音で人数をごまかす。

 これで退いてくれたら良いが、駄目ならその時は自分が本気を出そう。

 今は本気を出せない。

 この場は遠くから何者かに監視されている。

 実力を出して正体がバレるのはなるべく避けたい。


「オババ……」


 大きな音が近付いてくるのを聞いたヤサブが年老いた狼人(ウルフマン)の女性に呼びかける。

 ヤサブの呼びかけに年老いた狼人(ウルフマン)の女性は頷く。


「わかっているよ、ヤサブ……。皆の者! ここは引くよ!」


 その呼び声に狼人(ウルフマン)達は咆哮するとあっさりと引いていく。

 あまりにも早い撤退する姿に感心する。

 一般的な狼人(ウルフマン)像はその崇める神と同様に、血に飢えた凶獣である。

 しかし、剣技にも長けて、引き際も良く理性的な戦い方をしている。

 実は噂とは違い狼人(ウルフマン)は頭が良かったりするのだ。

 そして、狼達は去りこの場には自分と子ども、エルフ達だけが残される。


「貴方は一体?」


 エルフの1名が自分を訝し気に見る。

 かなり警戒しているみたいだ。

 まあ、無理もない。

 自分は声をかけたエルフを見る。

 着ている衣装から見るに高貴な身分みたいだ。

 もしかするとエルフの貴族階級である(ハイ)エルフことアルセイドかもしれない。

 うわ~、初めて見る。もっとも女神に比べたら珍しくない存在だ。

 (ハイ)エルフよりも珍しい存在の方と出会いがある事に少しだけ驚く。


「えーっと……」


 何と説明しようか迷う。

 ちょっと悩んでいる時だった。


「お客人!!」


 クロスボウを持ち、魔法の草スキーを履いたドワーフの野伏(レンジャー)達が現れる。

 ちょうど良い。後は彼らに説明してもらおう。

 同じ森に住む彼らは交流があるはずなのだから。


「ドワーフ? ドワーフの仲間なのですか? まさかドワーフなんかの仲間に助けられるなんて……」


 エルフは嫌そうにする。


「何じゃ。誰かと思えばいけ好かないエルフの姫じゃないか。これなら助ける必要はなかったぞ」


 助けに来たドワーフも嫌そうだ。

 そういえばエルフとドワーフは仲が悪かった。

 一応どちらもエリオスの神々の眷属だから、必要があれば協力するが、決して仲が良いわけでは無かった事を思い出す。


「ちょ! ちょっと姫様!?  私達の目的をお忘れですか! ドワーフ達と協力するんじゃなかったのですか!?」


 エルフの姫の後ろから別のエルフが前に出てくる。

 服装からドライアドだろう。

 そして、どこかで見た事があるような気がする。


「えっ? もしかしてテス?」


 名前を呼ぶとドライアドがこちらを見る。

 間違いなくテスだ。

 テスは不思議そうにこちらを見ている。

 自分はフードを少しめくる。

 これなら監視している者から顔は見えないはずだ。


「アーーーーーーーっ!!!」


 テスが大声を上げる。

 どうやら気付いたみたいだ。


「クロキ!! クロキじゃない!! どうしてここにいるの!!」


 テスは嬉しそうにはしゃぐとこちらに来て抱き着く。

 華奢な体の感触を服の上から感じる。

 それを見た周りの者達が驚く様子を感じる。


「久しぶりだねテス? 君こそどうしてここに?」

「私はお姫様の御供だよ! 姫様! みんな! この剣士はクロキです! 私の知り合いです。」


 テスが自分を紹介してくれる。

 テスが紹介するとエルフの姫は少し安堵したような顔になる。

 そんなにドワーフの知り合いに助けられるのが嫌なのだろうか?


「助けていただき、ありがとうございます。テスの知り合いなのですね。私の名はルウシエン。ドワーフの里へと使節として向かう途中でした。その途中で汚らしい牙の者達に襲われたのです」


 エルフの姫ルウシエンが優雅にお礼を言う。

 綺麗な女性から、お礼を言われて照れてしまう。

 だけど、ドワーフ達にもお礼を言うべきだろう。

 彼らも助けるのに一役買ったのだから。


「エルフの姫が使節だと? どういう事だ?」


 相手がエルフの姫でもドワーフ達は遠慮しない。

 元々そういう関係なのだろう。


「あら? 聞いていないのかしら? 天上の方々のお達しにより私達は貴方達と協力しないといけないそうよ。さてわかったのなら案内してくれるかしら?」


 ルウシエンが挑発するように言うとドワーフ達は顔を見合わせる。

 仲は悪いが敵対しているわけではない。

 結局は案内せざるを得ないだろう。


「ふん。案内せずとも、我らの里の位置は知っているだろう。お客殿。我らも戻りましょう」


 その言葉に頷く。

 クーナ達は今頃エルフの国に向かっているだろう。

 このエルフ達と入れ違いになった格好だ。


「ねえ、クロキ。クロキは私達と一緒に行かない? ねえ良いでしょ姫様?」

「そうねえ。別に良いけど、オレオラ。車の様子はどうかしら?」


 ルウシエンが壊れた鹿車を見る。

 そこではオレイアドらしきエルフが鹿車を修理している。

 応急措置をすれば走れない事もないみたいだ。

 だけど、ここは遠慮しておこう。

 あくまでドワーフ達の客として来ているつもりだ。


「ごめんテス。自分はドワーフ達と共に戻るよ」


 そう言うとテスは少し残念そうな顔をする。


「そう残念。でもドワーフの里にいるのなら、色々と話を聞けるね。さっきも聞いたけど、そもそも、どうしてここにいるの? 貴方は確か……。ううん何でもない」


 テスは何かを言いそうになって言葉を切る。

 何故だろう?

 テスは自分の正体に気付いているような気がする。

 しかし、確かめるわけにもいかない。

 自分は背を向けて走ろうとする。


「待って下さい!」


 走ろうとすると、突然声を掛けられる。

 声を掛けたのエルフと共にいた小さい子ども。

 何だろう?

 真剣な目で自分を見ている。


「お願いです! じ自分にけっ剣を! 教えてください! 強くなりたいんです!」


 小さな子はそう言って頭を下げる。

 その必死な言葉に何だか心が捕らわれる。

 その子の前まで行くと自分は膝を地面に付く。

 膝を付いたことで目線は下がったが、小さな子はそれでも低かった。


「どうして強くなりたいの?」


 そう聞くと小さな子は顔上げる。

 視線と視線が交差する。

 真剣な眼差しだ。

 女の子のように綺麗な顔立ちだが、きっと男の子だろう。

 そんな感じがする。


「約束したのです! 母様と! 立派な騎士になるって!」


 小さな子は決意を込めて力強く言う。

 正直こういうのには弱い。

 ちらりとルウシエンを見る。

 別に教えても構わなそうだ。


「自分の名はクロキ。ねえ、名前を教えてくれる?」

「はい! コウキと言います!」


 コウキと言うのか、あまりこの世界では聞かない名前だ。

 それとも自分が知らないだけだろうか?

 だけど、そんな事はどうでも良いだろう。


「良いよコウキ君。ずっとは無理だけど、君と自分がドワーフの里にいる間は剣を教えてあげる。それで良いかな?」


 そう言って手を差し出す。

 コウキの眼が潤んでいる。とても嬉しそうだ。


「はっ、はい! それで良いです! あっ、ありがとうございます先生!」


 自分の手にコウキが手を添える。

 とても小さな手だ。

 だけど子どもだろうが、大人だろうが関係ない。

 これは男と男の約束なのだ。




◆蛇の王子ダハーク


 カウフの地の廃坑。

 未だそこに俺達はいる。

 奴隷種である蛇人(イーグ)達に作らせた仮の宮。

 そこでボティスが何か浮かない顔をしている。


「どうした? ボティス? 何かあったのか?」


 声を掛けるとボティスは驚いた顔をしてこちらを見る。

 考え事をしていたようだ。


「ああ若君でしたか。いえ、特に大した事ではないのですが……。狼共が何者かと交戦したようなのです」


 ボティスは周りを見て言う。

 ボティスの周りには数十匹の単眼の小さな蛇がとぐろを撒いている。

 この蛇はボティスの使い魔で、見た物をボティスに伝える事が出来る。

 この女は森中にこの蛇を放ち、情報を集めている。

 伝えたのはおそらく狼共に付けていた一匹だろう。


「狼? ヤサブ達の事か? 奴らが森で戦うのはおかしな事ではないはずだが」


 俺は首を傾げる。

 首狩りヤサブ。

 赤毛の狼人(ウルフマン)で、下賤の者ながら中々見どころのある奴だった。

 しかし、奴らが森の中でエルフ共と戦うのはいつもの事だ。

 いちいち気にする必要はないだろう。

 それで何を思い悩む事があるのだろう。


「確かにそうなのですが、その相手が少し気になりまして……」

「気になる?」

「はい。もっとも私の気にしすぎかもしれません」


 ボティスは笑って言う。

 おそらく計画実行を前にして気が張り詰めているのだろう。

 だから、小さな事も気になるのだ。


「いちいち、つまらない事を気にするなボティス。それよりもいつになったら、ここから出られるのだ。退屈で敵わん」


 今の所小競り合いばかりでまともに戦えていない。

 俺のムシュフシュも退屈そうにしている。


「ふふ、もう少しでございます若様。思う存分に戦える日はもうすぐですよ」







さすがに3週間も休めない(´・ω・`)

取り合えず更新です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 移籍版はテスが先に気づいて欲しいかな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ