表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第9章 妖精の森
177/195

牙の者

◆暗黒騎士クロキ


 自分達はエルフの都アルセイディアへと向かう。

 理由はクーナを含むドワーフ達をアルセイディアに届けるためだ。

 クタルのドワーフ達は食料を得るためにエルフを頼りにしている。そのため、定期的にエルフ達の所に向かわなければならない。

 しかし、転移が禁止されているため、ドワーフの魔法の車で向かわなければならない。

 車は頑丈な鉄の箱に車輪がついた形をしていて、かなり頑丈そうであり、馬や鹿が牽かなくても進む。

 ただし、重いためか、あまり速くない。

 日暮れまでに辿り着ければ良いのだが。

 そんな事を考えながら、自分とクーナはドワーフと猫人達と共に車に乗り一路アルセイディアへと向かう。

 本来、自分はアルセイディアに行かない予定である。

 しかし、森の様子が気になるから途中まで同行することにしたのだ。

 フェリオンの事も気になるから、ある程度森を観察したら戻らねばならない。


「クロキ。何だか遠回りに進んでいるような気がするぞ」


 車に揺られながら進んでいるとクーナが首を傾げる。

 確かにそんな感じがする。車は直線からちょっと迂回をしている。


「暗黒騎士殿。実はその通りなのです。フェリオンの封印が弱まる間は牙の者共が凶暴になります。その者達を避けるために、比較的安全な道を進んでいるのです。いつもなら、迂回しないのですが」


 一緒に乗っているドワーフが説明してくれる。

 彼は戦神スプリグを崇めるドワーフの戦士だ。

 戦神スプリグはかつてミノタウロスに捕らわれたヘイボス神を助けるために、魔王モデスと共に戦ったドワーフである。

 彼はその功績によりドワーフの戦神としての地位を得た。

 この事からドワーフの宝を守る者をスプリガンと呼ぶようになったのである。

 ミノタウロスから奪った斧を装備して、奪った角を兜の左右につけたスプリグの像は、今でもドワーフの集落にヘイボス神と並んで崇められている。

 そして、説明してくれた彼も牛の角がついた兜を被り、戦斧(バトルアックス)を装備している。

 ドワーフの戦士は動きは遅いが頑健だ。牙の民にも遅れを取らないだろう。


「そうだったのですか……。それで迂回をしていたのですね」

「さよう。この道も安全とは言えませんが牙の者の徘徊する場所から少し離れています。遭遇する確率は減らす事ができます」


 ドワーフはうんうんと頷く。

 牙の者とは狼人(ウルフマン)人狼(ワーウルフ)の事だ。

 エルフが住む前からこの森は彼らの住みかだった。


「そうですか……。確かに狼達の気配は遠いようです」


 自分は車の窓から外を眺めると、目を閉じ狼の気配を探る。

 狼達の気配を遠くから感じる。気が荒ぶっているためか、探るのは簡単だった。


「あれ?」


 そこで、自分は大変な事に気付く。


「どうしたのですかな? 暗黒騎士殿?」

「どうやら、誰かが襲われているようです」


 遠くで誰かが襲われている。それほど、探知が得意でない自分でもわかるぐらいはっきりと感じられた。


「何と!? 我らの仲間があの道を通るとは思えませぬ。だとすればエルフでしょうか? しかし、なぜ? あの者らが我らの里を訪ねる事はほとんどないはずなのに……」


 ドワーフは首を傾げる。

 しかし、考えている暇はない。

 助けに行くべきだろう。


「助けに行きます。クーナ。ここで別れるよ。多分危険はないと思うけど気をつけてね」

「わかったぞ。クロキ」


 クーナが頷く。

 今のクーナは猫耳と猫の尻尾をつけて、猫人に変装している。

 近くで見れば偽物と気付くが、後ろに隠れていればわからないはずだ。

 エルフ達も気付かないだろう。


「暗黒騎士殿だけを向かわせるわけにはいかぬ。何名かついていくんだ」

「おうよ!」


 クロスボウを持ったドワーフの何名かが立ち上がる。

 彼はドワーフの野伏(レンジャー)だ。魔法の草スキー板を履く事で素早く移動できる


「それでは行きます」


 自分は鉄の車から飛び出し、襲われている者達の所へと向かうのだった。




◆エルフの姫ルウシエン


 ケリュネイアに牽かれた車が私達5名を乗せて森を駆ける。

 その周囲には複数の影、灰色の毛並みの牙の者達だ。

 仲間を呼んでいるらしく、次から次へと現れる。


「ルウシエン様! 狼達を振り切れません!」


 テスが私の方を見て悲痛な叫びを上げる。


「本当にしつこい!!」

「まったくだ」


 ピアラが風の魔法を使い、オレオラが弓で応戦する。

 風の魔法で強化されたオレオラの放つ矢が牙の者達を貫いていく。

 しかし、牙の者達が怯む様子はない。


「あの……。自分にも何か手伝える事はありますか?」


 膝の上のコウキがおずおずと聞く。

 何も出来ない自分が歯がゆいみたいだ。とても、可愛い。

 しかし、今のコウキでは何もできないだろう。

 コウキを連れてきたのは出来るだけ私から離したくないからだ。

 なるだけ、私を見てもらわなければならない。


「良い子ね。コウキ。でも今は良いわ貴方は大人しくしていなさい。悪い狼は私が追い払ってあげましょう」


 コウキを安心させるため私は笑う。しかし、内心では少し焦っていた。

 牙の者達の鼻程度なら魔法でごまかせる。

 だから、何度も隠れてやりすごそうとした。

 しかし、奴らは私達の居場所を的確に探り当ててきたのである。

 どういう事だろう?

 だけど、考えたところで答えは出ない。

 奴らの活動範囲を迂回していくべきだったかもしれない。

 後悔するが既に遅い。

 私は魔法で思考を冷静にすると、ケリュネイアを急ぎ進ませる。

 守りの固いドワーフの里に逃げこめば何とかなるはずだ。


「ルウシエン様! 大変です周りこまれています!」


 再びテスの悲痛な叫び。

 確かに前方から牙の者の気配を感じる。


「偉大なるフェリオンに血を捧げよ!」

「フェリオンに血を捧げよ!」

「フェリオンに血を捧げよ!」

「フェリオンに血を捧げよ!」


 牙の者達が自らの神フェリオンの名を呼ぶ。

 これでは思うように先に進めないだろう。

 私達は止まると車から外に出る。

 周囲を牙の者達が取り囲んでいる。


「私ら牙の民(ライカン)から逃げられると思っているのかい? エルフの姫さんよ。」


 牙の者達の中から1匹の狼人(ウルフマン)が出てくる。

 いや、狼女というべきかもしれない。

 灰色の毛並みに灰色の外套(ローブ)、その佇まいから老いている事がわかる。

 どうやら、この老女がこの牙の者達を率いていたみたいだ。


「姫様! あれはカジーガです! この森に巣食う牙の者達の頭目です! 気を付けて下さい! 奴は呪術を使います!」


 オレオラが叫ぶ。

 カジーガの事は噂で知っている。

 直接戦う事しか知らない牙の者共の中では珍しく、魔法が得意なのだそうだ。

 さて、ここからどうするかだ?


「オレオラ……。貴方ならこの状況をどう切り抜ける?」


 この中で戦いに一番詳しいのはオレオラだ。

 彼女の指示に従うのが一番正しい。


「犠牲を出さずに逃げ切るのは無理です。姫様、私が奴らを引き付けます。その間に逃げてください」


 返って来たのは最悪の答え。

 このままオレオラを置いていけるわけがない。

 そもそも、こんな窮地に陥ったのは私の判断の誤りだ。

 私が責任を取らなくてはならない。


「駄目よオレオラ。ここは私がやるわ。エルフの姫の力を見せてあげる」


 剣を抜くと私は構えて前に出る。


「やってしまいな! お前達!」


 前と右左から同時に7匹の狼人(ウルフマン)が挑みかかってくる。

 私は紙一重で奴らの爪と牙を躱すと、体を回転させて剣を振る。


「何!?」


 カジーガの驚く声。

 当然だろう。瞬く間に私を襲った7匹が倒れたのだから。

 牙の者達も驚いているようだ。


「これで終わりじゃないわ! 七列の光弾!」


 私は7つの光の玉を作り出すと、前方にいる奴らにぶつける。

 人間であれば1つの光弾を作る事も難しいと聞くが、(ハイ)エルフの私はそれを7つ同時放つ事が出来る。

 自動で目標を追尾する光弾を避ける事は、身体能力に優れた牙の者でも難しはずだ。

 瞬く間に前方の敵を薙ぎ払う。


「姫様。腕を上げられましたね」

「すごいルウシエン様」

「ホントびっくり。これなら、牙の者達も簡単かも……」


 私の後ろから驚く声がする。

 彼女達は私の実力がわかっていなかったみたいだ。

 まあ、滅多な事では戦わないから仕方がない。

 実は戦士であるオレオラよりも私の方が強い。これは純粋に血統によるものだ。

 (ハイ)エルフは他のエルフよりも強いのだ。


「油断しないで、貴方達。敵の数は多いわ」


 油断なく周りを見る。

 カジーガの実力はわからないが、私よりも強いとは思えない。

 私を本気にさせた事を後悔させてやる。


「ほう? 中々見上げたエルフじゃないか。ならばこの俺が相手になってやろう。よいな婆?」


 牙の者達の中か1匹の巨大な赤毛の狼人(ウルフマン)が出てくる。

 その手に握られているのは巨大な蛮刀。

 頭から背骨に角のような棘が生え、その棘に無数の髑髏を飾っている。

 何とも異様な姿だ。


「ヤサブかい。確かに偉大なるフェリオン様の寵愛を受けたお前なら、(ハイ)エルフとも渡り合えるだろうね。いいよおやり。だけど、この婆も手伝うよ」


 カジーガが油断なくこちらを見る。

 このヤサブと呼ばれた狼人(ウルフマン)はとても強そうだ。

 だけど、見くびらないで欲しい。

 たかが、狼人(ウルフマン)ごときに負けるものか。


「夜の闇よ、現れてこの婆の眷属を守り給え」


 カジーガから黒い靄が現れてヤサブに降り注ぐ。


「光魔法に対する守り!? たかが狼がそんな魔法を!?」


 思わず驚きの声を出す。

 完全に無効にはされないだろうが、これで私の魔法の効き目は弱くなった。


「この婆を見くびらないでおくれよ。お前達と戦うのは初めてってわけじゃないんだ。それに水の魔法で匂いを消したって、不自然な水の匂いを感じ取れば大体わかるよ。この婆と戦うのは初めてみたいだから、次からは気を付けるんだね。もっとも、次があればの話だけどさ」


 カジーガはぐへぐへと笑う。

 まずい、この老婆は戦いなれているみたいだ。

 (ハイ)エルフの戦い方を熟知している。

 私は後ろを見る。

 オレオラ達は取り囲んでいる者達を牽制してもらわなければならない。

 だとすれば、カジーガとヤサブは私が戦わなければいけないだろう。

 私はさらに前に出る。

 戦いにオレオラ達を巻き込むわけにはいかない。


「いくぞ! エルフの姫! 首狩りと呼ばれた俺様の飾りになれ!!」


 ヤサブが蛮刀を掲げて迫る。

 速い。

 だけど避けられない程ではない。

 私は身を回転させて躱そうとする。


「えっ!?」


 しかし、思わず驚きの声を出してしまう。

 ヤサブの蛮刀が軌道を変えて向かってきたのだ。

 慌てて体を捻り、剣で受ける。

 衝撃が私の手に伝わると剣が弾き飛ばされる。


「甘くみたなエルフの姫! 止めだ!」


 ヤサブが嘲笑すると、再び蛮刀を振るう。

 だけど、これでやられるわけにはいかない。


「七列の光弾!」

「ぐおっ! なんの!!」


 私の手から放たれた光弾がヤサブに当たるが、少し後退させただけだ。

 傷も自動回復能力の高い狼人(ウルフマン)ならすぐに回復するだろう。


「姫様!」


 オレオラがこちらに来ようとする。


「おっと! 皆の者! そのエルフをとめな!」


 カジーガの声で牙の者達がオレオラ達を遮る。


「お前達はそこでエルフの姫の最後を見な!」


 カジーガの嘲笑。

 まずい。

 私の額に汗が流れる。

 光弾はそう何度も放てない。どうすれば良いの?

 私は考えを巡らせる。


「これで終わりだ!」


 しかし、ヤサブは待ってくれない。

 蛮刀を振り上げる。


「うわああああああ!!」

「何!?」


 突然後ろから声が上がると小さい影が飛んでくる。

 影はまっすぐヤサブに向かうと当たる。

 ヤサブは油断していたのか体勢を崩して倒れ込む。

 小さな影が私の前に立つ。

 コウキだ。

 その場にいた全員が沈黙してコウキを見る。

 当然だ、小さくて非力そうなコウキが力が強いヤサブを突き倒したのだから。

 私も驚きだ。


「かっ、母様と約束したんだ! 立派な騎士になるって! き、騎士はこういう時に立ち向かわなくちゃダメなんだ!!」


 コウキは舌を噛みながら叫ぶ。

 その体は震えている。

 コウキが私を守るために戦ってくれた。

 その事にお臍の下がきゅんきゅんするのを感じる。

 抱きしめてペロペロしたいが、我慢しなければならないだろう。

 魔法で冷静な思考になっていて、本当に良かった。


「グルルルルル! やったな! ガキが!」


 ヤサブが唸りながら起き上がる。

 かなり怒っているみたいだ。

 まだ、私達は窮地を脱していない。

 コウキの動きで奴らの動きは止まったが、すぐに動き出すだろう。

 コウキが落ちている私の剣を拾う。


「コ、コウキ!? 何を!?」

「た、戦ってやる」


 コウキは震えながら剣を振る。

 無理だ。

 いくらなんでも、勝てるわけがない。

 先程は不意をついただけだ。

 現にコウキの剣の振り方は滅茶苦茶みたいだ。

 これなら、少しは剣を学んだ私の方が戦える。


「ガキ! 何だ! その構えはそれで俺に勝てるつもりか!」


 ヤサブが咆哮すると剣を振るう。

 まるで空気すら切れてしまいそうな鋭い一閃だ。

 このヤサブとかいう狼人(ウルフマン)は見掛けと違いかなりの剣士のようだ。


「お前を偉大なる凶獣に、……ん?」


 ヤサブが突然言葉を途絶えると驚いた顔をする。

 視線は私の後ろに向けられている。


「そうだね。そんな剣の振り方じゃダメだよ。もっと、肩の力を抜いて、柔らかく剣を握るんだ」


 後ろから声がする。

 驚いて振り向く。

 なんとそこにはフードを被った何者かが立っているではないか。

 いつの間に現れたのだろう?

 フードで顔が良く見えないが、人間の男のようだ。しかし、こんな森の深くに人間がいるとは思えない。

 何者だ。

 そんな疑問思っていたら、フードを被った男はコウキに近づくとしゃがみ込み剣の握り方を教える。


「良いかい? 腕の力だけで剣を振るってはダメだよ。そして、当たる一瞬だけ強く握り込むんだ」


 とても、優しい声だ。

 まるで父親が子供に教えるかのように感じる。


「あ、あの……、貴方は?」


 コウキも驚いてその男を見る。

 驚いているのはコウキだけではない。私達も周りの牙の者達も驚いている。

 その驚きはコウキがヤサブを突き飛ばした時以上だ。

 何しろ、突然どこからともなく現れたのだから。


「助けに来たよ。よく頑張ったね」


 とても優しい声だ。

 その声を聞くとなぜか安心してしまう。


「貴様!? 何者だ!?」


 ヤサブがフードの男に蛮刀を振り下ろす。

 その一撃は速く、フードの男の頭を切り裂くように思えた。

 しかし、鳴り響いたのは肉を斬る音ではなく、キンと鳴る金属音。

 先程までしゃがんでいたはずの男は立ち上がっている、そして、右手には剣を握っている。

 いつの間に剣を抜いたのだろう? 

 全く見えなかった。

 フードの男の剣は魔法合金(オリハルコン)の輝きを持っている。

 その柄の部分を見る限りドワーフ達が作った物だろう。

 だとすればこのフードの男はドワーフ達と関りがあるのかもしれない。


「さて、ここからは自分が相手をするよ」


 フードの男はそう言うとヤサブに剣を突き付けるのだった。



コ〇ンに血を捧げよ。先週はお休みしました(´;ω;`)

リアル都合で執筆時間がガリガリ削られています。ゲームを買ってもする暇はなく、実況動画を見ています。最近は休みにト〇タルウォーウォ〇ハンマーを見ながら執筆しています。アーケイオン様に首狩りカーク。


そして、ついに暗黒騎士も5周年目に入りました。4周年目は色々とありました。

日刊8位になり、書籍化されたのです。1年前の今頃は考えられなかったです。

そして、続刊ですが、わからなかったりします。

何部売れたら良くて、そもそも何部売れたのかわからないので(´・ω・`)

確かブックマークの一割売れたら良いと聞いた事があるので、最高で1800部ぐらい?

しかし、部数を考えてはいけないですね。このつたない小説を購入してくれた方いる事を喜びたいと思います。本当にありがとうございます。゜(゜´Д`゜)゜。

多数の方より購入のメッセージをいただきました。その中には多くの外国の方もいらした事はびっくりだったりします。

最後に、これからも暗黒騎士物語をよろしくお願いいたしますm(。≧Д≦。)m



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ