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暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第9章 妖精の森
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緑人

◆黒髪の賢者チユキ


 エリオスの大樹海は世界で最も高いエリオス山の麓に広がっている。

 樹海は広く私達の住んでいる広大なバンドール平野の3分の1近くもある。

 この広い森の中からエルフの国を探さなければならない。

 私達は4人はその樹海の外れにいる。

 コウキがエルフに連れ去られてからまだ一日しか経過していない。

 こんなに早く樹海に来ることが出来たのは、エリオスに行く事があるかもしれないと、近くの国に転移先を設定しておいたからだ。

 転移魔法により、私達は1時間もかからずに樹海にたどり着く。

 しかし、それはエルフ達も同じのようだ。


「ねえチユキさん? 見えた?」


 横にいるシロネが私に聞く。


「ええ、見えたわ。エルフ達はここを通ったみたいね」


 私は過去視の魔法により、エルフ達がこの場所を通った事を確認する。

 彼女達がエルドを離れてすぐみたいだ。

 過去視や探知を阻害する魔法を使ってはいない。

 舐めているのか、そこまで気が回っていないのか、それとも使えないのかはわからない。

 しかし、これなら追跡もできるだろう。


「さて、追いかけましょうか。ナオさん? ケリュネイアの通った道を辿れそう?」


 私は前にいるナオに聞く。


「大丈夫っす。鹿さん達の匂いは消えていないみたいっす。これなら追えるっすよ」


 にしししとナオが笑う。

 ナオは今、頭から獣の耳、お尻からは尻尾が生えている。

 獣人形態になったナオの嗅覚はするどい。一度嗅いだケリュネイアの匂いを覚えていた。これで追跡は出来そうだ。


「でも、エルフの国って、森のどこにあるんだろう? 遠かったらやだな」


 リノが森を見て眉を顰める。

 確かにリノの言う通りだ。森は広い。一日で辿りつけるとは限らない。

 下手をすると野宿をしなければならないだろう。

 空を飛ぶ事も考えたが、上空は何等かの結界が張られているみたいで、飛翔の魔法は使え無さそうだ。

 だから、森の中を行くしかない。

 覚悟を決めて進もう。


「でも行くしかないわ。ここまで来たら引き返せないないもの」


 森へと入ると、木々は高く。緑の天井からは木漏れ日が差し込んでいる。

 ナオを先頭に私達は素早く進む。

 野宿は出来る限りしたくない。

 進む先は一応ケリュネイアの鹿車が通れるように少し開けている。

 これなら迷う事はなさそうだ。


「すごい。風や土の精霊さんの力を強く感じる」


 周囲を見ているリノが、驚く声を出す。

 この世界には至る所に精霊がいる。

 一定の才を持つ者はその存在を感じる事が出来る。

 リノの精霊使いの能力は高い。そのリノがこれ程驚くと言い事はそうとう凄いのだろう。

 ちなみにナルゴルでは闇の精霊が多い事に驚いていた。

 精霊も地域によって種類が違うのだろう。

 そして、精霊の種類によって住む生物も違うと聞く。

 この森にはエルフが多く住んでいるらしいが他にはどんな物が生きているのだろう?

 そんな事を考えているとナオが足を止める。

 その顔が険しい。何か異変があったみたいだ。


「どうしたの? ナオさん?」

「視線を感じるっす。チユキさん」

「視線? 何者かが私達の様子を見ているの?」

「多分そうっす……。でも何処から見ているのかわからないっす」

「そう……。何者かが遠くから監視をしているのね」


 ナオの感知する範囲は広い。

 その感知範囲の外から見られているのだろう。

 何らかの魔法的な手段で見ているのだろうか?

 だとしたら、私の魔法で逆探知出来るかもしれない。


「いや、これは違うっすね……。視線は近くから感じるっす。すぐ近くから見ているみたいっすね……」

「えっ!? そうなの!? ナオさん何処にいるのかわかる?」

「それが、わからないっす……」

「「「なっ!?」」」


 ナオの言葉に私とシロネとリノが絶句する。

 ナオの探知能力は高い。近くにいるのなら、どんな隠密の能力を持つ者でも隠れる事は難しい。

 そのナオがわからない。つまり、私達はすごく危険な状況にいるという事だ。

 もし相手がその気なら何時でも奇襲が可能だという事だ。


「シロネさん。貴方はどうなの? 何か感じない?」


 シロネはこの中ではナオの次に感知能力が高い。

 特に敵意を持つ相手を感知する能力ではナオに匹敵する。


「う~ん、何も感じないけど……。でも、ナオちゃんが見つけられない相手だよ。敵意を隠しているのかも」


 シロネが不安そうに周りを見る。

 その時、森がざわめいたような気がする。

 見ると木々の枝が動き、木の葉が散っている。どうやら本当に何者かがいるようだ。


「駄目っすね……。隠れている奴を見つけられないっす」


 ナオが指先から爪が伸びる。

 ナオの獣化による、特殊能力だ。

 近接戦闘ならブーメランよりも、爪を使った方が戦いやすい。

 小剣並みに伸びた爪は鋭く、相手を容易く切り裂く。

 シロネも剣の柄に手を置いて何時でも抜けるようにしている。


「待って! みんな! 落ち着いて! 戦う姿勢にならないで!」


 リノが声を出す。

 私とシロネとナオはリノを見る。

 リノは目を瞑り、手を添えて、耳を澄ましている。


「今、気づいたの、見ているのは森の木々だよ。私達の気が荒ぶったから、木々達が警戒したみたい」


 リノの言葉に首を傾げる。

 木々が見ているとはどういう事だろう?

 だけど、どうやらリノは私達を見ている者がわかったようだ。

 彼女はナオよりも感知の範囲は狭いが精神や感情等を感知する事に関してはナオよりも能力が高い。

 その能力で相手が何者なのかがわかったようだ。


「ねえ、どうしてリノ達を見ていたの? どうして、そんなに不安そうにしているの? リノ達は貴方達を傷つけたりしないよ。お願い出てきて教えて」


 リノの体から魔法の波動を感じる。

 平穏ピースフルの魔法だ。この魔法は相手の心を穏やかにさせて、会話のテーブルにつかせる事が出来る。

 もっとも、最初から敵意を持っている相手に対しては効かない。その時は魅了チャームを使うしかない。

 平穏ピースフルの魔法を使ったという事は敵ではないと判断したのだろう。

 リノが魔法を使うと突然目の前の木が動く。

 それはまるで意思を持っているかのようだ。

 そこまで考えて首を振る。

 いや、本当に持っているのだろう。

 良く見るとその木は人型をしている。二本足で立ち、両手がある。

 ただし、普通の人と違いその全身から木の葉が生えている。

 その木の葉が生えた人型は1つではなかった。2つ、3つ、かなりの数だ。

 毛むくじゃらならぬ、葉むくじゃらの顔には人間と同じく目があり、私達を見つめている。

 ナオが感じていた視線はこの者のようだ。


「どうりで、見つけられないはずっす……。最初から目の前にいたっすね……。」


 ナオが頭を掻く。

 おそらく、存在は感知していたのだろう。ただし、普通の木々と同じと思っていたので、それが見ているとは思っていなかったのだ。


「ねえチユキさん。この人達って……」

「ええ、そうよシロネさん。間違いなく緑人グリーンマンだわ」


 緑人グリーンマンは人間のような顔を持ち話す事ができる樹だ。

 人型の者もいれば、顔だけ人型で樹と変わらない者もいるらしい。

 らしいと言ったのは緑人グリーンマンに会うのは初めてだからだ。

 もしかすると、過去に何度か会っているかもしれないが、彼らは普段は普通の木のように動かない。

 そのため、出会っても気付かない。全員髭のような葉っぱが生えている事から、男性しかいない種族に見える。だけど、性別は特にないみたいだ。

 以上が私が書物で得た緑人グリーンマンの情報だ。

 ただ、本で読む限り、彼らは穏やかな種族のはずだ。

 森に危害を加えない限り、彼らは敵対する事はないはずである。

 その彼らが私達を監視するように見て、私達を取り囲む。どういう事だろう?

 森を燃やしたりしていないのにだ。

 1名の緑人グリーンマンが前に出てくる。

 大きい、まるで巨人だ。

 ただ、両手両足を持っているが、所々から枝が生えている。じっとしていたら大木と見間違っていただろう。

 緑人グリーンマンは樹と同じ寿命を持ち、成長すれば大木のように大きくなる。

 長い年月を生きた老緑人(エルダーグリーンマン)は他の緑人グリーンマンの指導者となる事があると聞く。

 おそらく、彼が私達を取り囲む緑人グリーンマンのリーダーなのだろう。


「平原に住む者よ。この森に何のようだ? 森を枯らす者達の仲間ではないようだが」


 老緑人エルダーグリーンマンが身を屈めて私達に話しかける。


「私達はエルフに攫われた子どもを取り返しに来たのです。ここをエルフが通ったはずですが、教えていただけませんか?」


 私がそう言うと老緑人エルダーグリーンマンが考え込む。


「確かに通ったぞ。黄金の角を持つケリュネイアの車に乗ってな。その中にそなたらの子がおったか? ならば心配だろう」


 老緑人エルダーグリーンマンはコウキを私達の誰かの子どもと勘違いしているようだ。

 しかし、わざわざ訂正する気にもならない。


「そうですか、教えてくれてありがとうございます。それでは私達は行きますね」


 そう言って私は進もうとする。


「待ってチユキさん」


 リノが私を止める。


「どうしたのリノさん?」

「ちょっと気になる事があるの」


 そう言うとリノは老緑人エルダーグリーンマンを見る。


「ねえ、さっき貴方が言っていた森を枯らす者って何? 森の精霊達が騒いでいるのもそのせいなの?」


 リノが言うと緑人グリーンマンが騒ぎ出す。

 何だか驚いているみたいだ。


「ほう、平原に住むそなたにも聞こえるか。森の悲鳴が。これは驚きだ。ならば教えよう。今森に異変が起こっているのだよ」


 老緑人エルダーグリーンマンが説明する。

 最近この樹海の西側で木々を枯らす者がいるそうだ。

 その被害は西にいる彼らの同胞にも及んでいる。

 同じ森に住む緑人グリーンマンは精神が共感しあうので、その痛みが伝わる。

 そのため、この樹海住む緑人グリーンマンは外からの来訪者に対して警戒中だったのだ。

 私達は顔を見合わせる。


「どうやら、大変な時に森に入って来てしまったみたいっすね」

「そうだね……。だから、外から来た私達を監視していたんだ。リノちゃんがいなかったら、大変な事になっていたかも」


 シロネの言う通りだった。下手をすると緑人グリーンマン達と戦いになっていたかもしれない。

 私達の方が強いが、出来れば戦いたくはない。


「ねえ、森を枯らす者達って何者なの?」


 リノが聞くと老緑人エルダーグリーンマンは首を振る。


「わからぬ。しかし、強く怖ろしい者達だ。天上の者達でなければ敵わぬ程に」


 天上の者とはエリオスの神や天使の事だろう。

 彼らが相手でなければ敵わないのなら、かなりの強敵のはずだ。

 気になる。しかし、緑人グリーンマン達もわからない以上。これ以上聞く事はできない。


「教えてくれてありがとう。もし、そんな奴と出会ったらリノ達が追い払ってあげる」


 リノが言うと緑人グリーンマン達は嬉しそうにする。


「そうか、それはありがたい。ならば秘密の風の道を教えよう。木々の隙間、風の精霊の通り道を抜ければ、日暮れまでにエルフ達の住むカータホフの砦にたどり着けるはずだ」


 老緑人エルダーグリーンマンがある方向を指さすと、そこから風を感じる。

 風の道が開いたみたいだ。


「ありがとうございます」


 私は緑人グリーンマン達に頭を下げる。

 これで、移動速度が上がる。

 シロネにナオ、そしてリノもお礼を言うと私達はその場を後にする。


「さらばだ平原に住む者よ森の精霊の加護があらん事を」


 老緑人エルダーグリーンマンが手を振ると緑人グリーンマン達が歌い出す。

 それはまさに風と木の詩であった。


「さやさや、さやさやと風が吹く、

 我らの声を乗せて吹く、

 緑の風が楽しく踊り、

 森の精霊も笑い出す。

 我らも我らも楽しく踊り、

 木の葉をそよそよと揺らしあう、

 緑の風は我らがころろ、

 木霊を森に響かせる♪」


 そんな歌を聞きながら私達は風の道へと入るのだった。



グリーンマン。中世ヨーロッパの建築物に描かれるレリーフです。元はケルトの文化。

この物語における指輪物語のエントやD&Dのトレントに相当します。

なるべく、伝承に出てくる幻想生物をだそうと思った結果、グリーンマンを採用しました。

しかし、グリーンマンで検索すると、とある特撮の画像ばかり出てきます。

こんな特撮があったんだΣ(゜ロ゜;)! 

もし、伝承のグリーンマンの画像が欲しい時はGreenmanで検索すると吉。


そして、今回の話ですが、チユキさん視点だけですね。本当はもっと他の視点も書く予定でしたが、金曜の夜から書き始めて、日曜の17時点で4000字。遅い遅すぎる(´;ω;`)!!

どうやら、スランプのようです……。もっと幻想生物が書きたいです安〇先生。


そして、絵ですが活動報告にでもUPしようかなと思います。


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