森へ
◆蛇の王子ダハーク
エリオスの樹海は広大な森だ。
その外周は広く、北西には山岳地帯が広がっている。
この山岳地帯は鉱山であり、ドワーフ共の集落がある。
ドワーフ共は穴を掘り、鉱石を採掘する。
その一つの使われなくなった坑道に、俺達は隠れている。
穴の中には配下である蛇人や蛇女の戦士達が集まっている。
まさに蛇の巣穴だ。
他にも狼人もいたが、奴らは今森の中へと入っているのでここにはいない。
時折天使達が近くを通るが、発見されてはいない。
「若様。ダハーク様」
穴の中で気晴らしにラミア共を抱いているとローブを纏った者が俺に声をかける。
2本足の種族と同じように足がある。
しかし、本当の姿はラミアと同じように腰から下は蛇である。
狡知の女神ボティス。
魔術師のローブを纏ったその女は、母上の第一の側近の小神であり、配下の中で一番の知恵者だ。
策謀が得意であり、エリオスの奴らの眷属、人間を裏切らせ拝蛇教団を作ったのもこの女だ。
その中でも信仰心が篤い者には恩寵を与え、蛇人間に生まれ変わらせたりもする。
噂ではエリオスの奴らはイーグの呪いと呼んでいるそうだ。
そのボティスは俺のお目付け役として一緒に来た。
「何だ? ボティス? 俺に何か用か? お前の言う通り、アルフォス共とは戦わずにすませているぞ」
不機嫌そうに答え、睨む。
「やはり、戦えない事が不満ですか?」
「当たり前だ! ボティス」
このボティスは俺がアルフォスと戦う事を禁じている。
そのため、イライラが止まらない。
前はアルフォスに負けた。しかし、今度も負けるとは限らないはずだ。
戦えない事に不満が溜まる。
母上の言いつけでなければボティスの言うことなど聞かないのだが。
「ウフフフ、申し訳ございません若様。しかし、もう少しの辛抱です。蛇の毒は既に奴らの体内に入っております。それに鮮血の姫様にも手伝っていただいているのです。成功しないはずがございません」
ボティスが笑う。
鮮血の姫ザファラーダは森の中に入って、木々を枯らしている。
ボティスの策略だ。
こちらが力押しで凶獣の封印を解くつもりだと思わせる予定だ。
「ふん、全てはお前の計画通りか? ボティス?」
そして、ボティスの後ろにいる者を見る。
小さい体躯だ。そして、その姿は異形である。
全身がさび色の金属で覆われている。
鎧を着ているのではない。体の半分以上が金属で出来ているのだ。
そもそもこの隠れる場所はこの者の手引きによるものだ。
ボティスの協力者らしいが詳しい素性は知らない。
だがどうでも良い。
「はい、若様。必ず上手くいくでしょう」
そう言ってボティスは笑うのだった。
◆黒髪の賢者チユキ
エルドの宮殿の一室で私達全員は集まっている。
「さて……。どうしようかしらね……」
コウキがエルフ達に連れ去られ、どうするか悩む。
普通に考えて、取り戻すのが正しい。
しかし、私達が動くかどうかで悩む。
冷静になって考えるとコウキはレーナ神殿に預けられた子だ。つまり、女神レーナに捧げられた子である。
そして、エルフはエリオスの神々の眷属。
レーナに返すように説得してもらうのが一番楽だ。
これなら私達も動く必要がない。
既に司祭のハウレナが聖レナリア共和国の神殿にこの事を伝えているはずだ。そこからレーナに報告するだろう。
もっとも、レーナが黙認する可能性もある。
レーナ達、エリオスの神々はよほどの事がない限り、直接関わったりしない。
自らの神殿に預けられたとはいえ、一人の少年なんか、気にしない可能性もある。
レーナが黙認するなら私達がとやかく言う事ではない。
放っておけば良いのだ。
しかし、そうはいかないようだ。
「大丈夫だよサーナちゃん! 必ずコウキ君は取り戻して来るからね! そうだよねチユキさん!」
サーナをあやしていたシロネが私を見る。
シロネは取り戻しに行く気だ。
「えーっと……」
私は言いよどむ。
何と言うべきか?
「シロネ。エルフに攫われたのなら、助けに行く必要はないんじゃないか? 案外向こうで幸せに暮らすかもしれないぞ」
レイジがシロネに言う。
実はレイジの言う通りなのである。エルフは常若で女性しかいない上に、美形揃いだ。
男性の中には、エルフに攫われたいと考える者は多かったりする。
だから、コウキ君もエルフの国で育った方が良いかもしれない。
もっとも、レイジとしては娘に男が付くのを嫌がっただけかもしれない。
「レイ君、それはサーナが可哀想だよ」
サホコがすかさず抗議する。
サーナも言葉がわかるのか、機嫌が悪そうだ。
それはリノ、ナオ、キョウカも同じようだ。
ちなみにカヤは特に何も反応をしていない。
「確かにサーナが可哀想ですわね」
「そうっすよ。サーナちゃんが可哀想っす」
「そうそう、将来イケメンになる子は取り戻すべきだよ」
リノだけ、取り戻す理由が違うような気がする。
ちなみにエルフは面食いだ。ブサイクには見向きもしない。
「というわけで取り戻し行こう」
シロネが胸を張って言う。
これは止められないだろう。
私は溜息を吐く。
「仕方がないわ、でも全員ではいけないわね。サホコさんはサーナちゃんに付いていないといけないし、父親も一緒に残った方が良いわね……。行くのはシロネさんは決まっているとして、後はナオさんにリノさんも行った方が良いわね……」
人選を考える。
シロネ、そして探知力が高いナオにエルフを超える精霊魔法が使えるリノも行った方が良いだろう。
だけど、それだとシロネが暴走した時に止める者がいない。
だとすれば、私かカヤが行くべきだろう。
「それでしたら、チユキ様も行かれた方が良いかもしれません。この国の仕事は私が進めておきますので」
視線に気付いたカヤが言う。
実を言うとカヤの方が私よりも為政者に向いている。
だから、私が残るより、カヤが残った方が良いのである。
そして、カヤが言う仕事とは城壁を作る事である。
結局、エルドも城壁を造る事になった。
城壁を造れば市民の数を制限する事になる。
なぜなら、市民は城壁の中に住む権利を与えねばならず。
市民の数を無限に増やせば、城壁内にすべて収容できず、その国はパンクしてしまう。
やがて、エルドは聖レナリア共和国と同じようになるだろう。
しかし、仕方がなかった。城壁を造らなくて済むほど、この世界は安全ではない。
また、城壁を造るのに合わせてレーナ教団の支援を積極的に受ける事にした。
レーナは守護の女神であり、その信者には城壁造りの職人もいる。
ドワーフの手も借りる予定だが、数が少ないので人間の職人は必要だ。
そのためにもレーナ神殿も宮殿内から移設して、新たに造る必要があるだろう。
また、聖レナリアの神殿騎士達に駐留してもらう事になった。
エルドは新しい国だ。街道の安全を守るための騎士を用意出来ない。
だから、代わりに聖レナリア共和国に頼るのである。
これで教団の影響は強くなる。
しかし、湿地のリザードマン達と敵対してしまった以上、早急にエルドの防衛力を上げる必要がある。
悠長に騎士の育成は出来なかった。
その城壁の建造と騎士団との協議は、当初反対していた私ではなくカヤがした方が良いと思う。
「そうね、私も行くわ。カヤさん。後はお願いね」
私が言うとシロネは嬉しそうにする。
そして、レイジと並びこの国代表であるキョウカも残ってもらう。
これでコウキの奪還メンバーは決まった。
動くなら早い方が良いだろう。
こうして、私達はエルフの国へと向かう事になった。
◆エルフの姫ルウシエン
行きと違いエリオスの樹海に戻るのは簡単だ。
何故なら、転移魔法で戻ればよいからだ。
しかし、それでも直接には常若にして夢幻の都アルセイディアには戻れない。
転移で戻れるのは森の外れまでだ。そこからアルセイディアへと戻る。
だけど、ケリュネイアの牽く車なら、すぐに戻れるだろう。
私は視線を落とす。
膝に頭を乗せて少年が一人眠っている。
可愛い子だ。
一目見た瞬間、どうしても欲しくなってしまった。
こんな気持ちになったのは初めてだ。
「ぐへへへへ」
思わず笑いが出てしまう。
視線を感じて顔を上げるとテス、ピアラ、オレオラがこちらを見ている。
「何? 貴方達、何か言いたい事でもあるのかしら?」
私が睨むと3名は視線を逸らす。
「いえ、なんでもないです。ルウシエン様」
「あたいも何もないです。別にドン引きしてないです」
「はい、姫様。ピアラ殿言う通り、引いてないです」
何なのだろう。特に何もないのならそんな目で見ないで欲しい。
そもそも、彼女達は不満なのだ。
予定ではもっと長く勇者の国に滞在する予定だった。
特にピアラとオレオラは勇者の側にもっといたかったようだ。
しかし、私が急に帰ると言い出したので、残る機会を失ってしまった。
しかし、どうしても早く帰りたかったのだ。
「しかし、良いのでしょうか? そこらの人間ならともかく、勇者達の所から連れて来ても」
オレオラが心配そうに言う。
「あら、問題ないわ。この子は勇者の娘のお守りをしてただけで、特に関わりがあるみたいじゃないもの。レーナ様だってわざわざ人の子一人がどうなろうか気にしないわよ」
当然の事を言う。
人間の娘はすぐに枯れてしまう。下賤な存在だ。
コウキも私と一緒いる方が良いに決まっている。
「まあ、確かに……」
ピアラもうんうんと頷く。
ピアラも過去に経験があるのだろう。
「そういう事よ、この子だってすぐに枯れる人間の娘よりも私達と一緒にいる方が良いわ」
私は可愛い子の頬を撫でる。
すると嬉しそうな様子を見せる。きっと楽しい夢を見ているだろう。
「きっと立派な妖精騎士になるわ」
コウキを胸に抱きよせる。
「眠りなさい♪
眠りなさい♪
可愛い子♪
貴方を夢の国へ連れて行ってあげる♪
そこは老いのない、楽しいエルフの国♪
目を覚ましたら美しい花園で踊りましょう♪
さあ、眠りなさい♪
眠りなさい♪
可愛い子♪」
私は歌う。
車に揺られながら。
5万ポイント達成。一年前は10分の1でした。
4年分のポイントより、この1年のポイントの方が多かったりします・゜・(つД`)・゜・
特にやっている事は変わらないはずなのですが、ポイントが入る時と入らない時の差は何なのでしょうね?
さて、今回は短いです。キリが良いのがここまででした。ボティスもダハークのように少し名前を変えようと思ったけどこのままです。挟腕の男も名前そのままで出そうかなと思っています。
わかった人はすごいと思います。
ちなみに蛇人の呼び名はクト〇ルフから……。
絵を描き始めてから2か月。成果をどこかで見せようかなと思っています。
当たり前ですが、はっきりいって下手です(TωT;)