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暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第8章 幽幻の死都
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黒薔薇の花園

◆暗黒騎士クロキ


 多くの死骸でできた巨大なアンデッドが目の前にいる。

 このアンデッドの巨体の前では自分達の乗っている空船がとても小さく見える。

 まともにぶつかったら終わりだろう。


「どうだ! 暗黒騎士よ! モードガルの力を見せてやるぞ!」


 ザルキシスが笑う。

 確かにとんでもない。強力な瘴気を感じる。

 モードガルが歩くたびに瘴気を含んだ体液が流れ出し、大地を汚す。

 体を動かすたびに、体の表面の人の顔から、苦痛のうめき声が聞こえてくる。

 動く地獄そのものだ。


「喰らえ! モードガルの千列の腐敗酸毒水泡散弾アシッドウォータースプラシュ!」


 ザルキシスが叫ぶとモードガルの体から無数の液体が飛んでくる。

 毒々しい色をした水弾だ。


「九重魔法盾!」


 クーナが魔法の盾を展開する。

 液体は魔法の性質を持っているのか当たるたびに魔法の盾を溶かしている。

 クーナは其の度に魔力を送り盾を補強する。


「ほう! やるな! ならばこれならどうだ! 死壊千鞭触手!」


 モードガルが複数の触手が同時に襲って来る。

 クーナの魔法盾は水弾を防ぐのに手いっぱいだ。

 だから、ここは自分が動く。


「何の!!」


 黒い炎を纏い空船を飛び出す。

 腐敗酸毒水泡散弾が黒い炎を突き抜け漆黒の鎧を掠めていく、防ぎきれない瘴気が鎧の隙間から入り体を焼く。

 痛いが、ここは我慢だ


「黒炎千刃!」


 剣から黒い炎の刃が伸びると全ての触手を斬り裂く。

 そして、剣を背中に剣を背負うように構えると、黒い炎を収束させて上段から剣を振るう。


「暗黒斬神剣!」


 黒い炎が伸びてモードガルを切り裂く。黒い爆裂魔法と斬撃の合わせ技だ。

 しかし、モードガルが揺らいだだけで、倒れない。

 自分は船へと戻る。

 倒すことは出来なかったが水弾は止んでいる。

 その隙に距離を取る。

 死の軍勢が追いかけてくるだろうが、少しは休む暇が出来たかもしれない。


「クロキ! 大丈夫か!?」


 クーナ達が駆け寄る。

 その顔は心配そうだ。結構痛い、だけど心配をかけるわけにはいかない。


「大丈夫。それよりもダメージは与えられたかな?」


 顔を上げてモードガルを見る。

 そこで信じられないものを見る。モードガルの傷が回復していく。


「無駄だよ~。モードガルはね~。この地に貯め込んだ瘴気がある限り無限に回復していくんだよ~」


 道化が楽しそうに言う。

 しかし、この状況で楽しそうにするのはどうなんだと思う。

 まあ、こういうキャラなのだろう。


「そのとおり! 何者か知らぬが良く知っているな! このモードガルは無敵よ! 喰らえ超魔極大真霊腐瘡蒼閃!」


 人型になったモードガルの首の箇所には首に頭は無い。その代わりにあるのは巨大な口だ。

 そのモードガルの巨大な口が大きく開く。

 中に見えるのは青白い悪霊ラルヴァの塊。ザルキシスの腹の口と同じだ。


「まずい! 闇炎壁ダークフレイムウォール!」

「九重魔法盾!」

「ゲロ! 虹の守り!」


 自分とクーナとヘルカートが同時に防御魔法を唱える。

 その直後、モードガルの巨大な口から悪霊ラルヴァの奔流が放たれる。


「くっ! これはっ!」

「「きゃああああ!」」

「ゲロッ!」


 クーナ達の叫び声。

 魔法の防御壁では防ぎきれない。

 空船に強い衝撃がぶつかると、そのまま吹き飛ばされる。


「グロリアス!」


 クーナを抱えて飛ぶとグロリアスに飛び移る。

 そして、吹き飛ぶ空船に先回りする。


「何の!」


 両手を上げてグロリアスと共に支える。

 おかげで、空船は地面に激突するのを免れゆっくりと落ちる。


「助かったよ……暗黒騎士。これはきついね」


 ヘルカートがふらふらになりながら降りる。

 さすがの魔女も焦っているようだ。

 そして、地に降りた空船は壊れたのか浮かび上がらない。


「急いで修理を!」


 自分は船に乗っている者に声をかける。

 メンテナンスが出来る者も乗り込んでいるはずだ。

 急いで修理をしなければならない。


「いえ! 閣下! ここは宙船を置いて逃げるべきです! 竜に乗れる閣下と飛竜ワイバーンに乗れる私達だけなら逃げられます!」


 グゥノが傍による。

 確かに自分達なら逃げられるだろう。グロリアスにならヘルカートと数名は乗れる。

 しかし、全員は逃げられない。


「駄目だ。それは出来ない……」


 首を振る。

 そんな事が出来る自分ではない。

 そんな事を考えている間にもモードガルが近づいて来るのがわかる。


「ゲロゲロゲロ。では、どうするんだい? 暗黒騎士? 戦うのは危険だよ。先ほどはモードガルだけが相手だったけど。次はザルキシス達も攻撃してくるかもしれないよ」


 ヘルカートの言う通りだ。

 先ほどは見ているだけだが、次はザルキシスや死の眷属も来るだろう。

 それに、この地にいる死の眷属達が集まり始めている。

 グロリアスで逃げても、足止めされるだろう。逃げ場はない。

 それに、まだ打つ手はある。


「大丈夫です。ヘルカート殿。あれを使います」

「ゲロッ? あれ?」

「はい。まだ奥の手があります。良いねクーナ。あれを使うよ」


 自分が言うとクーナが頷く。


「わかったぞ、クロキ。だが、あれは未完成だ。それにかなりの魔力も使うはずだぞ?」

「それは大丈夫だよ。クーナ。これを使う。これを使えば大丈夫だと思う」


 そう言って魂の宝珠(ソウルオーブ)を手に取る。

 この宝珠の魔力はとんでもなかった。これなら、あの技を使えそうだ。


「ゲロゲロ。魂の宝珠(ソウルオーブ)を使ってどうするつもりだい? 暗黒騎士?」

「これからクーナと共に開発した魔法を使います。ヘルカート殿。手伝っていただけますか?」


 ヘルカートの方を向いて言う。

 前にアルフォスと戦った時に感じたのだ。強くなれる方法が別にあるのではないかと。

 そして、クーナと共に試行錯誤を重ねた。

 それを今使うべきだ。

 まだ、未完成だが魂の宝珠(ソウルオーブ)を使えば何とかなるかもしれない。


「ゲロ? 何だかわからないけど。わかったよ。お前さんに賭けるよ」


 これで条件はそろった。

 うまくいくかどうかわからない。だけど、やるしかなかった。




◆死神ザルキシス


 巨神と化したモードガルで暗黒騎士達を追う。

 この地の眷属達には集合をかけている。

 暗黒騎士には敵わないが足止めぐらいはしてもらわなければならない。


「お父様。お願いしたい事がございます」


 ザファラーダが自身の幽霊空船ゴーストスカイシップからこちらに来る。


「どうした? ザファラーダ?」

「もし、暗黒騎士を倒したら、その遺骸は私にいただけませんか? うまくいけば私の眷属にできるかもしれません」


 ザファラーダが笑う。

 あの暗黒騎士がザファラーダの眷属にできるとは思えない。

 しかし、死骸の欠片ぐらいならやってもよいだろう。


「それならお父様。あの白銀の娘は僕にいただけませんか? 出来れば生きたままで。僕の妻にしたいと思います」


 一緒に付いてきたザシャが言うと、ザファラーダが冷たい視線を向ける。


「ザシャ。あんな女の何処が良いのかしら? あんな蟲女。ザルビュートの蛆に食わせてしまうべきだわ」

「ええっと、姉上……。しかし、あれ程の美しさ。ザルビュート兄上の蛆に食わせるのはもったいないというか……」


 ザファラーダに睨まれてしどろもどろになる。

 全く我が子ながら、何を考えている?

 これではディアドナに付き従っている男神バカ共と同じではないか。

 ディアドナはエリオスを滅ぼした暁には、女神共を奴隷として分け与えるつもりだ。

 馬鹿な奴らだ。ディアドナがミナの血を引く女神達を生かしておくはずがないのに。

 しかし、あの白銀の娘は何者かわからぬがエリオスの女神ではないはずだ。

 ならば、どうでも良い。最後は全て死である。

 我が眷属もそれ以外も。


「わかった。ザシャ。あの娘はお前の好きにしても良い」

「本当ですかお父様! やったあ!」

「お父様!」


 当然ザシャが喜び、ザファラーダが怒る。

 だが、それよりもまだ暗黒騎士は健在だ。まずは目の前の奴を叩く。


「ふん。あんな娘。暗黒騎士に比べればどうでも良い。それよりも奴を叩くぞ」


 モードガルの超魔極大真霊腐瘡蒼閃を受けて、奴の空船は地に落ちた。

 竜に乗って逃げるかと思ったが、そのつもりはないようだ。

 もっとも逃がすつもりはない。

 この地の眷属達を既に呼んでいる。奴に逃げ場はない。

 モードガルを向かわせる。

 動かすには魔力をかなり使うが、まだもつはずだ。

 魂の宝珠の力があればもっと簡単に動かせるのだが、まあ良い。もうすぐ取り戻せる。

 先行するザルビュートが止まる。

 何かあったのだろうか?


「どうした? なぜ止まる?」


 ザルビュートの目の前を見る。

 そこには竜に乗り、白銀の髪の女と共に乗った暗黒騎士が空にいる。

 周りは飛竜ワイバーンに乗った女デイモン共。

 迎え撃つつもりらしい。

 笑いそうになる。このモードガルで捻りつぶしてやろう。


「進め! モードガルよ! 奴を捻りつぶすのだ!」


 モードガルを進ませる。

 しかし、もう少しというところでその歩みが止まる。


「何だ!? なぜ止まるモードガル!?」


 モードガルは進もうとしているみたいだが、何かに足を取られ動けなくなっているみたいだ。


「お父様!? モードガルの足にイバラが!?」


 ザファラーダの声でモードガルの足元を見る。

 そこには黒いイバラが生えていてモードガルの足に絡みついている。


「馬鹿な!? なぜ枯れぬ!? このモードガルに触れた草花は枯れる定めのはずだ!?」


 モードガルは負の存在だ。

 触れた弱き者は腐り死ぬ。しかし、モードガルに絡みついた黒いイバラは枯れる気配はない。

 それどころか成長して、地面からモードガルへと絡まり這い上がっていく。

 みると黒いイバラの所々に花が咲いていて、その花の中に女の姿が見える。


妖花乙女アルラウネだ! ザルキシス! モードガルは瘴気を吸って成長する彼女達の糧になってもらう!」


 空を飛ぶ暗黒騎士が叫ぶ。

 その手には魂の宝珠(ソウルオーブ)がある。

 魂の宝珠(ソウルオーブ)は輝き魔力を放っている。


「馬鹿な!? たかがアルラウネごときで、モードガルが止まるはずがない!? 何をした暗黒騎士!?」


 はるか昔に処刑された男神の血から生まれたとされるアルラウネは瘴気を吸って成長する。

 しかし、たかが草花ごときに負けるモードガルではない。より濃密な瘴気で枯らす事ができるはずだ。


「気付かないのかザルキシス! 自分とクーナで作った魔道結界に入った事に!」

「何!?」


 確かに言われてみれば周囲の気配が変だ。

 まさか、魔道結界を作ったというのか?

 しかし、この地はこのザルキシスにとって優位。魔道結界を作るために必要な魔力を得る事はできないはずだ。

 そこまで考えて気付く。


「まさか貴様!? 魂の宝珠(ソウルオーブ)の魔力を!?」

「その通りだよ、ザルキシス! これは過去にアルフォスと戦った時に自分でも魔道結界を作れないかと思って、開発したんだ! まだ、未完成だけど魂の宝珠(ソウルオーブ)のおかげ何とか出来たよ!」


 暗黒騎士がそう言うとモードガルの足元以外の地面から黒いイバラが生えてくる。

 甘い芳香が空間に充満する。

 数秒後にはこのあたり一帯に花園が出来る。

 その花園には妖花乙女アルラウネが歌い、小妖精の群れに甲虫の戦士や雌蟷螂エンプーサ蛙人トードマン達が踊っている。

 踊っている者達の顔には精気が満ちている。花園に虫共を活性化させる効果があるのかもしれない。

 それに対して我が眷属達が弱っているような気がする。

 まさかこんな手を残しているとは思わなかった。


「ザルキシス! モードガルは悪いけどこの黒薔薇の花園で眠ってもらう!」




さて、次で8章は次とエピローグで終わりです。

ぶっちゃけアルラウネをどこで出すか迷ったあげく、魔法にしてしまいました。

アルラウネはマンドレイクと同じらしいですが、この世界では別にするつもりです。

アルラウネは花のめしべが女性になっている。マンドレイクは根っこが人です。


そして、発売日は6月25日です。まさか、読者の方から発売日を教えてもらうとは(笑)

まあ、別に良いのですけどね(*ノ∀`)


最後に良かったら応援コメントお願いしますm(。≧Д≦。)m

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