超魔幽幻巨神モードガル
◆知恵と勝利の女神レーナ
空船でアルフォスの所まで行く。
戦闘は終わっている。
ザルキシスの配下の死の軍勢の姿は見えない。
天使達が周囲を飛んでいる。きっと残党がいないか探しているのだろう。
空船の甲板からアルフォスを探す。
すると、自身の空船の甲板に立っているアルフォスを発見する。
船を近づけてアルフォスの空船へと乗り込む。
「やあ、レーナ。来たのかい?」
アルフォスが私に微笑む。
聖騎士の姿のままだ。
まあ、当然だろう。アルフォスに付けていた私の配下である戦乙女の報告では、戦いは終わったばかりなのだから。
「ザルキシスは強かったみたいね。それに、貴方の足止めをした死の御子も手強かったようね」
映像で見る、力を取り戻したザルキシスは強かった。
あのまま戦っていたらアルフォスは負けていたかもしれない。
しかし、アルフォスとザルキシスの戦いは最後まで行われなかった。
援軍として現れた死の御子にアルフォスを任せると、ザルキシスはクーナを追うために去ったからだ。
アルフォスは死の御子に阻まれて、ザルキシスを追うことはできなかった。
「ああ、しぶとい奴だったよ」
アルフォスが横を見て、私もそちらの方を見る。
山のように大きな巨大なムカデの残骸がある。
悪毒公ザゲロ。
知能や魔力は低いが、体力と防御力だけなら、死の御子の中でも上位だと聞いている。
アルフォスよりも弱かったが、しぶとくて倒すのに手間取ってしまったようだ。
ザゲロの残骸は死してなお毒を放ち大地を汚している。
浄化するのにかなり手間取るだろう。
全くやっかいな奴らだ。
「さて、彼女を追いかけたいが間に合わないだろうね。どうやら死神にとって重要な何かを奪ったようだが……。無事でいてくれると良いのだけど」
アルフォスがルヴァニアの地を見て言う。
私も同じ方向を見る。
クーナの目を通して私には状況がわかる。
クロキとザルキシスの戦いが始まろうとしているのだ。
ザルキシスは強いが、私はクロキの心配はしない。
なぜなら、私の騎士は強い。
死神にだって負けないだろう。
そう思い空を見上げるのだった。
◆暗黒騎士クロキ
空を飛び、ザルキシスと対峙する。
ザルキシスの姿は巨大な蝙蝠の羽、下半身は蜘蛛、顔の目は九つに増えている。
死都で会った時と同じ異形の姿だ。
しかし、ここは死都ではない。あの時と同じようにはいかない。
「まさか、母の影から回復するとはな……」
ザルキシスの体から青白い何かが噴出している。
その青白い何かには顔が浮かび上がっている。
悪霊と呼ばれる霊魂達だ。
悪霊は強い恨みを持つ者の成れの果て。ザルキシスはその悪霊を腹の中に貯め込み、自在に操る。
奴の腹の口から嘆きの声が聞こえる。まさに煉獄そのものだ。
「生憎、いつまでも休むわけにはいかないんだよ」
直ぐそばでクーナ達が戦っているのに、いつまでも休んではいられなかった。
だから、少し無理をした。
そもそも、戦いに身を置いているのだ。常に万全な状態を望めるはずがない。
例え瀕死の状態であったとしても、必要なら戦わなければいけないのだ。
ナルゴルの影はまだ体に残っている。
しかし、クーナ達が休む時間を与えてくれたのだ。
だから、残りは自分が何とかする。
ザルキシスの赤い目が自分を見ている。
かなり、怒っているようだ。よほど自分の事が許せないらしい。
「ふん! 貴様なぞ! この世界から跡形もなく消してくれる! 出てこい千列の餓鬼弾!」
ザルキシスの周りに沢山の球体が現れるとこちらに向かってくる。
その球体の一つ一つに牙の生えた口があり、大きく開いた口から見えるのは闇であった。
餓鬼玉の弱点は光である。
しかし、自分は光の魔法を使う事が出来ない。
だから、別のやり方で対処する。
「竜達よ! 力を貸してくれ! 竜気活発! 千竜練波」
竜達の力を活性化して、強力な波動を前面に出す。
負の生命体である餓鬼玉達は強力な生命力の波動の前に消えていく。
「ならば、これならどうだ! 暗黒騎士! 八方冥殺断罪剣!」
ザルキシスのねじ曲がった剣が伸び、鞭のように風を斬る。
罪の剣は伸びたり縮んだりするフレキシブルソードだ。
鞭にも剣にもなるその武器から逃げるのは難しく、対象に死を与える。
だが、自分の魔剣も負けてはいない。
黒血の魔剣と呼ばれるこの剣は、元々は黒き炎の魔王モデスのものだ。
破壊の女神ナルゴル自身の手で鍛え上げられた、この剣は世界で最強の武器である。
魔剣が黒い炎を受けて赤い紋様を血のように蠢かせる。
「はあっ! 赤光烈破闇炎剣!」
魔剣を振るうと、赤い光を内包した黒い炎が刃から伸びて、八方から来る罪の剣を弾き飛ばす。
そして、そのまま間合いを詰める。
「来るか! 暗黒騎士!」
ザルキシスは罪の剣を縮めて自分を迎え撃つ。
剣がぶつかる。体勢を崩したのはザルキシスだ。
しかし、追撃は出来なかった。
ザルキシスの蜘蛛の足が自分に向かってきたからだ。
蜘蛛の足は刃物のように鋭利であり、まるで死神の鎌のようだった。
その足を巧みに使い自分を襲う。
だが、数が増えたところで落ち着いて一つ一つ対応すれば良いだけだ。
右前足を弾くと、逆から来る足を斬り落とす。
上段の罪の剣を下段から魔剣を振り上げて、弾き飛ばすと一回転して、下から来る二本の足を受けて、そのまま押し飛ばす。
「くうううう! 何なのだ! お前は! 眷属共よ! 奴を阻め!」
ザルキシスが斬り落とされた左の足を再生させながら睨む。
なぜだろう?
体が軽い気がする。自分を締め付けていたナルゴルの影も逆に力を与えてくれているようだ。
死の軍勢が前に出てくる。
時間を稼いで態勢を整えるのだろうか?
上位のアンデッドである幽鬼や吸血鬼がどんなに来ても負ける気がしないが、確実にザルキシスは自分から離れていくだろう。
仕方がないので自分もクーナ達の所に戻る。
「すごいぞ、クロキ! 前よりも強くなっている気がするぞ!」
クーナが嬉しそうに自分の所に来る。
確かに強くなっているような気がする。先ほどまであんなに体が重かったのがウソみたいだ。
「ゲロゲロゲロ。まさか、ナルゴル様の影を取り込んだというのかい? 全くとんでもない男だね。通りで回復が速いと思ったよ」
首を振りながらヘルカートがこちらに来る。
その表情は信じられないものを見たような感じだ。
「ヘルカート殿。おそらく総力戦になると思います。手伝っていただけますか?」
ザルキシスの周りにザファラーダ達が集まっている。
総力戦の構えだ。
だとすればこちらも全員でいくしかない。
グロリアスが吠えて、グゥノ達も飛竜に乗り戦う姿勢になる。
「ゲロゲロゲロ。もちろんだとも、お前さんが復活したから負ける気がしないねえ」
ヘルカートは笑うと自らの眷属達に合図を送る。
雌蟷螂の女戦士と蛙人の呪術師もまた、戦闘態勢を取る。
「クロキ。もちろんクーナも戦う。ティベル。お前も手伝え」
「はいです~。クーナ様」
クーナとティベルが返事をする。
この二人がいると戦いよりも、お茶会の方が似合いそうだ。
しかし、どちらも補助系の魔法が得意なので、頼りになる。
「うん。頼りにしているよクーナ」
そう言って頭を撫でるとクーナは嬉しそうにする。
「閣下! 死神達の様子が変です!」
グゥノが慌てた声を出す。
見るとザルキシス達の周りに霧らしきものが発生している。
霧らしきものは前に見た事がある。死の都を覆っていた幽霊の集合体だ。
「おやおや、これはまずいね~。どうやらモードガルを呼び出すみたいだよ~」
体がボロボロになっている道化が笑いながら出てくる。
「モードガルを呼び出す? どういう事だ道化?」
自分の代わりにクーナが聞く。
「それはねクーナ様。このルヴァニアの地でなら、死の君主はどこでも自らの都を呼び寄せる事ができるんだよ。魔力はいっぱい使っちゃうけどね。きゃはははは」
道化が説明する。
見るとザファラーダ達がザルキシスに魔力を送っている。死の御子や眷属達の魔力を集めているようだ。
「そこの道化の言う通りみたいだね。ゲロッ。まさか、こんな事ができるなんてね……」
幽幻の霧の中に何かが見える。
前にみた死の都モードガルだ。まさか、一つの都市を呼び出すことができるとは思わなかった。
「驚いたか! 暗黒騎士! だが、これで終わりではないぞ! モードガルの真の力を見せてやるわ!」
ザルキシスの笑い声が響く。
その笑い声と共にモードガルが姿を変えていく。
死の都の建造物達が形を変えて足になり、手へとなり、人型へと変わっていく。
体から触手が生えてうねうねと動く。
そして、モードガルは天にも届く程の大きな巨人へと姿を変える。
「まさか、こんな事が……」
驚きのあまり声が出なくなりそうだった。
目の前で都市が巨大なアンデッドに変わったのだから、当然だろう。
「どうだ! 暗黒騎士! これぞ超魔幽幻巨神モードガル! 貴様なぞ踏みつぶしてくれるわっ!」
ザルキシスの嘲笑。
幽幻の霧を纏った巨人が自分達の空船の前に立ちはだかる。
背中に冷たい汗が流れるのを感じるのだった。
原則5千字前後にしようと思っているのに、色々とあって短くなってしまいました (´;ω;`)
特に8章は色々とありすぎです。もし機会があるならこの章は全部書き直します。
さて、今回からクロキとザルキシスの戦闘。
自分の中の中二を爆発させました。いかがだったでしょうか(`・ω・´)
ちなみに竜の気で戦うキャラは調べたところダ〇の大冒険とバス〇ードのラ〇ズ王子が有名みたいです。
竜闘気と竜闘発勁は使えないので竜気にしようかなと思います。
そして、モードガルですが、人型化を予測された方はいなかったみたいなので一安心ですε-(´∀`*)
いつもなら、どなたかが展開を予測するのですが珍しいです。
最後にネット小説大賞の応援・お祝いコメントをよろしくお願いいたしますm(。≧Д≦。)m