俺の下であがけ
◆吸血鬼伯ジュシオ
領地の城から幽霊空船に乗り空を行く。
空は灰色の雲がかかり、薄暗い。
そんな空の下、少し離れた場所で戦闘が繰り広げられている。
蛆蝿の教団の戦士達と北から来た人間の戦士団との戦いだ。
人間の戦士達が侵入してくるのは、いつもの事だ。
エリオスの神々に仕える者共はこの地を浄化するために侵入してくる。
蛆蝿の戦士の方が数が圧倒的に多いが、人間の戦士団の方が押している。
そもそも蛆蝿の教団の戦士達は脳みそを蛆に喰われているので、思考力が落ちる。
死を恐れずに戦うがそれだけだ。
ぶよぶよに太った蛆蝿の戦士達が腐った体を引きずるように動く。
腹から腸が出ているが、彼等は簡単に死ぬことがない。
そもそも、彼等は蛆蝿の為に生かされている苗床だ。
ゾンビではないが、それに近い。
蛆蝿に操られた人間は死ぬことができず、死の君主の為に戦い続ける。
そして、死ぬ時は蛆蝿が新しい宿主を見付けるか、肉体が完全に崩壊した時だけだ。
その魂がどうなるかはわからない。
しかし、生まれながらに罪を背負った人間として生まれた者に安息はないのだろう。
「何を見ているのジュシオ」
姫様が私に声を掛ける。
「いえ、近くで戦いが繰り広げられているようです。ブタのような男はいないようです」
そう言うと姫様はちらりと私が見ていた方角を見る。
姫様は少しだけ見た後、つまらそうな顔をする。
「そう。面白くないわね。良い男もいないみたいだし、なおさらだわ」
姫様は少しだけ見た後、つまらそうな顔をする。
姫様は側近の吸血鬼騎士が減った事を嘆いている。
吸血鬼騎士に選ばれるには強く、顔が良くなくてはならない。
そのため、補充が難しい。
「暗黒騎士の捜索に出て見たけど、本当に面白くないわ。それに天使達も侵入している空域はもうすぐよジュシオ。準備しなさい」
「はい姫様」
現在、私達は天使達が侵入した空域へと向かっている。
ザルビュート様が対応されているが、その数が多く私達も出る事になったのだ。
しばらくすると、戦闘が繰り広げられている空域へとたどり着く。
そこでは、戦乙女達に吸血鬼騎士と幽鬼の騎士が戦っている。
戦乙女は女神レーナに仕える女性天使達だ。
天使達はアンデッドの弱点である光の魔法を使う。
そのため、吸血鬼騎士と幽鬼の騎士に対して優勢に戦っている。
「いいようにやられているみたいね。ジュシオ」
空船の甲板で戦場を見ていた姫様が不機嫌そうに言う。
「はい。姫様。そのようです。しかし、我々が来た以上は好きにはさせません」
「そう、期待しているわジュシオ。何しろ貴方は光の魔法に耐性があるのだから」
姫様が私に笑う。
私はアンデッドでありながら、光の魔法に耐性を持っている。
どうやら、私の血に関係があるらしいが、詳しい事はわからない。
おそらく、天使の血を引いているのではないかと推測されている。
天使はその特性からアンデッドになる事ができない。
しかし、血を引くだけの人間なら、光の魔法に耐性を残したまま吸血鬼になる事も、可能だろうと姫様は言われた。
「では行きます姫様」
甲板から飛び出すと背中から翼を出す。
飛びながら剣を抜く。
光の魔法がなくても天使は吸血鬼よりも強い。
まともに戦う事は出来ない。
しかし、天使達はアンデッドに対してはまず光の魔法を使おうとする。
それは間違いではないが、私に対しては間違いだ。
初手で間違い、隙を作り、私に討たれる事になる。
戦乙女が私が近づいて来た事に気付く。
さあ、来い!
私は身構える。
「鮮血の姫達だわ! 全員撤収よ!」
しかし、戦乙女の隊長らしき者が号令をかけると、あっさりと撤退する。
その逃げ足は速く、追いつけ無さそうだった。
やむなく、私は船へと戻る。
「全く嫌がらせね。相手にしていられないわ」
姫様が悔しそうに言う。
戦乙女を含む天使達は頻繁にこの地に侵入しては撤退している。
おそらく嫌がらせだろう。
確かに相手をしていられない。
その時だった。
魔法の通信が入る。
「どうしたの? ジュシオ?」
何事かと姫様が聞く。
「大変です。姫様。捕えた豚顔の男達が逃げ出したそうです」
◆暗黒騎士クロキ
地下室で太った男達を解放する。
尻の穴が丸出しの男を解放するために、縄を引っ張る。
「ぶひぃ!」
体のどこかが刺激されたのか変な声を上げる。
変な声を上げるな!
アンデッドが徘徊する城だ。
グロい場面を想像していたが、これは違うのではないだろうか?
しかし、我慢して全員を助け出す。
「助かりました。私の名はフルティンと申します。神王様に仕える者でもあります」
脚をV字にされていた男が名乗る。
神王に仕える者と言う事はオーディスの神官なのだろう。
服を着たらそれとなく威厳がある。
「そうですかフルチ……フルティン殿。自分はただの旅の戦士です。名を名乗らぬ無礼をお許し下さい」
クロキという名をあえて名乗らず答える。
特に理由はないが、念の為である。
「そうですか、珍しき小妖精を連れた戦士……。何か訳ありのようですな。詳しくは聞きませぬ。助かりました」
フルティンがティベルを見て礼を言う。
ティベルは嫌そうな目で男達を見ている。
鼻を押さえている所を見るとよほど臭いのだろう。
一言も喋らない。
もしかして、嫌な予感ってこの事なのだろうか?
まあ、確かに自分も嫌だったけど……。
改めて小妖精の囁きの能力をすごいと思う。
「俺からも礼を言うぜ。小妖精使い。俺は北の戦士マルダスだ」
体が毛むくじゃらだった男が礼を言う。
おそらく自由戦士か何かに違いない。
他の捕えられていた男達も礼を言う。
総勢47名。
何故か全員、太った男達だ。
「ところで、どうして皆さんは捕えられていたのですか?」
自分が聞くと男達はそれぞれ顔を見合わせる。
男達も理由がわかっていないようだ。
「それが、わからないのです。どうやら死の君主の命令で私のように太った男を捕えているようです」
フルティンが説明する。
フルティンはこのルヴァニアの地を浄化するために来た、オーディスの戦司祭らしい。
仲間と一緒に来たが吸血鬼が指揮する軍団に敗れてこの城に連れて来られた。
太った仲間以外は殺されたそうだ。
マルダスも同じことを説明する。
太った者だけが助かったようだ。
理由は死の君主の命令としかわからないと言う。
死の君主とはザルキシスの事に違いない。なぜ太った男だけを捕えるのだろう?
本当に訳がわからない。
なぜ、太った男だけを捕え、裸にして縛っていたのだろう?
そこまで考えて大変な事に気付く。
「まさか…。ザルキシスにそんな趣味が……」
デブ専だったのか!
しかも男!
自分は言い知れぬ恐怖に襲われる。
ある意味、死よりも怖い。
「どうしたんだ! 吐きそうな顔をして!」
マルダスが不思議そうな顔で見る。
そして、想像してしまう。
毛むくじゃらの男にのしかかるザルキシス。
ある意味ホラーだ。
「いえ、何でもないです。さて、それでは皆さん助かった事ですし、自分は行きます」
おぞましい光景を打消し、自分は天井を見上げる。
ここにはウェンディ達はいなかった。
ならば上の階にいるかもしれない。
「目的があるみたいですね。手伝いましょう」
フルティンが協力を申し出る。
どうしようか迷う。
しかし、ウェンディや子供達を連れて脱出させるには人手が多い方が良いかもしれない。
「わかりました。それでは協力をお願いします」
今回は短いです。もっと長く書く予定でしたが、ちょっと失敗してしまいまして、胃が痛いです。
傷心の為、短くなりました。
自分はこうして欲しかったのですが、相手にうまく伝わらない (´;ω;`)
そして、何度かやり取りして怒られる始末。ダメダメですね……。
そして、今回の事ですが、実は当初はチユキ達も物語に絡ませる予定でした。
特にフルティン達を救出するのはチユキ達だったりします。
チユキ、フルティンが縛られているシーンを見て「また! このパターン!」と言って怒る。
そして、泡を吹いて倒れるサホコ。ザルキシスの趣味を想像してゲンナリする女性陣。
まあ、こんな感じです。