捕らわれる者達
◆暗黒騎士クロキ
「ねえティベル。どうかな?」
「う~ん。変な感じがします~」
ティベルが微妙な表情をする。
今自分はこの村の大人と同じ格好をしている。
目の部分だけが開いた白い頭巾を被る事で、何とかごまかそうという作戦だ。
うまい作戦とは思えないが、これ以上の手が思いつかない。
だから、これで行こうと思う。
この衣装はウェンディに持って来てもらった物だ。
村の大人の格好を聞いた時に思いつき、念のために用意をしておいた。
「さて行こうかティベル」
「はいクロキ様」
そう言うとティベルが自分の服の裾に隠れる。
アンデッド系のモンスターは生者を感知する能力がある。
そのため、ティベルの透明の魔法は意味がない。
自分も発見されるだろう。
この変装がどうにか通じれば良いのだが。
廃屋から出る。時刻は夜ではない。
そもそも、領主の城の近辺はいつも暗いので、時刻は関係がなかったりする。
サンショスの村を歩く。
人気を感じない。誰もいないみたいだった。
それとも隠れているのだろうか?
まあ、今はそんな事を考えても仕方がないので、先に進む。
村を抜けると広い農園が広がっている。
農園には人影が見える。農作業を行っているみたいだ。
おそらく、村の子供達に提供する食料等を生産しているのだろう。
「アンデッドじゃないみたいだな。怪しまれなければ良いのだけど……」
基本的にアンデッドは農作業を出来ない。
なぜなら全てのアンデッドは瘴気を発生させるからだ。瘴気のあるところでは普通の植物は枯れる。
この村の食事をしたが、普通だった。だから、普通の穀物や野菜を作っているのだと思う。
農作業をしている彼らが何者かわからない。無理やり連れて来られて農業をさせられているのなら助けたいと思うが、ザルキシスを崇める者達なら注意しなければならない。
農地と農地の間の道を歩く。
農作業をしている者達はこちらを見もせず、黙々と作業を続けている。
気付いていないのだろうか?
農作業をしている者達を見る。
全員が巨漢であり、同じように白い頭巾で顔を隠している。
そして、気付く。
「普通の人間じゃない!?」
顔は隠しているが腕は剥き出しだ。その腕がツギハギだらけである。
頭巾から覗く目が胡乱だ。まるで意志を感じない。
もしかすると自分が頭巾を外して歩いていても、無視するだけかもしれない。
そんなツギハギ男達が作業している中を通り過ぎる。
すぐ横を歩いても気付いていないのか、見ようともしない。
まるで、ロボットである。
「もしかして、何か改造でもされているのかな? ティベル。あの村の大人もこんな感じだった?」
懐のティベルに聞くと、首を傾げる。
「さあ? わからないです~。でも、もっとしっかりしてたと思うです」
ティベルが答える。
どうやら、ウェンディと接していた大人と違うようだ。
農作業をしている者達には意志がない。おそらく、農作業をするためだけに改造されたとみるべきだろう。
だから、自分達を見ても何も気にしないのだ。
先へと進む。
領主の城の直ぐ近くまで来る。
城門の前にはスケルトンの門番が立っている。
「スケルトンか……。この恰好でごまかせるかな?」
すでにスケルトンに察知される範囲には入っているはずだ。
しかし、スケルトンは何も反応をしない。
いけるかもしれない。
「クロキ様。こっちの方が大丈夫のような気がします」
門に向かおうとすると、ティベルが止める。
「なるほど、わかった。そうするよ」
こういう時はティベルの危険察知能力がとても役に立つ。
最も危険じゃない場所を探ってくれるのだから。
自分はティベルが言う方向へ行く。
領主の城の正門から城の横へと行く。
すると、そこには丸太が並べられていた。
「丸太? そうか! これを使うのか!」
丸太。何となくこれを使えばいけそうな気がする。
自分はうんうんと頷く。
「何を言っているですか? クロキ様。こっちです~」
頷く自分を無視して、ティベルは丸太を通りすぎる。
ですよねー! わかってたましたよ……。
そもそも、丸太でどこに行くのだろう?
ティベルの後を付いて行く。
「えっ? あれは?」
歩いていると白い頭巾の男が歩いているのが見える。
こちらに背を向けているので気付いてはいない。
白い頭巾の男は自分達と同じ方向に進んでいる。
「クロキ様。あれは下僕を連れて行った人間の一匹です~。こんなところで何をしてるのでしょう~」
ティベルが小声で教えてくれる。
「なるほど、一人みたいだし、捕えよう」
男は1人だけだ。
周囲には誰もいない。視線も感じない。
体は元に戻っていないが、1人なら何とかなると思う。
自分は素早く相手の背後へと移動する。
「何だ?」
男は自分の接近に気付き振り返る。
しかし、その反応はとんでもなく遅い。
完全に振り返る前に男の左腕を捻り上げる。
「動くな!」
力は衰えていても、普通の人間に負けるつもりはない。
男は抵抗しようとするが、自分の拘束を振り解けないようだ。
腕をさらに捻り上げる。かなり痛いはずだ。
だけど、何かおかしい。
「敵か?」
男に痛がる様子はない。
それどころか急に腕を捻り上げられているのに驚く様子もない
その事にこちらが驚きそうになる。
男はこっちの様子を気にすることなく、右手で腰の剣を抜く。
「動くなと言っ……! なに!?」
慌てて男から離れる。
次の瞬間男の背中から剣が突き出る。
男が自身の体ごと剣で攻撃して来たのだ
「自分の体ごと、貫くなんて……」
男がこちらを見る。
そして、大きく口を開ける。
「まずい!」
相手に飛びかかる。体の動きは以前より鈍くなっているが、それ以上に男の動きは鈍い。
男の剣を躱すと相手の口を押え、地面に押し倒す。
「こいつ! 抵抗するなです!」
懐のティベルが顔を出すと魔法を使う。
すると突然男が抵抗しなくなる。
「えっ? 嘘? 効いたの?」
信じられないぐらい、簡単に効いてしまった。
男は剣が胸に刺さった状態で仰向けに倒れている。
その目は胡乱だ。確実に魔法にかかっているようにみえる。
「効いてる、みたいです~。でも変です。ここまで簡単な人間は初めてです~」
ティベルも不思議そうな顔をする。
「ティベル。この男を起こしてくれる?」
「はい。わかりましたクロキ様。おい、お前。起きるですよ~」
ティベルが命じると男が起きる。
「じゃあ、そのまま動かないようにしてくれるかな。ちょっと調べたいんだ」
「はい、です。そのまま動くんじゃないですよ~」
「ありがとう。ティベル」
自分は動かなくなった男の頭巾を取る。
ツギハギの顔が出て来る。
剣を胸から引き抜き、傷を調べる。
血が一滴も出て来ない。
「どうなっているのか、わからないな……」
彼は元は人間だと思う。そして、何らかの改造を施されたのだろうか?
しかし、今はそんな事を考えてもわからない。
疑問は残るが先に進もう。
「ティベル。この男がどこに行こうとしていたのか、案内させてくれる?」
「はい。クロキ様。さあ、お前。どこに行こうとしていたのか案内するですよ~」
男は頷くと背を向けて歩き出す。
しばらくすると、城の裏のもう一つの入り口へとたどりつく。
「もう一つ、入口があったのか」
そして、その入口には誰もいない。誰もいない事を疑問に思ったが、先に進む事にする。
入ると地下に続く階段がある。
男を先に歩かせて後に続く。
壁に蝋燭が備えられていて、その火のおかげで明るい。
これはアンデッド以外もこの城にいる事を示している。
アンデッドは明かりがなくても行動に支障がないからだ。
そして、階段を降りた所で、扉がある。
「ティベル。男に扉の前で止まるように言って」
「はい。止まるですよ」
立ち止まった男の前に出て、扉を調べる。
中から話し声が聞こえる。
物体感知を行う。扉には少し隙間があるので中を感知する事ができるはずだ。
広い部屋に5名の人型の者が動いている。
アンデッドのような感じがしない。生きている人間のような感じがする。
最近覚えた亡者感知の技能も使うがアンデッドは部屋の中にいないようだ。
「中に誰かいる。おそらく彼の仲間だろうね。ねえ、ティベル? 複数の相手を同時に支配できる?」
「う~ん。ちょっと難しいです。でも、同時にじゃなければ眠らせることなら、何とかできるかもしれないです~」
「眠らせるか、なるほど、なんとなくだけど精神魔法に弱いような気がする。それで、行こう。ティベル。彼を先に行かせて」
先程の男の事を考えると精神魔法は普通に効くようだ。
精神魔法無効のアンデッドとは逆である。
そして、睡眠の魔法なら自分も使える。
ティベルと一緒なら5人ぐらい大丈夫だと思う。
「わかりました。クロキ様。さあ、中に入るのですよ」
ティベルが言うと男が中へと入る。
中に入ると白頭巾の者達がこちらを一斉に見る。
その目には意志を感じる。農作業をしていた者達とは違うようだ。
「どうした? 腹に穴が開いているが何かあったのか? 待て? 後ろの奴はなんだ?」
白頭巾の男の1人が、自分を見て声を出す。
すぐに気付かれる。
まあ、最初からうまい変装だとは思っていなかったので、これは想定済みだ。
「ティベル!」
「はい!」
懐からティベルが飛び出す。
自分はそれを確認すると、声を出した男に迫り睡眠の魔法を使う。
「うっ……」
男はあっさり倒れる。
「敵?」
倒れた奴の側にいた白頭巾が側に持っていた巨大なハンマーを持ちこちらに迫る。
ハンマーは重そうに見えるがそれを軽々と片手で持ち上げている。
もしかすると、普通の人間よりも力が強いのかもしれない。
しかし、自分にとってはそれは誤差でしかない。
ハンマーを避けると魔法を放ち眠らせる。
そして、この部屋から逃げようとした白頭巾に先回りして眠らせる。
力は強くても、普通の人間よりも動きは鈍いみたいだ。
簡単に先回りできた。
「そっちはどう? ティベル?」
ティベルの方を見ると、その足元に白頭巾の者が倒れている。
どうやら、うまくいったようだ。
騒ぎを聞きつけて、誰かがここに来る気配はない。
「大丈夫みたいだな」
部屋を見渡す。
自分達が入って来た扉とは別に、扉が2つある。
片方は白頭巾の者が逃げようとした扉だ。
おそらく、先に続く場所があるのだろう。
では? もう一つの扉の向こうには何があるのだろう?
扉を調べると中からかすかに人の声が聞こえる。
物体感知を使うと中に複数の人型がいるのがわかる。
白頭巾の仲間だろうか?
しかし、それなら加勢に出てくるだろう。
「ティベル。この部屋に誰がいるのか聞いてくれるかい?」
「はい。クロキ様」
ティベルが最初に出会った男に聞く。
「中には、捕えた者がいます」
「捕えた者? ウェンディ達かな?」
しかし、中から感じる人型は大きい。
大人の人間のように思える。
「クロキ様~。中から嫌な感じがします~」
「嫌な予感? この中は危険なの?」
そう聞くとティベルは首を振る。
「よくわからないです。でも中に入りたくないです~」
その顔はすごく嫌そうだ。
ティベルがこんな顔をするのは初めてだ。
敵はいないみたいだけど、中に何があるのだろう?
予想もつかない何かが待っているのかもしれない。
「わかった。ティベルはそこで待っていて、中の様子を見て来るから」
自分は白い頭巾を外して、ティベルに待っているように言う。
敵がいないのなら、ここで待って貰っても大丈夫のはずだ。
頭巾を外したのは、中に捕らわれている人を安心させるためだ。顔を隠しているよりも良いだろう。
扉を開ける。
中には明かりが灯されていて明るい。
「なっ!? これは!?」
思わず声が出てしまう。
そこには予想外な光景が広がっていた。
部屋中に太った男達が裸にされ荒縄で縛られている。
胸毛と尻毛のオンパレードだ。
おっさんの汗臭い匂いが部屋中に充満している
思わず口と鼻を押える。
「誰だ……。奴らの仲間じゃないみたいだが、もしかして、助けに来てくれたのか?」
奥で縛られた男が自分を見る。
恰幅が良く、精悍な顔つきの男だ。
全裸でV字開脚されていなければ、威厳があっただろう。
何かが色々と台無しだ。
「こいつは本当に、予想外だわ……」
何が悲しくておっさんの全裸を眺めなければいけないのだろう?
ちょっと泣きたくなってくるのだった。
◆捕らわれのウェンディ
私達は全員、領主様のお城に連れて来られる。
連れて来られた場所はお城でも高い所だ。
窓から遠くの山が見える。
私達はその部屋の中央にある鳥籠のような牢屋に入れられている。
窓は近いが近くに行く事はできない。
逃げる事は難しいだろう。
「ウェンディお姉ちゃん。僕達どうなるの?」
ミカルが不安そうに私を見る。
安心させてあげたいが、無理だ。
なぜなら、私もすごく不安だからだ。
同じように連れて来られたみんなも不安そうな顔をしている。
「ミカル。ウェンディを困らせたらダメよ」
近くにいたリリがミカルを叱る。
そんなリリはどこか諦めた顔をしている。
リリにはこれから私達がどうなるのかわかっている。
もちろん私もわかる。
吸血鬼のエサになるのだ。そのために私達は育てられた。
しかし、全員連れて来られるとは思わなかった。
「ティベルちゃん……。クロキさん……」
私は彼女達の事を考える。
最後にお別れを言いたかった。
そうすれば、良い夢を見ながら天国に行けそうな気がするからだ。
ティベルちゃんはとても綺麗だった。
白い肌に瑠璃色の蝶の羽。
宙を飛ぶとキラキラと光が舞い散る。
彼女と一緒にいると私も空を飛べそうな気がする。
私は鳥籠から空を眺めるのだった。
おっさん回です。この流れを予想していた方もいたかもしれません。
〇ンポが悪くなるので、省こうかと思ったのですが、思いきって書きました。
どうでしょう(´・ω・`) ?
丸太ですが、元ネタを知らない人は全く楽しめないですね……。ネタは風化するので、基本的にやってはいけない事だと思っています。
駄目ですね(´・ω・`) 。なら書くなよと1人ツッコミをします。
ガ〇ゲイルオ〇ライン面白かった。