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暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第8章 幽幻の死都
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逃避行

◆死神ザルキシス


「なに? 両方、逃しただと! なにをしている!」

「申し訳ございません! 我が主!」


 声を荒げると吸血鬼王ヴァンパイアロードであるベイグが頭を下げる。

 暗黒騎士との戦いが突然現れた道化によって中断してしまった。

 暗黒騎士を後一歩まで追い詰めたにもかかわらず逃してしまった。

 道化の目眩ましで奴を見失ったのだ。

 現在、奴らを幽鬼の騎士(スペクターナイト)に追わせている。

 しかし、逃したとベイグは報告する。

 怒りでどうにかなりそうだった。

 祭壇を見る。

 そこにあるはずの魂の宝珠(ソウルオーブ)がない。

 暗黒騎士と一緒にいた道化によって奪われてしまった。


「このザルキシスの宝を奪うとは……」


 あの道化はこの神殿の守りをすり抜け魂の宝珠(ソウルオーブ)を奪った。

 暗黒騎士は囮だったのだ。道化はこのザルキシスが魂の宝珠(ソウルオーブ)から離れるのを待っていたのだ。

 それにしても、我が眷族ならともかく外部の者がこの神殿の守りを気付かれずに突破できるはずがない。

 何者だあの道化は?

 しかし、今はそんな事を考えている暇はなかった。


「追うぞ! ベイグ将軍! 幽霊空船を用意せよ! あの道化はなんとしても捕まえねばならぬ!」

「はっ! ところで我が君。暗黒騎士の方はどうなさいますか? 道化と一緒に逃げてはいないようなのです」


 その言葉で頭を悩ませる。

 暗黒騎士は死の影により力を失っているはずだ。

 逃げたのがその証拠である。

 捨て置いては危険だ。殺すべきだろう。

 しかし、捕えておけば魂の宝珠(ソウルオーブ)を取り戻す交渉の道具になるかもしれなかった。


「ザファラーダ達に暗黒騎士を追わせろ! できれば生かしたまま捕えよとも伝えよ! 奴は力を失っている! なんとかできるはずだ!」

「はっ! わかりました!」


 ベイグがお付の吸血鬼ヴァンパイアの侍女に指令を出す。


「さて! 行くぞ!」


 行こうとしたときだった。侍女に呼び止められる。


「お待ちください! 我が君! 暗黒騎士が鎧を脱いで逃走している可能性もあります! 暗黒騎士はどのような素顔をしているのでしょうか?」


 一瞬、この侍女を消滅させようかと考えてしまう。

 そんな事もわからないのだろうか?


「豚だ! 豚みたいな奴に決まっている! モデスの仲間なのだからな! 豚みたいな男を捕えるのだ!」




◆吸血鬼伯ジュシオ


「暗黒騎士を捕えろ。そう、わかったわ。お父様には必ず捕えると伝えてちょうだい」

「はい姫様」


 そう言うと吸血鬼ヴァンパイアの侍女は頭を下げて出て行く。

 先程使者が来て姫様に暗黒騎士を捕えよとの指令が下されたところだ。


「暗黒騎士を捕えろ? なかなかお父様も無茶を言ってくれるわね。ねえジュシオ。貴方はどう思うかしら?」


 薄い布の向こうから水の音が聞こえる。

 その向こう側に姫様がいるはずだった。

 主である姫様は入浴中だ。

 暗黒騎士によって傷ついた体を癒している。

 モードガルの姫様の館の奥の浴室は広く、湯船の周りには吸血鬼ヴァンパイアの侍女達が集まっている。

 桃色の明かりが室内を照らし、妖しい雰囲気を醸し出している。

 香水の匂いが部屋に充満して、死の匂いを消している。

 私は薄い布の前で跪き、主の入浴が終わるのを待っている最中だった。


「奴は手負いです。今ならば可能かもしれません」


 主の問いに答える。

 嘘は吐いていない。

 しかし、難しいだろうとも思う。手負いとはいえ暗黒騎士は強い。容易ではないはずだ。


「確かに手負いでしょうね。でも、気が進まないわ。捕えた娘を全て潰しても、まだ回復しきれていないわ」


 姫様が左手を上げて不満を言う。

 吹き飛ばされた腕は元に戻っているように見える。しかし、本当に回復したわけではない。

 周囲には人間の少女の死体が無造作に転がっている。

 姫様が浸かっているのは人間の乙女の血だ。

 血浴み。

 それが、姫様が行っている行為だ。

 姫様は他の生物の生命力を吸う事で再生する能力を持つ。

 この能力は他の者も持っているが特に死の眷属はその能力が高い。

 姫様は捕えた人間の娘でも特に魔力が強い者をいざという時のために保管していた。

 そして、新鮮な血は生命力の塊だ。その娘達の血を湯船に満たし。全身で生命力を吸っているのだ。

 周囲を見る。死体の数から、捕えた娘達全員を潰したようだと判断する。

 おそらく近いうちに補充の命令が出るだろう。

 何人の娘を捕えなければいけないのだろう。

 近くには娘の頭が転がっている。その顔は切り刻まれている。

 姫様は美しい娘が恐怖で顔を歪ませるのが好きだ。おそらく、死ぬ瞬間まで痛めつけられたに違いない。

 だからだろうか、娘を補充することに、動かないはずの心臓が痛む。

 これは私だけらしい。他の吸血鬼ヴァンパイア達はなにも感じないと聞いている。

 しかし、姫様の忠実な下僕である以上は命令は聞かねばならない。

 そして、それは姫様も同じのはずだった。


「しかし、姫様。御父君の命令を聞かぬわけには……」

「わかっているわ。ジュシオ。用意が出来次第動きます。はあ、これで暗黒騎士が美男子だったら良かったのに……。でも魔王のお仲間はほとんどがブサイク。期待できないわね」


 魔王モデスの仲間の神々のほとんどがブサイクなのは有名だ。

 そのため、姫様もやる気が出ないのだろう。


「私の騎士も減ったから補充しないといけないわ。顔が良くて強い男、難しいわね……。娘だけじゃなくてそちらも探す必要があるわ」

「それでしたら、北の地の人間を襲いますか?」


 北の地は死の眷属の支配地ではない。

 反抗的な人間の騎士もいる。その者達の中に候補が見つかるかもしれない。


「いえ。駄目だわ。今は暗黒騎士を探すのが先よジュシオ。弟達はどうしているのかしら?」

「はい。数名の御子様方は既に暗黒騎士を探すために動いております。残りの方々は姫様が来られるのを待っております」

「そう。わかったわ。それなら急いで支度しなければいけないわね」


 薄い布の向こうから姫様が立ち上がる気配がする。

 そして、薄い布が開かれる。

 顔を上げると全裸の姫様がこちらを見降ろしている。

 侍女達が体を拭き、衣装を持って来る。

 白い肌から血が滴り落ちる。

 それはとても美しく官能的な姿だった。甘い血の匂いを嗅ぎ、体が疼く。

 ここにいれば流されてしまうだろう。


「姫様。私は先に戻り兵を動かしたいと思います。暗黒騎士がどこにいるかわかりませんので」


 そう言って立ち上がる。

 領地であるサンショスへと戻ろうと思う。


「待ちなさい。ジュシオ」


 背中から呼び止める声がする。

 それは甘い声だった。


「なんでしょうか姫様」


 少し振り向くと姫様が近づくのを感じる。


「こっちを向いて跪きなさいジュシオ。貴方は私の口づけを受けても、未だ心は堕ちない。教育が必要ね。残りなさい。貴方の領地には代わりの者を行かせるわ」


 その言葉に心がざわめく。

 しかし、私には拒否する事はできなかった。


「はい姫様」


 姫様を向き、跪く。


「舐めなさい。ジュシオ」


 その言葉に顔を上げる。

 見下ろす姫様の顔には嗜虐的な笑みが浮かんでいた。




◆暗黒騎士クロキ


 死都モードガルを脱出してからかなりの時間が経過したが、全く距離を稼げていない。

 自分は闇小妖精ダークフェアリーのティベルと共にルヴァニアの地を歩く。

 道化はいない。彼は敵の目を引き付けるために別行動をしている。

 脚が重い。

 ナルゴルの死の影が肉体と精神を蝕んでいるのがわかる。

 ナルゴルの力は竜達ですら畏怖させる。

 その竜達が動かなくなったので、余計に力が入らない。

 まさか、ナルゴルがあれほど怖い存在だとは思わなかった。ナルゴルの神々が恐怖するのもわかる。


「クロキ様~。大丈夫ですか? 休みますか?」


 闇小妖精ダークフェアリーのティベルが心配そうな声を出す。


「大丈夫だよティベル。それよりも早く行こう。ようやく嘆きの森を抜ける事ができたんだ。香炉もいつまでもつかわからない。脚を止めれば見つかる」


 幽鬼の騎士(スペクターナイト)が追って来ているのを感じる。

 香炉の煙がある間は大丈夫だけど、香が切れたなら、すぐに発見されるかもしれない。

 それに吸血鬼や死の神を崇める人間の目はごまかせない。

 ティベルの隠形の魔法はあるが、自身よりも大きな物を隠すと負担が大きくなる。多用は出来なかった。


「ですが~、クロキ様は辛そうな顔をしています。心配です。やはりどこかで休むべきです」


 ティベルが不安そうな顔をする。

 その顔を見て申し訳ない気持ちになる。天使達を助けた事で、危険な目に会ってしまった。

 そのため、ティベルに心配をかけてしまったのだ。

 そして、ティベルの言う事ももっともだった。

 脚が重い。どこかで休まないと動けなくなる。


「ごめんね。ティベル。心配をさせて……」

「そうですよ~。心配したのです。クロキ様。無茶な事はしないでください~」


 謝るとティベルが頬を膨らませる。

 その様子が可愛くて暖かい気持ちになる。


「ごめんね。そうだね、少し休まないといけないな。ティベル。休めそうなところはあるかい?」

「そうですね~」


 ティベルは目を瞑る。

 小妖精フェアリーの危険察知能力は高い。

 その能力は小妖精の囁き(フェアリーウィスパー)と呼ばれ、その声に従えば危険を避ける事ができる。

 今まで見つからずにすんでいるのは、香の力だけでなく、このティベルの能力による所も大きい。


「こちらが良いと思うです~。なんだか花の匂いがするのです」


 ティベルはある方向を指差す。


「わかった。ティベル。そちらに向かおう」


 自分はそちらに歩を進める。

 そう言えばこちらには行くときに人間の村があった事を思い出す。

 確かサンショスとかいったはずだ。もしかするとそこでなら休めるかもしれない。

 そう思いながら自分とティベルは先へ進むのだった。


少し短いです。きりの良い所で終わらなかったのですよ……。ちなみにレーナ視点もいれる予定でしたが、視点変更が多いと書籍化するときに注意をされます。しかし、この世界に生きる色々なキャラを書きたい!


そして、カクヨムでも投稿を開始しました。

また、ツイッターも始める事にしました。何を書けば良いのだろう(´・ω・`)?


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