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暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第8章 幽幻の死都
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死都騒乱

◆暗黒騎士クロキ


 飛び上がると女天使を襲う吸血鬼騎士ヴァンパイアナイトの剣を弾く。


「暗黒騎士?!」


 女天使から驚きの声が出る。


「少し時間を稼ぐよ。この間に逃げて」


 そう言って自分は幽鬼の騎士(スペクターナイト)に黒炎を浴びせる。

 これで、他の天使も逃げ出せるだろう。


「馬鹿な?! 卑劣で、外道の暗黒騎士が私達を助けるなんて!」


 女天使から外道呼ばわりされる。


「何故だ?! ゲロ以下の糞野郎のはずなのに?」

「理由はわからんが、アルフォス様の言葉に間違いはない。どう言う事だ?」

「きっと、卑劣な思惑があるはずだ! しかし、今は逃げるぞ!」


 天使達が去って行く。

 折角助けたのになにか納得がいかない。

 おのれアルフォス!!

 心の中で、アルフォスを罵るが、今は目の前に集中すべきだろう。

 吸血鬼騎士ヴァンパイアナイト幽鬼の騎士(スペクターナイト)も敵ではない。

 どれだけの数が来ても勝てる。

 白い吸血鬼騎士ヴァンパイアナイトは他に比べればやるみたいだけど、自分には敵わないだろう。


「下がりなよ君達。暗黒騎士よ。この僕が相手をしてあげよう」


 下から見た目だけは金髪碧眼の美少年が浮かび上がってくる。

 この少年の事も前もって調べている。

 紅玉の公子ザシャ。

 美少年に化けているが、その正体は巨大な吸血ヒルである。

 特に強くはないが、耐久力があり、滅ぼすのは難しい。

 しかし、火が弱点なので、自分なら簡単に倒す事ができるはずだ。

 ザシャは格好良く、マントをバサッとなびかせる。


「ザシャ公子様! 危険です! その暗黒騎士は黒い炎を使いました! おそらく、あの暗黒騎士です!」


 白い吸血鬼騎士ヴァンパイアナイトが叫ぶとザシャはエッと驚く。


「えっ?! そうなのかジュシオ卿? それなら……」


 そう言ってザシャは去ろうとする。


「さすがですわ! ザシャ! まさか先鋒を買って出るなんて!」


 真紅の衣装を纏った女性が空を飛んで来る。

 鮮血の姫ザファラーダだ。

 死の御子で最強と呼ばれている。

 正体は巨大な吸血蝙蝠で、吸血鬼達が信仰する神でもある。


「エッ? あの……。姉上」


 ザシャは何だか戸惑っている。


「拙僧は見直したよ。ザシャ君。さあ存分に戦いたまえ」


 黒い雲に乗った巨大な一つ目の法衣の者がやってくる。

 雲は蝿が集合したものだ、嫌な臭いを周囲に撒き散らしている。

 おそらくあれが、蛆蝿の大僧正ザルビュートなのだろう。

 強力な死霊魔術と符術の使い手と聞いている。

 ザシャに比べれば強敵だろう。

 両者は自分とザシャとの戦いを見守っている。

 余裕の表情だ。

 それも、そのはずだ。このモードガルは死の眷属にとって有利な場所だ。

 この地で戦う事は不利である。

 周囲には死の眷属達が増えている。時間は味方してくれない。

 天使達が逃げ切る時間を稼いだら自分も脱出しよう。


「そんな! 兄上まで! くそ! こうなったら、魔血霧イビルブラッドミスト!」


 覚悟を決めた、ザシャの口から真っ赤な霧が吹き出す。


「そんなものが効くか!」


 黒い炎で霧を消すと、自分はザシャへと向かう。

 そして、魔剣を上段から振り下す。


「うわあああ!」


 ザシャは逃げるが、こちらの方が速い。


「何?」


 ザシャを斬ろうとした瞬間だった。

 複数の符がザシャとの間に現れる。魔剣はその符ごとザシャを斬り裂くが、少し浅くなる。

 そして、自分は身を反らしてザファラーダの放った衝撃波を避ける。


「ぐわああああ!」


 斬られたザシャが落ちていく。

 だけど、今はザシャの事はどうでも良いだろう。

 目の前の奴をなんとかしないといけない。

 ザファラーダとザルビュート。

 名前が似ているので間違えそうになる。


「拙僧の呪符ごと斬り捨てるとは……。さすがに強い。ならばこれならどうかのう! 不動金縛!」


 ザルビュートが叫ぶと、いつの間にか自分を取り囲んでいた呪符が輝く。

 呪符から電撃が放たれ、自分の動きを拘束する。

 おそらく、会話をしている時にザシャの周囲に配置していたのだろう。

 そして、ザシャを囮にして、その中に自分を飛びこませた。

 中々抜け目ない奴。


「良くやったわザルビュート! 今よ行きなさい!」


 ザファラーダの叫びと共に数十名の吸血鬼騎士ヴァンパイアナイトが、剣をかかげ突っ込んで来る。

 だけど、これぐらいの呪符では自分の動きを止める事はできない。

 そもそも、呪符とは、付与魔法に近い、あらかじめ魔術文字を特殊な紙に書いて、簡単に魔法を発動させる。

 詠唱や、魔力の溜めが必要無いので、普通に魔法を使うよりも、素早く発動できるが、決して強力というわけではない。

 この程度なら力づくで打ち破れる。


「はあっ!」


 力づくで魔法を撃ち破ると、向かって来た吸血鬼騎士ヴァンパイアナイトを斬り裂く。

 そして、返す剣でザファラーダの魔法を撃ち返す。


「きゃああああ!」

「姫様!」


 打ち返した魔法を躱し切れず、ザファラーダの左腕を吹き飛ばす。

 ザファラーダは下に落ちる寸前で、白い吸血鬼騎士ヴァンパイアナイトに受け止められる。

 かなり強力な魔法だったのか、ザファラーダの魔法は、その後ろにいた幽鬼の騎士(スペクターナイト)数体を瞬時に消滅させる。

 それにしても、あの白い吸血鬼騎士ヴァンパイアナイトの動きは良い。

 瞬時に主を受け止めたのだから。


「馬鹿な……。これ程とは……」


 ザルビュートが呻く。

 その体には吸血鬼騎士ヴァンパイアナイトが持っていた剣が刺さっている。

 吸血鬼騎士ヴァンパイアナイトの腕を斬った時に、その持っていた剣をザルビュートに当たるように飛ばしたのである。

 剣は深々と腹を貫いているが死ぬ様子はない。法衣の中はどうなっているのだろう?


「グウウウウ! よくも私を! くそっ! くそっ!」


 左腕を失ったザファラーダは憎々しげにこちらを見る。

 斬られて灰になった吸血鬼騎士ヴァンパイアナイトも見ていない。

 彼女は吸血鬼騎士ヴァンパイアナイトごと自分を殺そうとした。

 しかし、うまくいかなかった。

 そして、反撃にあい左腕を失った。

 そのことにかなり怒っている。

 そこには淑女の顔はない。

 口は裂け長い牙が見えている。顔にある目も七つに増えている。

 背中からは巨大な蝙蝠の羽。

 本性を現したようだ。

 しかし、傷ついたザファラーダはこちらには来ない。睨むだけだ。

 それはザルビュートも同じである。

 睨み合いが続き、時間が経過する。

 さて、そろそろ自分も撤退した方が良いだろう。

 そう思い、後ろに下がろうとした時だった。

 強力な敵意を感じる。

 敵感知は危険察知能力と似ている。強敵であればあるほど、その者から感じる敵意も大きく感じるのだ。

 敵意を感じた方向を見ると、そこには何者かが飛んでいる。

 青ざめた毛のない肌、蝙蝠の上半身に下半身は蜘蛛。

 腹だった箇所には巨大な口。

 顔には十二の赤い目がこちらを見ている。


「まさか、お前が来ているとはな。暗黒騎士」

「ザルキシス……」


 逃げ遅れた。

 背中から冷や汗が流れる。

 前に会った時はここまで、危険には思わなかった。

 道化やヘルカートの言葉を思い出す。

 この地で力を取り戻したザルキシスと戦うのは危険だと。

 逃げるべきだが、背中を見せるのはもっと危険なように感じられた。

 ザルキシスは右手に持つ捻じ曲がった剣を振るう。

 距離が離れているにもかかわず、捻じ曲がった剣は鞭のように伸びて、こちらに迫る。

 その剣を魔剣で受ける。


「重いっ!」


 鞭のような剣なのに、鈍器を受けたような気がした。

 少しだけ体がよろめく。


「ほう、受けるか暗黒騎士よ。だがな、このモードガルでこのザルキシスに勝てると思っておるのか。既に貴様の力は落ちているというのに」


 言われて気付く。

 そういえば寒気を感じる。

 そのため、動きが鈍く感じる。

 いつからだろう? おそらくザシャと対峙した時からだ。

 以前にザルキシスと対峙した時も、闇の上位精霊エクリプスと対峙した時もこんな事はなかった。


「お願いだ! 竜達よ! 力を貸してくれ!」


 まずいと思い、竜の力を活性化させる。

 体に熱が戻ってくる。しかし、思った以上に竜達の動きが鈍い。

 ザルキシスにこれほどの力があるとは思えなかった。

 闇の精霊を呼ぼうにも、この地では呼び声に応えてはくれないだろう。

 状況はこちらに圧倒的に不利だ。


「竜の力を使うか暗黒騎士。だが、無駄だ。良く耳をすませ。聞こえるだろう。このモードガルに充満する怨念の声が」


 ザルキシスの言う通り耳をすます。

 すると寒気がするような声が聞こえて来る。


「……憎い……憎い。……あの女が憎い。……あの女の子が憎い。……滅ぼしてやる。……全てを滅ぼしてやる」


 それはとても小さい声だ。

 だけど暗く、激しく、魂すら凍らせるぐらい怖ろしく感じられた。


「なにこれ……?」


 すっごく怖いんですけど!

 一度聞いてしまうと、直接脳裏に、そして魂に語りかけてきそうな声だった。


「どうだ暗黒騎士よ! 偉大なる母の力を受けた気分は! この都には母の怨念が封じられてる! それを解放して貴様に使ったのだ! あのモデスとて、この地で戦えば勝てぬ!」


 ザルキシスの嘲笑。

 自分の体に黒い影が纏わりついている事に気付く。

 その影は形がないのに重く、自分の体にのしかかる。

 体の竜達が悲痛な咆哮をあげる。


「……憎い。……憎い。……夫を奪ったあの女が憎い。……ちょっと綺麗だからって見下しやがって……。キイイイイイイイイイイイイイ!!」


 聞きたくないのに、どうしても聞こえてくる。

 まじで怖い! 本当に怖い! 鬼女の声が脳裏から離れない!

 これは竜達が縮んでも仕方がない。


「さあ、死ぬが良い! 暗黒騎士! 罪の剣を受けよ!」


 ザルキシスが捻じ曲がった剣を振るう。

 剣は鞭のように伸びて、襲って来る。


「くっ!」


 魔剣で受ける。先程よりも重く感じる。

 しかし、実際は自分の力が落ちているのだ。

 ザルキシスは何度も剣を振るう。その剣をなんとか魔剣で防ぐ。

 空中にいたら的になるだけなので、下に降りて身を低くし罪の剣を防ぐ。


「ほう! そう来るかか! ならばこれならどうだ! 真霊腐瘡蒼閃!」


 ザルキシスの腹の口が大きく開くと、暗く青い光線がこちらに放たれる。

 避けようとした時だった。

 なにかに足を掴まれ動けなくなる。

 モードガルは骨でできた都市だ。その通りから骨の手が突き出て自分の足を掴んでいる。


「くっ! なんの!」


 黒い炎と魔剣を前に出し、青い光を防ぐ。

 防ぎきれず青い光が漆黒の鎧を焼く。

 周囲を見ると通りの骨が腐り溶けている。

 何とか防いだが、体から力が抜けて行く感じがする。


「ほう! このザルキシスの最大の攻撃を防ぐか! やはり、母の力を使わせてもらおう! 偉大なる闇の大母よ死の影となりて、その怨念を解き放て!」


 ザルキシスが叫んだ時だった。

 自分に纏わりついていた影が鎧の隙間から入って来る。

 まずい! まずい! まずい!

 心の中で叫ぶ。

 竜の力を最大まで活性化させようとするが、その竜達も委縮しはじめている。

 ナルゴルの力がここまで強大だとは思わなかった。

 ナルゴルの凍てつく力が自分の魂と肉体の両方を攻める。

 激しい痛みが全身を駆け巡る。


「ああああああああ! 負けるか!」


 歯を食いしばり、竜の力を使い。死の影に抵抗する。

 しかし、死の影の縛りは強烈で自分は蹲る。


「ほう耐えるか? だが、これで終わ……。ん?」


 ザルキシスが突然疑問の声を上げる。

 その驚く声を聞いて、自分は顔を上げる。

 すると目の前には別行動をしていた道化が立っていた。

 道化の手には蒼い宝珠。宝珠は蒼黒い光を漂わせている。


「うふふふふ。旦那様が注意を反らしてくれたおかげで、うまくいっちゃったよ~」


 道化が楽しげに笑う。

 自分に纏わりついていた黒い影が宝珠に吸われている。

 おかげで少しだけ体が軽くなる。


「なんだ?! お前は?! どうして魂の宝珠(ソウルオーブ)を持っている?!」


 ザルキシスの戸惑う声。


「あはははははは。油断だったね~。きゃはははははは。さあさ! みんなあ~! 出ておいで! 謝肉祭(カーニバル)の続きだよお~!」


 道化は笑いながら空を飛ぶ。

 すると通りに色鮮やかな衣装を着た者達が無数に出て来る。

 通りや空中には踊り子達が舞。道化師達がトランポリンのように跳ね。音楽家達が弦楽器や笛を奏でている。

 とても楽しいお祭りのようだ。

 全員の顔が骸骨で無ければ混ざりたいと思うかもしれない。

 周囲に突然、大量の道化が集まったので、ザルキシスは驚いている。


「クロキ様」


 耳元で声がする。振り向くとティベルがいる。


「ティベル……。君は無事だったのかい?」

「はい~。敵はクロキ様に全ての力を集中しておりましたようなので……。だから、大丈夫です~。それよりも早く逃げましょう~。今なら逃げられます~」


 ティベルの周囲にクーナの蝶が舞っている。

 ティベルもクーナと同じ蝶が使えるようだ。

 この蝶は転移が封じられている場所でも、短距離なら空間を飛べる。

 その力を利用すれば逃げられるかもしれない。


「お願いするよ……。ティベル……。どうやら、ちょっと動けないみたいだ……」


 情けない事に体が言う事を聞かない。


「はい~。おまかせください~」


 ティベルがそういうと蝶が自分の体を覆う。


「さあさ! みんな!

 踊れや! 踊れ!

 今宵のモードガルを花で満たそう!

 ネズミが踊れば! 骸骨も踊る!

 カーニバルの始まりだ~!」


 道化の歌声を聞きながら、自分とティベルはモードガルを後にするのだった。


月曜日宝島社の方とお会いしました。内容は報告できないのでお許しを(*T▽T*)

そのかわり、東京見物の報告を。そこでハ〇ンワ〇ルド設定集をゲットしました。

グロ〇ランサやオ〇ルドワ〇ルドと同じく、緻密に作られた世界観の設定集は読むだけで楽しいですね。

自分も同じぐらいしっかりした世界を作りたい。設定集はそのうち更新します。

しかし、商業的にはしっかり作っても、それで評価されないのが悲しいところ(´;ω;`)


さて、今回の内容ですが、ナルゴルの怖ろしさが伝わる回だったりします。

そして、次週はですが、休みます……。休んでばかりですね。御免なさい


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