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暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第8章 幽幻の死都
151/195

吸血鬼伯

◆暗黒騎士クロキ


 甲板から見降ろすと、下には雲が広がりまるで海の様である。

 空船はその雲海の上を浮かぶように進む。


「ほう、思ったより速いぞクロキ。後少しでルヴァニアに到着するみたいだぞ」


 横にいるクーナが空船の進み具合を見て喜ぶ。

 確かに速い。ナルゴルから出発してルヴァニアまであと少しだ。

 ルヴァニアはザルキシスが本拠地としていた死都モードガルがある土地だ。

 モードガルが発する瘴気のため、土地は痩せて、生き物は住みにくい。

 中央大陸の北部に位置するルヴァニアは氷の島から流れる冷気の為、常に寒く、薄曇りが天気が多い。

 そんなルヴァニアで死んだ生物はアンデッドになりやすく、日の光が弱いため、ザルキシスの眷属にとって住みやすい土地となっている。

 今から向かうのはそんな土地だったりする。


「そうだねクーナ。まさか、空船を貰えると思わなかったよ」


 乗っている空船はモデスから貰ったものだ。

 自分が死都モードガルへと行ってくれる事への餞別なのだろう。

 魔王の御座船である巨大空中戦艦ナグルファルに比べるとさすがに小さいが、空船はかなり大きく、巨体であるグロリアスも乗る事ができる。

 アルフォスの空船にも負けないだろう。


「さて、もうすぐルヴァニアだけど、どうするかね? 暗黒騎士? ゲロゲロゲロ」


 同乗しているヘルカートが聞いて来る。

 自分にルヴァニアに行くように言ったのは実質ヘルカートだ。

 そのため、自身もルヴァニアへと付いて来た。

 自分に任せっきりにはしないようだ。


「ルヴァニア近辺までは空船で近づきます。ですがモードガルへは自分だけで向かいます」


 敵地に潜入するのだ。

 空船で入ればすぐに気付かれる。それは大勢で入っても同じだ。

 少人数で入るしかない。

 また、ザルキシスの凍てつく力の事を考えると自分だけで行くべきだろう。


「駄目だ、クロキ。クロキだけでは危険だぞ。クーナも行く」


 クーナが反対する。


「ごめんクーナ。クーナは目立ちすぎるんだ。一緒には連れていけない。それに、いざという時のためにここに残って欲しい」


 クーナは隠密には向かない。

 それはヘルカートにも言える。両者とも瘴気に耐える力を持っているが、隠密には向かない。

 ここに残ってもらうしかないだろう。

 それに、もし自分が何かあった時のためにここに残って欲しい。

 クーナとヘルカートならうまく動いてくれそうだ。


「そんなクロキ……。それなら、こいつらを連れて行ってくれ」


 そう言ってクーナは道化とティベルを見る。


「えっ?何で?」


 疑問に思う。

 人形である道化はともかくティベルには危険すぎるだろう。


「道化は何かあった時にクロキの身代わりになってくれる。そして、ティベルは隠密能力が高い。クロキの助けになるはずだ」

「えっ?でも……」


 ティベルには危険すぎるので断ろうとする。

 しかし、それをヘルカートが遮る。


「連れて行くんだね。暗黒騎士。ゲロゲロ。こいつらは役に立つよ、白銀に心配をさせるつもりかえ?」


 ヘルカートが不気味に笑う。

 何か含む所があるみたいだ。


「わかりました。ヘルカート殿」


 ルーガスに匹敵する頭脳を持つ大魔女の言葉だ、従うしか無いだろう。

 それに、クーナに心配をかけるなと言われて聞かないわけにはいかなかった。


「閣下。ただ今戻りました」


 クーナ達と話をしている時だった、飛竜ワイバーンで偵察に出ていたグゥノ達が戻ってくる。

 デイモン族の女騎士である彼女達も、今回は同行している。

 本当は自分とグロリアスだけで行く予定だった。

 しかし、モデスがそれは危険だと言って、結局大勢で行く事になった。

 ジプシールの時は来なかったクーナも今回は同行している。

 常に一緒にいる道化の人形と闇小妖精ダークフェアリーのティベルもいる。

 この両者がいるので、甲板はとても賑やかだ。


「お疲れ様。グゥノ卿。何かあったかい?」


 聞くとグゥノは顔を曇らせる。


「それが、閣下。ルヴァニアの周囲には天使達がいます。このまま進めば発見されます」

「天使が?」


 そう言えばエリオスの連中は、ザルキシスがモードガルに戻った事を知っているのだった。

 ヘイボス神の言葉を思い出す。

 ならば、彼らがルヴァニア周辺にいてもおかしく無い。

 だけど、問題はそこではない。

 空船の真上から敵意を感じる。

 グゥノ達は付けられていたようだ。


「はああああああ!」


 何者かが頭上から突っ込んで来る。

 自分は魔剣を引き抜き、飛び上がる。

 ガキン!

 空中で剣と剣がぶつかる。

 その時、突っ込んで来た者を確認する。

 自分と違い兜はしていない、燃えるような赤い髪の天使だ。

 赤い髪の天使は自分の剣に弾かれるように飛び、回転すると空船から距離を取る。

 自分はそのままクーナの横へと降りる。


「再び会ったな暗黒騎士! この間の借りを返してやる!」


 赤い髪の天使は怒鳴ると、その体から炎を吹き出す。


「前に会った事が有ったかな?」


 はっきり言って目の前の天使の事は知らない。

 初対面のはずだ。


「覚えてないだと! 貴様があの美しいレーナ様の地上の神殿を襲った帰り道、俺達はお前と戦っただろうが!」


 赤い髪の天使が悔しそうに言う。

 レーナの地上の神殿といえば聖レナリア共和国の神殿の事だろう。そういえば、あの時の帰り道。天使達に遭遇して戦った覚えがある。

 この赤い髪の天使はその中にいたのだろう。

 良く見ると、はるか先の方から天使とペガサスに乗った騎士の大群が近づいているのがわかる。

 そして、その中には奴もいる。

 少しまずい状況だ。


「俺の名はアータル! 白麗の聖騎士アルフォス様の右腕にして、聖騎士団の副長だ! 暗黒騎士! 俺と戦ってもらうぞ!」


 アータルと名乗った天使が叫ぶ。

 しかし、この天使とは戦いたく無い。

 なぜなら、この先ザルキシスを相手にしなければならないのだ。

 天使達と争っている場合では無い。

 この目の前の天使だって、ザルキシスに対応するために来ているはずだ。

 自分達と戦っている場合では無いはずだろう。

 しかし、アータルの様子を見る限り、争う気まんまんだ。

 溜息が出そうになる。


「待ちたまえ! アータル!」


 追いついた奴がアータルを止める。

 白い竜に乗った奴に会うのは2度目である。


「止めないで下さいアルフォス様!」


 アータルが振り返らずに答える。

 アルフォスもこの地に来ていた。

 まあ、ザルキシスに対抗できそうな、エリオスの神はこいつだけだと思うので当然とも言える。


「君では勝てない! アータル! 彼は水晶庭園の中で僕と互角に戦ったのだよ! そんな相手に戦いを挑むつもりかい?」


 アルフォスがそう言うとアータルが驚く顔をする。

 そして、横でクーナが不満そうに「互角?」と呟くのが聞こえる。


「馬鹿な? アルフォス様の水晶庭園の中で互角に戦える者がいるなんて……。何か卑怯な手を使ったのでは無いのか、信じられない」


 アータルから戦意が無くなるのを感じる。

 ほっとする。

 これで天使達と争わなくても良さそうだ。

 それにアルフォスは自分と戦うつもりは無いようだ。

 これならば、ザルキシスに専念できる。


「そう言う事だよアータル。それにザルキシスもいる。ここで彼らと争う暇は無いよ。引きたまえ」

「はい、わかりましたアルフォス様。しかし、これだけは見せておきます」


 そう言うとアータルは自らの髪の毛を取る。

 出て来たのは禿げ頭だ。


「えっ? ヅラだったの!?」


 正直驚いた。アータルの赤い髪は偽物だった。

 しかし、それを見せる理由は分からない。

 アータルの頭はキラリと光る。


「ふふふ。驚いたか暗黒騎士! そして知っているか? 光の勇者が元いた世界では失敗して反省する時に、髪の毛を全て剃り落す事を! これはお前に負けた決意の表明だ! 思い知れ!」


 アータルがドヤッっと笑いながら言う。

 いや、本当に驚いた。


「さて、暗黒騎士。また会ったね。どうやら君達もザルキシスが気になるようだね。だから、ここは休戦と行こうじゃないか? どうかな?」

「アルフォス様!」


 アルフォスが提案するとアータルが抗議する。

 しかし、アルフォスは首を振る。


「ザルキシスは危険だよ。アータル。暗黒騎士がザルキシスと戦ってくれるのなら、願ったりじゃないか」


 アルフォスは笑う。

 自分とザルキシスを潰し合わせるつもりか?

 しかし、それでもアルフォス達と戦わずに済むのなら、良しと考えるべきかもしれない。


「わかった。その申し出を受けるよ。互いに手を出さない。それで良いかな」

「ああ、もちろんだとも暗黒騎士。アータルも良いね。これは命令だよ」

「……ぐっ。わかりましたアルフォス様」


 アータルは不満そうだが、渋々了承する。


「さあ、みんな行こうじゃないか」


 アルフォスがそう言うとアータルを含む天使達が撤退していく。


「まあ、何にせよ。奴らと争わなくて良いのなら助かるね。ゲロゲロ」

「はい、ヘルカート殿」


 自分とヘルカートは頷く。


「申し訳ございません。閣下。付けられていたようです」


 アルフォス達が去るとグゥノがそう言って頭を下げる。


「仕方が無いよ、天使達がいる以上は避けては通れない」


 そう言って、グゥノに頭を上げるように促す。


「何だか、暑苦しい奴だったな」


 アータルのキラリと光る禿げ頭を見ながら、クーナが呟くのだった。





◆少年ジュシオ


 僕達は森の中を急いで走る。


「足が痛いよ、姉さん」


 足が痛い、先ほどから走ってばかりだ。

 その事を訴えるが、姉のアンジュは聞いてくれない。


「駄目よジュシオ! 早く逃げないと奴らが来るわ!」


 そう言って姉さんは僕の腕を取り無理やり走らせる。

 僕達の住んでいた国は死の地であるルヴァニアに近い。

 そのルヴァニアの地から、死の軍勢が出てきて僕らの国へ向かって来た。

 数は多く、国の大人達が全員で守ってもどうしようもない程だった。

 そこでみんなで国を捨てて逃げる事にしたのだ。

 だけど、死の軍勢の足は速く、追いつかれ仲間達は散り散りになってしまった。

 そんな中、姉さんと僕は2人だけで逃げる。

 僕達は2人だけの家族だった。

 親は知らない。物心つく頃には姉さんと2人だけだった。

 生活は苦しかったけど、姉さんは僕に優しく。

 2人で頑張って生きてきた。


「ああっ!」


 足がもつれて転ぶ。

 すごく痛い。

 もう一歩も動けそうになかった。


「ジュシオ! 大丈夫!」


 姉さんが僕の側に膝まづく。

 見上げると姉さんが心配そうに見ている。

 表情から姉さんもきついみたいだ。


「ごめん、姉さん……。もう走れない」


 僕は泣き言を言う。


「駄目よジュシオ! お願いだから立って!」


 姉の目に涙が見える。

 その声は震えている。姉も泣いているみたいだ。


「あら? 鬼ごっこはもう終わりなのかしら?」


 突然横から声がする。

 振り向くとそこには血のような、真っ赤な服を着た女の人が立っていた。

 その女性はとても綺麗で、肌はとても白かった。まるで、幻のようである。

 先ほどまで近くには誰もいなかったはずだ。

 どうして、今まで気づかなかったのだろう。


「けけっ! おいしそうな子供ですね。ザファラーダ姫様。指の一本だけでもあっしに下さいよ」


 また別の場所から声がする。今度はもっと近く、地面の方だ。

 そして、声を発した者を見て、叫びそうになってしまう。

 そこにいたのは大きな鼠だ。

 ただし、その鼠の顔は人間のようにも見えた。

 鼠はいらやらしく笑っている。

 それを見て体が震える。

 こんな化け物鼠を連れているのだ。この赤い服の女性は人間では無いのかもしれない。


「そうねえ、どうしようかしらねえ? ブラグ?」


 ザファラーダと呼ばれた女性が口を開く、その時に見てしまう。

 口の中にある無数の牙を、それを見て、心の中から恐怖が沸き上がって来る。


「ジュシオ! 逃げるよ!」


 姉さんが僕を無理やり起こす。

 しかし、一歩も動く事が出来ずに転ぶ。


「ごめんなさい姉さん。もう動けない……。僕を置いて逃げて」

「ジュシオ……」


 姉さんは泣きそうな顔をする。


「残念。もう逃げられないわね」


 ザファラーダが近づいて来る。


「お願い。弟は見逃して……」


 姉さんが泣きながら懇願する。

 それを聞いたザファラーダが笑う。


「あら、美しいわね、うん?」


 ザファラーダが僕の顔をまじまじと見る。


「どうしたのですかい? 姫様?」

「ふふ、とんだ拾い物だわ。この子、少し混じっているわ。いいわ、弟は助けてあげる、でも貴方は駄目」

「えっ?」


 姉さんの驚く声。

 空中に浮かび上がると、姉さんの体はザファラーダへと引っ張られる。


「ふふ、それじゃあ貴方の血を頂くわね」


 ザファラーダが大きく口を開く。

 耳まで裂けた口の中には無数の牙が生えている。

 それが、姉さんの首へと突き立てられる。

 それからはあっという間だった。

 目の前で姉さんの体が次第に細く、干からびていく。


「ああ……。姉さん」


 僕は何も出来ずに、見ているしかなかった。




◆吸血鬼伯ジュシオ


 棺の中で私は目を覚ます。

 吸血鬼ヴァンパイアになる何十年も前の夢だ。

 どれだけ時間が経過しても、私の心を締め付ける。

 棺から起きる。

 周囲は暗い。

 昔は暗い場所が怖かった。姉さんが手を繋いでくれないと眠れない程だった。

 しかし、死の眷属となった今の私には心地良く感じる。

 柩があるのは窓の無い、城の最上階だ。

 城主である私が目覚めた事で城の中の幽霊ゴーストの侍女達が騒ぎ出す。

 幽霊ゴースト魔法の手(マジックハンド)と同じ能力を持ち、実体が無くても物を運べて、掃除等をする事ができる。

 中には狂って騒霊ポルターガイストとなる、幽霊ゴーストもいると聞く。

 幽霊ゴーストの侍女に服を用意させて着替えた後、城を歩く。


「ようやくお目覚めかよ? ジュシオ……、領主様よう」


 私の配下となったブラグが悪態をつく。


「何か用か? ブラグ?」

「何かじゃないぜ! 偉大なる死の王の復活を祝うために、モードガルに呼ばれているのだろうが! 早く支度しねえか!」


 ブラグの言う通り、モードガルに行かなければならない。

 そうでなければ我らが姫が不機嫌になるだろう。


「全く何で後から来たお前が領主様なんだよ!」


 ブラグが不満そうに言う。

 ブラグも元は私と同じように人間だった。

 自らの仲間と家族を神に売渡し、不死を願い、望み通り不死を得た。

 しかし、彼の望んだものでは無かった。

 吸血鬼では無く、薄汚い人面の鼠。

 それに対して、私は領地カウンティを持つ、吸血鬼伯ヴァンパイアカウントだ。

 ルヴァニアの一地方であるサンショスの領地には餌となる人間共が飼育されている。

 私はその人間達を管理して、支配している。

 後から来た者が貴族ノーブルとなった事にブラグは不満を隠さない。

 しかし、そんな事を言われても、仕方が無い。


「ブラグ。それは姫様の決定に逆らうと言う事か?」


 そう言うとブラグは悔しそうに唸る。


「ぐっ! そんなつもりはねえよ!」

「そうか、ならば良いよ」


 さて、モードガルに行かなければいけないだろう。

 私は急ぎ支度をするのだった。



土曜日が用事でつぶれてしまい。執筆出来ず。今日中に更新できるか不安でした。

ジュシオの過去話の表現は少し足りない。でも今は加筆する気力が……。

伯以外の爵位については出すかどうか未定です。


もしかすると、この先忙しくなり、更新が厳しくなるかもしれません。

週一でも遅いと言われているのに……( ;∀;)

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