レーナとの会談、そして
◆レーナと会談するチユキ
「お久しぶりですね、女神レーナ」
「お久しぶりですね、チユキ」
レーナに会うのは久しぶりだ。
前回に会ったのは3週間前だったような気がする。
神殿の一室、今この場には私とレーナしかいない。
なぜならレイジがいたら、レーナの思いどおりになってしまうからだ。
レイジは渋ったが、なんとか説得した。
また、レイジだけを除け者にするわけにもいかないから他のみんなにも退席してもらった。
「今日は何の用でしょう、チユキ」
レーナを見る。
光輝く髪に美しい顔、そしてその豊かな胸はサホコよりも大きいだろう。その美しさはレイジでなくても男なら言う事を聞いてしまうに違いない。
「はい。今日は確認したい事があってお呼びしました」
本当はエリオスにあるこの女神の住居に直接行って聞きたかった。
しかし、神王オーディスの許可がおりないと入れないらしい。用事があるときはこちらから、レーナに来てもらうしかなかった。
レイジはそんな事を気にせずエリオスに入ろうとしたが、この女神が前かがみで胸を強調するようにお願いするとレイジも入るのをあきらめた。
「まず、なぜエリオスの神々は魔王を放置しているのでしょか?」
私はまず一つ目の疑問を言う。
「別に放置しているわけではないのですが……。神々にも事情があるのですよ」
レーナが申し訳なさそうに言う。
「その事情とやらを聴かせてもらえますか?」
「ごめんなさいチユキ。それは、言えないの……」
レーナの態度から教えてくれる気はなさそうだ。
「そうですか……」
「聞きたい事はそれだけですか?」
もちろんそれだけではない。
「いえ、聞かねばならない重要な事が一件あります」
「重要な事?それはなんでしょう」
私は一息ついて、口を開く。
「女神レーナ。私達以外にも召喚された者がいますね?」
その言葉を聞いたときだった。レーナの顔が険しくなる。
「気付いたのねチユキ、あなたの想像通りよ……」
レーナの言葉に、想像はしていたが驚く。
「やはり、そうなのですね……」
「そうですチユキ。私もその事を知ったのはつい5日前です」
5日前?知った?
レーナが召喚したのではないのだろうか?
「女神レーナ、あなたが召喚したのではないのですか?」
「えっ、私が? 何故?」
レーナの反応で確信する。召喚したのはレーナではない。
レーナ以外に召喚した者がいる。
レーナからあまり召喚について詳しく聞かなかったが、他に召喚できる者がいても不思議ではない。
だとすればレーナにこの件をこれ以上聞く必要はないだろう。
「すみません女神レーナ。少し疑ってしまったようです」
「?」
レーナは不思議そうな顔をする。
疑われるとは思っていなかったのだろうか?
さて、今度は違う話をしよう。
「話を変えましょう、次の話ですが要求したい事があります」
「要求……ですか?」
「私とシロネを元の世界に戻してください」
そう言うとレーナが困った顔をする。
本当は全員で帰るべきだろう。しかし、レイジはレーナから一度引き受けた事を絶対に投げ出したりしない。
だが、もう半年以上もたっている。いいかげん帰らなくてはならない。
そこで話し合った結果、私とシロネが帰る事にしたのである。
そして、みんなの家族に私達の無事を伝える。
「もう、魔王討伐に協力してはくれないのですか?」
レーナが目をうるませて言う。
「もう半年です。これ以上この世界にいる事はできません」
「そこをなんとかなりませんか?」
レーナの懇願する瞳。レイジなら言う事をきくだろう。
だが、私にはそんな瞳は効かない。
そして、私はある事を思いつく。
「わかりました」
「わかっていただけましたか」
レーナが笑う。まるで花が咲いたようだ。
「よくよく考えたら、召喚術を使える者は他にもいるのでしたね」
私が思いついた事を言うと。
レーナの顔が先ほどの顔よりもさらに険しくなる。
「チユキ、それはどういう意味でしょう?」
「要求を聞いてもらえないなら。その者の所に行くだけです」
私がそう言うとレーナの顔が怖くなる。
それはレーナが今まで見せた事のない顔だった。
私の背筋が冷たくなる。
「チユキ! それはあなた達、全員の考えですか?」
レーナの迫力に押されそうになる。
そんなに帰って欲しくないのだろうか?
「いっ、いえ。私ぐらいです、考えているのは……」
実際に元の世界に帰ろうと言っているのは私だけだ。あとは、シロネが少し帰りたそうにしているだけだ。
私がそう言うとレーナの顔が戻る。レーナの迫力がなくなり私はほっとした。
「わかりましたチユキ。あなたには帰ってもらったほうが良さそうですね」
そう言ってレーナは笑うのだった。
◆暗黒騎士クロキ
あれから丸2日が経った。
よくよく考えたら無理があったのだ。
自分の事を知られずに勇者達の状況を知るのは、自分の能力では無理があったのだ。
そのくせ、へたに動いて警戒されてちゃ意味がない。
ナットの話では特に勇者達に動きはないそうだ。
だが念のため城壁内には入らずに小屋に待機だ。
情報収集はナットにまかせきりだ。
なんのためにここまで来たのだろうと思う。
結局ナットに全て話す事にした。
全て話すと、
「なんと勇者はディハルト様の恋敵でヤンしたか」
などと言っていた。
少し何か誤解しているようだ。そもそも、敵になれていないというのに……。
また、
「確かに魔王陛下が召喚された方でヤンス」
と言って何かよくわからない納得のされかたもした。
そして、
「このナットにまかせてくだせえでヤンス」
と言ってくれた。
何がなんだかよくわからない。
だが、これで自分が知りたい情報を持ってきてくれるかもしれない。
そのナットは神殿に様子を見に行っている。
なんでも神殿の神官の話から、女神レーナが神殿に降臨するとの事だ。
レイジ達を召喚した張本人が降臨する。何か重大な事があったのかもしれない。
「ディハルト様~ただいま戻りやしたでヤンス」
ナットが戻ってきた。
「女神レーナが何のために降臨したのか分かったかい?」
ナットは首を振る。
「ディハルト様がおっしゃっていた、チユキって奴と話し込んでいたようでヤンスが、その部屋は警備が厳重で聞く事ができなかったでヤンス」
さすがに女神の周辺は警備が厳重なのだろう。さすがのナットも情報を集められなかったようだ。
「そうか、しかたがないよ……。ありがとうナット」
「ただ……気になる情報があるでヤンス」
「気になる情報?」
「へえ、どうやらディハルト様の想い人であるシロネはんが元の世界に帰るらしいんでヤンス」
「……はい?」
自分は間抜けな声を出す。
「帰るんは、チユキって奴とシロネはんの2人だけのようでヤンスが……」
確かに気になる情報だ。
「確か帰還する術はエリオス側にはなかったのでは?」
「確かそのはずでヤンスが……」
モデスがないと思ってるだけで、実はエリオスには帰還術があるのでは?
「本当は帰還術はあるのでは……?」
「ディハルト様! ヘイボス様はそんな事をされる方じゃないでヤンス!!」
ナットの強い口調。
技工の神ヘイボス。モデスの友人と聞いている。
そして、ヘイボスは情報の出し惜しみをするような者ではないとナットは言う。
しかし、今の召喚術では帰る事はまず無理。最悪、時空の漂流者になる事もあるという。
しかし、シロネは元の世界に帰ると言う。
そして、ナットは帰還のための術はないと言う。
情報が矛盾している。
レーナは今の召喚術では帰れない事を知らないのかもしれない。
しかし、もし知っててシロネを帰すのだとしたら?
だが、どちらにせよシロネが危ない。
「確かレーナが召喚術を行うのだよね?」
「へい」
「レーナは今神殿にいるのだよね?」
「へい」
レーナに直接会って確認を取らねばならない。
「ナット。神殿に侵入するよ」
次は戦闘回です。