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暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第7章 砂漠の獣神
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不毛の地の予感

◆暗黒騎士クロキ


 目の前で蛇の女王達が撤退していく。

 だけど勝った気はしない。

 むしろ、戦っていたらどうなっていたのかわからない。

 特に蛇の女王が呼び出した杯からは何か嫌な気配を感じた。

 あれは何だったのだろう?

 疑問に思うが、今は考えても答えは出ないだろう。

 とにかく蛇の女王との戦いは避けられた。

 自分はレーナやトトナの方を向く。

 空の向こうから空船が近づく。

 レーナが乗っていた空船だろう。今頃たどりついたようだ。

 そして、レイジがただ一人、こちらに歩いて来るのが見える。

 ずっと自分の背中に視線を感じていた。

 だから、何となくこうなるような感じはしていた。


「勝負しろ!暗黒騎士!」


 レイジが2本の剣を構えて自分を睨む。


「待ちなさい!光の勇者!」

「ちょっと!レイジ君!」


 慌ててトトナとチユキがこちらに来ようとするのが見える。

 もっともすぐにレーナによって阻まれる。


「どういうつもり、レーナ?!」

「止めないで!彼はシロネさんの幼馴染よ!殺し合いをさせるわけにはいかないの!」


 2人の叫び声。

 かなり怒っているようだ。


「大丈夫だから、落ち着きなさい。誰も傷つかないわよ。だから大人しく見ていなさい」


 静かな声。だけどその声ははっきり聞こえる。

 レーナの視線がこちらを向く、レイジは背を向けているからその視線には気付かないだろう。

 その目は全てを見透かしているようだ。

 本当に嫌だ。

 変な期待をしないで欲しい。

 獅子の女王セクメトラをはじめとしたジプシールの者達も自分とレイジのただならぬ気配を感じ、静かに見守っている。


「こちらには戦う理由は無いのだけど……」


 そう言って魔剣を構える。

 だけど、背を向けるつもりはない。

 対峙する自分とレイジ。

 頭上にはエクリプスとベンヌが飛んでいる。

 しかし、まだ制御がうまくできない。

 攻撃に使うのは難しい。

 ただ、それはベンヌも同じだろう。

 ベンヌはかなり弱っている。

 こちらに向かってくるとは思えない。

 だから、レイジとの戦いは互いに上位精霊抜きで行われる事になる。


「そうか、悪いな。だけど、ここで戦っておかないと、俺がまずいんだ」


 レイジの不敵な笑み。

 だけど、その笑みは前に見た時とちょっと違う気がする。

 そもそも何がまずいんだ?

 もしかして自分を怖がっている?

 いや、無いか……。レイジに限ってまさかね。


「行くぞ!」


 レイジがこちらに向かって来る。

 その動きは光の矢のごとし。

 自分が静なら、レイジは動だ。

 レイジが先に動くのは予想の範囲内である。

 2本の剣が襲ってくる。

 1本を弾くと返す刃で2本目を弾く。

 剣を弾かれたレイジは態勢を崩す事無く回転して、さらに剣を繰り出す。

 以前よりも斬撃が鋭くなっているような気がする。

 しかし、それでもまだ当初の予想よりも鈍い。

 対処は可能だ。

 レイジの怒涛の攻撃を全て剣で防ぐ。

 そして、レイジが放つ右の斬撃を弾いた時だった。

 レイジは回転して自分の後ろに回る。

 後ろに回ったレイジの剣を、振り向かずに剣を後ろに回して防ぐ。

 そして、そのまま右足を軸に腰と肩を回してレイジを弾き飛ばす。


「何の!」


 レイジはその力に逆らうことなく回転して砂の上に足をつく。

 相変わらず身体能力が高い。

 すかさず、レイジは2本の剣を巧みに使い攻撃する。

 その動きは踊っているようだ。

 レイジの華麗な動きにセクメトラに付いて来たスフィンクスにイシュティアの猫人の侍女、レーナの戦乙女から歓声が上がる。

 羨ましくないもんね!と自分は言い聞かせる。

 それに前にアルフォスと戦った時はもっと酷かった。

 あの時の女性達は今でも自分を嫌っているだろう。

 本当にこいつら(イケメン共)とは戦い難い。

 再びレイジと剣を合わせる。

 そして、何度か剣を合わせた時だった。突然レイジが後ろに跳ぶ。

 魔法の気配。

 剣で自分を倒す事を諦めたのだろうか?


光弾ライトバレッド!」


 レイジの周りに数十個の光の球が浮かぶとこちらに向かって来る。


闇弾ダークバレッド!」


 剣で弾く事も出来たが、魔法で迎撃することにする。

 同じ数だけ闇のエネルギーを持った球を作り出すと、光の球へとぶつける。

 空中でぶつかる光の球と闇の球。

 光のエネルギーと闇のエネルギーが衝突して、魔力の波動を周囲にまき散らす。


「え?」


 少しだけ驚く。

 光弾と闇弾が行きかう中をレイジが突っ込んできたのだ。

 おそらく光弾を放つと同時に動いたのだろう。

 大胆な事をする。

 下手をすると自らが作り出した光弾で傷つくかもしれないのにだ。


「獲った!閃光列破!」


 レイジの奇襲による光速の剣。

 だけど、この程度ではやられない。

 何をするのかはわからなくても、何かをしてくるのはわかっていたのだから。


「幻影残像!」


 魔法の影を纏い、体を揺らすよう歩行する。

 一歩前に出るごとに幻影が自分の後を追いかける。

 光速の剣の全てをすり抜け、レイジの後ろへと移動する。

 何が起きたのかわからなかったのだろう。通り過ぎる時にレイジが驚く顔をしていた。

 レイジが振り向くのを待ってから、思いっきり力を込めて剣を振るう。

 予測通りレイジは2本の剣で受け、そのまま後ろに飛ばされる。

 飛ばされたレイジは倒れることなく砂に足跡を残しながら踏ん張る。

 倒れなかった?

 少し手加減しすぎたかもしれない。

 剣を構える。

 しかし、レイジが来る気配は無かった。


「終わり?」

「ああ、ここまでだ……」


 一時の静寂の後、レイジは首を振ると剣をしまう。

 それを見てようやく安堵する。

 気が済んだようだ。

 頭上のベンヌが消えている。おそらく帰還したのだろう。

 これで、こちらもエクリプスを帰還させる事ができる。

 周囲がとても静かだ。


「トトナ!約束は果たした!自分は帰らせてもらう!」


 トトナの方を見ると大声で叫ぶ。

 ジプシールでの自分の役割は終わった。

 だから、これ以上はここにいる必要は無い。

 クーナの所に帰らなければいけない。

 トトナが残念そうな顔をしている。

 だけど、聡明なトトナならわかってくれるだろう。

 自分は帰還の魔法を使う事にする。

 ジプシールの結界はここまで及んでいないはずだ、すぐに戻れるだろう。

 空間が揺らぐと御菓子の城の王の私室であった。

 クーナがベッドに腰掛けて自分を出迎えてくれる。

 とても嬉しそうだ。

 クーナが嬉しくなると自分も嬉しい。


「ただいまクーナ」

「おかえりクロキ」


 自分は鎧を脱ぐとベッドへと倒れこむ。

 疲れた。

 特にエクリプスは大変だった。

 元々精霊とは相性が悪い。それを力づくで言う事を聞かせたのだ。

 疲れもする。


「ごめんねクーナ。少し休ませて……」

「ああ、わかったぞクロキ。クーナの膝の上に来ると良いぞ」


 クーナが膝枕をしてくれる。

 クーナの膝に頭を乗せると、とても安らぐ。

 そのまま意識が遠くなり闇の中へと落ちて行った。







◆黒髪の賢者チユキ


 レイジが暗黒騎士である彼との戦いを終えて帰って来る。


「ちょっとレイジ君!どういうつもり?!彼はシロネさんを助けるために来てくれたのよ!」


 なぜ、彼がここにいるのか?

 それはシロネさんを救うために決まっている。

 以前レーナは私達を助けるために彼と手を組んだ。

 今回はトトナと手を組んでも可笑しく無い。

 実の兄を救うためなのでトトナとも利害が一致するはずだ。

 どちらから同盟を持ちかけたのかはわからない。

 だけど、そんな事はどうでも良い。

 彼のおかげで蠍神の毒は手に入れたのだ。これでシロネさんは助かるだろう。

 その彼と手を組む理由が無くなったからと言って、すぐに戦う必要はないはずである。


「すまないなチユキ。だけど、奴とはもう一度戦っておかなければならないんだ」


 レイジがフッと笑う。

 意味ありげな笑い。どういう意味だろう?


「気は済んだのかしらレイジ?」


 レーナもまたレイジを出迎える。

 横にはぶすっとした表情のトトナがいる。

 これまでの様子から見る限り、彼女はレーナと仲が悪そうに見える。

 レーナと一緒にいたくないのかもしれない。


「ああ、レーナ。すまない、心配をかけた」


 レイジがレーナに謝る。

 レーナはレイジが心配で駆け付けたのだ。

 逆に言えば信頼されていないのかもしれない。


「光の勇者にレーナ!」


 声がした方を見るとセクメトラが近づいて来る。

 横にはハルセスとネルがいる。

 ハルセスもネルも大人しい。

 どちらもセクメトラがいる時はこんな感じのようだ。


「初めてお目にかかります。獅子の女王」


 レーナが礼をする。


「噂通りの美貌じゃな。ハルセスが夢中になるわけじゃのう。イシュティア。お主を越えておるのではないか?」


 セクメトラが言うとイシュティアの雰囲気が変わる。

 顔は笑っているが、内心はどうかわからない。


「ふふふ、どういう意味かしらセクメトラ?」


 両者の間に緊張が走る。

 美しさでは誰にも譲る気がないのが目に見えてわかる。

 ハルセスとネルが目に見えて怯えた表情をしているのが可哀そうだ。


「いえ、獅子の女王。私ではまだまだイシュティア様の美貌に敵いません」


 レーナがやんわりと仲裁に入る。

 レーナが仲裁に入った事でイシュティアの雰囲気が穏やかになる。


「そうか、奥ゆかしいなレーナ。まあ、そう言う事にしておこう。さてトトナよ。まさか、あの奇妙な者が暗黒騎士じゃったとはな。ネルよ、お前は知っていたのか?」

「ごめんにゃあ……。お母様」


 ネルがしゅんと小さくなる。


「申し訳ございません。セクメトラ様。騙すような事をしてしまいまして。私が秘密にして欲しいと頼んだのです。ネルは何も悪く無いのです」


 トトナが頭を下げる。

 正直私も騙された。

 まさか、あんな変な格好をして側にいるとは誰が思うだろうか?


「ふむ、別に怒ってはおらぬ。ネルもトトナも気にするでない。それに最後に面白いものも見れたしの……。全くモデスもとんだ化け物を抱え込んだものよ」


 セクメトラが楽しそうに笑う。


「暗黒騎士が化け物ですか?しかし、先ほどの戦いを見る限り、勇者の攻撃に最後の一撃を除き、手も足も出なかったように思えますが」


 ハルセスが言うと周りのスフィンクスや猫人の侍女達が頷く。

 確かに視た感じ、暗黒騎士の彼はレイジの攻撃にほとんど防戦一方だったように感じる。

 しかし、それは違うような気がする。


「たわけ!」


 セクメトラがハルセスの頭を叩く。


「何を?叔母上?」


 頭を押さえたハルセスが驚く顔でセクメトラを見る。


「どこを見ておる!暗黒騎士が光の勇者に対して、防戦一方だったわけがないぞえ!4回じゃ!4回!そうじゃろう勇者よ?!」


 セクメトラの問いにレイジは首を振る。


「いや、違うぜ、獅子の女王。5回だ」

「ほう?!5回とな?!ひとつ見逃したか」


 レイジの言葉にセクメトラが驚く。

 4回とか、5回とか、どう言う意味だろう?


「ねえ、レイジ君。4回とか、5回ってどう言う意味なの?」


 私が聞くとレイジは答えにくそうだ。


「それはねチユキ。本来ならレイジが斬られていた回数よ。ちなみに私は3回と思っていたわ」


 代わりに答えてくれたのはイシュティアだ。

 レイジを見ると特に否定はしない。つまり、本当だと言う事だ。

 その事実に驚く。


「つまり、向こうは全く本気では無く、手加減してくれたって事?どうなのレイジ君?」

「ああ、イシュティアの言うとおりだ。奴は全く本気じゃなかった。殺す気だったら俺は死んでいただろうな」


 レイジが悔しそうに言う。

 私には全くわからなかった。


「わかったかハルセス。少しは目を養え。帰ったら修業じゃ」

「ひいいいいいいいい!!」


 ハルセスの悲痛なる叫び。


「さて、皆の者。帰るとするかのう?ところでイシュティアよ。ピラミッドは取り戻す事は出来なかったとはいえ、破壊は出来た。祝宴をするが付き合うかの?」

「もちろん私は付き合うわ。レーナちゃんとトトナちゃん。それにレイジはどうする?」


 イシュティアが聞くとレーナは首を振る。


「私は解毒剤を作らねばなりませんのでエリオスに戻ります。それにザルキシスが復活した事を報告しなければなりませんので。トトナも良いわね。それから後で色々と聞かせてもらいますからね」


 そう言うレーナの顔が少し怖い。

 

「私は特に話す事は無い。でも、解毒薬を急いで作るのは賛成。黒髪の賢者チユキ。蠍の尾を渡して欲しい」


 トトナはレーナに睨まれているのに全く動じていない。

 レーナの方を見ずに手を差し出す。

 私は蠍の尾を渡す。


「あの……、解毒薬をお願いします」

「わかっている。レーナに渡すから、彼女から受け取って。それではセクメトラ様、私は戻ります。ネル、また会いましょう」

「うむ、また来るが良いトトナ」

「またにゃあ。トトナん」


 トトナが転移魔法で姿を消す。

 彼女とは色々と話をしてみたい。

 何とか仲良くなれないだろうかと考える。


「さて、私も戻るわ。レイジ、また会いましょう。それでは獅子の女王、ごきげんよう」

「ああ、我が夫によろしくな。ザルキシスが復活した今、お主達はこれから大変だろうからな」


 その言葉にレーナは答えない。

 蛇の女王ディアドナと死神ザルキシスはエリオスに恨みがあるみたいだ。

 良く考えたらレーナ達はこれから大変である。もちろん、私達も大変な事になるだろう。

 レーナが戦乙女達と共にここから離れる。


「レイジ君。私達はどうするの?」

「俺達も戻ろう。チユキ。みんな心配しているだろうからな。それに、修業もしないといけない」


 私が聞くとレイジが真剣な顔をして言う。

 前向きなのは良いが、誰に勝つために修業をするのかと思うと頭が痛い。

 だけど、レイジが努力するのは良い事だ。

 ザルキシスの事を思い出す。

 あの邪神は危険だ。

 ロクスの地下で初めて会った時、とても怖かった。

 レイジには強くなってもらいたい。

 これから、大変な事になるような気がする。

 私はその事に身震いする。

 奴がいたこの地にはあまり居たく無い。

 レイジの言う通り、早く戻ろう。

 みんなも心配している。

 これでジプシールともお別れだ。

 そう思い私は風の舞う砂漠の地を見るのだった。



さて、これで第七章はジプシールは編は実質終わりです。

次回はエピローグ。


実はジプシール編はもっと長くしたかったりします。

今章は他の章と違って、一般人目線が無かったりします。

古代エジプトの文献を調べて、ジプシールの風俗とか色々と考えていたのですが、ほとんど出せないまま終了です ( ;∀;)

他の地域も色々と考えているのですが、自分の能力不足のせいで、異世界をうまく書けていないのですよ……。

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