変質者の正体
◆勇者の仲間チユキ
「それで相手はどのような男でしたかな?」
ナオがカヤに聞く
黒板には『キョウカ嬢おっぱいモミモミ事件対策本部』と書かれていて頭が痛くなる。
書いたのは当然ナオだ。本人はドラマ中の刑事役のつもりらしい。
「背丈はレイジ様と同じくらい、フード付きの黒いマントで顔を隠しておりました」
カヤがたんたんと答える。
「それじゃ、犯人はレイジさんで決まりだねっ」
リノが手を叩き楽しそうに言う。
「リノ、そりゃないぜ」
レイジがおどけて言う。
そう、そもそもレイジが犯人なわけがない。そんな事はここにいる全員がわかっている。
「そ、そんなお兄様が犯人だったなんて。言ってくだされば揉ませて差し上げたのに……」
前言撤回。
「異議あり、リノちゃん。レイ君は私達と一緒にいたよ。アリバイがあるよ」
サホコが抗議する。まあリノも本気でレイジが犯人と思っているわけではないだろう。
「静粛にみなさん、まだ証人の供述がすべて終わっていません」
ナオがみんなを静かにさせる。
「ではカヤさん、事件の時の状況を説明してもらえますか?」
「はい、お嬢様とパンを買いに行く途中、中央広場を通りすぎた時でした。何者かが私達の後をつけているのに気付いたのは」
カヤの供述にちょっと気になる点がある。
「カヤさん、騎士達はそれに気付かなかったの?」
「はい、どうやらその者は隠形の魔法を使っていたようです」
隠形の魔法は人に気付かれにくくする魔法だ。一定の探知能力がある者には効かない。
また一度認識されると魔法は解けてしまう。
「犯人は魔術師という事ね。これで絞られてくるわね」
魔術師の数は少ない。都市国家に一人いれば良いほうだ。
この都市の規模になればそれなりの数はいるが、調べるのは容易だろう。
「その者は隠形の魔法を使って後ろから私達に近づいてきました。私のすぐ後ろまできたとき私はその者に回し蹴りを放ちました」
「カヤさんの回し蹴りって、それじゃその人死んじゃうんじゃ……」
シロネの言葉にカヤは首をふる。
「その者はそれを躱しました」
「なっ……」
幾人かが息をのむ。
カヤの武術はレイジだって避けきれない時がある。それを避けたのだから只者ではない。
「追撃し、3度目の攻撃をしようとしたときのことでした。私は腕をとられ投げ飛ばされました」
「……」
その言葉に全員が沈黙する、皆驚いた表情をしている。
先ほど聞いた私でも驚く。
カヤの武術の腕前は元の世界でも通用するものだ。
攻撃を避けたどころか、投げ飛ばせるなんて。
レイジでも投げ飛ばすのは無理だろう。
それが、この世界の者にできるなんて。本当に何者なのだろう?
「その後、その者はお嬢様の胸を揉み、そのまま逃げました」
「……」
その言葉に全員が沈黙する。ただし、先ほどと違う理由で。
「ちょっと整理してみよう」
ナオが黒板に書きだす。
1.身長はレイジ先輩と同じくらい。
2.隠形の魔法を使う。
3.カヤさんを投げ飛ばせる。
4.キョウカのおっぱいが好き
「って所かな」
ナオが振り返って言う。
「能力が高い変態か……」
リノがなんとも言えない顔をする。
正直私もなんとも言えない。
「そんな変態にわたくしの胸がねらわれるなんて……」
キョウカが胸を隠して言う。
キョウカの胸はサホコの次に大きい。男が狙うのも無理はない。
「胸が薄い人がうらやましいですわ」
キョウカがリノとナオを見て言う。
「お、おおきければ良いってもんじゃないし!!」
「じ自分はまだ成長の途中っす!!」
リノとナオがふくれっつらになる。
「大丈夫だリノにナオ。俺が何とかする」
何をなんとかするのだろうかわからないが、手つきがいやらしいので殴っておきたい。
「でも、犯人はどんな人なんだろう?」
シロネが言う。
私もそれが気になる。
ナオが上げた項目の1と2に該当する人物ならすぐに見つかる。
だが問題は3だ。カヤを投げ飛ばせる人物なんてレイジを除きこの都市にいるのだろうか?
そして、4で混乱する。
まあ変態の思考なんてわかりたくもないので考えないようにしようと思う。
「とりあえず、明日にでも魔術師協会に行ってみましょうか?該当する人物がいるかもしれない」
私は提案する。とりあえず1と2に該当する人物を探そうと思う。
「そうだな。誰の妹に手を出したか思いしらせてやる必要があるな」
レイジの顔が怖い。
「そうだね、変態はとっちめてやらないと」
リノも賛同する。
皆が解散しようとする。
「お待ちください!!」
全員がカヤを見る。カヤがこんな声を出すのは珍しい。
「どうしたんですかカヤさん」
「気になる事がございます」
その言葉に皆が首をかしげる。
「気になる事?」
カヤは頷く。
「その者が私を投げ飛ばした技は、以前にシロネ様と手合せした時に見せてくれた技と似ていたような気がします」
シロネの家の道場は柔道に似た組打ち術をも教えている。
カヤはその変態がつかった技がそれと一緒だというのだ。
「シロネさん、誰かに技を教えた事がある?」
シロネは首を振る。
「ううん。この世界に来てから、カヤさんに見せたのが最初だよ」
すると今度はカヤが首を振る。
「申し訳ございません、その者の技量はすばらしいものでした。私よりも強いでしょう」
カヤが深刻な表情で言う。
「私よりも上?」
シロネが聞く。
「申し訳ございません……」
カヤが申し訳なさそうに言う。
「ううん、いいの気にしないで、私もあんまり柔術は得意じゃないし」
シロネが笑いながら言う。
「でも同じ技って事はシロネさんと何か関係があるのかな?」
リノが言う。
「たまたま、同じ技がこの世界にあるだけかもよ」
ナオの言葉に私も頷く。
その可能性が一番高い。似たような技がこの世界にあるのかもしれない。
「確かに投げ技には共通点があり、たまたまシロネ様と同じ技を持つ者だったかもしれません。実際に柔術の流派には同じ技をもつ物もあるようです」
カヤもナオの言葉に同意する。
そして、一呼吸すると言葉を続ける。
「ですが、おそらく私共が来た世界の柔術の技だと思います」
カヤの言葉に皆が顔を合わせる
それは爆弾発言だった。
「俺達以外にもこの世界に来た奴がいるって事か」
レイジの言葉にカヤは頷く。
「そう考えれば辻褄があいます」
私はその言葉に思考を巡らせる。
「確かにそれなら全ての謎が解けるわね」
私達と同じ世界の人間なら。カヤの攻撃を避け、なおかつ投げ飛ばせる者も少なからずいるだろう。
当然、私達と同じように魔法を使えても不思議ではない。
「だが、レーナは何も言っていなかった」
レイジの言葉に何人かが頷く。
確かにレーナは私達の他に召喚した者がいるとは言わなかった。こんな重大な事、伝え忘れたではすまされない。
「もしかして、他に召喚できる人がいるのかも……」
その可能性もあるだろう。
「それもふくめてレーナに色々と話を聞いて見る必要があるわね」