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暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第7章 砂漠の獣神
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猫の盾

◆ネコミミ打ち倒す者(メジェド)クロキ


 黒いピラミッドの上空には黒雲が立ち込めていて夜のように暗い。

 メジェドの姿になっている自分はトトナと共に不死の軍団(アンデッドアーミー)を見降ろす。

 砂漠の中で整列された軍団には4万以上の兵士がいるだろう。

 どこから、これほどの軍団が来たのかわからない。

 もしかすると、ほとんどがマミー兵なので、干物にした後で運び、お湯をかけて元に戻したのだろうか?

 もし、そうだったら面白過ぎる。

 ……すごい馬鹿な事を考えてしまった。

 ちょっと反省する。

 マミー兵は槍と盾を持ち整列している。

 かなり貧弱な武装である。

 武器は良いが、マミー兵の全員が鎧を着ていない。

 縞模様の布兜を被っているだけだ。

 さすがにマミーロードのネフェスは金属製の鎧を身に纏っているが、防御の為というよりも装飾品という感じだ。

 おそらくマミーもまたアンデッドなので物理攻撃に強いから、あえて鎧を着ないのかもしれない。

 普通の生物なら死んでしまう攻撃もアンデッドのマミーならば耐える事ができる。

 そのため鎧を着ないのかもしれない。


「変ですな?ハルセス様。蛇の王子の姿が見えませぬ」


 軍神であるイスデスが敵の陣営を見て言う。

 黒いピラミッドの前に敵の軍団が整列している。

 敵の軍勢もまたアンデッドで構成された不死の軍団(アンデッドアーミー)だ。

 マミーはいない。

 その大部分はマミー兵よりもはるかに劣るスケルトンの兵士だ。

 数の上ではほぼ互角だが、マミー兵の歩兵や戦車チャリオッツ部隊の敵では無い。

 ただし、幽鬼の騎士(スペクターナイト)死霊レイス幽霊ゴースト等は物理攻撃が効かないのでマミー兵では倒す事ができない。

 アンデッドにも関わらず光の魔法を使う事ができるマミーの光の司祭(ライトプリースト)なら死霊レイス幽霊ゴーストには勝てるが、幽鬼の騎士(スペクターナイト)を倒す事は難しい。

 しかし、こちらにはレイジがいる。

 幽鬼の騎士(スペクターナイト)の数がどんなに多くても簡単に倒してしまうだろう。

 蛇の王子がいなければ太刀打ちできないはずだ。

 別に問題は無い。


「いないのではないか?イスデスよ。それなら好都合ではないか。突撃するぞ!!」


 ハルセスがそう言った時だった。

 黒いピラミッドから淡い光が上空に発せられる。

 上空に上った光が徐々に形を取り、最終的に人の形を取る。

 その者は赤い髪に病的な白い肌をした女性である。

 過去に一度だけ会っている。


「腐敗と疫病の女神ザファラーダ!!死神の愛娘まなむすめ!!」


 ハルセスが叫ぶ。

 腐敗と疫病の女神ザファラーダ。

 別名黒死病の女神。

 この世界の病気は自分が元いた世界の病気とは違い、魔法的な要素が含まれている。

 そのため同じ病名であっても、自分が知っている病気とは違う事がある。

 また、この世界では魔女が疫病を流行らせるというのは迷信ではなく、本当の事である。

 魔女を退治したら疫病が収まったというのはよくある話だ。

 このように疫病は何者かの意思により引き起こされる事があり、そして黒死病を生み出したのがザファラーダである。

 彼女はこの病を世界に放ち、エリオスの神々の眷属である人間の多くを死に至らしめた。

 そのザファラーダの巨大な映像が空中に映し出されている。

 映像のザファラーダが優雅にお辞儀をする。


「よく来たわね。愚かなるジプシールの者達。御父様のためにピラミッドを作ってくださって、お礼を……」


「神威の光砲!!!」


 ザファラーダが言い終える前に、レイジが魔法を放つ。

 光の奔流が黒いピラミッドを襲う。

 数秒の後、光が消える。

 しかし、黒いピラミッドは全く壊れていない。

 どうやら、魔法に対する防御力がかなり高いようだ。


「ちょっとレイジ君!!」


「何言っているんだチユキ?最後まで聞く必要はないだろ?」


 レイジの隣のチユキが驚く。

 その場にいた全員が驚いている。

 当然自分もだ。

 いきなり攻撃するとはさすがレイジさんやで~。と心の中であきれる。


「くっ!!光の勇者は話を聞かない人間なのですか?!!」


 挨拶の途中で攻撃を受けたザファラーダも驚いている。


「まあ!!良いですわ!!これを見ても攻撃が出来るかしら!!出て来なさい私の新しい眷属達よ!!」


 気を取り直したザファラーダが言うと、黒いピラミッドから何か小さい生物がたくさん出てくる。


「あれは鼠人ラットマン?」


 チユキの言う通り、出てきたのは鼠人ラットマンだ。

 しかし、鼠人ラットマンはそこまで強い魔物ではない。

 これだけの数を揃えた所でマミー軍団にも敵わないだろう。

 だけど、鼠人ラットマンが盾を掲げた瞬間、顔が強張るのを感じる。

 鼠人ラットマンの盾には何かが縛り付けられていた。


「あれは斥候に出ていた猫達にゃあ!!!」


 ネルが叫ぶ。

 なんと鼠人ラットマン達の盾に攫われた妖精猫ケットシー達が縛り付けられていたのである。


「そこで止まるのねジプシールの者達よ。それ以上近づけば王女のネルフィティの大切にしている猫達がどうなるかしら?考える事ね。生命力が弱すぎて食べる気すら起きない猫達。せいぜい盾になってもらうわよ」


 映像のザファラーダが笑う。

 こちらにネルがいる事を知っている。

 どこかで、情報が漏れていたのだろう。


「ふん!!そんな事で我らが止まるとでも思っているか!!突撃だ!!」


「ちょっと待つにゃあ!!ハル君!!」


 構わず突撃しようとするハルセスを、ネルが慌てて止める。


「何を言っているネルよ!!猫達も覚悟を決めているはずだ!!あの腐った女神のいう事を聞く必要は無い!!」


 しかし、ハルセスは聞く耳をもたない。


「おい待てよ!!王子様!!猫達を見捨てるか?!!」


 レイジもまたハルセスを止める。

 二人が睨みあう。


「ふん!!ならば光の勇者よ!!お前ならばどうにかできるのか?!!」


「ぐっ!!それは!!」


 レイジが呻く。

 レイジにもこの局面で猫達を救う方法を思いつかないみたいだ。


「これじゃあ、攻めるのは難しいわね。でも?何かしら?何だか時間稼ぎをしているみたいに感じるわ」


 チユキが首を傾げる。

 確かに奴らは時間を稼ごうとしているように見える。

 わざわざ動くなと言っているのだからなおさらだ。


「そうです!!黒髪の賢者殿の言う通りです!!もしかするとアポフィスの地から援軍を呼んでいるのかもしれません!!王子!!ここは早急に攻めるべきです!!」


 イスデスの言葉にハルセスが頷く。


「そういう事だネル。諦めるんだ」


「そんなの嫌にゃあ!!」


 ネルがふーっ!!!と息を荒げ、爪を伸ばす。

 肉体武器であるネルの爪は小剣程の長さもある。

 このままでは仲間割れになりそうだ。


「ねえレイジ?貴方でも何とかできない?」


「わかっている。イシュティア。何か良い方法がないか考える。だから、ちょっと待ってくれ王子」


「ふん!!良いだろう!!ほんの少しの間は待つ!!わかったからネル!!その爪をしまうんだ!!」


 ネルに引っかかれそうになっている、ハルセスがしぶしぶ了承する。

 まずい状況である。

 そんな自分達の状況を映像のザファラーダがこちらを見て笑っている。


「メジェド……」


 トトナが自分の布を引っ張る。

 その目は何とかして欲しいと訴えている。

 もちろん何とかするつもりだ。

 猫達との約束は守らなければいけない。

 敵に鼠人がいるとわかってから用意していた事がある。

 そっと自分の指輪を触る。

 この指輪はクーナの指輪と対になっている。

 この指輪は互いの位置を把握するだけでなく、会話をする機能を備え付けてある。

 つまり通信機と同じだ。

 自分はトトナをつれてレイジ達から離れる。

 会話を聞かれるわけにはいかない。


「ちょっと良いですか?トトナ?」


 誰にも聞かれないであろう場所でトトナに言う。


「だめ。クロキ。お願いは聞いてあげたいけど、今はそれどころじゃない……」


 トトナは顔を赤らめる。

 ちょ?!!トトナさん!!何を考えているですか?!!

 思わずツッコミを入れそうになる。


「いえ……。そうでは無くて……」


 自分は小声で作戦を伝える。


「なるほど、あの子の力を借りなければいけないのは嫌だけど、他に方法はなさそう」


「はい。それでは戻りましょう」


 戻るとネルとハルセスが言い争いをしている。

 レイジは良い考えが浮かんでいないようだ。


「ちょっと待って欲しい。王子。私に良い考えがある」


 全員の視線がトトナに集まる。


「トトナん!!!」


「何かを思い付いたのね!!さすがトトナちゃん!!」


「おお、さすがトトナ!!!美しき賢神よ!!」


「ふっ。さすがトトナちゃんだな。知識の女神だけの事はある」


 ネル、イシュティア、ハルセス、レイジが口々にトトナを褒める。


「まだ、何も言って無いのだけど……。まあ良い。貴方達に手伝ってもらいたい事がある」


 トトナが妖精猫の剣士(ニャンコフェンサー)達を見る。


「吾輩達に手伝える事があるのならにゃんでもしますにゃん」


 ネルの親衛隊である妖精猫の剣士(ニャンコフェンサー)の隊長ダルタニャンが敬礼をする。


「ありがとう。ダルタニャン。それではこちらに来て欲しい。メジェドお願い」


 自分はこくりと頷く。

 ダルタニャンを初めとした数秒の後。自分は一歩を踏み出す。

 映像のザファラーダが訝しげな顔をする。


「何?その変なのは?」


 自分はザファラーダの疑問を無視して踊りながら進む。

 メジェドの格好をした自分が変な踊りをしながら進む姿は傍から見ると、すごく滑稽だろう。

 なるだけ楽しそうに踊る。

 ザファラーダはあまりにも、変な奴が踊りながら近づく事に混乱して命令を下せないようだ。

 その間に少しずつ近づく。


「そこの変なの!!止まりなさい!!猫の首を刎ねるわよ!!」


 後もうすこしの所でザファラーダが正気を取り戻す。

 しかし、もう遅い。充分に距離は稼いだ。

 布の下で指輪をこっそり口に近づける。


「大好きなクーナ。お願い笛を吹いて」


 自分は指輪の向こうで笛を持ち待機しているはずのクーナにお願いをする。


 鼠人ラットマンを操る笛。


 クーナがアリアディア共和国で手に入れた笛だ。

 クーナがどうやってこの笛を手に入れたのかは知らない。

 しかし、今はこの笛がこの状況を打破する鍵となる。

 敵に鼠人ラットマンがいる事を知った時にクーナに連絡をしていたのである。

 そして、先程クーナに連絡して合図があったら笛を吹いてくれるようにお願いしておいたのである。


「わかったぞ。大好きなクロキために笛を吹くぞ」


 指輪からクーナの嬉しそうな声。

 その直後、指輪から笛の音が鳴り響く。


「風よ!!音を届けて!!」


 後ろからトトナの音声拡大の魔法が唱えられる。

 風が笛の音を周囲に運ぶ。

 その笛の音を聞いた鼠人ラットマン達が踊りはじめる。


「嘘?!!それは弟の笛の音?!!どういう事なの?!!」


 ザファラーダの慌てる声。

 だが、もう遅い。

 自分はメジェドの服の下に隠れていた四匹の妖精猫の剣士(ニャンコフェンサー)達を鼠人ラットマンの方へと投げる。


「にゃあああああ!!!」


 妖精猫の剣士(ニャンコフェンサー)は空中で抜剣すると鼠人ラットマンへと突っ込む。

 鼠人ラットマンは笛の音で踊っているためか対抗できず。

 次々と盾に縛られた猫達を救出する。


「今だ!!突撃せよ!!」


 ハルセスの号令と共にネフェス率いるマミー戦車チャリオッツ部隊が突撃してくる。

 不死馬アンデッドホースが引く戦車チャリオッツは速く、スケルトン達を次々と薙ぎ払う。

 幽鬼の騎士(スペクターナイト)達が妖精猫の剣士(ニャンコフェンサー)に来ないように目からビームを出して牽制する。

 レイジ達に犬人の戦士達に鳥人の戦士達も参加して事で一気に敵の軍勢を蹴散らす。


「嘘!!こんな事が!!」


 そう言ってザファラーダの映像が消える。

 助け出された妖精猫ケットシー達が大喜びで抱き合っている。

 猫達との約束を果たせた事に安堵する。


「ご苦労様。メジェド。貴方がいなかったら、この子達は無事じゃなかった」


 トトナがこちらにやって来る。

 いつも無表情のトトナが珍しく笑う。

 とても、愛らしく素敵な笑顔だ。

 その笑顔を向けられると、どんな事でも頑張れそうな気がする。


「おにーさんのおかげにゃん!!ありがとうにゃん!!」


 トトナに付いて来たネルが自分に抱きつくと、すりすりする。

 すごく喜んでくれている。

 2人は褒めてくれるけど、運が良かっただけで、自分の力とは思えない。

 たまたま鼠人ラットマンを笛を手に入れていて、たまたま鼠人ラットマンが猫達を人質にとっていたのである。

 だから、そこまで褒められると照れ臭い。


「さすがだねトトナちゃん。君の策がなかったら、どうなっていたかわからなかったよ」


 レイジとチユキがこちらに来る。


「本当にすごいわ。まさか、こんな手段が使えるなんて」


「ふふ。さすが、フェリの娘だわ」


 チユキとイシュティアがトトナを褒める。

 どうやら、トトナの作戦だと思っているみたいだ。


「違……。何?メジェド」


 トトナが違うと言いそうになるのを肩に手を置いて遮る。

 言う必要は無いと首を振る。

 自分の力とも思えない。

 ならばトトナの策で構わないではないか。


「トトナ!!さすが我が知の女神よ!!この場にいた敵は殲滅したぞ!!さあ!!次の策を聞こうではないか!!」


 敵のアンデッド軍団を掃討したハルセスとイスデスがこちらに来る。

 彼らもまたトトナの策だと思っているようだ。


「王子。私の策は特にない。誰も出てくる気配がない……。後は中に入らないとわからない」


 トトナの言う通り、鼠人ラットマンを最後にピラミッドから誰も出て来る気配は無い。

 人質は中にいる以上、後は突入するしかないのかもしれない。


「なるほど、突入だな。イスデスよ突入するぞ!!」


 ハルセスが命令するが、イスデスが首を振る。


「お待ちください!!危険です!!ハルセス様にはここに残っていただきます!!もちろん、イシュティア様にネル様もです!!」


 イスデスにそう言われたイシュティアとネルが不満そうにする。

 しかし、イスデスは聞く耳をもたないようだ。


「さて、後はお任せしても宜しいですかな?」


 イスデスがレイジとトトナを見る。


「もちろんだ。獅子の女王との約束だからな」


「わかっている。イスデス殿。約束だから」


 レイジとトトナが頷く。


「待て!!イスデスよ!!危険だ!!トトナはここに残るべきだ!!」


「そうにゃあ!!トトナんが危ないにゃあ!!」


 ハルセスとネルが反対する。


「大丈夫。ネル。私には強い味方がいる」


 トトナがネルを心配させまいと彼女の頬を撫でる。


「そういう事だ王子。トトナちゃんは俺を頼りにしている。大人しく待っているんだな」


 トトナに信頼されていると思っているレイジが胸を張る。

 ハルセスは何だか悔しそうだ。

 トトナを見ると目が合ってしまう。

 なんとなく、その頬が少し赤くなっているような気がした。


エジプト風だから、猫の盾イベント。猫が捕らわれている時点でこの展開を予想した人もいるかもしれない……。


医学が発達していない世界では病気は邪神や悪霊や魔女の仕業と思われていたのです。ファンタジーならそれが本当の事でも問題ないかなと思っています。

病気は邪神や魔女の仕業。そのため呪術医という職業も存在します。


災厄をもたらす魔女を退治する魔女狩人ウィッチハンターの話なんて面白そうだとは思うのですが、どうでしょうか?( ・∀・)ノ


現在、三人称に書き直しています。これで読みやすくなればと思います。

ただ、差し替えはまだ先になるでしょう。


最後にレヴューを書いて下さったak様。本当にありがとうございます(m´;ω;)m



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[一言] トトナに付いて来たネルが自分に抱きつくと、すりすりする。  すごく喜んでくれている。  2人は褒めてくれるけど、運が良かっただけで、自分の力とは思えない。  たまたま鼠人ラットマンを笛を手に…
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