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暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第7章 砂漠の獣神
137/195

墳墓の王

◆黒髪の賢者チユキ


 ナバテ山はジプシールとアポフィスの地の境にある岩山だ。

 標高はあまり高くない。

 岩山が東西に長く連なりいくつもの谷が出来ている。

 この山を超えるとアポフィスの地だ。

 目的のピラミッドはナバテ山を超えたギリギリの所にある。

 そもそも、目的のピラミッドはアポフィスの地を支配する蛇の女王の行動を警戒して建設中だったものを奪われたものだ。

 間抜けとしか言いようがない。

 建設の発案者はハルセスで責任者はハルセスとイスデスだ。

 彼らに言わせれば万全の防衛体制をとっていたそうだが、敵の侵攻がそれを上回っていたらしい。

 言い訳にすらなっていない。

 私達を乗せた空船は岩山の巨大な谷へと降下する。

 このまま直接ピラミッドへと突撃はしない。

 なぜなら、どうやら私達が来ることを敵が既に感づいているみたいだからだ。

 奇襲はもはや無理。

 ならば、一旦間をおいて、じっくり攻めようということになった。

 岩陰に空船を隠して、私たちは谷を歩く。


「わざわざ降りる必要はないと思うのだけど?ここには何もなさそうだし」


 私は疑問に思った事を言う。

 それはレイジやイシュティアも思っている事だ。

 顔に出ている。

 ちなみトトナは無表情で何を考えているかわからない。ネルは興味なさそうな顔をして、そもそもメジェドは顔が見えなかったりする。


「それは違います。黒髪の賢者チユキ殿。あるのですよここには」


 答えたのはイスデスだ。


「何があるというんだい?」


「ふん!!それは行けばわかる事だ。黙ってついて来るのだな」


 レイジが聞くとハルセスが不機嫌そうに言う。

 ハルセスは先程から機嫌が悪い。

 レイジが光の上位精霊のベンヌを呼び出したのがよっぽど気に入らないみたいだ。

 そして、そのまましばらく歩く。


「うわあ!」


 思わず声を出してしまう。

 谷をしばらく歩いていた時だった。

 切り立った崖をくりぬいて作られた建造物が現れたからだ。

 建造物は壮麗な装飾を施されとても綺麗である。


「これは、カズネル宮でございます。ドワーフ達が作った対アポフィスの為の拠点の1つです。ここを拠点にピラミッドを取戻します」


 イスデスが説明してくれる。

 へー。っと思い中に入ろうとしたときだった。

 地面から武装した沢山の骸骨が姿を現す。

 スケルトンだ。

 岩陰が影になるため、ここでも活動ができるのだろう。


「スケルトン?なぜ、こんな所に?」


 そう言うとレイジは武器を構える。


「お待ちを、このスケルトン達は敵ではありません。ネフェスよ!!出迎えご苦労である!!」


 イスデスが叫ぶと、建物の奥から包帯で全身を巻いた者達が現れる。

 人間に見える。しかし、生者では無いだろう。

 おそらくマミーというアンデッドだ。

 マミー達が片膝を地面につき、腕を胸で交差させて一斉に頭を下げる。

 どうやら、スケルトンも含めてイスデスの配下のようだ。

 ピラミッドの事を調べた時にマミーの事を知った。

 マミーはピラミッドの管理者として、イスデスが作り出したアンデッドだ。

 吸血鬼ヴァンパイアと同じく知性がある。

 大きな違いは吸血鬼のように血を吸う等の補給が必要が無い所だ。

 ピラミッドには街から離れた場所に建造されたものもあるので、補給を必要としないマミーは管理者として適任なのである。

 普段は眠っていて、何かあった時は目を覚まして活動する。

 マミーという死体が眠っているためか、ピラミッドを墳墓と勘違いする者もいたりする。

 そして、ピラミッドには黄金で作られた魔法装置等もあるので、それを狙った墳墓荒し(トゥームレイダー)が侵入したりするそうだ。

 もっとも、侵入した者はマミーが得意とする呪殺魔法をかけられ死ぬだろう。

 運よくピラミッドから逃れても、魔法の布で全身を覆った彼らは日の光がある場所でも活動が可能だ。

 どこまでも追いかけられる事になる。


「お待ちしておりました!!我らが神よ!!」


 マミー達の中でネメスという頭巾を被り、もっとも豪華な衣装を身に着けた者が前に出て来る。

 彼がおそらくネフェスなのだろう。

 その姿からマミーの上位種であるマミーロード、もしくは墳墓王トゥームキングと呼ばれる存在だろう。


「うむ。ネフェスよ。準備は整えているだろうな?」


「はい我が神よ。近くにピラミッド群に待機しているできる限りのマミー兵を集めております」


 マミーロードのネフェスが恭しく頭を下げる。

 その様子からイスデスとネフェスに強い繋がりを感じる。

 おそらくネフェスはイスデスに作られたのだろう。

 軍神イスデスはジプシールで一番の剣士だ。

 そして、同時に優秀な死霊魔術師ネクロマンサーでもある。

 ジプシールにおいて優秀な戦士はイスデスの元でマミーとなり永遠の命を得る事ができる。

 そのためマミー作りの神として、聖なる部屋におわすイスデスとして崇めらている。

 この辺りは戦乙女の伝承と一緒だ。

 マミーに元人間が多い理由はわからない。

 単純に数の問題かもしれないし、他の獣神の眷属をマミーにする事に遠慮しているのかもしれない。


「さあ、どうぞ偉大なる方々。中へ案内いたします」


 ネフェスがそう言うとマミー兵達は立ち上がり、左右に分かれる。

 カズネル宮の中へ入ると広い広間へと出る。

 入口の規模に比べて中は遥かに大きいみたいだ。


「ネフェスよ。奪われたピラミッドの様子はどうだ?」


「はっ!!ただいま。映像を出します」


 ネフェスが言うと側に控えるマミーの魔術師が呪文を唱える。

 ドーム状になった天井から光が伸び空中に映像が映し出される。

 空が黒い雲に覆われた薄暗い景色の中に黒いピラミッドが映し出される。

 空は暗いが黒いピラミッドの周辺には無数の鬼火ウィルオーウィスプが飛んでいるので暗視の能力が無い者でも見る事が出来るだろう。

 さらに、そのピラミッドの周りを黒い馬に乗った青白く光る骸骨の騎士達が空を駆けている。

 幽鬼の騎士(スペクターナイト)と呼ばれる上位のアンデッドだ。

 このアンデッドは闇の中位精霊である悪夢馬ナイトメアホースを呼び出し使役する事ができ、武術と魔術に優れた強力な魔物だ。

 他にも死霊レイス幽霊ゴーストらしき魔物の姿が見える。

 かなり、数が多い。

 私達を警戒しているのかもしれない。


「奴らめ!!我らのピラミッドを黒く塗りつぶしおって!!」


 ハルセスが悔しそうに呻く。

 元は黒く塗られてなかったのだろう。

 その黒いピラミッドの側面には蛇の女王ディアドナの邪眼の紋章が白く描かれている。

 このピラミッドはアポフィスのものと言わんばかりだ。


「どういう事だ?映像が乱れているようだが?」


「もうしわけございません。我が神よ。どうやら強大な魔力の波動により、魔法がうまく発動しないようなのです」


 ネフェスがイスデスに謝る。

 おそらく私の魔法でも、これ以上の映像を出すことはできないだろう。

 この映像を見るだけでも、ピラミッドから強大な魔力を感じる。


「ねえ、普通のピラミッドよりもはるかに大きくない?」


 私はピラミッドを見た感想を言う。

 ジプシールにある多くのピラミッドはアルナックにある、ヘイボス神が作った黄金のピラミッドを元に複製されたものである。

 基本的に構造は変わらず、どんなに違っても、少しぐらいしか大きさは変わらないはずだ。

 しかし、黒いピラミッドは通常のピラミッドの3倍は大きいように思う。


「その通りです。黒髪の賢者殿。アポフィスからの絶対の守りとするため、設計に手を加えました。しかし、そのため完成が遅れ襲撃を受けたのです」


 駄目じゃん!!

 イスデスの言葉に思わずツッコミをいれそうになる。


「これまで、奴らは攻めて来る事はありませんでした。そこに油断が生じたのでございます。突然の襲撃。ハルセス様や工事を行っていたドワーフ達を撤退させるのが精いっぱいでした」


 ネフェスがうな垂れる。

 おそらく、ネフェスはその場にいたのだろう。

 案外このピラミッドを作ろうとした事がアポフィスを刺激したのではないだろうか?

 だとすると間抜けすぎる。

 そのため、黒いピラミッドの力により、ジプシールの結界に穴を開けられてしまったのだ。

 ハルセスとイスデスはその事でセクメトラからかなりきつく説教を喰らったらしい。


「間抜けだな」


 レイジが私が言いたくても言わなかった事をズバリと言う。


「貴様!!どういう意味だ!!愚弄するなら許さんぞ!!」


 思ったとおり堪え性の無い王子様がお怒りである。

 面倒くさいから発言に気を付けてもらいたい。

 ハルセスが腰の剣をレイジに向ける。

 ハルセスの剣はコピシュと呼ばれるジプシールで一般的な片刃の武器である。

  刃が途中で湾曲しており、斧のような斬撃力を持つ。


「王子。落ち着いて欲しい。今はピラミッドを取り戻す事に集中するべき」


 トトナがハルセスを止める。

 トトナが間に入った事でハルセスはぐぬぬと呻く。

 おそらくトトナに嫌われたくないのだろう。


「確かにトトナ殿の言う通りだ。命拾いをしたな」


 ハルセスが剣を収める。


「ああ、そう言う事にしておいてくれ……」


 レイジは面倒くさそうだ。

 相手にするのも馬鹿馬鹿しいに違いない。


「イスデス殿。どうするのか聞かせて欲しい」


 トトナが聞くとイスデスが頷く。


「はい、トトナ殿。敵の数は多いですが、所詮はアンデッド。光の魔法が苦手です。そして、こちらには光の魔法を使えるハルセス様とレイジ殿がおります。そしてマミー達は光魔法に耐性がありますので、ハルセス様達の魔法の巻き添えを喰らう事はありません。ですから、正面から行こうと思います」


 イスデスの説明に、それただの力押しじゃんと言いたくなる。

 しかし、他に取りえる策が無いだけかもしれない。


「捕らわれた者がいたら、どうするの?」


 トトナが問うとイスデスが首を傾げる。


「トトナ殿?何を?」


「おそらく、失踪事件の原因はアポフィスの者。あの中には捕らわれた者もいる可能性がある。それに斥候に出た猫達もいる」


 失踪事件の事は私達も聞いている。

 おそらく、アポフィスの邪神達の仕業だ。

 人質にされる可能性もある。


「見捨てます。ピラミッドを取り戻す、もしくは破壊する事が最優先です」


 イスデスの言葉にハルセスが頷く。


「トトナよ。捕えられた者達も我らの枷になる事を望まぬだろう。ここは仕方が無い」


 ハルセスとイスデスの言葉はもっともだろう。

 しかし、トトナは納得していないようだ。


「出来る事なら助けたい」


「しかし、どこにいるかもわからず、生きているのかさえ不明です」


 イスデスの言葉にトトナが横に首を振る。


「大丈夫。私になら、詳細な情報を得る事ができる。ピラミッドの地図を用意して」


「はあ、わかりましたトトナ殿。ネフェスよピラミッド内部の地図を持ってくるのだ」


「はい。わかりました我が神よ」


 ネフェスが頷くと部下のマミーに地図をもっと来させる。


「ありがとう」


 トトナはお礼を言うと空中から本を一冊取り出す。

 何かの魔道書みたいだ。


「特殊な精霊を呼び出す。風と土の書よ。開いて」


 トトナの手から離れた魔道書が空中に浮かび上がる。

 空中で魔道書がパラパラと開くと、中に書かれた文字が光り輝く。

 輝く文字が本から出てきてトトナの周り飛ぶ。


「世界の根から頂まで、駆け回る小さき精霊。私の呼び声に応えて。教えて教えてラタトスク」


 トトナの呼び声にこたえて緑色に光る小さな有角のリスが沢山現れる。

 リス達はトトナの周りを一周すると、猛烈な勢いで離れていく。

 トトナが呼び出したのは小精霊のラタトスク。別名を告げ口の出っ歯という。

 特に何かの属性を持ってはいない。

 この小精霊は土の精霊の居場所にも風の精霊の居場所にも行く事が出来、その情報を得る事ができる。

 よほど強力でないかぎり結界の中にも入る事ができる。

 ただし、制約もある。

 この精霊の伝える情報は必ずしも正確ではないのだ。

 そのため術者には読み取る能力が必要となる。

 リノはこの精霊の伝える情報があまりにも不正確なので、呼び出す事をやめている。

 しかし、うまく読み取る事ができればかなりの力になるだろう。


「わかった。42匹のラタトスク達が教えてくれる情報を精査してみたけど、おそらく捕えられた者達はピラミッドのここにいると思う」


 トトナがピラミッドの一室を指す。


「ほう、そこはドゥアムトエフの間ですな。そこに捕えられた者達がいるのですな」


 トトナが頷く。


「ラタトスクの情報からそう考えられる。ただし、正確な数までわからなかった」


 これはすごいと感動の声を上げそうになる。

 あのラタトスクからここまで情報を引き出したのだから。

 おそらく、何かの魔道書を使ったみたいだが、それでもすごい。


「さすがトトナちゃんだ!!これから、あの黒いピラミッドに突入するんだろ?ついでに助け出そうじゃないか!!」


 レイジがトトナを褒め称える。

 しかし、トトナの表情は動かない。

 ここまで、反応が無いとちょっとレイジが可哀そうになる。


「お待ちをレイジ殿。捕えられた者の事はわかりましたが、まだ問題はあります。情報によればピラミッドには蛇の王子が待ち構えています。あの者をなんとかしなければなりません」


「ああ、あいつの事か。そいつは俺が相手をする。だから問題は無い。さあ行こうじゃないか」


 レイジが自信たっぷりに言う。


「ちょっと待って欲しいにゃあ!!」


 突然、それまで黙っていたネルが叫ぶ。


「どうしたのネル?」


「トトナん。さっきから鼠の匂いがするにゃあ」


 ネルとそのお供の猫達が一斉に頷く。


「何を言っているのだ?ネルよ?鼠がいるぐらい普通ではないか?」


「ハルセス様の言う通りです。姫様。確かに鼠の匂いがしますが、アルナックならともかく、ここでなら鼠ぐらい侵入するでしょう」


 ハルセスもイスデスも特に気にしていない。

 確か猫人や妖精猫ケットシーには鼠感知という特殊能力があったはずだ。

 そのため、他の種族よりも鼠が気になるのかもしれない。


「いや?待て、そこのマミー?こちらに出てこい」


 レイジが控えているマミーの一体を指さす。

 呼ばれたマミーがこちらへと歩いて来る。


「チッ!!キヅカレタ!!ミンナ出テコイ!!」


 声が口からではなくお腹から聞こえる。

 すると突然、マミーのお腹が内部から破裂して何か小さな人影が出てくる。


「嘘?!!鼠人ラットマン?!!」


 飛び出して来たのは鼠人ラットマンだ。

 出来てきたのは一匹だけではない。

 数名のマミーの腹の中からも鼠人ラットマンが飛び出して来る。


「忌々シイ猫メ!!ヨクモ見破ッテクレタナ!!」


 鼠人ラットマン達が素早い動きで猫達に向かう。


「みんな迎撃するにゃあ!!」


「「「にゃあーーー!!!」」」


 猫達が一斉に腰の細剣レイピアを引き抜く。

 ネルに付いてきた長靴を履いた猫達は妖精猫の剣士(ニャンコフェンサー)と呼ばれる精鋭だ。

 その可愛さから、ぜひとも一匹お持ち帰りしたい。

 妖精猫の剣士(ニャンコフェンサー)達が次々と鼠人ラットマンを返り討ちにする。

 さすが、王女の護衛部隊だ。私達が動く必要は全く無かった。


「まさか間者に侵入されているとは……」


 ネフェスが信じられないという顔をする。

 それはイスデスも同じみたいだ。


「おそらく、気配や存在感を極限まで消す能力を持っていたと思う。そうでなければ、ここまで侵入するのは不可能」


 トトナが説明する。

 鼠がいる事にはイスデスも気付いていた。

 しかし、いたとしても気にもとめなかった。

 何とも嫌な能力である。


「道理で、情報が筒抜けのはずだな。これで奴らは確実に待ち構えているな」


 レイジが不敵に笑う。

 私達の行く手に強敵が待ち構えている。

 しかし、シロネを救うためだ。行かねばならない。

 私は覚悟を決めるのだった。

日曜日に更新するはずが、月曜日になってしまいました…… (´;ω;`)

相変わらず遅筆です。半分の文字にすれば週二回更新も可能ですが……


とりあえずマミーや幽鬼の騎士に妖精猫の剣士等を書けました。

こういうものの設定を考えるのが好きだったりします。


マミーといえばハムナプトラか、ウォーハンマーのネフェキーラですね。

これだけは本当に書けて良かったですヾ(*・∀・)/








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