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暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第7章 砂漠の獣神
134/195

トトナの頑張り

◆知識と書物の女神トトナ


 クロキと初めて会った時、とても驚いたのを覚えている。

 想像していた者とあまりにも違ったからだ。

 私は猪のような顔をした、戦う事しか知らない武骨な男性を想像していたのである。

 だから、師匠であるルーガスから暗黒騎士に本を見せて欲しいとお願いされた時は、正直不安だった。

 それほど、暗黒騎士の噂は良く無いものばかりだった。

 美しい光の勇者を打ち破った暗黒騎士は女神達から嫌われている。

 レーナの恋人である光の勇者レイジはエリオスの女神達の間で話題の男性である。

 歌と芸術の神アルフォス並みの美男子で、強い。

 そして、父オーディスしか使えなかった神威の光砲を使うとんでもない能力の持ち主。

 引きこもりで、外の事にあまり関心を向けなかった私でも興味が出てくる相手だった。

 レーナと私は母フェリアの元で一緒に育った。

 レーナは子供の時から美しく、私は歌も踊りも裁縫もレーナには敵わなかった。

 同世代だった私はレーナと比べられるのが嫌で引きこもるようになった。

 絶対に敵わない存在。それがレーナだ。

 私達は大きくなり、さらに美しくなったレーナには多くの男が求婚した。

 しかし、レーナは誰も相手にしなかった。

 そのレーナが恋人に選んだ相手なのだから、興味が出て当然だろう。 

 そこで魔法の映像を入手して見た。

 私の好みでは無いが、確かに美男子だ。

 女神達が騒ぐのもわかる。

 きっと、天上の美姫と呼ばれるレーナの恋人としてふさわしいのだろう。

 彼は男神の反対が無ければエリオスの神に迎えられていたかもしれない。

 その光の勇者がナルゴルの暗黒騎士に敗れたのだから、女神達の嘆きは私の住む書庫にまで響いて来るほどだった。

 女神達は光の勇者の安否を気遣い、その彼を傷つけた暗黒騎士を罵った。

 女神達の話では魔王の仲間なのだから、容姿がぐちゃぐちゃのキモイ奴に決まっているそうだ。

 以上は女神達の勝手な想像だけど、魔王が気持ち悪いのは否定できず、また、ルーガスはそうでもないけど、魔王の盟友である神族のほとんどがキモチワルイのは確かだ。

 だから、女神達が暗黒騎士も気持ち悪い外見をしているという想像も仕方が無い所がある。

 その暗黒騎士が来ると聞いて不安になるのも仕方が無かったと思う。

 レーナの光の勇者を倒した事は良い仕事をしたとは思うが、正直会いたくないと思ったのである。

 特に、いやらしい奴だったりしたらどうしよう?

 しかし、元々この書庫はルーガスの物で、私はそれを預かっているにすぎない。

 また、恩義のある師の頼みを断るのも悪いと思ったので、渋々受け入れる事にした。

 だけど、それはクロキと会う事で杞憂に終わる。

 彼はとても物静かで、大人しそうだった。


「よろしくお願いします。女神トトナ殿」


 そう言ってクロキが私に頭を下げた時は戸惑った。

 とても強そうに見えない。

 これが、本当に光の勇者を倒した暗黒騎士だろうか?

 本当に戸惑う。

 戸惑うといえば彼の容姿も魔王に従う神族らしくない。

 エリオスの男神に引けを取らない顔立ちである。

 いや、むしろ他の神に比べて顔が私の好みだ。

 これは高評価を付けざるを得ない。

 特にレーナに尻尾を振る男ではない所が良い。

 彼は明確にレーナと敵対しているのだから間違いない。

 少しだけ心臓が高鳴る。

 だけど、私は今まで男性と付き合った事が無い。

 男性だけではない。

 何しろ書庫にはほとんど誰も近づかない。

 元魔王の領域のため、誰も近寄らなくなってしまったのだ。

 来るのは母か姉の使い、もしくはネルだけだ。

 そのため、書庫に籠ってばかりの私は他者との付き合いを忘れてしまっていたのである。

 他者から無表情と呼ばれるのも仕方が無い。

 そのため、どう接すれば良いのかわからず、最初の頃は意に反して冷たい態度を取ってしまった。

 だけど、本の事を話すうちにしだいにうまく話せるようになった。

 それは、今までに無い幸せな時間だった。

 彼も私と同じように本が好きらしく、私の知らない本の事を聞く事は楽しかった。

 ただ、彼とたまに一緒に居る銀髪の娘がいるのでそれ以上の関係になる事は無かった。

 まあ、それでも良かった。

 私としてはクロキと本の事を語れるだけで良かったのである。

 おそらく、何もしなければ、ずっとこのままの関係が続いただろう。

 イシュティア様が変な事を言わなければ、何もしなかっただろう。

 だけど、今は銀髪の子もいない。

 少しだけ頑張ってみよう。そう思ったのである。

 




◆股間が龍の如くなクロキ


「お待たせクロキ」


 自分に、そう言うと着替えたトトナが部屋に入り、自分の隣に座る。

 トトナの姿に目を奪われる。

 薄地の白いジプシール風の衣装は面積が小さく、腰の所まで切れ込みのあるスリットは彼女の白い脚を際立たせている。

 普段は厚いローブに身を包んでいるためか、今までわからなかった!!

 トトナはかなり大きい。

 レーナやイシュティアに比べると小さいが、これはこれで目のやり場に困る。

 しかし、どういう事だろう?

 一体なぜ?急にこんな格好を?

 しかし、トトナは普段から表情を出さないので、その考えがわからない。

 考えはわからないが、心の中でお礼を言おう。

 ありがてえ!!ほんに!!ありがてえだ!!

 って!!なんで農民みたいになっているんだ?!!!

 どうやら、頭が混乱しているらしい。

 しかし、落ち着かなければいけない。

 鎮まれ!!お前の出番は無い!!


「どうしたのクロキ?」


 トトナが不思議そうな顔をして聞く。

 その表情はいつもと変わらない。

 そして頭を自分の胸の所に寄せて来る。

 やばい!!これはやばい!!


「えーっと?トトナさんどうしたのですか?」


 思わずさんづけで呼んでしまう。本当にどうしたのだろう?


「イシュティア様に言われて。頑張ってみようと思った?」


 えーっと……。何をがんばるのでしょうか?

 そこで気付く。

 トトナの吐息から発せられるお酒の匂い。


「トトナ?もしかして飲んでる?」


 しかし、答えたのは自分のもう片方に座ったネルだ。


「トトナんは、この部屋に入る直前に、獅子の乳をいっぱい飲んでるのにゃあ。トトナんはお酒を飲むほど、静かに壊れるのにゃあ」


 ネルが説明する。

 て言うか!!静かに壊れるって何?!!

 こんな姿のトトナは初めて見る。

 この獅子の乳は神族用に作られた神酒だ。

 神でも確実に酔ってしまう。

 表情を出さないからわかりづらいけど、トトナは酔っているような気がする。

 

「何か、ちょっと暑い」


 トトナが服のあたりをぱたぱたとする。

 思わず目が動く。


「お兄さん。どうしたのにゃん?目が血走ってるにゃん?」


 横からネルが不思議そうな顔をする。

 そんな無邪気な目で見られると困る。

  

「クロキ。お酒。今夜は飲む」


 トトナが杯を取ると獅子の乳を注ぐ。自分に渡すつもりみたいだ。

 まずい。

 自分は酒を飲まないようにしている事を伝えていない。

 酒は飲めないことは無いけど、理性を失う可能性があるそれは避けたい。

 何とかして断らないと。

 断る材料を探す。

 その時、猫の一団が部屋の隅で何かしている。もめているみたいだ。

 どうしたのだろう?

 自分の視線に気付いたのかネルとトトナもそちらを見る。


「どうしたのにゃあ?何をしているにゃあ?」


 ネルがもめている声を掛けると猫達がビクッと震える。

 すると中心にいた茶トラの毛並の猫が突然出て来る。


「姫様!!お願いですにゃあ!!うちの兄を助けて欲しいにゃあ!!」


 中心にいた猫がネルの方へと駆け寄る。

 しかし、途中で他の猫に取り押さえられる。


「どうしたのにゃあ?!!いきなり?!!どういう事にゃあ?!!ヴァロン?!!説明するにゃあ?!!」


 すると服を着ていない猫達の中でただ一匹上着を着ている黒猫が前に出る。

 この黒猫がヴァロンなのだろう。


「申し訳ございません。姫様。お客様が来ているので止めたのですが……。さあ、早く下さがらせなさい。お客様が見えられているのですよ」


 ヴァロンが他の猫に命じて、茶トラの猫を下がらせようとする。

 どうやら、この黒猫が妖精猫ケットシー達のリーダーみたいだ。

 他の猫達と違うのがわかる。

 なにしろ、唯一語尾ににゃあをつけていない。


「待って!!話を聞くぐらい良いのでは!!」


 自分は慌てて止める。

 何があったのか気になる。

 これでトトナが酒を勧めるのを一時的にやめさせる事ができる。


「しかし、お客様……」


 ヴァロンが困ったような声を出す。


「いえ、ヴァロン。クロキの言う通り。話を聞くべき」


 トトナも自分に同意する。


「ヴァロン。トトナん達も良いといっているにゃあ。説明するにゃあ」


 ネルが聞くとヴァロンは溜息を吐く。


「わかりました。姫様。実はアポフィスの蛇達が奪ったピラミッドの偵察に行った者達が帰って来ないのです。その偵察に行った者の中にこの者の兄がいたのでございます」


「偵察?そんな事を命じた覚えはないにゃあ!!」


「ご命じになられたのはハルセス様でございます。姫様。このヴァロンもつい先ほどまで知りませんでした……。どうやら、最高級の大銀魚につられて偵察に行ったようでございます。もしかすると捕えられているのかもしれません」


「大銀魚?!!!そんにゃ?!!!それを出されたら動くのは当たり前にゃ!!ハル君!!ネルに内緒でうちの子達を!!!」


 ネルが怒った顔になる。

 ちなみ大銀魚とはナイアル川で獲れる最大で全長2メートル に達する魚だ。

 淡水魚としては大型の部類に入る。

 肉質は癖がない白身であり、かなり美味しいらしい。

 まだ食べてないが目の前の食べ物の中には大銀魚のフライがあり、周りにいる猫達がそれを物欲しそうに見ている所から、間違いないだろう。

 しかし、それで仕方が無いと言う当たりが猫の感覚なのだろう。

 人間だったらすごいツッコミを入れる所だ。


「お願いですにゃあ!!兄を助けて下さいにゃあ!!」


 茶トラの猫が訴える。

 おそらくこの茶トラは雌だろう。毛玉のようなキン玉がない。


「わかった。まかせて」


 突然トトナが立ち上がると、自分に渡そうとしていた獅子の乳をぐいっと飲む。

 獅子の乳はアルコール度数が高い。

 よほど水を混ぜなければ先程のトトナのように飲むのは危険だ。

 酔いが顔に出ないのか、いつも通りの表情に見えるが、大丈夫だろうか?


「ここにいるクロキが解決してくれる」


「えっ自分が?!!」


 急に自分が指名されて驚く。


「大丈夫クロキならできる」


 そう言ってトトナが自分の頭をぎゅっと抱きしめる。

 胸が顔に押し付けられる。


「ちょ?トトナさん?」


 かなり立派な胸の感触にドキドキする。


「クロキは私の勇者だから、安心していい。必ず貴方達の仲間を助けてくれる」


 そのトトナの言葉に猫達が喜びの声を上げる。

 どうやら茶トラ以外の猫も心配だったみたいだ。

 しかし、助けに行くけど、確実に助ける自信は無い。

 そもそも、無事なの?

 だけど、自分の戸惑いに気付かず猫達が喜びの声を上げ踊りはじめる。


「おおっ!!トトナんがここまで言うのにゃら!!お兄さんはきっととっても強いのにゃあ!!さあ!!みんなお兄さんにお酒をじゃんじゃん注ぐにゃあ!!」


「姫様!!わかりましたにゃあ!!」


 猫達がお酒の入った瓶を沢山持って来る。

 そんな量は飲めない!!


「クロキ。飲もう」


 トトナも吐息が顔にかかる。濃厚な酒の匂いがする。

 これ絶対かなり飲んでる!!

 どうしたんですか!!トトナさん!!


「よし!!ネルも踊るにゃあ!!」


 白い尻尾をふりふりしてネルが踊る猫達に加わる。

 それを見て吹きそうになる。

 ネルは下着を履いてなかった……。

 ネルの衣装も露出が多いが、色気があまりなく、無邪気で健康的すぎて気にならなかったのである。

 そのため、突然の不意打ちにびっくりしてしまった。

 獣人は下着を身に付けない。

 特に獣に近い者は裸でも気にしない方が多い。

 だけど、ネルはどちらかと言えば人間の姿の方が近いのでパンツを履いた方が良いと思います。

 ネルが猫達と一緒に尻尾をふりふりして踊っている。


「どうしたのクロキ?飲み物を飲む?」


 トトナが飲み物が入った杯を渡してくれる。

 とりあえず落ち着くために水が欲しい。

 もらう事にする。


「ありがとうトトナ」


 杯を受け取ると、ごくごく飲む。

 って酒じゃーーーーーん!!!!!!これーーーーーー!!!!!!!!!!

 ネルの事で油断した。

 おもっきり飲んでしまった。


「はいクロキ。ジプシールレタス。精力がつく」


 今度はトトナからレタスを無理やり口に突っ込まれる。

 ジプシールレタスの茎から出る白い液は精力剤になる事で有名だ。

 それを口の中につっこまれてしまった。

 トトナの顔はいつも通り無表情だ。

 だけど、明らかに行動がおかしい。

 本当に静かに壊れている。

 何だろう頭がくらくらする。

 どうやら獅子の乳が回って来たみたいだ。

 体の中で眠る酒好きの竜の何匹かが喜び暴れている。

 ああ!!もう何やっているんだよーーーー!!!

 ネルと猫達は楽しそうに踊る。


「はいクロキ。あーん」


 自分の隣でトトナは無表情で自分に酒と食べ物を無理やり飲ませ食べさせようとしている。

 混沌とした饗宴が続くのだった。


 



◆知恵と勝利の女神レーナ


 空船でジプシールへと向かう。

 現在は中央山脈をちょうど越えたあたりだ。

 急いで向かっているが、まだまだジプシールは遠い。

 トトナ達とは違い、私はジプシールに転移する門が無い。

 そのため一気にジプシールに行くことが出来ない。

 ハルセスに頼めば、作ってくれそうだけど、後が面倒なのでそれはできない。


「レーナ様。偵察に行っていた者達が戻りました」


 甲板の上でニーアが私に報告する。

 偵察に出た戦乙女が戻ったようだ。

 私達はいつものように周囲にエリオスに敵対する邪神がいないか偵察を出しながら進んでいる。

 特に強く無い奴なら私か戦乙女で対応できるが、中にはかなり強敵もいる。

 そのため、腕に自信の無いエリオスの一部の神達は安全なエリオスから出なかったりする。


「そう。で?どうなの?ニーア」


「特に問題はないようです。レーナ様。邪神の気配はありません。順調です」


「そう……。ここまで、静かなんて、スルシャの情報である、多くの邪神がアポフィスに集まっているというの確かかもしれないわね」


 監察天使スルシャとその配下の天使達は世界を監察してエリオスに報告するのが仕事だ。

 彼女の情報では多くの邪神がアポフィスに集まっているらしい。

 そのため、この辺りにはいないのかもしれない。


「はい。レーナ様の予想の通りですね。アポフィスはジプシール南。イシュティア様やレイジ達が危険かもしれません」


「えっ?私そんな予想してたっけ?」


 私はそんな予想をした覚えは無い。


「えっ?もしかすると危ないかもしれないから、ジプシールに行くとおっしゃったのはレーナ様では?」


 ニーアが意外そうな顔をする。


「ああ……。その事ね……。確かにそんな事言ったわね」


 しかし、危険の対象は違う。

 危険なのは別の意味である。

 トトナは根暗だから、大胆な事をしないと思う。

 だけど、油断はできない。

 嫌な予感がする。

 考えてみれば彼女の母と姉は意外と行動力がある。

 だからこそジプシールに向かうのだ。

 ただニーアは何か勘違いをしているようだ。


「まあ、良いわニーア。急ぐわよ、空船の速度を上げなさい」


「はい、レーナ様」


 私がそう言うとニーアが戦乙女達に指示を出し行く。

 クーナの指輪の反応からクロキの居場所はわかる。

 今はアルナックにいるみたいだ。

 私達は黄金の都に向かって大空を進むのだった。



この小説も3年目。

良く3年も、続いたなと思うこのごろです (´・ω・`)


まず第一に自分の為に書いている!!その気持ちがある事が続けていける原因だと思っています。

だから、読者がゼロでも書き続けていたでしょう。


しかし、それでも出来る事なら、多くの人に読んでもらいたいと願っている事も確かだったりします。

特に、この作品をブックマークや評価して下さった方達に深くお礼を申し上げますm(*T▽T*)m


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