黒いピラミッド
◆死神ザルキシス
アポフィスの地とジプシールの地の境界にある黒いピラミッド。
その心臓の間。
気配を感じ振り返る。
そこに一名の男が膝を付き頭を下げている。
男は灰色の髪に青ざめた顔をしている。
巨大な黒い甲冑と黒い外套がさらに男の体を大きく見せている。
配下の吸血鬼王ベイグだ。
この男には軍事を全て任せてある。
「ベイグ将軍か?どうした?」
「我が主。姫様がお帰りになされました」
「ザファラーダか?ここに通せ」
許可が無い限り誰も通さないように命じてある。
それは、娘であっても変わらない。
ベイグはそれを律儀に守っている。
「はっ」
ベイグが後ろにいる幽鬼に命じる。
しばらく、すると紅い衣を来た女が入って来る。
娘である女神ザファラーダだ。
「ただいま。戻りましたザルキシス御父様」
戻って来た娘が目の前で平伏する。
その後ろには娘の配下である7名の吸血鬼騎士が同じように平伏している。
いずれもいずれも元人間である顔の良いオス達だ。
「戻ったかザファラーダ。その様子を見るとイシュティアを捕えそこなったようだな」
神族であるイシュティアを贄にしてやろうとおもったが、うまく攫う事ができなかったようだ。
ザファラーダはこのザルキシスの百を超える子等の中で一番強い力を持つ。
特技として、敵の感知能力を阻害する事ができる。
つまり、奇襲を成功させやすいと言う事だ。
しかし、失敗した。
しかも蛇の王子ダハークもいたというのにどういう事だろうか?
いかに剣の舞姫と呼ばれるイシュティアと言えども、ダハークとザファラーダ、それに大地の巨人でかかれば勝てるはずだ。
「申し訳ございません。御父様。実はイシュティアには光の勇者が付いていたのでございます」
「何?光の勇者?レーナの飼っているあの光の勇者か?」
光の勇者と呼ばれるレイジはエリオスの女神レーナの子飼いの勇者だ。
その力は神と互角だと聞く。
「はい、あのいけ好かない糞女神レーナの勇者です。御父様。自分の方が少し美しいからと言って、他者を見下すあの女神でございます……。ふふふふふ」
笑っているが目は笑っていない。
「しかも!!あんな美しい男を飼っているなんて妬ましい!!キー!!!!!何でお前達は光の勇者より美しく無いの!!!こうしてやる!!!こうしてやる!!」
ザファラーダはそう言うと、後ろにいる吸血鬼騎士の顔を長い爪で斬り刻む。
吸血鬼騎士の悲鳴が聞こえる。
綺麗な顔から皮がはぎ取られ、その下の肉がむき出しになる。
まあ再生能力が高い吸血鬼なのですぐに元に戻るだろう。
しかし、いい加減にやめさせなくては話が進まぬ。
「姫様。それぐらいで、お願いします。主の前でございます」
察したのかベイグがザファラーダを止める。
「ハアハア…。あら申し訳ございません。御父様」
3名の吸血鬼騎士の顔を斬り刻み、ようやくザファラーダは落ち着く。
ザファラーダは強いがザンドと同じく性格に難がある。
我が娘ながら面倒臭い。
「良い。しかし光の勇者が来ているとはな。ディアドナの崇める者共からそんな報告は受けてはおらぬぞ」
「しょせんは下等な者共。情報に漏れがあったようです」
「そうか……。しかし、なぜ奴らがここへ?まさか、この黒いピラミッドを取り戻すためにイシュティアが連れて来たのか!!」
このピラミッドはイシュティアの息子ハルセスから奪ったものだ。
そして、建設中のピラミッドを完成させ、黒いピラミッドと名付けたのである。
イシュティアが自身の息子のためにレーナから光の勇者を借りたのかもしれない。
「今この黒いピラミッドを返すわけにはいかぬ!!」
ヘイボスの設計図を元に作った黒いピラミッドの能力は凄まじい。
うまく使えば、このザルキシスの本来の力を取り戻してくれるだろう。
忌々しいエリオスの者とはいえ、ヘイボスはまさに天才だ。奴隷としてなら生かしても良いだろう。
最初はこのピラミッドに興味は無かった。
しかし、ハルセスがアポフィスに対抗するためにピラミッドを新たに建造をし始め、それを怒ったダハークが奪った事で話は変わった。
強力な魔道装置であるピラミッドを使えば、このザルキシスの肉体を再生する事ができるのではないかと思いついたのだ。
だからこそ、返すわけにはいかない。
「どうなさいますか?御父様?」
「ザファラーダよ。ディアドナに連絡を取れ。念の為に援軍を送ってもらうのだ」
「はい御父様」
ザファラーダが退室する。
「ベイグ将軍。儀式を早める。贄を連れて来るのだ」
「我が主よ。儀式の準備はまだ整っていません」
「構わぬ。もし、この黒いピラミッドを失えば、もはや、力を取り戻す事は出来ぬだろう。不完全であっても儀式を進める」
「わかりました。我が主」
そう言うとベイグは頭を下げ退室する。
別室にはザファラーダと幽鬼達に命じて攫わせた贄達がいる。
その多くはジプシールから攫った者達で、中には高位の生命体であるスフィンクスもいる。
魔力の源である魂を贄共から吸い取る事で、肉体を再生させる。
本来なら少々の贄では肉体の崩壊を遅らせる事しかできないが、強力な魔道装置である黒いピラミッドで極限まで増幅させれば可能のはずだ。
「そして、いよいよ、これを使う時が来たか……」
法衣から一つの書物を取り出す。
死者の書。
古竜に天使の皮を紙にして、その血で神聖文字を綴った強力な魔道書。
数百年の時をかけて完成させた、世界に二つとない宝具である。
書物を開くと血で書かれた神聖文字が赤く光る。
「死者の書よ!!贄共の魂を闇の柩に集めよ!!黒いピラミッドの魔力を高め!!肉体を再生させるのだ!!今こそ!!このザルキシスの復活の時である!!」
ちょっと短いです。
実は前回の話の最後にザルキシスの事を書く予定だったのですが、忘れていたのですよ (´・ω・`)
そのため、中途半端な長さになりました。
ちなみに一連の失踪事件の犯人と、その目的が判明する回だったりします。
HJ文庫は2次選考脱落。やっぱり、駄目でした(´;ω;`)