黄金の都アルナック
◆黒髪の賢者チユキ
獅子の女王セクメトラ。
冥府の神ウシャルスの妹にしてジプシールの光明神ハルセスの叔母である。
有翼獅子女達の女王でもあり、全てのスフィンクスは彼女の眷属である。
そして、彼女こそがこのジプシールの真の支配者なのだろう。
その真の支配者である彼女はアルナックの黄金宮の王の間、高い場所から私達を見降ろしている。
黄金で全身を飾り、その黄金の飾りの全てに宝石が嵌めこまれている。
獅子と人の姿を重ねたその姿から強力な圧力を感じる。
「さて、来訪者は全て揃ったようじゃな。さあ用件を聞いてやるぞ」
セクメトラが手に持つ杖を向ける。
黄金の杖は頭の部分に獣頭の飾りがあり、石突きが二股なっている、ウアスと呼ばれる杖だ。
杖は力と支配を意味し、権力の象徴でもある。
「ごめんなさいね。セクメトラ。実は貴方に用があるわけじゃないの。今日はここにいるはずのブルウルに会いに来たのよ」
イシュティアが並んでいる獣神達を見渡す。
「ほう?わらわの盟友であるブルウルに用があるじゃと?ブルウルよ前へ出て来るが良いぞ」
セクメトラがそう言うと右で並んでいる獣神達の中から1名の女性が出て来る。
一見の人間の女性のように見える。
しかし、そのワンピースの服の下から大きくて長い蠍の尾が出ている。
彼女がセルケト王国の蠍人が崇める女神、ブルウルなのだろう。
良く見ると、本当の姿になる前のギルタルに似ている。
「私に用事ですか?どういう事なのですか?」
ブルウルが前に出ると、訝しげに私達を見る。
「実は貴方の兄であるギルタルの毒でトールズとレイジの仲間が倒れたの。ファナが言うには解毒薬を作るには貴方の毒が必要らしいのよ。そこで、貴方の毒を少しわけてもらえないかしら?」
「兄がそんな事を……。そして、私の毒が必要」
ブルウルが自身の尾を触り、考え込む。
「お願いブルウルさん。貴方は兄と袂を分かったと聞いています。だから、兄に遠慮する事は無いはずです。毒を分けていただけないでしょうか?」
私はブルウルにお願いする。
「確か、黒髪の賢者チユキでしたね。確かに私は兄と袂を分かちました。しかし、私の毒を分ける義理もありません」
ブルウルはそっけなく首を振る。
「ねえ、ブルウル。そこは何とかならないかしら?」
イシュティアが前かがみになって、おねだりする。
男の獣神から歓声が上がる。
しかし、ブルウルは女神だ。その表情に変化はない。
「頼むブルウル!!仲間が危険なんだ!!助けてくれ!!」
レイジが真剣な表情でブルウルを見つめる。
あれ?何か一瞬ブルウルの表情が変わった気がする。
「まっ、まあ、私も非情ではないですから。ここは盟主殿の判断にお願いしたいと思います」
そう言ってブルウルはレイジの視線から逃れるようにセクメトラの方を見る。
もしかすると、ブルウルは面食いなのかもしれない。
そして、盟主という呼び名が示すとおり、ブルウルとセクメトラは主従関係では無いのだろう。
その場にいる者、全員がセクメトラの方を見る。
「そうか、ブルウルよ。わらわが判断して良いのじゃな。それでは、その頼みは聞けぬな。兄上を傷つけたズト。そして、そなたらの仲間とは縁もゆかりも無い。助ける義理はないぞ」
セクメトラはふふんと笑って、私達の頼みを断る。
ズトと言うのはエリオスの戦神であるトールズの事だ。
そういえば、トールズはこのジプシールでは悪神という扱いだった。
セクメトラとしては助ける義理は無いのだろう。
イシュティアの話ではもっと簡単な感じがしたのだけど……。
そんな事は無かった。
「お願いだ!!獅子の女王よ!!そんな事を言わずに助けて欲しい!!」
レイジがブルウルの時と同じように真剣な顔をしてセクメトラに頼む。
しかし、心を動かされた様子は無い。
レイジが好みでは無いのかもしれない。
「くどいな光の勇者よ。わらわは何の得にもならぬ事はせぬ」
セクメトラは首を振る。
その笑みには何か含む所がありそうだ。
「なるほど、つまり、セクメトラ。何か得になるのなら、話は別と言う事よね」
「ふふふ。話が早いなイシュティアよ。さすが、わらわの好敵手じゃ。実はな、今ジプシールで問題が起こっておってじゃな。その解決をしてもらいたいのじゃ」
セクメトラがウアス杖を再び、こちらに向ける。
その顔は笑っている。最初から私達に何かさせるつもりだったのかもしれない。
「問題?それは何?」
イシュティアが首を傾げる。
「ああ、それはじゃな。このジプシールを守るピラミッドの事は知っておるか?」
「知らないな……。チユキ知っているか?」
レイジが私を見る。
「知っているわ。レイジ君。ジプシールを守るピラミッドの結界の事よね?」
確かジプシールには大小、合わせて100近い数のピラミッドがある。
そのピラミッドは魔力の発生装置で、ジプシール全体を結界で覆っている。
つまり、ジプシール全体がラヴュリュスの迷宮と同じ効果があるのだ。
この地で戦う限りジプシールの神々は有利となる。
迷宮という限られた場所では無く、地域全体を覆う程の大掛かりな結界はジプシールにしか無いだろう。
「さすがは賢者と呼ばれる事はあるぞえ。その通りじゃ。わらわの愛する夫ヘイボスが作りし、アルナックの黄金のピラミッド。その複製をハルセスとイスデスが大量に複製する事でジプシール全体を結界で覆っておる」
セクメトラが自慢げにピラミッドの事を話す。
彼女の夫はエリオスの鍛冶神ヘイボスだ。
兄妹そろってエリオスの神と強い繋がりを持っている。
ドワーフが多く住むジプシールのプタハ王国ではヘイボスの大きな神殿があるらしい。
セクメトラにとって、夫のが自分のために作ったピラミッドがすごく誇らしいのかもしれない。
「なるほど。そのピラミッドがどうしたんだ?」
レイジが問うとセクメトラの顔が曇る。
どうしたのだろう?
「実はな、そのピラミッドの1つなのじゃがな……。つい最近、アポフィスの蛇共に奪われたじゃ」
イシュティアが驚きの声を上げる。
「はあ?どういう事なのセクメトラ?そんな重要な物を奪われるなんて。守りはどうなっているの?」
「そう言うな。イシュティアよ。奪われたのはジプシールとアポフィスの境に作っていた建造中のピラミッドじゃ。最近蛇共が騒がしいので、ハルセスとイスデスが新たにピラミッドを作ろうと言い出してな。まだ、完成しておらず、守りが万全ではない所を突かれたのじゃ」
セクメトラは、そう言ってハルセスの方を見る。
少し離れているがハルセスの顔が少し青ざめているように見える。
もしかすると彼が建造中のピラミッドの責任者なのかもしれない。
「奴らは、その9割がた出来ていたピラミッドを完成させて、そのピラミッドの魔力を利用してジプシールの結界に穴を開けよったのじゃ。そのためジプシールを覆う結界の力はは通常より半減しておる。おかげで蛇共がジプシールで暴れまくっておるわ。全く忌々しい限りじゃ」
なるほど、これでダハーク達があそこいた理由が分かった。
「そこでじゃよ。お主たちには、そのピラミッドの奪還。もし、できぬようなら破壊して欲しいのじゃよ。それでブルウルの毒との引き換えにしようぞ」
セクメトラは最後にそう言ってウアス杖を向ける。
なるほど、マートから連絡が来た時点で私達が何か目的があってアルナックに来た事はわかるはずだ。
そこでセクメトラは私達に奪われたピラミッドの対処をさせる事を考えた。
ブルウルもセクメトラに判断を任せるあたり、その意図を知っていたのだろう。
全く何て事だ!!
こんな、厄介事を頼まれるなんて。
つまり私達はジプシールとアポフィスの争いに巻き込まれた事になる。
「わかった!!その申し出を受けよう!!」
レイジが当然のごとく返事をする。
シロネと助けるためだ。仕方が無いだろう。
「仕方が無いわね……。当然貴方も手伝ってくれるのでしょう女神トトナ」
私は溜息を吐くと、トトナを見る。
「わかってる。私も兄さんを助けなければいけない」
そしてトトナは自分の後ろにいるメジェドを見る。
メジェドはぶんぶんと頭を縦に振る。
まるで、任せろと言っているみたいだ。
どうやら、このメジェドも来るみたいである。
「ちょっと待つにゃあ!!トトナんも行くのにゃあ?!!危険にゃあ!!あそこには怖いのがいーっぱいいるのにゃあ!!」
突然セクメトラの後ろにいたネルが大声を上げる。
親友が危険な所に行くのを心配している。
トトナの神話を聞く限り、彼女は戦いに向いていない。
心配するのもわかる。
「大丈夫よ!!ネル!!私には強い味方が付いている!!私は彼の力を信じる!!」
その言葉に周囲がどよめく。
私もおおっ!!!と驚く。
まさか、彼女がレイジをこんなに信頼しているとは思わなかった。
「ありがとう。トトナちゃん。そこまで信頼してくれて嬉しいよ」
レイジがトトナにお礼を言う。
だけど、何故かトトナが不思議そうな顔をする。
「ふふふ!!これで決まりじゃな!!さて、今宵は前祝と行こうぞ!!酒じゃ!!酒と肉を持って来るのじゃあ!!」
セクメトラの笑い声が部屋にこだました。
◆打ち倒す者クロキ
自分とトトナはネルに案内されてアルナックのネルの部屋へと向かう。
今頃、王の間では宴会の準備がされているだろう。
しかし、自分達はそれに参加せず。ネルの部屋で別に小さな宴会をする事になった。
これはトトナがメジェドの格好で不便な思いをしている自分の為に言い出した事である。
やがて、可愛らしい猫がたくさん描かれた扉の前に来る。
ここがネルの部屋なのだろうか?
「お帰りなさいませにゃあ。姫様」
あれ?どこからか声を聞こえる。
門の下を方を見ると小さな槍を持った、2本脚で立っている猫が左右に二匹いる。
ネルの部屋を守る門番なのかもしれない。
2本足で立ち、喋る所から見て、この猫は妖精猫なのだろう。
ジプシールはこの世界の猫の起源と言われている。
妖精猫がいてもおかしくない。
「ただいまなのにゃあ。みんな」
ネルが言うと門番の猫が門を開く。
猫の手でも開けられるぐらい、門は軽いみたいだ。
「ところで?トトナん。本当に大丈夫なのかにゃあ?蛇の王子はとっても危険と聞くにゃあ」
部屋に入るとネルが不安そうに聞く。
ネルフィティ王女はヘイボス神と獅子の女王セクメトラとの間に出来た子供だ。
ヘイボス神を見初めたセクメトラが迫りまくって夫婦になったらしい。
獅子の女王だけに、とても肉食系だと思う。
そして、トトナとネルが親友になったのは、ネルが父親であるヘイボス神の所に遊びに行ったときにエリオスで迷子になった事がある。
その時にたまたま出会ったトトナに助けてもらい親友になったそうだ。
両者はとても仲が良さそうだ。
「大丈夫よ。ネル。私には彼がついているもの」
そう言ってトトナが自分を見る。
とても信頼してくれているような気がする。
これはもうトトナだけは何があっても守らなければならないだろう。
それにシロネを救うためでもある。自分にも戦う理由がある。
「ところで、さっきから気になっていたにゃあ。この面白いのは何なのにゃあ?」
ネルが自分を指差す。
トトナが自分を見る。
教えて良いか聞いているみたいだ。
当然、自分はぶんぶんと首を縦に振る。
トトナが信頼する者なら自分も信頼しよう。
「彼はクロキ。布を被っている間はメジェドを名乗っているわ。彼は光の勇者やアルフォスにも勝った、ナルゴルの暗黒騎士よ。彼ならば蛇の王子も怖れる事はないわ」
トトナがふふんと少し胸を反らして自分を紹介する。
何故だろうか?少し自慢げに聞こえる。
ネルが目を丸くする。
「あの最強のアルフォスに勝ったにゃんて、にゃるほどにゃ……。確かにそれなら大丈夫かもしれないにゃあ」
ネルが自分をしげしげと見る。
そんなに見られると恥ずかしい。
「クロキ。ここでなら、喋っても良いし、布を取っても大丈夫」
トトナの言葉にほっとする。
レイジ達の前では喋る事もできず。体を揺らす等の全身で意思表示をするしかなかった。
傍から見たら腰を振っているようにしか見えなかっただろう。
それに、とても動きにくく、息苦しかった。
自分は布を取る事にする。
「はあ~。とても息苦しかったです。トトナ」
白い布を取り解放感を味わう。
あれ?なぜかトトナとネルの視線が自分の下半身に向いている。
自身の下半身を見る。
そこで、とんでもない事に気付く。
しまったーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!下に何も履いていない事を忘れていたーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
しかし、既に遅く自分の股間をトトナとネルの前にさらしてしまった。
「ほえ~。小さい頃のハル君のを見た事あるけど、形が全然違うにゃあ~。もしかしてすごく立派なのじゃないのかにゃあ?トトナん?」
ネルが興味深そうに見た後、トトナの方を見る。
しかし、トトナは何も答えない。
表情が何も変わっていない。ただ、じっと自分の股間を見ている。
慌てて自分は股間を隠す。
「あの~。トトナ。これはその……」
何とか弁解しないといけない。そうでなければただの変態だ。
「トトナん?どうしたのにゃあ?」
ネルが心配そうにトトナに声をかける。
そういえばトトナの様子がおかしい。
そう思った瞬間だった。
トトナが後ろに倒れる。
「ちょ?!!危ない!!」
床にぶつかる前に慌ててトトナを支える。
どうやら、気絶しているみたいだ。
そんなに自分の股間が衝撃だったのだろうか?
「トトナーーーーーん!!しっかりするにゃああああああああああああ!!!」
ネルの叫びが部屋に木霊するのだった。
プタハとセクメトと言う名前からネルの父親が誰かバレバレかもしれないと思いましたが、特にそのような感想が無かったので、少しさみしかったりしますヽ(○´w`○)ノ
先日の雨、通勤中の時に水たまりで原付がスリップして右半身打撲。
骨折はしていないですが、今もとても痛いです(TεT;)