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暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第1章 謎の暗黒騎士
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神殿の訓練場にて

◆勇者の仲間チユキ


 レーナ神殿の騎士達の訓練場にはレイジとシロネが軽く剣を合わせている。

 剣は訓練用の軽い木で作られた物だ。

 2人は剣の練習をしている。


「あのチユキさん……」


 私の横でサホコが不安そうな声をだす。


「わかっているわ。少しでも危ないと思ったらやめさせます」


 私はサホコを安心させるように言う。

 レイジがシロネから剣を教えてもらっているのはディハルトと再戦するかもしれない時のためだ。

 レイジはまだやっと起き上がれる状態だ。

 だが、ずっと寝ているのは性に合わないのだろう。

 シロネに剣を習いたいと申し出たのだ。

 その話を聞いたとき、私は驚いた。

 この男が武道を習いたいと言うとは思わなかったのである。

 レイジは武道の素人である。

 レイジの親は息子に何か武道をさせようとしたらしいが、子供の時から今と同じ性格だったため誰もレイジに武道を教える事ができなかったようだ。

 レイジの家の人の話をちらりと聞いたことがあるが、大人から見ると生意気であり、雇い主の手前叩きのめすわけにもいかず、誰もまともに武道を教えてくれなかったようだ。

 しかも、レイジの運動能力は並外れて高く武道を何もしなくても強い。

 そのためレイジも積極的に武道を学ぼうとしなかったみたいだ。

 むしろ、何もしなくてもあれだけ強い事の方が驚きだ。

 そんなレイジが剣を学びたいと申し出たのだ。ディハルトとの戦いで何か思う所があったらしい。

 これは、非常に良い影響なのではないだろうか。

 レイジにはあれだけの才能があるのだ、学べばもっと上にいけるはずだ。

 子供の頃はともかく、体が大きくなってからレイジが負けたことはなかった。

 何かの本で読んだが、敗北が人を成長させる事もあると聞く。

 武術を極めたレイジなら、ディハルトにも簡単に勝てるのではないだろうかと思う。

 努力する天才には誰にも勝てないのだから。

 だがまだ体が本調子ではないためサホコは当然反対した。

 そこで私が横から見て危ないと思った時は練習をやめる、という条件付きで練習しているのである。

 なぜ私かというと、私が一番冷静に物事を見るかららしい。

 まあ、練習に反対のサホコはともかく、他のメンバーではこういう役は無理だろう。

 シロネもどこかレイジを普通の人間ではないヒーローだと思っている所があり、レイジに無茶をさせてしまうかもしれなかった。

 そのため私がストッパーになっているのである。

 シロネはレイジに剣の握り方から教えている。なんでも柔らかく持ち、斬るその一瞬だけ力を込めると教えている。

 側から見ている私も勉強になる。

 だが、シロネは自分は教えるのはうまくないと言う。

 シロネ自身も言っているが、シロネは剣道の才能があまり有る方ではないらしい。

 教え方もぎこちない。

 それに、特訓するにはこの世界の特有の弊害もある。

 それは、私達が超人になっているからだ。

 たとえばウェイトトレーニングをしようとするとしよう。

 この世界の100キロに相当するダンベルを持って特訓しようとしても、非常に軽いのである。

 非力なサホコですら100キロぐらい片手で持てるのである。

 私達の世界で100キロに相当する物でちょうどいい大きさのものがない状態だ。

 だから、ウェイトトレーニングはできない。

 だが、そうなってくると特訓は技術の習得になってくる。

 ところがシロネもレイジほどではないが身体能力が高いためか、あまり技術が磨かれなかったそうだ。

 しかも、2年ほど自分の家の道場から離れていたらしくブランクがある。そのため、教える内容も限られてしまう。

 私はため息を吐く。シロネには悪いがせっかくレイジがやる気になっているのだ。もっと良い師匠が必要だろう。

 シロネの指導は拙いながらも進んでいる。

 レイジも素直にシロネの教えを受けている。

 いつになくレイジの顔が真剣だ。

 顔の良いレイジがああいう顔をすると思わず見とれてしまう。


「ありがとうシロネ」


 レイジが爽やかな笑顔で言うとシロネの顔が少し赤くなる。

 サホコが見ているというのに近づきすぎではないだろうか?

 横を見るとサホコがほんのちょっと険しい顔をしている。

 やはりというかレイジとシロネが密着しているのが気になるらしく顔が面白くなっている。

 だが、気になるのはサホコだけではないらしい。この練習場には私達だけではなく、神殿で働いている女性や神殿に出入りが許された市民の女性が20名ほどレイジを見に来ていた。

 レイジが回復したと聞きつけて、集まったらしい。

 この訓練場は神殿の本堂とは外れた所にあるので、比較的に自由に入る事ができた。

 そのため結構多くの女性が集まっている。

 正直、練習の邪魔になるようなら追い出さねばならない。

 ただ、彼氏に群がる悪い虫を追い払う彼女みたいで正直不満だ。

 このレナリア市の女性からわたしは高慢な女性と思われているらしい。

 レイジの側にいる私達はレナリア市の女性からあまり好かれていない。理由は人気のレイジの側にずっといるからだ。

 まあ一番嫌われているのはキョウカであるのだが。

 キョウカは女性からは嫌われ、男性からは恐れられているようだ。

 以前、街中で変質者に魔法を使おうとして暴走させた。その時巻き添えをくらって何人もけが人をだしたのだ。それが原因で男性からは敬遠されているようだ。

 私達の中で、比較的に女性に人気があるのはシロネだったりする。シロネは凛々しい所があり年下の女の子から好かれている。

 今この訓練場にはシロネ目当ての子もいるのだろう。

 逆に男性に一番人気なのはリノだ。まあ、可愛く愛嬌の良い彼女が男性に人気なのはいまさらだが。

 サホコも人気があるが、彼女の場合は人気というより敬愛に近い。癒しの力で病人を直す彼女は聖女と呼ばれている。

 レイジの練習を見る。レイジの動きが鈍い。

 当り前だろう、胸を深く斬られたのだ。今のレイジはサホコの魔法で無理やり命を繋いでいる状態だ。

 やはり、あまり無理をさせるべきではないだろう。

 今日はこれぐらいにした方がよさそうだ。

 そう思っていると訓練場の中が騒がしくなる。


「ちょっと、どいてくださる」


 何事かと思いそちらを見ると観客の女性たちの中をかきわけて2人の女性が出てくる

 キョウカとカヤの2人だ。

 この2人はおいしいパン屋を見つけたと、そのパン屋に行っていたはずだ。

 その2人がずかずかとこちらに歩いてくる。


「キョウカさん、何かあったの?」


 サホコがキョウカに聞く。


「大変な事がありましたの!!」


 キョウカが言う。

 しかし、キョウカは物事を大げさに言う癖があり、本当に大変な事だったかわからない。

 私はカヤを見る。


「大変な事がございました」


 どうやら本当に大変な事があったようだ。

 私はレイジとシロネの練習をやめさせ、部外者の女性を追い払う。


「なにがあったんだい? キョウカ?」


 レイジがこちらに歩いて来てキョウカに聞く。


「お兄様~。変質者にあったのですの。キョウカは怖かったですわ」


 変質者……確かに大変な事だ。


「そうか、大変だったねキョウカ。その変質者はあとで八つ裂きにしておくよ」


 この世界でのレイジなら本当に八つ裂きにするだろう。だが問題はそれだけではない。


「キョウカさん、それでどうしたの?」


 私はキョウカに話を促す。


「変質者はわたくしの胸を揉んできましたの」


 変質者はキョウカの胸を揉める位置まで近づいたという事だ。お付きの騎士達は何をしていたのだろう?


「それで、どうしたの?」


 私はさらに話を聞く。


「私が叩きますと、そのまま逃げていきましたわ」


 一番聞きたいのはそこではなかった。


「それで魔法は? 街は大丈夫なの?」


 以前、キョウカは魔法で街を破壊したことがある。今回もそれが心配なのだ。


「チユキ様、お嬢様は魔法を使われておりません」


 代わりにカヤが答える。

 その言葉に私は胸をなでおろす。

 どうやら街は大丈夫のようだ。


「それでカヤ、その変質者はどうしたの?捕まえて騎士達に渡したの?」

「いえ、とり逃がしました」

「そうなの? カヤさんが? 珍しいわね」


 カヤが本気ならとり逃すわけがない。わざと捕まえなかったのだろう。


「はい。私はその者に投げ飛ばされ身動きが取れませんでしたので」

「えっ……?」


 私はその言葉に耳を疑う。

 カヤが投げ飛ばされた?

 カヤはキョウカの付き人で、護衛も兼ねている。徒手空拳の空手や拳法などを習得している。

 その腕前はなかなかのもので、さすがに本職の武道家には敵わなくても元の世界の素人なら大人の男性でも太刀打ちできないだろう。

 ましてやこの世界の人間ならカヤは数百人を相手にしても勝てるだろう。

 そのカヤが投げ飛ばされたのである。大変な事ではないか。

 よくよく考えてみたら、キョウカの話にもおかしな所がある。

 キョウカが本気でビンタをしたのなら。この世界の男性なら頭が吹き飛ぶ。

 しかし、そうではない。その変質者は只者ではない。


「緊急事態よ! みんなを集めてっ!!」



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