合流
◆打ち倒す者クロキ
空を飛ぶキマイラに乗り自分とトトナは後ろからレイジ達を見守る。
「戦いが始まったわ。メジェド」
「みたいですねトトナ」
トトナの言葉に頷く。
レイジ達に追いつき、合流しようかどうか迷っていると突然砂煙が上がり。
戦闘が始まったのである。
レイジは突然現れた長い槍を持った男と戦っている。
かなりの腕前だ。
「トトナ。あの槍使いは何者ですか?」
「あれは、蛇の王子ダハーク。蛇の女王ディアドナの息子。アルフォスによって殺されたと思っていたけど生きていたなんて……」
トトナが信じられないという顔をする。
蛇の女王はエリオスに敵対する女神だ。
その息子がどうしてここにいるのだろう?
そんな事を考えていると
レイジ達がいる場所から少し離れた所で、下半身が蛇の女性達が現れる。
ラミアにゴーゴンだ。
彼女達は蛇の女王の眷属のはずだ。
おそらく、蛇の王子につき従って一緒に来たのだろう。
自分達もレイジ達を加勢するべきだろうか?
レイジの方は問題無いと思う。
腕が前よりも上がっているような気がする。
槍使いはかなり強いみたいだけど、今のところレイジが優勢だ。
しかし、レイジの仲間はどうだろうか?
「あっ?」
思わず声が出る。
突然砂の中から現れた巨人が仲間の女の子を捕えたのだ。
捕えたのは巨人の代名詞となった大地の巨人だ。
砂の中から現れた大地の巨人が女の子を左手で掴む。
捕えられた彼女には見覚えがある。
確かチユキという名の女の子だ。
大地の巨人の腕力は神族に匹敵する。
捕まるのは危険だ。
「トトナ!!彼女を助けます!!」
自分はそう言うとキマイラの背中から飛び、巨人に向かう。
飛翔の魔法で飛び、そのまま体当たりすると巨人はチユキを離す。
巨人がぶっ飛び、チユキが可愛らしい悲鳴を上げる。
自分は空中でチユキを抱きとめて砂に上に着地する。
チユキを砂の上に下すと彼女は呆けたような表情でこちらを見る。
何が起こったのかわかっていないみたいだ。
考えてみれば彼女を助けるのは3回目だ。
2度ある事は3度あるとはよく言ったものだ。
「何者だあ!!!貴様あ!!!!」
怒声が聞こえる。
声のした方を見ると突き飛ばした大地の巨人が起き上がる。
その巨体から風が吹く。
大地の巨人は魔力も強い。
魔法で速度を上げるつもりなのだろう。
頭から被っている布が風に煽られる。
迎え撃つしかないだろう。
「きゃああああああああああああああああああああああ!!!蛇がーーーーーー!!!!!巨大な蛇がーーーーーー!!!!!」
チユキが突然悲鳴を上げる。
驚いた自分はチユキを見る。
彼女は顔を真っ赤にして震えている。
どうしたのだろう?
「この俺様を突き飛ばした事を後悔するがいい!!」
しかし、そんなチユキを気にする暇はないようだ。
大地の巨人がこちらに迫って来ている。
「見えざる灰色の精霊よ!!呼び声に応えて!!敵を防ぐ壁となりなさい!!真影霊壁!!」
突然、頭上からトトナの声が聞こえる。
「ぐげっ?!!!」
猛烈な勢いでこちらに向かって来ていた大地の巨人がトトナの作り出した魔法の壁にぶつかると変な声を出して仰向けに倒れる。
トトナの使った魔法は完全に無色透明な壁を作り出すものだ。
この魔法の壁は感知能力が高くなければ、その存在に気付く事ができない。
そして、かなり頑丈である。
何も知らずに突っ込むと、倒れた大地の巨人のようになってしまうだろう。
ルーガスが前に使っているのを見た事があるが、トトナも使えるみたいだ。
「大丈夫?」
キマイラに乗り、本を持ったトトナが降りて来る。
持っている本はおそらく魔道書だろう。
「助かりました女神トトナ……。大丈夫です……」
我に返ったチユキがトトナに返事をする。
わずかに見える頬が真っ赤になっている。
きっと、彼女は蛇が苦手で思わず叫んだ事を恥ずかしく思っているのだろう。
現に彼女は恥ずかしがってこちらを見ようともしない。
誰にでも苦手はあると慰めてあげたいが、声を出すと正体がばれるので黙るしかない。
「そ?!それよりも!!大地の巨人をなんとかしないと!!」
チユキが叫ぶ。
残りの大地の巨人は5体。
猫人達は素早いので今の所は捕まっていないが、何とかしないとまずい。
「メジェド!!お願い!!」
トトナの言葉に頷く。
砂を蹴ると大地の巨人の一体に向かう。
自分に気付いた大地の巨人が棍棒を振る降ろしてくるのを体を捻って躱すと、飛び上がり、身を屈めた大地の巨人のお腹に体当たりする。
「ぐげっ!!!」
変な声を上げて浮かび上がった大地の巨人の体を猫人を追いかけている別の大地の巨人目掛けて蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされた大地の巨人の体が別の大地の巨人にぶつかり倒れる。
これで2体倒した。残りは3体。
3体の大地の巨人は信じられないと言う表情でこちらを見ている。
その間に猫人達は大地の巨人から距離を取り、トトナ達の所に向かう。
これでもう大丈夫だろう。
大地の巨人は戦意を失い、倒れた仲間を担ぎ後ろに下がる。
ラミアとゴーゴンは猿みたいのから逃げている。
襲撃者達は自分達が来た事で奇襲に失敗した。引いてくれると良いのだが。
「レイジ君!!」
チユキがレイジの所に向かおうとする。
レイジとダハークの戦いだ。
レイジの方が優勢だ。しかし、後一名姿を見せていない者がいる。
彼女はそれに気付いていないみたいだ。
自分はチユキがレイジの所に行かないように行く手を阻む。
彼女がびっくりした顔して目を背ける。
まだ、大声を出した事が恥ずかしいみたいだ。
「ちょっと?!!何で邪魔するの?!!!」
チユキが顔を背けたまま抗議する。
しかし、行かせるわけにはいかない。
「氷槍よ!!」
突然、何も無い空中から自分達目掛けて氷の槍が飛んで来る。
その氷の槍を目からビームを出して撃ち落とす。
そして、氷の槍を放った者を見上げる。
そこには真紅の衣装に来た女性が宙に浮かんでいる。
女性の肌は病的に白く、衣装と同じく真っ赤な髪が印象的である。
美人だ。
しかし、その美しさは偽物。
真の姿はわからないが、見せている姿が偽物なのはわかる
「何よ?!!どういう事なの?!!まだいたの?」
チユキが驚く。
無理も無い。
自分もつい先程まで気付かなかった。
感知されない能力でも持っているのかもしれない。
「ふふふ、悪いけど、ダハ君の所には行かせられないわねえ」
そう言って真紅の女が笑う。
血の色をした唇から刃のように尖った歯が見える。
何とも不安感を誘う女性だ。
「ザファラーダ。死神の娘。貴方まで来ているなんて」
キマイラに乗ったトトナが真紅の女性の前に出る。
「ふふふ。確か貴方はトトナだったかしら?卑しくも神王を名乗るオーディスの娘。貴方の血はどんな味がするかしらね。でも今は駄目。撤退させてもらうわ」
そう言うとザファラーダから赤い霧が吹き出す。
赤い霧は一瞬にして広がると自分達に向かって来る。
巨人や蛇女達を襲わず、自分達だけに向かって来るので、まるで生きているみたいだ。
「まずい!!みんな下がって!!」
トトナの叫びに全員が赤い霧から逃げる。
赤い霧はザファラーダ達を守るようにうねうねと動く。
レイジも赤い霧に襲われ、ダハークとの戦いをやめて後退する。
「邪魔をするな!!ザファラーダ!!どういうつもりだ?!!」
ダハークが空に浮かぶ女性に向かって叫ぶ。
「駄目よダハ君。アルナックの軍勢がこちらに向かっているわ。そろそろ引くべきよ」
それを聞くとダハークが舌打ちをする。
「チッ!!勝負はお預けだ光の勇者!!次はぶっ殺してやる!!行くぞザファラーダ!!」
「ええ、わかっているわ。ダハ君」
ザファラーダの体からさらに赤い霧が出て、ますます濃くなる。
そして、数秒の後、赤い霧が晴れると、そこには誰もいない。
どうやら逃げたみたいだ。
「これで、もう大丈夫だと思う」
キマイラに乗ったトトナが自分の側に降りて来る。
敵の気配は感じない。
しかし、油断は出来ないだろう。
あのザファラーダの気配は姿が見えても、感じ取る事が難しかった。
気配を完全に隠せる敵が潜んでいる可能性もある。
「ふふ、助かったわトトナちゃん。まさか蛇の王子ダハークに腐敗と疫病の女神ザファラーダまで出て来るとは思わなかったわ。大地の巨人も予想外だったし、正直に言って貴方達が来てくれなかったら危なかったかも」
トトナの側に誰か来る。
レイジと一緒にいた者だろう。
声の主を見る。
「―---------!!!!!」
思わず叫びそうになる。
そこにはとんっ!!でもなくエロいお姉さんが立っていた。
大きく開いた胸元からはレーナを超えるかもしれない爆乳が零れ落ちそうだ。
腰まで切れ込みのあるスリットからはお尻が少しはみ出している。明らかにノーパンですよね?あれ?
もう見ただけで、ありがとうございます!!!と言って土下座をしたくなる程だ。
誰なのですか?この方は?
「それは嘘。イシュティア様なら大地の巨人ぐらい何とも無いはず」
トトナが冷めた目でイシュティアを見る。
愛と美の女神イシュティア。
噂には聞いていたけど彼女がそうなのか。
「まあね。私だけなら大丈夫かもしれないけどね。チユキや侍女達は危なかったわ、改めてお礼を言うわトトナちゃん」
イシュティアがトトナに可愛らしくウインクするとこちらを見る。
「ところでトトナちゃん。すごく面白そうなのを連れているけど、それは何?トトナちゃんが作った魔法生物か何か?」
興味深そうにイシュティアが側に寄る。
思わず後ろに下がる。
あまりのエロ光線に気後れしてしまう。
これは毒だ。
ぶっちゃけレーナの方が美人で好みだ。
しかし、イシュティアはセックスアピールが凄すぎる。
正直、こういうイケイケすぎるのは苦手だ。
遠くから見ているだけで良い。
「イシュティア様。メジェドに近づかないで下さい」
トトナが前に出て庇ってくれる。
助かった。
「もうトトナちゃんの意地悪。何なのか聞いただけなのに」
「メジェドはただの護衛。それ以上でもそれ以下でもない。ところでイシュティア様。いつもよりすごい格好。今度は誰を狙っているの?」
トトナが話題を変えるようにイシュティアに言う。
確かにすごい格好だ。正視できない。
「ふふ、それはもちろん彼よ」
イシュティアが横目でレイジを見る。
レイジはチユキと話している。
チユキの無事を確認しているみたいだ。
それにしても、こんな美女に狙われるなんてさすがレイジだ。
本当に相変わらずだ。
「彼はレーナの恋人です。イシュティア様」
トトナの声が少し冷たい。
「あら、トトナちゃん。そんな事を言っていると貴方は誰とも付き合えないわよ。だって、良い男なら既にどこかの女が側にいる者だもの。それとも、余り者の内面も外見もぐちゃぐちゃな邪神と付き合うつもりなの?それは嫌でしょ。気になる男性がいるのなら、恋人がいても奪うつもりで行くべきよ」
「!!!!」
イシュティアがそう言うとトトナがよろけて後ろに下がる。
見ると電流に撃たれたような顔をしている。
「ふふ、ねえトトナちゃん。いつまで引き籠っているつもり?レーナちゃんと比べられるのが嫌だからといって、そんな厚いローブを着てさ。ずっと、レーナちゃんの影に隠れて生きるつもりなの?貴方はフェリに似て可愛いのに、もったいないわ」
「ああ……」
トトナがガクガクと震えている。
良くわからないがトトナは困っている。
トトナの前に出る。
例え、エロいお姉さんと言えど、トトナを困らせる事は許せない。
彼女はとても優しいのだ。
イシュティアを睨む。
「あら、ちょっと言い過ぎちゃったかしら。ごめんねトトナちゃん。それから護衛君。安心しなさい。私はフェリの娘を傷つけるつもりはないわ」
イシュティアが前かがみになって謝る。
いつもなら、その胸に釘付けになるのかもしれない。
しかし、後ろのトトナが心配でそれどころでは無い
どうしたのだろう?
後ろを見るとトトナは俯き、ぶつぶつと何か独り言を呟いている。
何か考え事をしているみたいだ。
「女神トトナ」
突然、横からレイジがトトナを呼ぶ。
見るとチユキを連れたレイジがこちらに来ている。
相変わらずチユキはこちらを見ようともしない。
蛇嫌いを知られた事がそれほど恥ずかしかったのだろう。
「女神トトナ。チユキを助けてくれてありがとうございます」
レイジがトトナに頭を下げる。
その笑みはとても爽やかだ。
しかし、トトナは自分の世界に没頭している。
レイジの事に気付いていない。
こんなトトナはたまに見る。本に集中している時がそうだ。
いつもなら邪魔をしない。
なぜなら、本を読んでいる時のトトナは何となくだがとても楽しそうだからだ。
しかし、今は本を読んでいない。レイジが側に来ている事を教えよう。
トトナの方をぽんぽんと叩く。
「えっ?クロ……。いえ、メジェド?どうしたの?」
トトナが危うく自分の名を呼びそうになる。よっぽど深く考え事をしていたみたいだ。
だけど、ようやく我に返ったみたいだ。
トトナがレイジに気付く。
「えっ、えーと……。女神トトナ。チユキを助けてくれてありがとうございます」
さすがのレイジもトトナの様子に驚いているみたいだ。
「ああ……光の勇者レイジ?助けたのは私ではない。礼ならメジェドに言うべき」
トトナに言われてレイジがこちらを見る。
その目は怪しい者を見る目つきだ。
正体がバレませんように。
自分は心の中で祈る。
「ああ、仲間が助かった。ありがとう」
そっけない。トトナの時とえらい違いだ。
まあ、別にお礼を言われたくてやったわけじゃないから良いけど。
それに正体に気付かなかったみたいだ。
ほっとする。
「わ!!私からもお礼を言うわ!!助けてくれてありがとう!!」
レイジの後ろに隠れていたチユキがお礼を言う。
やっぱり、こちらを見ない。
でも、可愛い女の子が無事で良かった。
「さて、そろそろ良いかしら?話も終わった事だし、そろそろアルナックに向かいましょうか」
イシュティアが話を纏める。
「あの……。イシュティア様。それなのですが、船が壊れてしまいました。このままでは徒歩で向かうしかないかもしれません」
猫人の女性がおずおずとイシュティアに言う。
おそらく、彼女はイシュティアの侍女なのだろう。
主人である神を歩かせる事にためらいを持っているのかもしれない。
「いえ、大丈夫よ。迎えが来たみたいだから」
イシュティアが遠くを見て言う。
釣られて自分も遠くを見る。
戦車に乗った犬人の戦士達の姿が見える。
その上空には武装したハヤブサの頭を持つ鳥人達もいる。
おそらく、ジプシール神軍だろう。
これで、ようやく、ジプシールの神々が住む黄金の都アルナックへと行けそうである。
目をこらして犬人達を見て、そう思うのだった。
土曜の夜に更新する予定だったのですが、一晩遅れました(T^T)
更新速度があがりません……。
次回はようやくアルナック