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暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第7章 砂漠の獣神
127/195

ギプティスのスフィンクス

◆異国の魔姫チユキ


 イシュス王国から船に乗り、ナイアル川を南上するとギプティス王国へとたどり着く。

 魔法の櫂で進む船は速く1日でたどり着いてしまった。

 これが、人間の奴隷に漕がせたなら5日以上はかかるところである。

 ギプティス王国はナイアル川下流の下ジプシールとナイアル川上流の上ジプシールの境にある国だ。

 ここから、さらに南に行くとジプシールの神々が住まうアルナックへと辿り着く。

 ただし、許可無き者はギプティスより南に行くことはできない。

 そして、ギプティスはアルナックに入るための関所でもある。

 私達はここで船を降りて、アルナックへと向かう。

 船は今ギプティスの川港に停泊している。

 甲板で空を見上げる。

 空を見上げると綺麗な星空が見える。

 時刻は夜である。

 日中の暑さが嘘みたいに涼しい風が頬を撫でる。

 砂漠地帯では昼と夜の寒暖の差が激しい。

 遠視の魔法でギプティスの街を見る。

 焼きレンガで作られた街並みから異国情緒を感じる。

 大通りにはいたる所にスフィンクスの像が飾られ、通りを歩く者を見守っている。

 通りには様々な種族が歩いている。

 犬人に猫人。河馬人に鰐人に蠍人にフンコロガシ人。

 また、後からジプシールに移り住んだケンタウロスにミノタウロスにサテュロスの姿も見える。

 他の地域なら、この3種族は仲が良くないので肩を並べて歩くことは無い。

 このような光景が見れるのはジプシールだけだろう。

 そして、エリオスの神々の眷属である筈の人間やドワーフの姿も見える。

 一人の人間が目に入る。

 明らかにジプシールに住む人間では無い。

 服装から見て中央大陸西部のどこかの国から来たのだろう。

 小槌の御守りを持っているところから、宝神ヘイボスと商神クヴェリアを信仰する商人に違い無い。

 ジプシールは許可さえあれば、どのような種族でも商売をする事ができる。

 おそらく、交易の為に外からジプシールに来たのだろう。

 商人は酒場でエール酒を美味しそうに飲んでいる。

 ナイアルの恵みにより、ジプシールは農業が盛んだ。

 世界有数の麦の産地であり、下層の民も上等なパンやエールを飲む事が出来る。

 ジプシール産のエールは輸出され、各地で人気があるそうだ。

 他にも様々なものが輸出されている。

 特に一番有名なのは金細工である。

 ジプシールは金が豊富であり、黄金の都アルナックは砂金で出来た砂漠にあるらしい。

 今私が身に着けている金細工もジプシール産である。

 大きなラピスラズリが嵌め込まれた金細工はかなりの値打ちものだろう。

 ジプシール風の衣装に金細工を身に着けた私は異国の御姫様のようである。

 実際に女神イシュティアの侍女達は私を魔術師の姫を縮めて、魔姫と呼んでいる。


「はあ~。いつまで船にいるの? イシュティア」


 私は溜息を吐いて、イシュティアに聞く。

 実は私達は船の上で待機中だ。

 なぜなら、現在アルナックに行く道が封鎖中だからである。

 詳しい理由はわからない。

 イシュティアがギプティスのファラオに問い合わせた所、ファラオ自ら説明をしに来てくれるそうだ。

 しかし、そのファラオが中々来ない。

 仕方が無いからナイアル川の魚をつまみながら、特産のエール酒を飲んでいるのである。

 使う魚は鯉系の魚に鰻にカワハゼ、変わった所でサカサナマズである。

 塩、胡椒、クミン、ニンニク等を使った煮込み料理などは中々の美味である。

 他にも蜂蜜が入ったパンケーキ等が饗されて、甲板の上では可愛い猫人の踊り子が舞っている。

 侍女達が入れ替わり私達を接待する。

 シロネが大変な時にこんな事をしていて良いのだろうか?

 待っているサホコ達に申し訳がない。


「う~ん。私にもわからないのよ、チユキ。いつもなら、直ぐに行けるのに。どうしようか、レイジ~」


 おい!!どさくさに紛れてレイジに胸を押し付けるな!!

 それから、レイジ。お前にはサホコがいるだろうが!!

 喜ぶんじゃねえ!!

 イシュティアは外見は20歳に見えるが、神族なので不老である。

 実際の年齢は遥かに上だ。

 私達よりも年上の子供だっているだろう。

 にも関わらず、この色っぽさは反則だ。

 この色気を使い、様々な男性との愛の神話がある。

 中には実の娘である詩の女神ミューサと美男神アルフォスを取り合う話すらある。

 全く、とんでもない女神様だ。


「イシュティア様。ファラオマート様が見えられました」


 そんな事をしていると侍女がファラオの到来を告げる。

 ようやく来たようだ。

 ギプティスのファラオはスフィンクスだと聞いている。

 スフィンクス族に会うの初めてだどんな感じなのだろう。


「やっと来たの? 通してちょうだい」


 イシュティアがそう言うと侍女が1名の女性を連れて来る。

 彼女がスフィンクスなのだろうか?

 スフィンクスは顔が人間でライオンの体に翼が生えている女性の姿が一般的だ。

 そのため、4足歩行するのかと思っていたが彼女は2本の足で歩いている。

 ただし、手足はライオンっぽく。翼が生えている所は話に聞くスフィンクスそのものだ。

 その姿は翼の生えたライオン娘と言ったところだろう。


「お久しぶりでございます。愛の女神イシュティア様」


 女性が胸の所で腕を交差させて頭を下げる。


「久しぶりねマート。こちらに来て話を聞かせて頂戴」


 イシュティアが女性をマートと呼ぶ。

 ではやはり彼女がスフィンクス族出身のギプティスのファラオマートなのだろう。

 彼女の事は聞いている。

 天秤のあるじマート。

 ギプティスのファラオにして、他の国のファラオ達を監督する立場にある。

 公正な性格をして、ジプシールの神々が定めた法を厳格に執行する。

 マートの羽より重い者は裁かれ永劫の苦しみを味わうと言われている。

 様々な種族が共存できるのは彼女の手腕らしい。


「はい。イシュティア様」


 マートがイシュティアの前へと来る。

 マートは黒いオカッパの髪にハヤブサの形の金細工の飾、品の良いワンピースには金糸をあしらっている衣装を着ている。

 その凛とした佇まいにはどこかのキャリアウーマンを想像させる。


「では、マート。教えてくれるかしら?なぜアルナックへの道が封鎖されいるの?」


「はい。ですがイシュティア様。その前にその方達はどなたなのでしょうか?できれば客殿には聞かれたくは無いのですが……」


 マートが私達の方を見る

 私達の事を聞いていないみたいだ。


「彼が光の勇者レイジよマート。貴方も噂は聞いているでしょ? そして、その隣にいるのがレイジの仲間のチユキよ」


 イシュティアが紹介するとマートが驚く。


「それでは、貴方がハルセス様をブッ飛ばした。光の勇者なのですね?」


 マートの微妙な表情。

 そういえばレイジはジプシールの光の神であるハルセスをブッ飛ばしていた。

 だとしたら、これは不味いのでは無いだろうか?

 ジプシールの神を傷つけたレイジは大罪人にあたるのでは無いだろうか?

 レイジの横顔を見る。

 すました表情である。

 まずいとも何とも思っていないようだ。

 これで、解毒薬の材料を手に入れる事が出来なかったらどうするつもりだ。


「マート。男の戦いに女が口を出すべきでは無いわ。それに、何か問題起こっているのでしょう?彼ならば解決できると思うのだけど?」


 イシュティアがそう言うとマートは考え込む。


「確かに今起こっている問題はわたくしの手に余りますね。それにハルセス様の事はいずれアルナックに向かわれるのでしたら、彼の地で裁定が下されるでしょう。わかりました、光の勇者の力を借りる事にします」


 マートが頷く。

 そして、説明を始める。


「アルナックへの道を封鎖した理由なのですが、実はその道でアルナックの神官が数名行方不明になっているのです」

「アルナックの神官が?という事はスフィンクスなの?」


 イシュティアの問いにマートは頷く。


「はい。おそらくは何者かに殺されたのだと思います」


 マートの言葉に驚く。

 スフィンクスは他の地域では魔獣扱いだけど、このジプシールでは神々の眷属であり、ジプシールに住む獣人ビーストマンの頂点に立つ神聖なる存在だ。

 つまり、スフィンクスを殺すという事は神に背く大罪である。

 そして、スフィンクスは天使族に匹敵する程の力を持つと聞く。

 そのスフィンクスを殺せる程の者がジプシールにいる事になる。


「それで、危険だから、道を封鎖しているわけね」


「はい今、アルナックへの道は危険です。軍神イスデス様がその何者かを捜索している最中なのです」


 イスデスはジャッカルの頭をした犬人の神だ。

 軍神として有名でジプシールの守護者でもある。


「でも、それなら大丈夫よマート。私のレイジは強いのよ。何者かわからないけど返り討ちにしてくれるわ」


 さりげなくレイジを私のもの呼ばわりするイシュティアにマートが頷く。


「確かに噂通りの強さならば問題ないでしょう。あの暴神ラヴュリュスを打ち破った力を借りることにいたします」


 マートが頭を下げる。

 これで、アルナックへの道は開かれた事になるのだろうか?

 行く先に何が待ち構えているかわからないが、先に進むしかないようだ。




打ち倒す者(メジェド)クロキ


 トトナと共にキマイラに乗り星の海を飛ぶ。

 キマイラの上から地上を見下ろす。

 目下にはギプティス王国の街の灯が見える。

 そのギプティス王国の周囲にはジプシールを象徴する建造物であるピラミッドがある。

 その横には巨大なスフィンクスの像。

 ピラミッドは魔法の装置であり、ジプシールの国々を守る魔法の結界を張るために各地に配置されている。

 巨大なスフィンクスの像は実はゴーレムであり、ピラミッドを守るためにその側に鎮座している。

 本来ならスフィンクス族には女性しかいない。

 しかし、このスフィンクス型ゴーレムは男性の顔をして翼が無い。

 なぜ、そうしているのかはわからないが、面白い。


「あれが、ギプティス王国なのですね? トトナ?」


 自分の前でキマイラに乗るトトナに聞くと頷く。


「そう、あれがギプティス。ジプシールで最大の国」


 ギプティスはジプシールで最大の国にして、アルナックに行くための関所でもある。

 このギプティスを治める、スフィンクス族のファラオの許可が無ければ、アルナックに行くことは許されないらしいのだ。

 一応規則らしいので、自分とトトナはキマイラに乗りギプティスの王宮へと向かう。

 王宮に近づくと突然複数の矢が飛んでくる。


「トトナ?! 矢が来ます!!」


「わかってる。メジェド。キマイラが飛んできているから、仕方がない」


 慌てる自分とは裏腹にトトナは落ち着いている。

 おそらく、キマイラが襲撃してきたと思っているに違いない。

 何とか敵では無い事を伝えなければならないだろう。


「どうするのですか? トトナ?」

「説明するのが面倒くさい。このまま突破する」

「えっ?!!」


 トトナがキマイラの速度を上げる。

 飛んでくる矢は届く前にキマイラの炎により燃え尽きる。

 無茶苦茶だ。

 トトナの意外な面を知りビックリする。

 キマイラは王宮の上を飛び中庭へと降りる。

 王宮の中庭に降りると槍と弓を持った犬人に取り囲まれる。


「待ちなさい! 戦士達よ! 私は知識の神トトナ! ファラオであるマートを連れて来なさい!!」


 トトナが叫ぶと犬人の戦士達が顔を見合せる。

 戦士達の誰かが、後ろに下がるファラオを呼びに行ったのかもしれない。

 程なくして翼を持つ女性が一名現れる。

 黒く長いオカッパの頭にハヤブサの形を金細工が星の光りを反射している。

 両腕には毛が生えていて猫科の動物を思わせる。

 気品のある顔立ちにきびきびとした足取りはどこかのキャリアウーマンを彷彿させる。

 彼女がスフィンクス族出身のファラオなのだろう。

 いかにもデキる女性という感じだ。


「お久しぶりでございます。トトナ様。イシュティア様に続いて、貴方様まで来られるなんて……」

「久しぶりマート。イシュティア様はもうこのギプティスに来たのね」


 マートを確認するとトトナはキマイラを降りる。

 その後に自分も続く。


「はい、今しがた来られて、このギプティスを発ちました」

「なるほど、それなら今から行けば追いつけるかもしれない」


 今回はレイジ達を助けるのが目的だ。

 正体さえ気付かれなければ側にいた方が良いだろう。

 後を追いかけて合流した方が良いかもしれない。


「マート。アルナックへ行かせてもらうけど良い?」


 トトナは一応マートの許可を得ようとする。


「お待ちください。トトナ様。今アルナックへの道は危険です」

「何か問題が起こっている事は知っている。でも大丈夫、マート。私には強い味方がついている」


 トトナがフッっと笑う。

 こんな表情を見るのは初めてだ。


「確かにトトナ様達には強いと噂の光の勇者がおりますね。彼がもう少し線が細かったら危ない所でした……」


 マートがうんうんと頷く。

 何故か最後の方の言葉小さくなる。


「わかったのなら。行かせてもらう」

「いえ! まだです! お待ち下さい! トトナ様!!」


 しかし、マートはそのまま行こうとするトトナを呼び止める。


「何? マート?」

「その者を連れて行くつもりですか?」


 マートの目が険しくなっている。


「この子なら大丈夫。私の支配下にある」


 トトナがキマイラを指して言う。


「違います。トトナ様。貴方様の後ろにいる者です」


 マートの視線が自分を捕える。


「なんでしょうか? その面妖な生き物は?怪しすぎです!!」

「えっ?!!」


 いきなり指を差されて驚きの声をあげる。


「その者から怪しい気配を感じます! いかにトトナ様と言えども! その者を通す事はできません!!」


 どうしよう。やはり、この格好は怪しすぎたか?

 脱ぐか?

 しかし、下はモロダシだ。脱ぐ事は出来ない

 暗黒騎士の鎧を呼び出せば隠す事ができるが、そんな事をすれば正体が一発でバレてしまう。

 出来れば暗黒騎士がこの地に来ている事は隠したい。


「彼はメジェド。私の護衛。怪しい者では無い」


 トトナがすかさずフォローしてくれる。

 ありがたい。

 自分は身振りで怪しく無い事を表現しようとする。

 しかし、さらにマートの表情は険しくなるだけだった。


「何でしょうか、その怪しい踊りは?申し訳ございませんが。危険では無いか調べさせてもらいます」


 まずい!!

 獣人ビーストマンの感性は良くわからないが、自分の感性では布一枚の下がスッポンポンの男は間違いなく変態だ。

 思わず腰が引けてしまう。


「その動きは怪しいですね。何か危険なモノでも隠しているのでは無いですか?」


 マートがこちらへと近づいて来る。

 背中に冷や汗が出て来る。


「エリオス美少年全裸画像集第13弾」


 突然トトナが小さく呟く。

 するとマートの歩みが止る。


「……トトナ様。何の事でしょうか?」


 マートが震える声でトトナに聞く。

 何故だろう?

 頬に汗が流れている。


「貴方が寝室に隠しているモノ。寝る前にこっそり読んで自分を慰めている」

「わー!! わー!!!」


 突然マートが叫び出す。

 配下の犬人達が驚く。

 何事かと思っているのだろう。


「ど?!どうしてそれを?!!」


 ダッシュで詰め寄ると小声でトトナに聞く。


「ネルに聞いた。貴方が、か弱くて、線の細い美少年に目が無いと」


 トトナが涼しげな表情で言う。


「姫様~。なんで、それを知っているのですか~。しかも、何でそれをバラしてくれちゃってるのですか~」


 マートが泣き顔になる。


「あのですねトトナ様。私にも立場がありまして……そのような話は配下の前で、その……」


 何だろう。デキる女性から、急にポンコツになったような気がする。

 マートがちらちらと後ろを見ている。

 犬人の戦士達がどういう事だろうとこちらに注目している。


「何も言わず、通してくれたら新作を手に入れてあげる」


 トトナが再び小さく呟く。

 その時、マートの耳がぴくりと動くのを見逃さなかった。


「こほん。わかりました。トトナ様。そこまで言われるのなら大丈夫なのでしょう」


 マートは咳払いをすると、平静さを取り戻す。


「ありがとうマート」

「別に構いません。さすがは賢神トトナ様。私の弱い所を突くとは、……新作お願いします」


 最後方は小声だ。

 その言葉にトトナは頷く。


「わかった。任せてマート。さあ行こう。メジェド」


 トトナが言うと自分は頷く。

 何だか、すごくダメなやり取りを目にしたような気がするが、気のせいだろう。

 うん。そうに違い無い!!

 見なかった事にしよう。

 そんな事を考えながらトトナの後ろに乗る。

 キマイラが咆哮して星空へと飛び上がった。


次回は合流です。ポロリもあるよ。

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