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暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第7章 砂漠の獣神
126/195

キマイラを捕まえろ

◆打ち倒す者クロキ


 ジプシールの地の周囲にあるサヌキラ砂漠は日中は気温が50度から60度になる。

 そのため、ジプシールの民は気温が高い日中は影の有る所で休み、日が傾き始めてから行動する。

 プタハ王国の城壁から出て、しばらくすると風景が砂の海へと変わる。

 夕日が砂を照らし真っ赤である。

 砂を含んだ風が吹いている。

 ナルゴルでは見られない光景だ。

 少し感動する。

 これから、キマイラが出没している場所へと向かう。

 ここで移動手段が問題となる。

 自分達が元いた世界で砂漠の移動手段で一番有名なのはラクダである。

 砂漠を長距離移動できる騎乗動物はラクダだけだからだ。

 しかし、ジプシールにはなぜかラクダがいないみたいなのである。

 そもそも、この世界にラクダがいるのかどうか知らない。

 しかし、いたとしても砂漠の移動手段としてジプシールに輸入されたかわからない。

 なぜなら、ジプシールはナイアル川流域の地域にあり、移動手段は川船が一般的だ。

 ジプシールの民にとって、砂漠は通行する場所ではないのである。

 旅の商人も近くの街から街へと短距離を移動するだけで砂漠を横断する事は無い。

 自分とトトナは巨大な戦車に乗って移動する。

 このオリハルコン製のゴーレムの馬に引かれた巨大な戦車はプタハ王国の王から借りた。

 ドワーフの王はケプラーの無理な頼みを快く引き受けてくれて、この魔法の戦車を貸してくれたのだ。。

 王などの貴人が乗る為なのか自分とトトナが乗っても問題無い大きさだ。

 オリハルコン製の魔法の車輪は砂の上でも走り、快適だ。

 もっとも、借りているだけなので、遠出は出来ない。

 キマイラの居る場所までという約束である。

 そして、キマイラを捕まえたら、そのままアルナックまで向かう予定だ。

 ちなみに魔法の戦車は用が済めば無人でも帰還するので問題無い。


「トトナ。ちょっとよいですか」

「どうしたのクロ……。いえメジェド」


 トトナは自分を本当の名であるクロキと呼びそうになり、慌てて訂正する。

 自分は今、白い布を頭から被りメジェドの姿となっている。

 早くメジェドの呼び名に慣れてくれないと正体がバレてしまうだろう。


「トトナ。キマイラはオアシスの近くに出没しているとの事ですが、どうしてですか? キマイラはあまり水を必要としないのでは?」


 火を口から日を吐くキマイラは炎に耐性があり、砂漠の日中でも行動が可能だ。

 そして、火の属性を持つキマイラはあまり水を必要としないはずだ。


「メジェド。確かにキマイラは水を必要としない。でも、餌となる者は水を必要とする。だから、オアシス付近に出没する」

「なるほど……」


 トトナの説明に頷く。


「それよりも、メジェド。先程から腰をもぞもぞとさせて、どうしたの?」


 トトナが戦車を操縦しながら尋ねる。

 魔法の馬は操縦が楽だ。

 戦車に乗るのが初めてのトトナでも問題無く操縦できる。


「いえ、トトナ。大した事ではありません。腰巻の紐がどうやらゆるいみたいで、落ちそうなのです」


 渡された衣類には下着が無く、白い布の下には腰巻を巻いているだけだったりする。

 匂いに敏感なジプシールの民から正体を隠すため、着ていたナルゴル製の服は全て脱ぎ、体をよく洗い、さらにアニスの香水を体に振りかけた。

 アニスはマミーを作る時の匂い消しにも使われる一級品だ。

 きっと、匂いを消してくれるだろう。

 ただ、問題は貰った服だ。

 万が一、被っている布がめくれた時のために自分は白い布を腰に巻きつけている。

 その腰巻を留める為の紐がゆるかったのだ。

 しっかり選ばなかった自分の落ち度である。

 どうしようかと思う。

 このまま手で押さえていたら、かえって動きが悪くなる。


「仕方が無い。脱ぐか……」


 トトナに聞こえないように呟くと、自分は腰巻をそっと外す。

 これで全身を覆う白い布以外は何も着ていない事になる。

 ち〇こがぶらぶらする。とんでもない解放感だ。

 何故だろう?

 下半身だけでなく、心まで解放された気がする。

 もしかすると、これが精神的な成長なのかもしれない?

 まさに一皮剝けるとはこの事だ。


「ふふふふふ」


 思わず笑いが込み上げて来る。


「どうしたのメジェド?」


 自分の精神的な成長に気付いたのかトトナがこちらを見る。


「い、いえ!! 何でも無いですトトナ!!」

「そう?」


 慌てて笑いをごまかすと、再びトトナが前を向く

 トトナちゃ~ん。この白い布の下。実は全裸なんだぜ~。へっへ~い。とか考えながら、腰をふりふりする。

 ……。

 ………。

 …………。


 アホか―ーーーーーー!!何を考えてんだよーーーーー!! どう考えても変態じゃないかーーーーーー!!! 


 思わず心の中で絶叫する。 

 危うく自分を解き放ってしまう所だった。

 確かにとんでもない解放感だけど、 白い布の下が全裸で有る事がばれたら変態扱いされるだろう。

 こういう事をするから女の子に嫌われるのだ。

 折角トトナと仲良くなれたのに嫌われる事は避けたい。

 自重しなければ。


「あれ?」


 馬鹿な事をしている場合ではない。

 前方に異変を感じる。


「トトナ!! 先で誰かが襲われています!!」


 自分が叫ぶとトトナも気づく。


「もしかすると、キマイラに襲われているのかもしれない」


 トトナが戦車を急がせる。

 まだ、ここから距離が大分ある。

 しかし、自分の目には襲われている者の姿がはっきりと見える。

 襲われているのは1名の山羊の頭を持つ獣人の男性と4名の人間の女性だ。

 襲っているのはそれよりも小さな者達である。

 数にして10名以上はいるだろう。

 砂色の外套を頭から被っているため姿が見えない。


「あれは砂鬼? キマイラでは無い。どうするクロキ……。いえメジェド?」


 遠視の魔法で襲撃者を確認したであろうトトナが自分に尋ねる。

 砂鬼の事は聞いている。

 砂鬼はゴブリンの一種族で遠い昔に砂漠に移住したゴブリンの末裔だ。

 そして、彼らはグール族と共にジプシールの神に従わない者達でもある。

 砂鬼はジプシールの民を略奪して生活をしている。

 当然、ジプシールの治安を守る犬人達は退治しようとしているが、砂鬼はしぶとく生き残り数を増やしているらしい。

 砂鬼は巨大砂鼠に乗って旅人を襲っている。

 それに対して、旅人は徒歩だ。

 よく見ると向こうでロバが倒れている。

 奇襲を受けたのだろう。運が悪い。

 徒歩でもなんとか生き残っているのはおそらく女性達を生け捕りにするためだ。

 砂鬼の行動からして、そう読み取れる。

 このあたりは他の地域のゴブリンと変わらない。


「もちろん助けます!! ジプシールの民を助けた方が良いでしょう!!」


 ジプシールの神々の好意を得られるかもしれない。

 だから、助けるべきである。


「わかった。クロ……。メジェドの判断に従う」


 トトナが頷く。


「先行します!! トトナ!!」


 そう言って戦車から飛び出す。

 全力で飛び、現場へと向かう。


「待てーーーーーい!!!!!!!!」


 自分はたどり着くと、砂鬼の前に立つ。


「何だ?! あれは?!! 化け物かっ?!!」


 山羊頭の獣人が自分を見て腰を抜かす。

 側にいる女性も同じように驚いている。

 一人の女性が抱いている赤ん坊が泣き始める。

 化け物じゃないですよ。と弁解をしたいがそんな暇は無い。


「ナンダ?! アレハ?! バケモノカッ?!!」


 全く同じセリフを砂鬼が言う。

 この姿は化け物に見えるのだろうか?

 鏡を見る限り可愛いと思う。

 少なくともトトナは面白くて可愛いと言ってくれた。


「クラエ! バケモノ!!!」


 砂鬼が石斧を投げる。

 すかさず、被っている布を魔法で強化する。

 カキーン!!カキーン!!と軽快な音を立てて石斧が砂に落ちる。


「うそ?! 弾いた! 何なんのあれ?!!」


 人間の若い娘が叫ぶ。


「わからん!! しかし助けに来てくれたみたいだ!! それにしても何と面妖なっ!!!」


 どうやら、旅人はようやくこのメジェドスーツの素晴らしさに気付いたようだ。

 これから、こちらからさらに驚かせてやろう。

 自分は魔力を目に集中する。

 自分の中にいる竜に目から光線を出す能力を持つ者がいる。

 それを使う。


「必殺! 目からビーム!!」


 ちゅどーん!!

 自分の目から放たれた光線が砂鬼を襲い砂煙を上げる。


「ギャアア! ニゲローー!!!」


 砂鬼が逃げて行く。

 これで、旅人は助かったはずだ。

 自分は旅人の方を向く。


「ひいい!! 食べないでーーー!!!」


 自分と目のあった女性が悲鳴を上げる。

 えー。なんでこんな反応なの?

 山羊頭の獣人が前に出て女性をかばう。

 そうこうしているしている間にトトナが辿り着く。


「これは! もしやプタハの魔術師殿ですか?! 助けて下さい! 面妖な化け物がいるのです!!」


 旅人達がトトナに助けを求める。


「大丈夫。彼はメジェド。貴方たちを襲う事はない」


 そう言ってトトナは自分の横に立つ。

 山羊頭の獣人が安心した様子を見せる。


「おお!! そうでしたかその面妖な化け物は魔術師殿の使い魔でしたか!! いやあ助かりました!!妻達と私を助けていただきありがとうございます!!」


 山羊頭の獣人と女性達がトトナに頭を下げる。

 女性達は山羊頭の獣人の妻のようだ。

 ジプシールの国によっては一夫多妻が認められている。だから、珍しい事ではない。

 しかし、全員が人間の美女のところを見ると、この山羊頭の獣人はかなり好きもののようだ。

 一番若い女性はまだ少女と言っても良いだろう。

 もげてしまえと心の中で呪詛を放つ。


「お礼はいい。ところで、どうして貴方たちはここにいるの?」


 トトナの疑問はもっともだ。ここは街道から少し外れている。


「私はクヌム王国の者です。旅行中に我が子が病気にかかり、魔術師に看てもらいに近くのプタハ王国に向かう途中でした……。急ぐために本来の街道を外れたのは失敗でした」


 山羊頭の獣人がうなだれる。

 ジプシールの医療の本場はヘケト王国の筈だ。しかし、知識が豊富な魔術師の中にも医術の心得があるものもいる。

 ヘケト王国から離れ、プタハ王国に近い者はこちらに看てもらうのだろう。

 そして、クヌム王国は山羊人が多く住む国だと聞いている。

 だから、彼も山羊人なのだろう。


「それは、気の毒。一緒にいたのは貴方たちだけ?」


「いえ、人間の男の奴隷が数名いたのですが……。真っ先に砂鬼達に殺されてしまいました。可哀そうに」


 山羊人が涙を流す。


「あの!魔術師様!! どうか私の子を見てもらえませんか!!」


 山羊人の妻の一人が抱きかかえた赤ん坊をトトナに見せる。

 赤ん坊は山羊の頭をしている。おそらく男の子なのだろう。

 少し苦しそうにして、泣いている。


「少し熱がある。ちょっと待って」


 そう言ってトトナは魔法を唱える。

 すると赤ん坊の顔が穏やかになる。


「安心するのは早い。プタハに行って薬草をもらって、療養しなさい」


「しかし、ロバや馬を失いました。女性の足でこれ以上は……」


 山羊人が困ったように言う。


「それなら、この戦車に乗れば良い。プタハ王国へ連れて行ってくれる」


 トトナがそう言うと山羊人達が驚く。


「それでは魔術師様はどうなさるので?」

「私達にはもう必要ない」


 トトナがこちらを見る。

 自分は頷く。トトナも気付いていたようだ。

 血の匂いを感じたのか大きな影が近づいて来ている。

 先程の砂鬼に比べて強力な気配がする。

 おそらくキマイラだろう。

 ならば、戦車は必要無い。


「キマイラが近づいている。ここは危険」


 トトナの言葉に山羊人とその妻の顔が恐怖に染まる。


「キマイラが?! そんな!!逃げなければ!!」

「貴方達は早く行きなさい、私達はそのキマイラに用がある。心配は無用」

「なるほど、これほどの戦車に乗られる御仁だ。きっと、何か秘策があるのでしょう。わかりました。それではお気をつけて下さい。魔術師様。この御恩は忘れません」


 山羊人達が戦車に乗って去って行く。

 巨大な戦車ならば彼らを全員乗せても問題なく走る。

 程なくして巨大な影が夕日を背にこちらに飛んで来る。

 影は倒れたロバの側に降りる。

 その姿は獅子と山羊と竜の頭、そして尾は蛇である。

 間違いなくキマイラだ。

 キマイラは中央大陸の東部では見かけないが、西大陸に南大陸、そして中央大陸西部と幅広く生息している。

 海の民達によって滅ぼされたハッティでは季節を表す聖獣として扱われていたらしいが、大半の地域では炎を吐く災厄の魔獣として扱われている。

 それは、このジプシールでも同じだ。

 キマイラが倒れたロバ達の肉にむさぼる。

 こちらを気にしていない。

 キマイラは強大な魔獣だ。

 上位の竜であるグロリアスに比べれば小さいが、自分とトトナのよりも遥かに大きい、こちらを敵とは思っていないようだ。

 ならばチャンスである。

 さて、どうするか?

 グロリアスと出会った時の事を思い出す。

 グロリアスは最初から自分に懐いてくれた。キマイラもそうであったら楽なのだが。

 自分がキマイラに近づいた時だった。

 突然、キマイラが咆哮する。

 その咆哮に含まれているのは強烈な敵意。

 どうやら、グロリアスの時のようにうまくはいかないようだ。


「ガアアアア!!!」


 キマイラが咆えると獅子と竜の口から炎が放たれ、山羊の角から電撃が飛んで来る。

 自分はその全てに耐性があるが、布が燃えるとち〇こがモロダシになるので魔法を発動させて防ぐ。

 蛇の尾が鞭のようにしなり、襲い掛かる。


「こなくそ!!」


 蛇の尾を躱すとキマイラの背に乗り、押さえ付ける。

 押さえ付けられたキマイラが暴れ逃げ出そうとするがそうはいかない。

 蛇の尾で攻撃するのを黒い棘を出して封じる。


「メジェド! そのまま押さえ付けて!!」


 トトナがキマイラに近づくと獅子の頭に手を当てる。


「支配!!!」


 トトナが支配の魔法を発動させる。

 トトナが触った箇所から光が走り、キマイラの前身を覆っていく。

 キマイラが暴れる。


「嘘? すごい抵抗。ここまで嫌がるなんて。どういう事?」


 トトナが戸惑う。

 キマイラは尚も暴れる。

 自分は黒い棘をさらに出して、キマイラを締め上げる。

 トトナはさらに魔力を込める。

 しだいにキマイラが大人しくなっていく。

 そして、最後はぐったりとなる。


「トトナ。支配は成功したのですか?」


 トトナが頷く。


「成功した。でも、ここまで抵抗されるとは思わなかった」

「なぜでしょう?自分に強い敵意を向けていたみたいですが……」


 ここまで嫌われるなんて、ちょっとショックだ。


「わからない。魔法で聞いてみる」


 魔法の中には動物と会話できるものがある。

 トトナはそれを使うみたいだ。

 トトナが魔法を使ってキマイラに聞く。

 キマイラが呻く。


「ふむふむ、わかった。どうやらクロ……、メジェドが嫌だったみたい。最初は気付かなかったけど、近づいて来たら、すごく嫌なものを感じたって」


 トトナの言葉にショックを受ける。

 何でだろう?グロリアスはあんなに懐いてくれたのに。


「そうですか……。それでは乗騎にするのは無理ですか?」

「わからない。聞いて見る」


 トトナが再びキマイラに尋ねる。


「私の言う事は聞いてくれる。すごく嫌だけど我慢すると言っている」

「はうう~」


 溜息が出る。何故だろう。そんなに嫌がられるとは。

 理由がわからない。

 しかし、これで乗り物は確保できた。


「行こう。メジェド。アルナックへ」

「はいトトナ」


 キマイラが翼を羽ばたかせ、宙へと浮かぶ。

 時刻は夜になろうとしている。

 砂漠の夜空は星が綺麗だ。

 レイジ達は今頃どこにいるのだろう。

 シロネを助けるために行動している彼らの行動を邪魔するつもりは無い。

 むしろ助けなければいけない。

 星の海の中を進みながら、そんな事を考えるのだった。

古代エジプトではラクダは重要視されてなかったみたいです。調べてみてちょっとびっくりしました。


キマイラは原典では竜の頭と翼は無いのですが、ここは原典通りにしませんでした。


それから、第1章のシロネの独白を少し改変しています。ヘイトが減ると良いのですが(ToT)


最後にクロキを精神的に成長させてみました。どうでしょうか ?(`・ω・´)

……ごめんなさい。嘘です。でも布の下を全裸にするのは義務だと思ったのですハイm(_ _;)m


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