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暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第7章 砂漠の獣神
123/195

ジプシールの地へ

◆知恵と勝利の女神レーナ


 私は今エリオスからレイジ達が作った国であるエルド王国へと来ている。

 何故なら、ここにイシュティア様がいるからだ。

 エルドはバンドール平野の中部にある湿地帯にある国だ。

 この地を支配していた魔獣ペルーダを退治して、水はけの良い丘の上に造られた。

 最初は彼らを慕って付いて来たわずかな人しかいなかったらしいが、最近では人口も増えたと聞いている。

 いずれは灌漑工事をして人の住める場所を増やすつもりらしい。

 もっとも、そんな事をすれば湿地に住む蜥蜴人リザードマン蛙人トードマンが反発するだろう。

 まあ、レイジの力ならば彼らがいかに反発しようが問題はない。

 簡単に鏖殺して、人の世界を広げる事ができる。

 私が気にする必要はないだろう。


「蠍神の毒が必要なのね? レーナちゃん?」


 王宮の中へ案内され、私が説明するとイシュティア様が尋ねる。


「はいイシュティア様。それさえあれば解毒薬が作れるそうです。そして、ジプシールにはギルタルの妹のブルウルがいます。彼女から毒を貰って来て欲しいのです」


 私は頷く。

 見るとレイジの側にくっついている。

 どうやらレイジに目をつけたようだ。

 レイジは兄であるアルフォスに匹敵する美男子だ。

 彼女が目を付けるのもわかる。

 しかし、レイジは一応私の恋人という事になっている。

 それにも関わらず手を出そうとする。いかにも彼女らしい。

 取りあえず不機嫌なふりでもしておいた方が良いのかもしれない。

 私は少し睨みながらレイジ達を見る。


「なるほどね~。わかったわレーナちゃん。ところでお願いがあるのだけど?良いかな?」

「何でしょうか?」

「ジプシールに行くのに私だけで行くのはつまらないから、彼を貸してくれないかな?」


 そう言ってレイジを流し目で見る。

 後ろにいるチユキ達が不満そうな顔をする。

 こういう光景はアルフォスの側で見慣れている。


「どうぞ、好きになさって下さい」


 私はふんとわざとらしく言って背を向ける。

 これで用件はすんだ。

 後はエリオスへ帰るだけだ。

 ちらりと寝台へ横たわっているシロネを見る。

 起きる気配はない。

 このまま目覚めなければ良いのにと思うのだった。





◆黒髪の賢者チユキ


「あらら~。あれは怒っているわね~。レイジ君」


 レーナが去り、私はからかうようにレイジに言う。

 レイジの隣では女神イシュティアがぴたりとくっついている。

 それを見ているサホコはとても不機嫌そうだ。


「そうかな? 私は怒っているように感じなかったけど」


 リノが首を傾げる。


「そうっすか?リノちゃんが言うのなら間違いないっすけど、少しは嫉妬をしているんじゃないっすかね~」


 ナオが意味ありげにレイジを見る。


「茶化さないでくれよ。みんな。今はシロネを助ける事を考えるべきだ」

「うっ!!確かにそうね!!」


 正論を言われ私は黙る。

 今はシロネを助ける事を考えるべきだ。

 蠍神の毒が必要で、それを得るためにイシュティアの力が必要なら、彼女の要望を聞くべきだろう。


「話は終わり? それじゃあ一緒に来てくれるわよね。レイジ」

「ああ、わかったよ。イシュティア。シロネを救うためだ。一緒に行こう。レーナには後から説明してわかってもらう。そういうわけだ。みんな。ちょっとジプシールに行ってくる。みんなは待っていてくれ」


 レイジが言うとみんなが不満そうにする。


「待ってレイジ君!! 私も行くわ!!」

「ナオも行くっす!!」

「リノも行く!! リノもシロネさんを助けたい!!」


 妊娠しているサホコといつも留守番をしているキョウカ達を除き、ナオとリノも一緒に行きたがる。


「イシュティア。皆と一緒でも良いか?」


 レイジが尋ねるとイシュティアはどうしようかと迷う。


「う~ん。あんまり多いのもどうかと思うのよね。そうね、1人なら一緒に来ても良いわ」


 そう言って、いたずらっぽく笑う。

 私達は顔を見合わせる。

 誰が一緒に行くか?

 少し話をしたのち結論が出る。


「私が行くわ。イシュティア」


 私がそう宣言するとナオとリノも仕方がないと言う顔をする。


「確かにチユキさんが適任っすね……」

「仕方が無いか……。気を付けてね。チユキさん」

「そういうわけだから、後の事はお願いね。カヤさん」

「はい。シロネ様の事はお任せ下さい」


 これで話は決まった。


「さあ、話は決まったみたいね。さあジプシールに向かいましょうか?」


 イシュティアが少し楽しそうに言うのだった。





◆暗黒騎士クロキ


 魔王城へと来る。

 目的はルーガスの書庫だ。

 書物はエリオスの方が多いが、行くのが少し手間なので、特に調べたい事がなければルーガスの書庫の本を借りる事にしている。

 このナルゴルでは娯楽が乏しい。

 そのため読書が自分の楽しみになっている。

 ルーガスの私室を訪ね。中に入ると珍しい先客がいる。


「女神トトナ。珍しいですね、貴方がここに来ているなんて」


 先客はエリオスの知識と書物の女神トトナである。

 部屋には主であるルーガスとトトナがいる。

 自分はトトナに頭を下げる。


「久しぶり。クロキ。最近来てくれないわね」


 そのトトナが自分に文句を言う。


「申し訳ありませんトトナ。どうも監視の目が厳しいようなので書庫に行けないのですよ」

「レーナの仕業ね。おそらく貴方の事が嫌いなのでしょう。だから、私と貴方が会うのを邪魔するのだわ」


 トトナが溜息を吐く。

 その言葉に首を傾げる。

 レーナが自分を嫌っているようには感じないからだ。

 そもそもレーナが何を考えているのかわからない。


「それにしても、どうして貴方がここに?珍しいですね」


 部屋の主であるルーガスを見る。


「トトナはこのルーガスに相談に来たのだよ。クロキ殿。蠍神の毒に倒れた兄を救うためにね」


 ルーガスが煙管を吸いながら言う。

 煙管から甘い匂いが部屋に漂っている。

 トトナの兄といえば力と戦いの神トールズだ。

 その神がどうしたのだろう?


「悪いがトトナよ。このルーガス。力にはなれぬ。ヘルカート殿が残した解毒薬の作り方以外の方法は知らぬ」

「やはり、そうですか……」


 トトナが項垂れる。

 その顔を見ると助けたくなる。


「やはり、ジプシールに行くしかないみたいですね。イシュティア様と光の勇者がうまくやってくれると良いのですが……。イシュティア様達だけでは不安です」


 トトナが気になる事を言う。


「光の勇者? 彼がどうしたのですか?」

「ああ、そうね。クロキ。クロキにとって彼らは敵。その動向が気になるわよね。実は彼らの仲間も蠍神の毒にやられたらしいの。情報によると彼らも一緒にジプシールに行くらしいわ」

「へ……、へえ……。で誰がやられたのですか?」


 やばい、めちゃめちゃ動揺している。


「そこまではわからないわ。確か仲間の女剣士だと聞いているけど」


 そこまで言われればわかる。

 シロネだ。

 シロネが倒れたどういう事だ?


「そして、レ……、光の勇者達は仲間を助けるためにジプシールに向かう?」

「そう、だけどイシュティア様だけだと、ちょっと不安だから。私も行こうと思うの。そうだわ、クロキも一緒に行ってくれない? 貴方が一緒なら心強いわ」


 トトナが名案だとばかりに言う。

 確かに魅力的な提案だ。


「そうですね……。トトナには色々な本を読ませていただきました。一緒に行くのは構いませんが……。陛下の許可を頂かないと」


 これは敵を助けるようなものだ。

 行くにしてもモデスの許可が必要だろう。

 それにクーナも嫌がる。

 何といって説得するべきか。


「ほう……。クロキを連れて行くのか。ならば、陛下にはこのルーガスが言っておこう」

「良いのですかルーガス殿?」

「ああ、構わぬよ。それに別にトールズを助けるためではない。卿があの地の者と会う事は悪い事ではないと思うのでな」


 そう言ってルーガスは笑う。


「そうですか、ありがとうございます。ルーガス殿」


 これで決まった。

 自分もジプシールに行こう。





◆魔王モデス


 魔王城の謁見の間でルーガスと会う。


「ほう、クロキをジプシールに行かせたのか?別に構わないが、最強の暗黒騎士を行かせるとはな。

弟子が可愛いようだなルーガスよ?」


「ええ陛下。あの娘は色々と役に立ってくれますからな」

「それは、お主が行っている魔術の研究か?」

「はい、陛下。トトナの創った魔術師協会はかなり役に立っております」


 魔術とは魔法をよりうまく使う術の事だ。

 魔術を駆使する事で生まれつき魔法が使えない者も魔法を使う事ができるようになり、生まれつき魔法が使える者はより強力な魔法が使えるようになる。

 そして、その魔術の基礎を生み出したのがルーガスだ。


「以前に話した通り魔力が弱い者程、魔術の研究に熱心になります。人間達が魔術の研究には中々素晴らしいものがあるのですよ」


 ルーガスは楽しそうに言う。

 相変わらずルーガスは魔術や知識の事になると性格が変わる。

 ルーガスはその基礎を誰にでも教えた。

 それはより魔術の発展を考えての事だ。

 そのおかげで魔術が世界中に広まり、様々な魔術が生まれた。

 トトナはサリアと言う人間を使徒にして、魔術師協会を作り人間に魔術を広めた。

 魔術を知った人間は自分達でも研究を始めて様々な魔術を生み出した。

 トトナはその研究の成果を魔術師協会に集めさせて得ているのである。

 そして、ルーガスはトトナから研究の成果を得ている。


「なるほどな……」

「もちろん、他にも理由が有ります陛下。クロキ殿はかねてから世界を見たいと言っておりました。良い機会なのでジプシールに行くのも良いと思ったのです」

「なるほどな。もう一つはクロキのためか?」

「はい。クロキ殿は今やナルゴルの重鎮。様々な事を知っておくのも良いでしょう」


 そう言ってルーガスは笑うのだった。




◆白銀の魔女クーナ


 クロキが旅立った夜。

 夢の中でレーナと会う。


「全くトトナも余計な事をしてくれるわね……。まあどのみちトールズを助ける必要はあったけど、面白く無いわね」


 レーナの言葉に頷く。

 クロキがシロネを助けに行くのは面白く無い。

 また、トトナと一緒というのも面白く無い。

 しかし、クロキを止めるのも難しい。


「貴方はいかないの? クーナ?」

「行くわけがないだろう。レーナ。シロネを救う協力なんて、絶対やりたくない」


 不満だけど見送るしかないのが歯がゆい。


「まあ、そうよね。貴方の性格を考えるなら。さすがに今回はどうにもできないわね。それにトトナと一緒というのも気になるけど、まあ簡単なお使いだから何もないと思うけどね……」


 レーナは溜息を吐く。


「簡単なお使い? どうもトトナの話と違うようだが」


 首を傾げる。

 レーナの言うイシュティアの話とクロキの言うトトナの話が少し違う。

 もしかするとやっかいな事になるかもしれないとの事だ。

 レーナにそう伝える。


「あら、そうなの?おかしいわね。そう聞いているのだけど……。まずいわ。そういえばイシュティア様ってかなり楽観的な方だったわ……」

「おい。大丈夫なのか? それは?」

「わからないわ。もしかすると私も動いた方が良いかもしれないけどジプシールは勝手が違うのよね」


 レーナが不安そうに言う。

 ジプシールは特殊な地だと聞いている。

 ナルゴルと同じようにエリオスの者達が簡単に入る事ができない。

 クーナも不安になってくる。一緒に行かなかった事を後悔する。


「クロキなら大丈夫だと思うが……」


 やはりクーナも行くべきだったか?

 レーナを見ながら、そんな事を考える。


3話目にして、ようやく主人公登場。

レイジ達とイシュティア。クロキとトトナ。遅れてレーナとクーナが動きます。

実はこれで7章のプロローグがようやく終わりました。


もっと早く更新の予定が……。なんだかんだで連休中に2話しかUPできません。

しかも、来週の土日は予定が入っているので更新は難しいかもしれません。もちろんできるだけ頑張ります<(_ _)>

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