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暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第7章 砂漠の獣神
122/195

蠍神の毒

◆黒髪の賢者チユキ


 私達は女神イシュティアの空船に乗って私達の拠点であるエルド王国へと戻る。

 エルド王宮のシロネの寝室にはレイジとサホコとリノにナオ、そしてキョウカにカヤ、イシュティアとその従者が一名いる。

 皆が倒れたシロネを心配そうに見ている。


「どういう事なのですか女神イシュティア? シロネさんはどうなったのですか」


 私はイシュティアに言う。

 愛と美の女神イシュティアはエリオスの神々の一柱だ。

 恋愛や踊り、そして幸運を司る。

 信仰している者は踊り子や娼婦に博徒、そして盗賊である。

 その彼女は何故かついて来てここにいる。


「イシュティアで良いわ。その代わり私も貴方の事をチユキと呼ぶわ。それから彼女の事だけど、どうやらギルタルの毒を受けていたみたいよ。そうでしょうピスティス」


 イシュティアが横にいる少年に聞く。

 少年は一見普通の人間に見える。

 しかし、その正体は神族でありイシュティアと同じぐらい長く生きている。

 少年神の名はピスティス。

 両手両足に六本の指を持つ盗みの神にして女神イシュティアの従属神である。

 このピスティス神だけど、かなり面白い神話を持っている。

 昔鍛冶神ヘイボスの持っていた首飾りをイシュティアが欲しがった事があった。

 しかし、ヘイボスはその首飾りをイシュティアに渡す事を拒んだ。

 それを知ったピスティスはヘイボスから首飾りを盗み、イシュティアに渡したのである。

 当然ヘイボスはその事を神王オーディスに訴えた。

 オーディスは神王としてイシュティアに首飾りを返還するように言うが、イシュティアは首を横にして返そうとしなかった。

 その時のイシュティアの言葉はこうだ。


「このように美しい首飾りは私のような美女が身に付けてこそ価値が有ります。ヘイボスはこの首飾りを宝物庫にしまうだけ、宝の持ち腐れです。よってピスティスの行った行為は正当なものであり、首飾りは返しません」


 そう言うとイシュティアは自分の宮殿へと戻ったそうだ。

 このイシュティアの言葉を聞いたオーディスとヘイボスは開いた口が塞がらなかったらしい。

 この神話からピスティスの信徒である盗賊達の教義として女神イシュティアのためにするならば盗みは許される事になっている。

 まあ、具体的には盗んだ金の何割かをイシュティア神殿に奉納するのが一般的だが、他にも娼婦に貢ぐか賭博場にて金を落す事でも盗みは許されるらしい。


「多分間違いないと思いますよ。イシュティア様。このおねーさんは直前までギルタルと戦っていたのなら、気付かないうちに毒の尾が体をかすめていたと考える方が自然だね。そして、ギルタルの毒なら死ぬことはないと思うけどね」

「それは本当か!!」


 レイジがピスティスに詰め寄る。

 真剣な顔をしている。

 シロネの事を本当に心配しているのだろう。

 イシュティアが側にいるというのにそちらの方を見ない。

 仲間が大変な時に巨乳美女にデレデレしていたらさすがの私も怒る。


「多分そのはずだよ。ただ、毒は専門じゃないからわからないよ」


 ピスティスが困ったように頬を掻く。

 シロネにはサホコの治癒魔法の効果が無かった。

 おそらく特殊な方法でなければ解毒ができないのだろう。

 困った私達に対してイシュティアが情報通であるピスティスならば何か知っているかもしれないと言い。彼を呼んだのである。


「それで、治療する方法はあるのか?」

「う~ん。これはファナケアのおねーさんに聞いた方が良いと思うけどな。おいらが情報通とはいえ治癒術の方は専門外なんだ」

「それならファナケアに連絡をしてくれ!!」

「落ち着きなさいなレイジ。大丈夫よ。既にファナちゃんとトトナちゃんは動いているわ。だってトールズもギルタルの毒にやられているのだもの。解毒薬を分けてもらえるように言ってあげるわ」


 イシュティアがそう言うと私達は安心した顔をする。

 そういえば戦神トールズもあの場にいたらしく、ギルタルと戦い、その毒に倒れたのだった。


「ところで、あの方には知らせなくも良いのですの?」


 同じように心配そうな顔をしていたキョウカが突然言う。


「キョウカさん? あの方って誰の事?」


 リノが不思議そうに聞く。

 私にもわからない。あの方とは誰の事だろう?


「もちろんクロキさんの事です。シロネさんが倒れたと知ったら、きっと心配なさいますわ」


 キョウカの言葉に私達は顔を見合わせる。

 クロキというのはシロネの幼馴染の暗黒騎士の事だ。

 彼はシロネの事を大切に思っている節がある。だから、出来る事なら伝えた方が良いだろう。

 しかし、彼は今魔王の元にいる。

 伝えるのは無理じゃないだろうか?


「いけませんお嬢様! あの者は危険です! 近づくべきではありません!!」


 カヤが突然大声を出す。


「危険?クロキさんが? カヤ、どういう事ですの?あの方はとても優しい方でしたわ! カヤといえども聞き捨てなりません!!」


 キョウカがカヤを叱る。

 そのキョウカの様子に私達は驚く。

 キョウカがカヤの意見に反論するなんて珍しい。

 それにキョウカがカヤにあんな顔を見せると思わなかった。


「お嬢様はお気づきではないのですか? あの者はその身に野獣を隠しているのです。絶対に近づくべきではありません」

「野獣?そうかしら?とても紳士的に感じましたけど?」

「いーえ!!駄目です!!お嬢様!!あの者のお嬢様の胸元を見る時の目は野獣そのものです!!ぜーったいに!!近づいてはいけません!!」


 カヤが駄々っ子のようにキョウカに言う。

 その様子に皆が驚く。


「ど、どうしたの? カヤさん? いつものカヤさんじゃないみたい」


 サホコが目を丸くする。


「ホントびっくりだよ。いつも冷静なカヤさんがあんなになるなんて……」

「そうっすねリノちゃん。ビックリっすよ」


 私も同じ気持ちだ。

 普段は冷静沈着のカヤのこんな姿を見るのは珍しい。


「ど、どうしたのですの? カヤ?まるで昔に戻ったみたいですわ」


 キョウカも目を丸くして驚いている。

 私達は昔のカヤの事を知らない。

 昔は今とは全く違うらしいが、今みたいな感じだったのだろうか?


「絶対に近づいては駄目です!!男なんて汚らわしい野獣です!!レイジ様です!!特にあの者からは危険な感じがします!!近づいてはいけません!!」


 カヤがサホコの方を見て言う。

 サホコのお腹が大きくなっている。

 レイジの子がいるのだ。正直何をやっているんだと言いたいが、サホコも望んだ事なので我慢している。

 それにしても、カヤは引く様子がない。思い付くままに欠点をあげ連ねてキョウカに迫る。

 キョウカはカヤの剣幕にしどろもどろになっている。

 そして、野獣とはどういう事だろう?

 シロネの話では彼は大人しい性格をしているみたいだった。

 それとも大人しいのはシロネの前だけで、本当は暴力的な性格をしているのだろうか?


「キョウカ。このまま目を覚まさないならともかく、解毒剤のあてはある。奴に知らせる必要はないさ。むしろいらない心配をかけると思うぜ」


 レイジが2人の間に割って入りキョウカを説得する。


「そう……。お兄様がそう言われるのなら。そうなのかもしれませんわね」


 キョウカはまだカヤの言う事を納得していないみたいだが、レイジの言葉を聞く事で場を収める。


「まあ、これで話は済んだわね。それではイシュティア。解毒剤の事をお願いするわ?」

「ええ、もちろんよ。チユキ。ファナちゃんにお願いしてみるわ」


 そう言ってイシュティアは艶やかに笑うのだった。





◆知識と書物の女神トトナ


 エリオスの天宮には神妃の私室には母と姉とレーナ、そして私がいる。


「よく集まりました、我が娘達よ」


 母のフェリアが私達を見て言う。

 姉と私は当然だが、レーナは母に育てられた。そのため母にとってレーナは義理の娘でもある。

 天界の三姉妹。そう呼ばれる事もある。


「さて、トールの事ですが、ファナ。容体はどうなのですか?」

「はいお母様。トールの事ですが、体は動かず、眠り続けていますが、命に別状はありません。ただ、正面から毒を受けましたので、目覚めるのが何時になるのかわかりません」


 姉が悲しそうに言う。

 蠍神ギルタルの毒は神族の持つ毒の中ではそこまで強力ではない。

 下位の種族が受ければ死ぬだろうが、神族ならば死ぬ事は無い。

 毒の耐性を持つ神ならば体の動きが少し鈍るぐらいだろう。

 ただし、毒の耐性が無い、又は当たり所が悪ければ、ずっと体が痺れて動けなくなる可能性もある。

 そして、兄トールズはギルタルの毒を正面から受けてしまった。

 そのため、未だに起き上がれないでいる。


「ファナ。解毒剤はどうしたのです? なぜ使わないのですか?」

「それが、お母様。ギルタルの毒を解毒する薬の材料が足りないのです。それさえ、あればすぐにでも……」


 姉の言葉に母が溜息を吐く。


「そうですか……。何が足りないのです?ファナ?」

「さ……、蠍神の毒です。師匠の資料にはそう書かれていました」


 姉が師匠と言うと母の眉が不機嫌そうにぴくりと動く。

 姉が言う師匠というのは魔王モデスに仕える大魔女ヘルカートの事だ。

 元々姉の医療や薬草の知識はヘルカートがエリオスに残した物である。

 姉は少しの間ヘルカートに弟子入りしていた。

 母はそれが気に入らないのだ。

 母は破壊神ナルゴルの力を受け継いだ魔王を何よりも嫌う。

 私が生まれる前。

 母は聖母神ミナ様がナルゴルに殺される所に居合わせていたらしい。

 物陰に隠れ何とか助かったが、父であるオーディスが駆けつけた時は恐怖でガタガタと震えていたそうだ。

 それ以来、母はナルゴル恐怖症だ。

 そして、その力を受け継ぐ魔王をも同じように怖れている。

 エリオスの女神が魔王を嫌う理由には容姿が醜いのもあるが、女神の頂点に立つ母の影響もある。


「ファナケア。蠍神の毒という事はギルタルの毒が必要なの?」


 レーナが尋ねる。


「いいえ、レーナ。ギルタルでなくても同じ毒を持つ者ならば、誰でも良いわ」

「そう……。それなら誰がいるかしら?」


 その場にいる者達全員が考える。

 そして、私はある者の事を思い付いた。


「ブルウル。ギルタルの妹がジプシールに住んでいるはず」


 私がそう言うと全員の視線が私に集まる。


「それは本当ですか? トトナ?」


 母に頷く。


「間違いない。確かにそう」


 ギルタルの妹であるブルウルはジプシールに住んでいる。

 兄に比べて大人しい性格だったはずだ。


「なるほど……。ギルタルの妹ですか。エリオスの者以外の手を借りるのは気が進みませんが、仕方が有りません。手を借りる事にしましょう」

「でも、フェリア様。それだと問題があります。ジプシールは私達の力が及びません。ブルウルも手を貸してくれるかどうか?」

「確かにそうですねレーナ。ですが、ジプシールならイシュティの力が及びます。ヘイボスに頼むという手もありますが、動いてくれるかどうかわかりません。ですからイシュティに頼みましょう」


 母が気安く言う。

 そんなに簡単にいくのだろうか?

 私はジプシールを支配する者の事を考える。

 そんなに甘い性格ではない。毒と引き換えに大変な事を頼まれる可能性もある。

 それならば魔王を頼った方が良いと思う。

 しかし、母にその考えはないみたいだ。

 魔王よりもジプシールの方がましなのだろう。


「そういえばお母様。イシュティア様が解毒剤を欲しがっていました。ええと……、何でも光の勇者が必要としているらしいです」


 姉がレーナの方を見て申し訳なさそうに言う。


「光の勇者って、レイジの事? どうしてレイジが解毒剤を必要とするのかしら? それになぜイシュティア様がレイジと一緒にいるの?どういう事?」


 レーナが首を傾げる。


「わからないわ、レーナ。でも光の勇者の仲間の剣士がギルタルの毒で倒れたと聞いているわ」

「剣士って、もしかしてシロネが!!?」


 レーナが突然大声を上げて驚く。

 ちょっと嬉しそうに感じたのは気のせいだろうか?


「落ち着きなさい。レーナ。イシュティが貴方の勇者の所にいる事が気になるのはわかりますが、今は我慢して、レーナ」

「申し訳ございません。フェリア様」


 レーナが母に頭を下げる。


「さて、ファナ。イシュティに蠍神の毒を手に入れるように連絡するのです」

「はい。お母様」


 そう言って姉が退室しようとする。


「待ってファナケア」

「どうしたの? レーナ?」

「イシュティア様に連絡をするのなら私が行くわ。レイジ達の様子も見ておきたいし」


 そう言うレーナの顔が笑っているように見える。

 どういう事だろう?


「そ、そう。それならお願いするわ」

「ええ、任せてファナケア」


 そう言ってレーナが退室する。


「さて、後はイシュティに任せましょう」


 母がこれで大丈夫だと思っているみたいだ。

 しかし、そんなにうまく行くとは思えない。

 師匠に相談できないだろうか?

 私は都合の良い事を考える。

 姉が大魔女ヘルカートの弟子なら、私は魔王の宰相ルーガスの弟子だ。

 おそらく世界で一番の知識の持ち主である師匠ならば良い方法を教えてくれるかもしれない。

 姉と違って私と師匠は今でも連絡を取り合っている。

 それにナルゴルにはクロキがいる。

 もしかすると会えるかもしれない。

 兄が大変な状態だというのに私はそんな事を考えるのだった。


7章更新

本当はもっとはやく更新する予定でした……。仕事から帰って書こうとしても頭が切り替わらず、結局1週間m(_ _;)m


小説を書き始めて3年でようやく1,000,000文字。遅いですね(*T▽T*)

実は小説を書いている事を職場の人はもちろん、家族も友人も知らなかったりします。オタクはやめた事になっているのに……。

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