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暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第1章 謎の暗黒騎士
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変質者との遭遇

◆暗黒騎士クロキ


 聖レナリア共和国の外街の酒場で客達が話をしている。

 客の格好からしてどこかの戦士団に所属する者だろう。

 いかにも荒くれ男って感じだ。

 自分は聞き耳を立てる。


「おい、知っているか。勇者レイジが魔王討伐に失敗したらしいぞ」

「その話は俺も聞いているぜ。なんでも瀕死の重傷って言うじゃねえか」

「あの強い勇者様が倒されるとは思わなかったぜ。やっぱり人間に魔王退治なんて無理だったんじゃねえか?」

「最強の勇者様も魔王には敵わないか……」

「いや、勇者を倒したのは魔王じゃねえって話だぞ」

「何! 本当か!!」

「ああ、何でもその配下の暗黒騎士が倒したらしい」

「へえ、魔王の配下にそんな強い奴がいたなんて初耳だな」

「ああ、だが問題がある」

「問題?」

「今まで魔王は何故かナルゴルから出てこられなかったらしいが、どうもそいつは違うらしい」

「何! じゃあ、暗黒騎士がこっちに攻めてくるのか?」

「今の所はわからん。だが勇者がやられた事で各地の魔物達の動きが活発化しているらしい。暗黒騎士が各地の魔物を率いて攻めて来るって噂もあるらしいぜ」

「勇者の次は暗黒騎士かよ……嫌な世の中だな……」


 自分は酒も飲まず、近くの椅子にすわり客達の話を聞いていた。

 噂話が尾ヒレどころかトサカまで付いている。

 自分は攻めるつもりなんか無い。そもそもモデスからして人間を滅ぼすつもりは無いはずだ。少なくとも自分はそう聞いている。

 客達が飲んでいる物を見る。

 木製の杯に入っているのはエールと呼ばれる麦を発酵させたお酒だ。

 自分達の世界におけるビールのような物だ。

 ビールもエールも飲んだ事は無いが、おそらくエールはビールに比べて美味しく無いだろう。

 何しろ冷蔵庫の無い世界である。

 エールは冷えていないのが普通だ。

 それにしてもレイジの噂を良く聞く。

 さすがはレイジ達が拠点としている都市である。


「ディハルト様……」


 椅子の下から声がする。一匹のネズミがいる。

 ナットは聖レナリア共和国の中心であるレーナ神殿に情報を集めに行ってくれていた。


「おかえりナット。それじゃあ帰ろうか?」





◆暗黒騎士クロキ


 ナットを連れてドズミの小屋へと戻る。

 ドズミはもういない。

 彼はすでにこの国を出た。

 いや、ドズミだけではない。

 彼の所属していた戦士団にいた人達もいなくなったみたいだ。

 おそらくレイジの報復を恐れたのだろう。


「ディハルト様。神殿の様子でヤンスが」


 ナットから神殿の情報を聞く。

 ナットが言うには、神殿はドワーフによって建設された。

 ドワーフが建築しただけにかなり堅固らしい。

 当然、警備も厳重で神殿の直属の騎士は精鋭ぞろいであり、人の守りも固い。

 だが問題は騎士達よりもその神殿にある、所々にしかけられた魔法の警報装置のほうだ。

 ドワーフの作ったその警報装置は優秀で生半可な隠形や透明の魔法など一発で見破ってしまうとの事だ。

 その神殿にレイジ達がいるはずなのだ。

 レーナ神殿は警備が厳重なため影のマントをもってしても潜入するのは難しく、自分はここでナットの帰りを待っていた。


「あっしなら簡単に入れるでヤンスが……」


 ナットが申し訳なさそうに言う。

 装置は小動物が入るたびに警報が鳴ってはたまらないので一定の大きさの物にしか反応しない。よって体の小さいナットは簡単に侵入できるそうだ。

 自分が変身の魔法が使えれば良かったのだが、あいにく使う事ができなかった。


「いや、教えてくれてありがとう。すごく助かるよ……」


 ナット自身はあまり魔法が使えないが、知識はすごい。なんでも彼の直属の上司が元知識の神だったからだそうだ。

 だがナットのもっとも得意とする所は潜入と情報収集である。エリオスに侵入してモデスの友人への使者になった事もあるそうだ。

 道中にナットがいなかったら、無事にここまでたどりつけなかっただろう。

 彼を案内役にしてくれたモデスには感謝しないといけないだろう。

 現にこうして神殿の情報を持ってきてくれた。


「潜入するのは難しそうだね」


 自分はため息をつく。


「あの~ディハルト様。あっしが盗み聴きをするだけじゃダメでヤンスか?」


 ナットが提案する。


「確かにナットの持ってくれる情報も有益だけど……」


 だが、それではここまで来た意味がない。

 そもそも、ここまで来たのは彼らを敵として情報を集めるためではない。

 何のために情報を集めるのかによって得られる情報も違う。

 相手を敵として情報を集めるならば、兵力の数や装備の種類とかを調べるだろう。

 ナットは自分が勇者にとどめをさすために来ていると思っているかもしれない。

 だから、そのための情報ならばナットはきっと重要な情報をもって来てくれるだろう。

 だが、そうではないのだ。ナットでは自分の知りたい情報を持ってきてくれるとはかぎらない。


「ごめん。自分の目で彼らの様子を知りたいんだ」


 ナットの申し出を断る。


「そうでヤンスか……」


 信頼されてないと思ったのかナットの声が暗い。


「そんな事よりもナット。ご飯を食べに行こう」


 自分達はドズミのねぐらだった小屋を出る。

 小屋を出てむき出しの地面を踏みしめる。

 城壁の中と違って、石畳で舗装されていない。

 このレナリア市に来て2日目だった。

 街を歩くと昼時なのか露店から食べ物の匂いがする、おそらく雑穀のお粥だろう。

 多くの人がその露店に足を運んでいる。

 しかし、衛生上の問題から外街の露店の食べ物を食べるのは危険であった。

 何しろ法がないに等しいので、即死はしないが普通に毒性の植物が入っていたりするのだ。

 酒場で何も食べなかったのはそのためだ。

 では何故酒場にいたかと言うと単純に情報を集めるためだったりする。

 自分とナットは城壁の中に入って食事を取る事にする。

 影のマントを着こみ正門から城壁の中へと入る。

 影のマントによる隠形の魔法を発動する方法はフードをかぶり顔までしっかり隠すことである。この隠形の魔法は人の意識をそらす魔法だ。この魔法が発動すると他者は側にいても気付かなくなる。

 ただし、一定の探知能力を持つ者には簡単に気付かれてしまうらしい。

 城壁の中は薄汚れた外街と違って掃除が行きとどき、綺麗である。

 自分は昨日見つけたパン屋へと足を運ぶ。

 パンには上質な白麦で作られた物とそれより劣る黒麦で作られたものがある。

 白麦で作られたパンは日本で作られるパンと遜色なかった。

 違う都市だったが蜂蜜入りのパンは非常においしかった覚えがある。

 そのパンがこの都市にもないだろうか?

 通りを歩くと、行く先が騒がしい

 人々の垣根の隙間から見てみると甲冑をまとった男が2人ほど警戒しながら歩いている。


「ありゃ、神殿の騎士でヤンスね。何をしているんでヤンショ」


 この聖レナリア共和国では騎士に命令できるのは王や執政官ではなく、神殿の長である。

 そして、基本騎士達は神殿の護衛か街道の治安維持が仕事だ。

 このように都市の中を完全武装で歩くことはないとナットは言う。

 その騎士の後ろには2名の女性が歩いている。

 どちらもかなりの美少女だ。

 前をあるく女性はいかにも育ちが良さそうなお嬢様のようであり、髪は明るく気が強そうなのが印象的だ。

 後ろを歩く女性は背が小さく、髪を団子状に後ろに高く結んでいる。ただ顔が能面のように表情がない。2人は会話していて、前の女性は表情豊かに話しているのに、後ろの女性は必要最小限しか口を動かさない。

 2人の着ている服は遠目からでも上等な物だとわかる。かなりのお金持ちのようだ。

 そして、前を歩く騎士と後ろを歩く騎士は彼女達の護衛のようである。

 何者なのだろう?


「ディハルト様。ありゃ爆裂姫ですぜ」


 ナットが前を歩く女性を指して言う。


「爆裂姫!?」


 爆裂姫なんてあまりにも変なネーミングだ。自分が疑問に思うとナットが説明してくれる。


「以前に、あの姫さんにちょっかいをかけようとした男が魔法でぶっとばされた事があるそうなんでヤンス。そのとき、魔法の威力が高くて関係のない民家を何軒かふっとばした所から爆裂姫と呼ばれているようでヤンス」

「はあ……」


 ナットの説明に自分は間抜けな声をだす。

 そして、あの騎士達はその爆裂姫に変な奴が近づかないよう、神殿が付けた者らしい。

 護衛じゃないの?と突っ込みたくなる。

 その騎士達総勢4名は少し離れて2人を取り囲むように付き添っていた。


「そして、あの爆裂姫は勇者の妹でヤンス」


 ナットの言葉に自分は驚く。

 勇者の妹だって!?だとすれば彼女はレイジの妹と言う事になる。

 レイジに妹がいた事も驚きだが、召喚された者が魔王城に来た者だけでない事も驚きだった。

 一体何人召喚されんたんだ?

 自分は疑問に思う。

 自分の時は1人ぼっちだった。

 ちょっと不満に思うが、これはある意味チャンスである。

 あの2人の会話が聞けないだろうか?

 耳をすませる。

 何も聞こえない。

 自分はこの世界では超人になっている。耳をすませればある程度遠くの声も聴くことができる。

 だけど2人の会話はまったく聴こえない。

 後をつけよう。そう思った。


「ごめん、ナット。少し待ってくれるかい」

「わかりやした」


 ナットが自分の肩から降りる。

 本来なら正面から相手に話しかけたほうが良いのだろうが、シロネに自分の事が伝わるのはできれば避けたい。

 自分は影のマントを被り隠形の魔法を発動させる。

 2人は自分が行こうと思っていたパン屋の方角に歩いている。

 付かず離れず、尾行をする。

 それはちょっと近づきすぎた時の事だった。

 2人の声が聞こえたような気がしたのだ。

 もっと、聞いてみたいと思い自分はさらに近づいてしまう。

 かなり近づくと突然普通に声が聞こえるようになった。


「それでねカヤ、そこのパンがおいしかったのよ~」


 レイジの妹の声が聞こえる。


「お待ち下さい!!お嬢様!!」

「どうしましたのカヤ?」


 彼女の連れのただならぬ声に立ち止まる。

 その時だった。

 自分は咄嗟に身をかがめる。

 それまで自分の顔の、それも顎があった所をなにかが高速で通りすぎる。

 回し蹴り。

 レイジの妹の後ろを歩いていた女性がジャンプし、回し蹴りをはなったのだ。

 それも、後ろを向いていたにも関わらず、正確に顎の所をだ。

 反応があと少し遅れていたら確実にあたっていただろう。

 そして、顎にあたっていたら自分は昏倒していたかもしれない。

 彼女は体をひねりそのまま踵落しをしてくる。

 スカートの中が見えそうになるがそれどころではない。

 自分は転げるように横に逃げ、踵をさける。

 踵の落ちた所の石畳が砕け散り、そこから亀裂が走っていく。

 その彼女がすぐに追撃をしかけてくる。

 するどい攻撃、しかし追撃をあせりすぎたのか少し態勢を崩した攻撃だった。

 とっさに自分は彼女の手を取り投げ飛ばしてしまう。

 やばいと思った。

 これは本来なら、頭からおとす技である。

 自分は慌てて彼女の背中に手を添えてお尻から落ちるようにする。


「うっ!!」


 女性の呻き声。

 いくら、お尻とはいえ痛いだろう。


「すっ、すみません!!」


 思わず謝ってしまう。


「カッ! カヤに何て事を!!」


 レイジの妹がこちらに向かってくる。

 だが、自分で自分の足にひっかけてしまい、そのまま倒れてしまいそうになる。

 このまま倒れれば石畳に顔をぶつけてしまうだろう。


「あぶないっ!!」


 おもわず自分は彼女の体を受け止める。

 ふにっ。

 手にやわらかい感触がする。


「何をするんですの!!」


 受け止める時にどうやら、胸を鷲掴みにしてしまったようだ。


「このヘンタイ!!」


 強烈なビンタが飛んでくる。

 胸から手を離せなかったので、もろにくらってしまう。

 そのとき、フードがずれてしまう。


「しまった!!」


 自分は咄嗟に顔を隠すと急いでその場から離れる。

 異変に気付いた騎士達が駆け寄る。

 その一人をはじき飛ばすと道の影に入った。

 どこまで逃げただろう。気が付くと外街の小屋にいた。

 自分はそこで一息つく。

 彼女の動きを思い出す。あの動きはなんらかの拳法をやっている動きだ。

 そして、おそらくは自分が元いた世界の拳法だろう。

 彼女もまた召喚された者だったのだ。しかも相当修行を積んだ人間の動きだ。

 だがそれ以上に。


「失敗だった……」


 自分は呟く。

 これではこれから先、情報収集が難しくなるだろう。

 これからどうしよう。


「ディハルト様~。大丈夫でヤンスか~?」


 ナットがこちらにやってくる。

 ナットを見て思う。

 正直に話そうか?

 ナットならば情報収集が容易だ。

 一応勇者とは敵同士ということになっている。

 彼らとあまり争いたくないと聞いたらナットは何と思うだろう。

 だが、このままではどうしようもない。

 自分は考える。

 そして、左の掌を見る。


「柔らかかった……」



※H28/1/12 

割り込み投稿したので内容が変わっています。


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