暗黒騎士VS聖騎士
◆魔王モデス
「陛下! 大変です! グゥノの部隊が強力な結界に阻まれ! 姫様の下へたどり着けないそうです! さらに同じように入る事が出来ないでいる! 女神レーナの空船と睨み合いになっているそうです!!」
魔王城の謁見の間。慌てるように入って来たジヴリュスが報告する。
クロキがポレンと共にオババを助けに行った後、クロキは念のために部下であるグゥノ達に後を追うように命じていた。
しかし、グゥノ達が辿り着いた時にはクロキ達はアルフォスの作り出した魔道結界に捕らわれた後だったのである。
驚いたグゥノは魔王城に報告して助けを求めたのである。
「そうか、グゥノ卿には、こちらからレーナ達に手を出すなと伝えておいてくれ」
そう命令するとジヴリュスが部下に指示を出す。
おそらく、配下の近衛騎士達に出撃を命じたのだろう。
近衛騎士団は女性のデイモン族で組織された戦士達だ。
その力はランフェルドの配下の暗黒騎士に匹敵する強さを持つ。
「全く! あの子と来たら!ようやく部屋から出たと思ったら陛下に心配をかけるなんて!!」
モーナが不機嫌そうな顔をする。
それを見てため息を吐く。
モーナとポレンの親子の仲はぎくしゃくしている。
ポレンは自らの容姿を嫌っている、このモデスに似ている事が嫌なのだ。
それがモーナには気に入らない。そして、父親を嫌うポレンを強く叱ったのだ。
その結果、ポレンはモーナと顔を合わさないようにしてしまった。
本来ならこのモデスが間に立たねばならない。しかし、引き籠ったポレンを前に何も出来なかった。
魔王と呼ばれ、この世界でも最強と呼ばれた者が何て様だろう。
愛する者を前に何もできないとは……。
だから、クロキがポレンを表に連れ出してくれた時は嬉しかった。
クロキには何から何まで世話になっている。
魔王城の玉座の間、上空の魔法の映像には美しい水晶の庭園が映し出されている。
光り輝く氷華が咲き乱れ、鏡のような床が天空のオーロラを映し出し、幻想的な空間を作り出している。
美しい雪の女王が綺麗な声で歌い、可憐な雪の乙女達が空中を舞う。
その庭園を純白の鎧を着た聖騎士が剣を振るい暗黒騎士に攻撃している。
暗黒騎士は聖騎士の猛攻に防戦一方である。
これはポレンに身に付けさせた魔法の首飾りから送られている映像だ。
首飾りは心配だったので、クラ―ケンを獲りに行くときに身に付けさせていたのだ。
もっともポレンは映像がこちらに送られている事は知らないだろう。
アルフォスの結界の中でもきちんと魔法は働いているようだ。
「それにしても、まさか、あの閣下が苦戦するとは……。アルフォス神は歌ってばかりで、強そうには見えなかったのですが……」
部下に指示を出したジヴリュスが映像を見て驚く。
ジヴリュスは近衛騎士団長。魔王城を守る最高責任者まで出撃する事はできない。
「ほう。ジヴリュス卿は知らないのですな。白麗の聖騎士アルフォスの事を」
ルーガスが白い髭を撫でてジヴリュスに説明をし始める。
白麗の聖騎士アルフォス。
最近のアルフォスは遊んでばかりと聞くが、かつては最強の聖騎士と呼ばれ、エリオスの神々を率いるオーディスがもっとも頼りにしていた男だ。
オーディス達はこのモデスがエリオスを離れた後、天空の巨人族タイタス達と空の支配権を賭けて戦った。
天空の巨人族タイタスは大地の巨人族ギガテスや蒼海の巨人族オケアスと同じく、原初の始祖神エリオスが生み出した古の種族。その力は神族に匹敵する。
エリオスの軍勢は苦戦し、もしアルフォスが天空の巨人王を倒さなければ、どうなっていたかわからないと聞く。
美しさと強さを兼ね添えた天上の貴公子。神王の剣。
アルフォスとはそう呼ばれる男だ。
双子の妹の天上の美姫レーナと同じくとても優秀である。
「それほどとは……。それでは閣下はこのまま負けてしまうのでしょうか? ポレンナ姫様はどうなるのでしょうか」
ジヴリュスが不安そうな顔をする。
「確かに……、まずいかもしれませんな。何とか対策を取り、姫様だけでも助けなければいけないでしょうな」
ルーガスはこのままクロキが負けると思っているらしい。
だが、それは間違いだ。
「それは、どうかなルーガスよ。このモデスにはクロキが負けるようには思えん」
そう言うとルーガスとジヴリュスは顔を見合わせる。
「しかし、陛下。現にアルフォスに全く歯が立たないように見えますが……?」
そう言って映像を見る。
確かにクロキは苦戦している。
「確かに苦戦しているように思える。しかしな、どうしてもクロキが負けるようには思えん。むしろ、アルフォスの方が追い詰められているように見える」
アルフォスが神王の剣ならば、クロキは魔王の剣だ。
クロキは必ず勝つ。
ルーガスとジヴリュスが驚きの表情を浮かべる。
モーナは特に驚いていない。
同じように思っているのかもしれない。
「このモデスはクロキを信じる。必ずポレンを連れて戻って来てくれるとな。さあ、クロキよ見せてくれ。最強の我が剣よ。アルフォスを打ち破り、逆転する姿を!!」
◆暗黒騎士クロキ
「幻光流星剣!!!!」
聖騎士アルフォスの剣が輝くと、その斬撃が流星群のように降り注ぐ。
「のわあああ!!!」
自分は身を屈めて床を這うようにしてアルフォスの剣から逃れる。
その姿は傍から見るとゴキブリに見えるかもしれない。
クーナ達を乗せた空船から美女達の笑い声が聞こえる。
「何あれ! ださ~い!!」
「きゃはは! ホ~ント! みっともな~い!!!」
「良くそれで、アルフォス様と戦う気になったわね~!!」
「ホント! ホント! 身の程を知れって~の!!」
「アルフォス様~! そんな害虫、早くやっちゃってください!!!」
「きゃはは!!」
美女達は自分がアルフォスから逃げ惑う姿がよほど面白いようだ。笑い声が絶えない。
アルフォスが七色の幻影を残しながら再び迫って来る。
魔剣を構え迎え撃つ。
「氷華天光乱舞十七連斬」
アルフォスが目の前で分裂して舞うように剣を振るって来る。
「ちょおおおおお!! とわっ! とわっ!!!」
自分はそれぞれのアルフォスの剣の舞に合わせるように、魔剣を振るって舞う。
しかし、アルフォスの剣の舞が優雅なワルツなら、自分の剣の舞はどうみても奇妙な暗黒舞踊だ。
素早いアルフォスに無理やり合わせたので滑稽な踊りになってしまう。
空船の美女達が爆笑しているのがわかる。
喜んでいただけて、なりよりです……。
「中々しぶといね。暗黒騎士君。君はどう見ても、この美しい花園を虫食む害虫。害虫は害虫らしく大人しく駆除されてくれないかな」
「ぐぬぬぬぬ」
アルフォスの蔑むような物言いに、歯軋りするしかない。
確かにアルフォスの作り出した水晶庭園は美しい。
そんな美しい庭園の中で自分だけが醜いように思える。
でも害虫は酷いと思う!!訂正を要求する!!
せめて、害虫ではなく、芋虫ぐらいに言い直して欲しい!!と心の中で涙を流しながら訴える。
「さあ!!害虫君! 美しい僕の華麗な剣技で、大人しく駆除されたまえ!!」
そんな自分の気持ちなんか知るはずが無いアルフォスが剣を掲げて向かって来る。
暗黒騎士君から害虫君に格下げされたみたいだけど、それを嘆く暇を与えてくれない。
アルフォスの怒涛の攻撃。
速えええええ!!!!!
自分は剣を振るって防ぎ、床を這いつくばって逃げ、奇妙な体勢になりながら躱す。
その様子は我ながら恰好悪い。
美女達の笑い声。
しかし、それも仕方が無い。
アルフォスは間違いなく強い。
レイジ以来の強敵だ。どうにもならず。情けない姿をさらしている。
どうしよう。まいりましたと言うべきか?
自分は首を振る。
しかし、そんな事は言えない。
言えるわけがない。
「クロキ先生いいいいいい! お願いいいいいいい! 負けないでえええええ!!」
先程から美女達の声に混じってポレンが自分を応援している。
声から泣いているのがわかる。
これでは、まいりましたなんて言えるわけがない。
醜い姿のために引きこもっていたポレン。
そんなポレンを外に出すために頑張らせた。
その自分があっさりまいりましたなんて、言えるはずがない。
全くもって、偉そうなことは言えない。
誰かに説教なんてできるような、立派な人間じゃないくせに……。
でもね、思うのです。
ずっと、閉じこもったままでは苦しいのではないだろうか?
今でも思い出す。
この世界に来て、モデスからレイジと戦って欲しいとお願いされた時の事を。
あの時、逃げていたら、どうなっていただろうか?
多分ずっとレイジから逃げ続ける事になっていただろうと思う。
それは、平和かもしれない。
だけど、クーナに会う事は出来なかった。だから戦って良かったと思っている。
戦いを避ける事は間違っていない。
戦えば負けるかもしれない。負ける事はとても苦しいし、死ぬかもしれない。
逃げ続け、閉じこもっていれば負ける事はない。
だけど、逃げ続けて、閉じこもってばかりでは勝つ事も出来ないじゃないか。
やみくもに戦う事は良くないのは確かだけど、戦うべきときに逃げていたら、それは負けるよりもみじめだ。
アルフォスの側の美女達が自分達を馬鹿にしたときに、へらへら笑って逃げていたらどうなっていただろうか?
戦いにはならなかったかもしれない。だけどそれはみじめだ。
だからこそ戦う。
ポレンの前で逃げる事はできない。
「しつこいね!君も! いい加減に倒されたまえ!!」
アルフォスの剣が自分を襲う。少し焦れているようだ。
「負けてたまるか―――!!!!」
必死になって剣を振るいアルフォスの攻撃を防ぐ。
このまま、あっさり負けてたまるか――――!!!!!!!
無駄かもしれないけど、どこまでも、どこまでも粘ってやる。
そう思い歯を食いしばる。
◆魔界の姫ポレン
オーロラの浮かぶ空の上。眼下では暗黒騎士のクロキ先生と聖騎士のアルフォス様が戦っている。
戦況はクロキ先生が一方的に嬲られている状態だ。
先生はアルフォス様の剣を何とかしのいでいるけど何時までもつかわからない。
「何あれ~。みっともない~。ぷぷぷ」
「よくあれでアルフォス様と戦う気になったわね~。身の程をしれっての」
「ほんと馬鹿な奴。アルフォス様に敵うわけないでしょう」
「なんて、情けない姿なんだろう。まるで庭園にいる害虫よね~。アルフォス様と大違いだよね~」
「確かに言えてる~。ほんと害虫だわ~。きゃはははは」
「アルフォス様ぁ~! そんな害虫!!早く駆除しちゃってくださ~い!!」
「やっちゃえ~! アルフォス様ぁ~!!!」
アルフォス様の剣から必死になって逃れようとしているクロキ先生を見て、美女達が楽しそうに笑う。
「あわわわわ。ポレン殿下。閣下が……閣下が負けそうなのさ」
横に座るぷーちゃんが私に不安そうに言う。
だけど、不安なのは私も一緒だ。
涙が出そうだ。
しかし、応援することしかできない。
「クロキ先生いいいいいい! お願いいいいいいい! 負けないでえええええ!!」
必死になって大声を出す。
先生に届いているのかわからない。だけど、それでも声を出すしかない。
私に出来るのはこれだけだ。
横にいるクーナ師匠は静かに戦いを見守っている。
なんとなくだけど、その表情が険しくなっているような気がする。
怪我をして安静にしているグロリアスさえも首をもたげて戦いの行方を見ている。
「ねえ、あなた達。今どんな気持ち? 暗黒騎士が負けそうになっているけど、どんな気持ち?」
美女達の一団が笑いながらこちらに来る。
全員小馬鹿にしたような態度だ。
私は思わず彼女達を睨んでしまう。
「な~に。ブタ。その目は?」
「きゃあ~。こわ~いブタが睨んでる~。でも残念でした~。アルフォス様が私達を助けてくれるもの。何も怖くないよ~だ」
「そうそう。アルフォス様があの暗黒騎士を倒したなら、次は貴方達の番よね~。そこの竜だって怖くないわ」
「ブタはブタらしく唸っていなさいよ。そこの銀髪の子はともかく、貴方達みたいな醜いブタが私達に勝負を挑もうってのが間違っているの」
「そうそう。ほら見なさいよ。ブタを庇った暗黒騎士のBU☆ZA☆MAな姿をね」
「ブタの騎士なんて、所詮あの程度よね~。兜で顔は見えないけど、見たらドブネズミみたいな顔に決まっているわ」
「そうようね絶対にブサイクだわ。だって醜いブタの所にいるのだもの」
美女達がきゃはははと笑う。
悔しい。
私だけじゃなく庇ってくれた先生まで悪く言うなんて、先生はブサイクじゃない。
確かにアルフォス様に比べると華やかではない。たぶんエリオスの殿方と同じ所にいたら目立たないだろう。
だけど、目立たないだけで。容姿は全く負けていない。地味だけど、とても整った顔立ちをしている。
そして、そして、何よりも、こんな私にもすごく優しくしてくれる。
だから、先生は私の中では一番だ。誰にも負けない
「ううう……。先生は負けない……負けないもん」
私は必死に言いかえす。
「はあ?何言ってんのブタ。あんたの暗黒騎士がアルフォス様に敵うわけないじゃん」
「そうそう。必死になって剣を振っているみたいだけど、アルフォス様には全く届いていないじゃない」
「そうよ頑張っても無駄無駄。醜い暗黒騎士が美しい聖騎士のアルフォスに敵うわけないっての」
「ほ~んと。醜い奴の努力なんて見苦しいだけだよね~」
「無駄な努力なんかしないで、さっさとやられちゃえっての」
美女達の嘲りの声。
悔しい。悔しい。でも何も出来ない。
好き放題に言ってくれる。
クーナ師匠は悔しくないのだろうか?
師匠の方を見る。
「?」
思わず驚きの声を出してしまいそうになる。
良く見ると師匠が笑っているのが見える。
クロキ先生がやられているのにどういう事だろう?
「全くうるさい奴らだな。静かに見る事が出来ないのか?」
その言う師匠の顔は余裕の笑みを浮かべている。
それは美女達を嘲っているように見える。
師匠の様子に気付いた美女達が怪訝な表情を浮かべる。
「何が可笑しいのですか? 魔女よ?貴方の暗黒騎士が負けそうだと言うのに」
美女達が騒ぎ、師匠の様子に気付いたミューサがこちらに来て問い詰める。
「クロキが負ける? 何を馬鹿な事を言っている。クロキはお前らの男を捕えた。良く見ろ。クロキの剣が届くぞ」
そして、クロキ先生の方を指差す。
「何を馬鹿な事を……」
ミューサが振り向いた時だった。
「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」
美女達の驚く声が重なる。
美女達の視線の先には剣を振り揚げたクロキ先生の姿。そして、その前には仰け反った状態のアルフォス様が立っている。
剥き出しになったアルフォス様の顔が驚愕の表情を浮かべている。
クロキ先生の剣に弾き飛ばされたアルフォス様の純白の兜が放物線を描き、水晶の床へと落ちる。
美女達がざわめく。
先程まで、かすりもしなかったクロキ先生の剣が初めてアルフォス様に届いたのだ。
師匠が楽しげに笑う。
「アルフォスと言ったか、なかなかやるではないか。ここまでクロキを手間取らせたのだからな。褒めてやるぞ。だが、それも終わり。ここからはクロキの時間だ」
実は昨日UPできたのですがエイプリルフールだったので今日にしました(・ω・)
アルフォスの技はもっと聞いていて恥ずかしくなるような技名にしたかったのですが……。良いのが思いつきませんでした(T△T)後美女のセリフはもっとえぐいのにしたい……。
少年まんがの王道的展開。次回はクロキのターンです。
※19:55 クロキのセリフを修正しました。少し表現が変でしたm(_ _;)m