水晶庭園
レイジと邪な奴らの話はしばらく出て来ません。
クロキ対アルフォスの再開です。
◆魔界の姫ポレン
「ミューサ様! 何であの子達がまた乗っているのですか?!!」
美女が詩の女神ミューサに抗議している。
なぜ抗議しているかというと再びアルフォス様の船に私達が乗っているからだ。
しかも今度はクロキ先生の魔竜グロリアスも一緒に乗せている。
巨体のグロリアスが船に乗ったので、美女達が船の脇へと追いやられてしまった。
そのため、不平不満が飛び交っている。
もしこれにアルフォス様の聖竜ヴァルジニアスまで甲板にいたら狭くてしかたなかっただろう。
そのヴァルジニアスはこの船の中の自分の部屋に戻っているから甲板にはいない。おかげで何とか全員乗れている。
「ミューサ様~。あんな子達は追い出してしまいましょうよ」
美女の一名がそう言うと他の美女達も同調し始める。
アルフォス様の配下の女戦士達が武器を取りはじまる。
「ポレン殿下。このままでは戦いなるのさ。どうするのさ?」
ぷーちゃんが私に言う。
顔を見るとすでに手が獣へと変化している。
ぷーちゃんはもう一つの姿は大熊だ。
小さい頃は可愛い子熊だった。
私は小さい頃のぷーちゃんを覚えている。
ぷーちゃんの母エリテナが私の遊び相手として連れて来てくれたのだ。
私と同じぐらいの大きさの小さな子熊。
私は初めてできた友達といっぱい遊んだ。
だけど子熊は成長して、どんどん大きくなった。
そして、私の部屋の天井に届くほどまで成長してしまった。
遊びにくいなあと感じた時だった。
子熊が小さな人間の姿をした女の子に変化したのだ。
私はびっくりした。小さな子熊がこんな可愛らしい女の子に変わるなんて。
エリテナの話では、エリテナの一族は成長したらもう一つの姿を得る事ができるそうだ。
姿の変わったぷーちゃんはエリテナに似ていた。
とても羨ましかった。
私も美しいお母様に似ていればと思った。
私はお母様に全く似ていない。
これは少し可笑しいのではないだろうか?
親子なのだから少しは似ている所があっても良いはずではないか?
だけど、今更そんな事を言っても仕方が無い。クロキ先生が言う通り出来る事を全力でしょう。
「落ち着け熊。クロキの戦いが始まる」
師匠がぷーちゃんを止める。
師匠の目は真っ直ぐクロキ先生に向けられている。
アルフォス様の美女達が私達にこれ程の敵意を向けているにもかかわらず、クーナ師匠は落ち着いている。
美女達に興味がないようだ。
「でも師匠。何だかこっちに攻撃をしてきそうですよ……」
女戦士達はすでに武器を抜いている。
そのうちこちらに来そうだ。
「確かにそうだな。少し黙らせるか」
師匠が鎌を持つ。負けるつもりはないようだ。
このままではこの船の上が血みどろになるだろう。
「お待ちなさい!!」
ミューサが間に立つ。
「やめて! 武器を収めなさない! アルフォスは戦いを望んでいません! 皆戦いが終わるまで待ちなさい! そちらも良いですね!!」
ミューサがこちらを見る。
「ああ別に構わんぞ。お前らに構っているとクロキの戦いを見逃しそうだからな。そちらの方が大事だ」
クーナ師匠が鎌を降ろす。
「礼を言います。魔女よ。私もアルフォスの戦いが大事ですからね」
2名の美女が空船の外を見る。
空船から見える山の頂で2名の騎士が剣を抜き構えている。
星の輝きを持つ蒼き聖剣を持つ純白の聖騎士アルフォス様。
黒い剣身に赤い紋様が刻まれた魔剣を持つ暗黒騎士のクロキ先生。
両者は再び戦闘を行うのだ。
「クロキ先生……。頑張って」
私は不安な気持ちで、その行方を見守るのだった。
◆暗黒騎士クロキ
「さて今度こそ一騎打ちだけど、暗黒騎士君。君、強いんだってね」
アルフォスが自分に尋ねる。
「でも僕には、そうは見えないな。光の勇者君を倒したのだって、単純に彼が弱かっただけかもしれないからね」
アルフォスは笑う。
「だから、ここで確かめさせてもらうよ」
その瞬間だったアルフォスの姿がゆらぐ。
一瞬で間合いを詰められ、自分は剣を振るう。
アルフォスの剣を魔剣で防ぐ。
速い。
レイジと同じぐらい速いかもしれない。ちょっとびっくりだ。
「へえ、避けたか。まあ、それぐらいは、やってもらわないとね」
アルフォスは余裕の態度を崩さない。
「だけど、僕よりも遅い。これなら、光の勇者君も弱いのだろうね」
アルフォスが再び来る。
向かって来るアルフォスを剣で迎え撃つ。
自分の剣とアルフォスの剣がぶつかる。
軽い。
まるで羽毛を斬っているみたいだ。
アルフォスは自分の剣に弾かれ、素早く空中を回転すると後ろに回り、後ろから斬りかかってくる。
重心を崩さないようにすり足で移動し、剣で受ける。
「へえ、これも防ぐか。今まで戦った相手よりも強いみたいだね。だけど、僕の動きに付いて来れるかな?」
アルフォスの余裕の笑い声。
確かに速い。そして、鋭い。
しかし、対抗策が無い訳じゃない。
「確かに速いな。だったら、こうさせてもらう」
自分は黒い炎を全身から噴き出す。
どんなに速い相手でも、黒い炎を周囲に張り巡らせて、どこから来ても対処できるようにすれば良い。
「黒い炎? 確かにそれはやっかいだね。でもね、僕ならそれを打ち破る事ができるよ。出ておいで雪の女王エルーサ! そして雪の乙女達よ!!」
アルフォスが叫ぶと共に強力な冷気が吹きつけて来る。
冷気が止ると巨大な白いドレスを纏った美しい女性がアルフォスの後ろに立っている。
そして、その周りを白いドレスを纏った可憐な少女達が踊りながら空を飛んでいる。
氷の上位精霊の雪の女王と氷の中位精霊の雪の乙女だ。
強大な力を持つ上位精霊を呼ぶと同時に、これだけの中位精霊を召喚できるアルフォスの魔力に舌を巻く。
「ちょっ! 一騎打ちじゃないの?!!」
それともこの世界では一騎打ちに精霊の力を借りる事は問題ではないのだろうか?
「すまないね。だけど、君だってランフェルド君と同じように魔王モデスから黒い炎の力をもらったのだろう? だったら、これぐらいは許して欲しいね」
アルフォスは笑って謝る。
確かにランフェルドはモデスから黒い炎の力を授けられたらしい。
話では黒い炎を授けられて、使えたのはランフェルドだけらしく、それはそれですごい事らしい。
だけど、自分は魔王モデスから力を貰った覚えは無い。
この世界に来る事で何故か黒い炎が使えるようになったのである。
もっともアルフォスはそんな事まで知らないようだ。
雪の女王が綺麗な声で歌い、複数の雪の乙女が空中を踊りながら飛ぶ。
周囲の気温が下がるのを感じる。
「悪いけど冷気に対する耐性を持っている。この程度じゃ自分は倒せない」
そう宣告すると、アルフォスは左の人差し指をチッチッっと振る。
「彼女達は君を攻撃するために呼んだのじゃないよ。さあ!!見たまえ! 僕の華麗な魔法を!!」
アルフォスが手に持っている剣を指揮棒のごとく振るう。
雪の女王の歌声が大きくなる。
雪の乙女が空中を歌いながら舞い踊る。
その雪の乙女が過ぎ去った後には大きな雪の結晶が舞い落ちる。
とても綺麗な光景だけど、そんな事は言ってられない。
強力な冷気が先程から周囲に吹き荒れている。
氷柱がせり上がり、足元が凍る。
数秒もしないうちに、あたりの景色が変わっていく。
冷気が収まった後にはキラキラと輝く氷柱で支えられた氷のフィールドが出来上がる。
氷のフィールドは光り輝く氷の華が咲き乱れ、天空にはオーロラの天幕がゆらめいている。
雪の乙女が巻き散らかす大きな雪の結晶が星のように空中に瞬き、フィールドを照らす。
「な?! 何だこれ?」
先程までと違い過ぎる景色になってしまい、驚きの声を出してしまう。
「水晶庭園。どうだい綺麗だろう?雪の女王と雪の乙女の共演による氷の幻想空間だよ。この空間ではさすがの黒い炎も本来の威力は出せないはずさ」
アルフォスが両手を広げる。
確かに自慢するだけあって美しい。
庭園の氷柱と氷華は自ら輝きフィールドをキラキラと照らす。
天空にオーロラがゆらめき、その下で楽しげに踊り歌う雪の乙女達はとても幻想的である。
思わず魅入ってしまいそうになる。
おそらく、これは上位精霊と複数の中位精霊を使った魔道結界だろう。
アルフォスが作った魔道結界の範囲は広く、クーナを乗せた空船までも、その範囲に含めている。
「なるほど、黒い炎対策ってわけか……」
自分は美しく光り輝く庭園を見渡す。
「ちょっと違うね。これは魔王を倒すために生み出した魔法だよ。できれば使いたくなかったのだけどね……。先程の空中戦で倒せなかったから仕方が無いか。ふふ、光栄に思いなよ、魔王に叩き込むための魔法を君なんかに使ってあげるのだからさ」
アルフォスは自嘲ぎみに笑う。
魔王モデスもまた自分と同じように黒い炎を使う事ができる。
この巨大な魔法はそのために生み出されたらしい。モデスの黒い炎を封じる為に。
「魔王を倒すだって?」
その言葉は聞き捨てならない。自分は魔王を守るための暗黒騎士なのだから。
歌と芸術の神アルフォスは遊んでばかりで、魔王を倒すような素振りは一度も見せなかったと聞く。
しかし、魔王を倒すつもりならば、戦うしか無いだろう。
「そうさ、光の勇者君なんか必要無い。レーナが僕に頼ってくれるのなら、魔王だって倒してみせるよ」
すごい、自信だ。
もちろん、そんな事はさせないが。
「だけど、彼女は僕にだけは頼らないんだ。兄としてはちょっと哀しいね」
アルフォスは悲しそうに首を振る。
「でもまあ、君を倒せばレーナも考えを改めるはずさ。レーナにとって頼りになるのは、この僕だけだとね」
そう言うとアルフォスが突然こちらに向かって来る。
「何っ?!!」
先程よりも遥かに速い。
慌てて剣を構えて防ぐ。
強い衝撃に体勢を崩しそうになる。
自分に一撃を加えたアルフォスはそのまま通りすぎる。
通り過ぎた後には光り輝く七色の幻影が残り、アルフォスの分身を作っている。
振り返ると再びアルフォスがこちらに来るのがわかる。
自分はアルフォスを待ち構える。
しかし、天空のオーロラのような輝き纏ったアルフォスは自分の剣が届く寸前で分身する。
「くうっ!!!」
分身したアルフォスの四方からの攻撃を、体勢を崩さないように回転して防ぐ。
速さも威力も最初に比べて格段に上がっているのがわかる。
この空間はアルフォスの力を上げるのかもしれない。
「光の勇者君も!!暗黒騎士の君も必要無い! レーナはどんな男も触れてはならない天上の美姫! 本来なら君達のような薄汚い男が近づく事も許されない存在なのさ! 彼女の横に立つのは僕だけで良い!!」
アルフォスは高速で移動しながら攻撃してくる。
その素早い攻撃に防戦一方だ。
アルフォスは叫びながら剣を振るう。
その剣はとても速い。
「守ってばかりでは勝てないよ! それとも、君の力はその程度なのかい?!!」
アルフォスは七色に輝く残光を残しながら、庭園を縦横無尽に駆け巡る。
目で捕えるのは難しいがやるしかない。
「何おう!!」
何とか向かって来るアルフォスに剣を突き出す。
「何!!」
またしても驚きの声を上げてしまう。
自分の剣を躱したアルフォスがふわりと飛ぶと、その剣の上に乗ったのである。
剣の上に乗ったアルフォスを見上げる。
アルフォスは腕組みをして、こちらを見下すように見降ろしている。
「この程度とはね。君がレーナを変えたなんて、僕の予想も外れかな? まあ、良いさ、お遊びはここまでだ。暗黒騎士君。僕の作った庭園で永遠に眠らせてあげるよ」
本当は連休の時に3日連続更新をするつもりでしたが、用事ができたので無理でした(T△T)
まあ、おかげで土曜日に更新ができました。
ごはんを得るためにも、小説だけを書いて過ごす事はできないや……。