邪神の争い
クロキとアルフォスが争っている最中のレイジ達の話しだったりします。
◆赤熊の戦士団団員レムス
森の中をカリスと2人で彷徨う。
他の団員達とはぐれてしまった。
「大丈夫?カリス?」
僕はカリスの左足を見る。
太ももにまかれた白い布が赤く染まっている。
これは4度目の巨大な甲虫の魔物と赤帽子のゴブリン達の襲撃の時の傷だ
獣の霊感を持つカリスは高い自己治癒能力を持っている。
だから、これぐらいの傷ならばすぐに治るはずなのだ。
しかし、傷は塞がらず血を流し続けている。
おそらく赤帽子のゴブリンの刃物には何らかの毒が塗られていたのだろう。
かなり危険な毒かもしれない。毒の耐性も持っているカリスの傷が癒えないのだから。
「うん、大丈夫だよ。レムスの薬草のおかげだね」
カリスは平気そうな顔をする。
確かに大丈夫そうに見える。
だけど、無理はできない。
「念のために持ってきた薬草が役に立って良かったよ……」
戦いで役に立てない僕は他の事で役に立とうと薬草学を勉強した。
今までは自己治癒により、カリスは薬草がいらなかったから、役に立つことはなかったのである。
カリスの傷を癒す事が出来た事で、僕は薬草の女神ファナケア様に感謝する。
「みんなとはぐれちゃった。戻らないと……」
カリスは周りを見て言う。
襲撃を受けるたびに仲間は散り散りになって、ついには僕達だけになってしまった。
みんな無事だと良い。しかし、今は仲間を探すべきではない。
「駄目だよカリス。今は野営地に戻ろう」
森には桃色の霧が立ち込めている。
そのため視界が悪い。
しかも、この桃色の霧には甘い匂いがして、思考を鈍らせる。
カリスも怪我をしている。これ以上ここにいるのは危険だ。
「でも……」
「団長なら大丈夫だよ。あんなに強いんだからさ」
団長なら大丈夫なはずだ。
赤熊の異名を持つ団長は強い。簡単にやられるとは思えない。
「それでも探しに行くなら僕もついていくよ。カリスだけに行かせるわけにはいかないからね」
僕ははっきりと言う。
「わかった。これ以上はレムスが死ぬかもしれない。ここは一旦戻るよ」
カリスは渋々了承する。
戦神トールズ様や、その娘であるアマゾナ様の信徒は退く事を知らないと言われているけど、それは違う。
大部分がそうだけど、退く事が出来る者だっている。
カリスや団長がそうだ。だからこそ今まで戦い続ける事ができたのだ。
僕達は森から脱出するべく歩き始める。
「待って! レムス!!」
突然カリスが立ち止まる。
カリスの瞳が豹のように金色に輝いている。
その様子から魔物が近くにいる事がわかる。
僕もまた小剣を構える。
2人しかいないのでかなり厳しい。
だけど、カリスの足手まといにだけはなりたくない。
「そこだ!!」
カリスが飛び上がると霧の奥にいる者に斬りかかる。
ガキンと金属のぶつかる音がする。
「待って!!待ってくれ!!」
「えっ?」
カリスの戸惑う声。
そして、覚えのある声が聞こえる。
僕はカリスが飛び掛かった先へと向かう。
近づくと知った顔が見えた。
「トルクス?!!!」
そこにいたのは同じ赤熊の戦士団団員のトルクスだった。
トルクスはカリスの斧を剣で防いだ状態で立っている。
「そ!!そうだ! 仲間のトルクスさんだよ! 間違えないくれよ!!」
トルクスは笑いながら言う。
その笑い声はなんだかいつもと違う。
「ごめん!!トルクス! ゴブリンだと思っちゃった!!」
カリスが斧を引いてトルクスに謝る。
「酷いなあ!!カリスちゃん! どっかどう見ても人間だろ! ゴブリンじゃないだろ!!」
トルクスは両手を広げて自分を見せる。
だけど、おかしい。トルクスはカリスの事をちゃんづけで呼ばない。
姿はトルクスだけどまるで中身が別人みたいだ。
「確かにトルクスだね。ごめん、霧で感覚がおかしくなってるのかも……。仲間をゴブリンと間違えるだなんて」
カリスがトルクスに謝る。
「カリスちゃん! 無事だったのね!!」
突然、空が輝くと何者かが降りて来る。
「シロネ様?!!」
空から降りて来たのはシロネ様だ。
「空から貴方達が見えたから降りて来たの。無事で良かったわ」
シロネ様は僕達を見て笑う。
「この森は貴方達の手にはおえない。これは将軍の命令でもあるわ。さあ早く撤退して」
シロネ様は森のある一点を指差す。
どうやら野営地はあちらの方角のようだ。
「ありがとうございます。それから団長達は……」
「ああ、あの赤熊のおじさんなら無事だよ、今頃戻っているかも……、ん?」
僕達を見るシロネ様の目がある一点でとまる。
そこにはトルクスがいる。
トルクスは横を向いてシロネ様から目を反らしている。
その顔から大量の汗が流れている。
「ゴブリンっぽい顔……。どこかで見た事があるような?」
シロネ様がトルクスをまじまじと見る。
トルクスは相変わらず顔を反らしている。その態度は失礼じゃないだろうか?
そして、トルクスがゴブリン顔とはどういう事だろう?
トルクスはどちらかといえば男前だ。醜いゴブリンには似ていない。
「あのシロネ様。この森に入る出陣の時に僕達は最前列にいました。その時ではないでしょうか?」
僕は一応そう言う。
「そうかな……。でも、まっ、良っか!!君達は早く戻るんだよ。この辺りには魔物はいないから、あっちの方角を真っ直ぐ歩けば戻れるはずだよ」
そう言ってシロネ様は再び空を飛ぶ。
「助かった~」
トルクスが安堵の溜息を吐く。
助かったとはどういう意味だろう?
「どうしたのトルクス? 顔色が悪いよ」
カリスが心配そうに言う。
「ははははは! 何でもないぜ! さあ早く行こうぜ!!」
トルクスは大声で笑うとシロネ様の指した方角を歩きはじめる。
「何だろう一体?」
僕とカリスは顔を見合わせるとトルクスの後を追うのだった。
◆黒髪の賢者チユキ
「誰が! お前なんぞにレーナを渡すか――――!!!!!」
「振られた男共がみっともないぜ!! 返り討ちにしてやる!!」
「誰が振られただと!! その言葉を取り消せ!!!」
「手前をぶっ殺せば!! レーナも目を覚ますだろうよ!!」
「やっちまえ――――!!」
「おらあああああああ!!」
御菓子の城のはるか上空でレイジと邪神達の戦いが目の前で繰り広げられる。
その様子は完全に乱戦だ。
そのため、魔法の援護がしにくい。
「チユキさん。あの争いに入って行きたくないんだけど」
リノが困った顔をして私に言う。
「私もよ、リノさん。それに下手に刺激してこちらに来られても困るわ」
邪神達は興味が無いのか、私達をガン無視である。
そもそも、彼らが何でレイジに喧嘩を売っているのかというと、レイジをレーナの恋人と認めたくないからだ。
彼らの言葉からもそれはわかる。
レイジもまたレーナを賭けて、彼らの挑戦を受けている。
退くつもりはないようだ。
「チユキさ~ん。リノちゃ~ん」
シロネの声が聞こえる。
声のした方を見るとシロネとナオがこちらに飛んで来るのがわかる。
シロネは翼を生やし、ナオは半獣形態になっている。
彼女達は自由戦士を撤退させに行ってもらっていたのだ。
「ご苦労様。2人とも。どうだった?」
「被害は大きいっすね。でも生き残った人達は全員撤退をしてるっすよ」
「カリスちゃんとレムス君も無事だよ」
「そう。良かった」
カリス達は無事なようだ。
「ところでこっちはどうなの?チユキさん?」
「見ての通りよ。シロネさん。レイジ君だけで大丈夫っぽいわ」
私はレイジ達の方を見る。
邪神達の数は多いが、優勢なのはレイジの方だ。
たった一人で邪神達を圧倒している。
これはレイジが強いというよりも、邪神達の足並みが全くそろっていないからである。
むしろ足を引っ張り合っている。
まあ彼らにすればレイジと同じく他の邪神もまた敵なのだろう。
「レーナちゃんはボクチンのです!!!」
「おいデブ!! 何を言っていやがる!!レーナは俺んだ!!」
「何を言ってるんですかっ?! 貴方達は?! 天上の美姫にふさわしいのは私ですよ!!!」
「なんだとこのやろう!!」
「すかしやがって! このキザ野郎!!!!!!」
邪神達の怒声がここまで聞こえる。
「何だか仲間割れを始めたよチユキさん……」
リノが何をやっているんだという顔をする。
レイジを放っておいて、邪神の一部が別に争いを始め出した。
「ホントね……。まあおかげでレイジ君は大丈夫みたいだけど」
しかし、見ていて、とても醜い。実に醜い。
シロネとナオも白けた顔をしている。
「レーナと●×△をするのは俺だ!!」
「いや!!俺様だ! あのでっかいお〇ぱいで□×▲をして楽しんでやる!!!!」
「何を~! だったら我はレーナ殿と◇■×〇●をしてやる!!!!!!!!!」
「なんて下品な奴らだ! 俺様のお○ぱいを横取りするつもりか!!!!」
「はあ~?! 何を言っておる!!お主は! レーナちゃあんの芸術的なおっ○いは儂のものじゃ~!!!!!」
聞くに耐えない下品な言葉が飛び交っている。
彼らの声は無駄に大きい。
耳を塞いでも聞こえてくる。
ちょっとレーナが可哀そうになってくる。
私は頭を抱える。
「ねえ、極大の爆裂魔法で吹き飛ばしても良いかしら?」
「いや!! 気持ちはわかるっすけど! 駄目っすよチユキさん! レイジ先輩もいるっすよ!!」
ナオが慌てて止める。
しかし、私にとってはあの争いに積極的に参加しているレイジも吹き飛ばしたい気持ちだったりする。
「はあ、全く何をやっているのかしら……」
白けた目で争いを眺めるのだった。
二日連続更新です。文字数を減らしたからなんですけね(゜ー゜;A
予定通りゴズが逃げました(笑)
サブタイの邪神は邪心にした方が良かったかも……。