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暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第6章 魔界の姫君
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雲海の上で

◆魔界の姫ポレン


 アルフォス様の空飛ぶ船へと乗り込む。


「あの……。本当に行くのさ? ポレン殿下?」


 私の後ろでぷーちゃんが不安そうに言う。


「うっ!うん!!行くよ!! ぷーちゃん!!」


 周りの美女達から敵意がこちらに向けられている。

 視線が痛い。

 逃げだしたい。

 だけど、今更逃げるわけにはいかない。

 私達は船の上をおっかなびっくり歩く。


「ねえ? 何で私達の船に来るわけ?」

「本当、何でブタを乗せなきゃいけないのかしら?」

「何故? アルフォス様は乗船を許可したのかしら?」

「嫌だわ。臭いが移りそう」


 美女達の話し声が聞こえる。

 だけど、私は顔を伏せて言いかえす事もできない。

 ちょっと情けないかもしれない。

 そんな私とは対照的にクーナ師匠は周りの敵意なんか気にしていなかのように堂々と胸を張って前を歩いている。

 私よりもはるかに多くの敵意を向けられているのにもかかわらずだ。

 師匠はこの船の美女達を見て鼻で笑っている。

 そんな師匠の態度に美女達がイライラしているのがわかる。


「何よ、あの子」

「すごい高慢な態度」

「ちょっと綺麗だからって……」

「ふんだ! あれぐらいだったらレーナ様の方が綺麗よ!!」


 美女達が師匠を見て遠巻きに悪口を言っているのが聞こえる。

 だけど、その声に含まれているのは敗北感。

 この船の幾千もの美女達も師匠には敵わない。

 師匠はこの船の誰よりも綺麗だと思う。

 たった一名でこの船の美女達を圧倒している。

 師匠はこの船の主のごとく進む。


「あの、できれば武器を降ろしてはいただけませんか? 怖がっている子がいますので」


 進んでいると美女が師匠に声を掛ける。

 この美女の事は知っている。

 詩の女神ミューサ。

 常にアルフォス様の側にいる女神だ。

 アルフォス様の事を気にする女性ならば嫌でも、その存在を知ってしまう。

 他の美女が師匠を怖れて近づかない中で彼女だけが前に立つ。


「安心しろ。クロキから大人しくするように言われているからな。だから、今はまだ首をはねるつもりはないぞ」


 師匠は安心しろとばかりに手を振る。


「今は?という事は後で首をはねるつもりなのですか?」

「もちろんだ。少なくとも戦いが終わるまで待ってやるぞ。そうでなければ貴様らの男が敗れて悔しがる顔を見れないからな」


 そう言って師匠は笑う。

 ミューサが目に見えて驚く表情をする。

 美女達が師匠から逃げるように離れていく。

 周囲の敵意がさらに強くなる。

 師匠はそんな美女達の様子を気にする事無く、ミューサを横切り進む。

 その迫力の前に美女達は道をあけるしかなく。遮る者は誰もいない。

 そして、甲板の上に供えられた長椅子まで行くと、その真ん中に座る。

 師匠はその席からクロキ先生達を見るみたいだ。


「そこは、アルフォス様の席……」

「あん?」

「ひいい!!!」


 抗議をしようとした美女が師匠に睨まれて黙る。

 一睨みで黙らせてしまった、本当にすごい。


「何者なの? あの子?」

「もしかして、こっちが魔王の子なんじゃないの?」

「嘘。あの醜い魔王からこんな綺麗な子が生まれるなんて……」

「でも、いかにもお姫様って感じだよ……」

「確かに……。にわかには信じがたいけど……」


 美女達のひそひそ声。

 魔王の娘は私なんですけど……。

 でも、どう見ても師匠の方が魔界のお姫様っぽい。

 美しく、可憐で、妖しく、強く、怖ろしい。

 私の理想とする姿がそこにあった。

 こんな風になりたい。

 とても眩しい。


「どうした? ポレン? 座らないのか?」


 私の思いに気付かない師匠がこちらを見て言う。

 長椅子は複数名座る事ができるほど大きい。

 普段はこの椅子の中央にアルフォス様が座り美女達を横に侍らせ、竪琴を奏でるのだろう。

 それはとても美しい光景に違いない。

 しかし、今この席に座っているのはアルフォス様ではなく師匠だ

 師匠はその長椅子に座り、すらりとした足を組む。

 その態度は王者のごとし。

 私なんかが横に座っても良いのだろうか?

 師匠を怖れ椅子に座っていた美女達が席を外したので私とぷーちゃんも座る事ができる。

 一瞬だけ悩みそうになるが首を振る。

 駄目だ。

 何故師匠に付いて来たのかを考える。

 この船に来たのは師匠が指定したからだ。

 クロキ先生は安全な場所で私達を降ろすつもりだったようだけど、師匠が反対した。

 理由はクロキ先生とアルフォス様の戦いを落ち着いて見る事ができないからだ。

 クロキ先生は渋ったが、師匠は譲らず。結局この船でクロキ先生達を見る事になった。

 先生は私だけでも安全な場所に降ろそうとした。

 だけど、私は師匠に付いて行く事に決めた。

 当たり前だ!!

 先生は私のために怒ってくれたのだ。

 その先生の戦いを見ないで済まされるわけがない。

 師匠の横に座る。

 座ると美女達の敵意がより強く感じられる。

 だけど負けてはいけない。

 師匠の視線の先、空船からかなり離れた場所で2匹の竜が飛んでいる。

 黒い魔竜と白い聖竜。

 その2匹の竜の上にはそれぞれ暗黒騎士と聖騎士が乗り対峙している。

 ごめんなさいクロキ先生。

 私は暗黒騎士である先生に向かって謝る。

 先生は怒ってくれたけど、私は先生に庇ってもらえるような子じゃないんです!!

 クラーケンを退治した時も下心があっただけで、先生が思っているような優しい子じゃないんです!!

 ごめんなさい!!ごめんなさい!!

 私がんばります!!心を入れ替えます!!

 部屋から出ます!!強くなります!!食っちゃ寝てばかりしません!!

 少しでも綺麗になれるようにがんばります!!

 だから……、だから勝ってください先生え。






◆暗黒騎士クロキ


「大丈夫かな? クーナ達は……?」


 竜のグロリアスの上から遠く離れた空船を見る。


「白銀の髪の子を心配しているのなら大丈夫だよ。彼女には手を出さないように言ってあるからね」


 白い聖竜に乗り兜を脇に抱えたアルフォスが答える。


「だと良いのだけど……」


 一応アルフォスの許可を取ってから船に降ろした。

 あの船に乗る美女達はアルフォスの言う事を聞くみたいだから大丈夫だとは思う。しかし、それでも不安は消えない。


「まだ、不安かい? だけど君は自分の心配をした方が良いと思うけどね」


 アルフォスが見下すようにフッと笑う。

 この男は強い。

 自信があるからこそ喧嘩を売ってきたのだ。

 しかし、なぜだろう?

 なぜ自分に喧嘩を売ってきた?


「ところで君は知っているかい? 御菓子の城でレーナを巡って男神達が光の勇者と争っている事を?」

「えっ?何それ?」


 そんなの知らない初耳だ。

 御菓子の城で何が起こっているのだろう?


「君は参加しなくて良いのかい? レーナを巡る争いにさ」


 自分はそのアルフォスの言葉に首を傾げる。


「いや、参加しないよ。その争いには意味がない。レーナを巡って争っても、選ぶのはレーナだ。レーナの意思が存在しない争いなら意味が無い。レーナは物じゃないよ」

「確かにね。レーナは他の女の子とは違う。この僕を唯一罵れる存在さ。さすがに君はわかっているね。だけど彼らは彼女を他の男に奪われるのが我慢ならないのさ。君は好きな女性が他の男に奪われるのを黙って見ているのかい?」


 アルフォスが挑戦的に質問を投げかける。


「う~ん。その彼女が自分じゃ無く、違う男性を選ぶのなら諦めるしかないんじゃ……」


 好きになった女性が選んだ男性を傷つけても好きになった女性が不幸になるだけだ。

 涙をこらえて幸せを祈るべきじゃないだろうか。


「へえ、君は好きになった子を奪おうとは思わないのかい? 僕なら奪うよ。そうやって何名もの女の子を奪ってきたしね」

「ええと……。それじゃあ彼女の意志は?」

「何を言っているんだい?そんなの関係ないよ。最終的には僕を選んでくれるからね。君はそうしないのかい?」


 アルフォスは何を当然と言う顔をする。

 すごい!!

 こんな事を堂々と言えるなんて。

 ちょっと羨ましくなってくる。

 まあこれほどのイケメンが迫れば乗り換える女性もいるかもしれない。

 だけど、自分が同じ事をやったらどうなるだろうか?

 奪おうとしても、鼻で笑われて終わりなような気がする。

 そういう事をして許されるのは目の前にいるようなイケメンだけだ。

 そんな自信はない。

「いや、とてもそんな事はできないよ。そこまで自信を持って生きられない」

 はっきり言おう!!この世界に来るまで女の子にもてた事はない!!

 むしろ、嫌がられていましたよ!!

 よくシロネから女子の胸元とか足とかばかり見ない方が良いよと忠告されましたよ。

 シロネの話ではすごくいやらしい顔になっているらしく、かなり女の子から嫌がられていたらしい。

 シロネが教えてくれなければ気付かなかった。

 指摘されて、思い当たる節が色々とあったので間違いないだろう。

 嫌な思いをさせてごめんなさい。当時の女の子達に謝る。

 生足を見てエッチな妄想をしていました。

 でも、どうしても見てしまうのですよ。

 だから、なるべく近寄らないようにしていた。

 その事を思い出すと目から汗が流れて来る。


「驚いた。すごい自信がないんだね君は。光の勇者とは大違いだ。いや、もう何て言って良いのかな……」


 アルフォスが戸惑う声を出す。


「そんな事を言われても……」

「君は自分がレーナに愛されているとは思わないのかい?」

「そりゃ、あんな美人から好かれたら人生大勝利だけど……。愛されるなんて大それた事は考えないよ」


 実はロクス王国での記憶に実感が持てないでいる。

 良く考えてもおかしい。あれほどの美人なら、どんな男も選び放題である。

 今までの事を考えても罠を疑ってしまう。


「全く調子が狂うね君と話していると……。僕の予想では君のはずなのだけどね。レーナがおかしくなったのは」

「えっ?」

「最近のレーナはおかしい。以前ならありえない行動している。それに、あれほど殺したがっていたモデスの命を急に諦めているみたいだ」


 この世界に来る前のレーナの事は知らない。

 自分が来た事でレーナは変わったと言われてもわからない。

 だけど、モデスを倒す事を諦めてくれるなら良い事だ。


「最初は光の勇者君の影響かと思った。だけど、違う。彼が迷宮に捕らわれた時に話したけど、レーナの態度は普段通りだった。好きな男が危ない目に会っているにしては普通すぎる」


 そう言ってアルフォスが首を振る。


「そして、アリアディア共和国だったかな。レーナと君が向かい合っている映像を見た時に気付いたんだ。レーナを変えたのは君だとね」


 アルフォスが自分を指さす。

 その視線が自分に突き刺さるような気がする。


「だから気になったんだよ。兄としてはね。あのレーナを変えた相手がどんな奴かをね」


 アルフォスの声は穏やかだ。

 だけど、その声から敵意を感じる。


「だからこそ、君に勝負を挑むよ。レーナに相応しい存在だというのなら僕を打ち負かしてからにしてもらおうか」


 アルフォスが剣を抜きこちら向ける。


「勝手な事を言う。わからないと言っているのに。しかし、お前達はポレン殿下を侮辱した。だから、打ち負かさせてもらう!!」


 自分もまた剣をアルフォスに向ける。


「はは!!良い返事だよ暗黒騎士!!」


 アルフォスはそう言うと白い兜を被る。


「さあ行こうヴァルジニアス! 蒼天で僕達に敵う者はいない事を教えてやろうじゃないか!!」


 白い竜が翼を羽ばたかせると突然こちらに向かって飛んでくる。


「グロリアス!!」


 急いでグロリアスに指示を出して、白い竜を躱す。

 白い竜は自分達がいた所を高速で素通りする。


「全く勝手な奴。ごめんねグロリアス。戦いに付き合わせてしまって」


 そう言ってグロリアスの首をなでる。

 首をなでるとグロリアスが咆哮する。

 グロリアスから強い戦意が伝わってくる。

 その戦意は白い竜に向けられている。

 自分の為に戦ってくれるみたいだ。


「ありがとうグロリアス。それじゃあ行こうか。蒼天を黒い嵐で塗りつぶしてやろう」


 グロリアスが再び咆哮して黒い翼を羽ばたかせる。

 雲海の上、2匹の竜の咆哮が鳴り響いた。


花粉症で鼻水と涙が止まりません(。>0<。)

おのれスギ花粉!!

ところで杉を守る怪物でフンババというのがいますが、花粉症はこいつのせいだったりして。

ギルガメッシュはレバノン杉を取りに来た時に花粉症で苦しめられた。それを怪物との戦いに置き換えたのではないだろうか?

花粉症のせいか、そんな妄想が浮かんだので書きました。真に受けないで下さい……。


次回は魔竜対聖竜です。



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