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暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第6章 魔界の姫君
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歌と芸術の神

◆剣の乙女シロネ


「ようこそアルゴアへ。お久しぶりですシロネ様。今日はどうされたのです?」


 オミロスが私に頭を下げる。

 今私はアルゴア王国へと来ている。

 私の翼ならば野営地からアルゴア王国まで1時間ぐらいでたどり着く事ができる。

 理由はオミロス君の様子を見に来るためだ。


「久しぶりだね。オミロス君。今日は近くまで来たからこの国の様子を見に来ただけだよ。変わりはない?」


 私はこの国に来た用事を言うと近況を聞く。


「はい、作物の出来が去年よりも良くないですが……。そういう意味ではないですよね。特に変わりはありません。ダイガンもいる事ですし、平和だと思えます」


 オミロスが笑って答える。

 そして、視線の先には中年の男が立っている。

 人間に見えるが彼の正体は人狼だ。

 どうも、この国に居ついてしまったようだ。


「ふうん。人狼なのに珍しい? 何も悪さをしてないよね」


 私は目を細めてダイガンに聞く。

 この人狼は前に人間達に酷い事をしていた。急に改心するとは思えない。


「へへ。嫌だなあ。悪い事なんてしませんよ。そんなことしたらあのお方に殺されていまいますや。むしろ、この国を守るように言われていますよ」


 ダイガンが薄ら笑いを浮かべながら言う。

 チユキさんが言うには人狼は意外と忠誠心が厚いらしい。主と認めた相手の言う事はきちんと聞くそうだ。


「そう。まあ、クロキがそう命じたなら大丈夫かな?」


 クロキは優しいから、白銀の魔女が絡まない限り酷い事はしないだろう。

 私は信用する事にする。


「そうそう。大丈夫ですよ。そして、この国に異変が有った時は知らせる事になって……おっと!!」


 ダイガンがしまったと言う顔をする。

 言ってはいけない事を口にしたようだ。


「どうしたの? クロキに助けを呼ぶ事ぐらいなら問題無いでしょ?」


 クロキはリジェナの頼みでこの国を守るつもりなのだ。

 だから、ダイガンを置いている。そして、もしもの時は自ら動くつもりなのだろう。

 それは問題では無いはずだ。


「えっ? えーと。そちらが、それで良ければ……」


 ダイガンが不思議そうな顔をする。


「何? 私、何か変な事を言った。」

「いえいえ! そんな事は無いですよ! へへ」


 ダイガンは笑う。その笑みには何か含むものがあるように感じた

 一体何だろう?

 しかし、気にしても仕方が無い。


「あの、ところでシロネ様? 急でしたので特に何も用意ができておりません。本来なら宴をしなければならないのですが?」


 オミロス君が申し訳なさそうに言う。


「別に良いよ。急に来た私が悪いんだしさ。それから、リエットちゃんもお久しぶり。確かオミロス君と結婚したんだって?おめでとう」


 私はオミロスの隣にいる王太子妃となったリエットを見る。


「はい。ありがとうございます。シロネ様」


 そう言ってリエットは優雅にお辞儀をする。

 しばらく見ない間に大人っぽくなったものだ。前に会った時は年相応に見えたのに。

 やはり結婚するとやはり変わるのだろうか?

 日本だったらリエットの歳では結婚はできない。

 しかし、この世界では結婚できる年齢に法的な縛りが無い国が多く、リエットの年齢でも結婚しても珍しくはない。

 だけど、ちょっとだけ寂しい気がする。

 まあ、本人は喜んでいるみたいだから良いけど。


「あの、そのシロネ様。その……」


 オミロスがリエットの方を気にしながら私に何か聞きたそうにする。

 聞きたい事はわかっている。リジェナの事だ。


「リジェナさんならアリアディア共和国で元気でやっているよ」


 私がそう言うとオミロスは安心したような顔をする。


「そうですか、元気でやっているのなら良かったです……」

「オミロス君……」


 何だか切ない気持ちになる。

 もしかするとずっと心配していたのかもしれない。


「ねえねえ! シロネ様! アリアディア共和国って! 確か、ここから遥か西にある大国の事だよね?!!」


 突然リエットが私に詰め寄る。

 先程までと違い子供に戻ったようだ。


「う、うん。確かに私が見た国の中で一番大きかったかな?」

「うわ~。良いな~。私も行って見たいな~」


 リエットがキラキラした瞳で天井を見る。

 その瞳はまるで都会に憧れる少女だ。

 かなり離れているにもかかわらずアルゴア王国でもアリアディア共和国の名前は知れているようだ。

 娯楽の少ないアルゴア王国に生まれたら行って見たいと思うのかもしれない。

 リエットはもうリジェナの事をもう特に何も思っていないみたいだ。

 それを知って少し安心する。


「おいおいリエット。お前は次期王妃だっていうのに何言ってんだ?ちったあ、大人になったかなと思ったんだけどな。やっぱガキだな」

「何よマキュシス兄! 行って見たいんだから仕方が無いでしょ!!」


 リエットが兄であるマキュシスに怒りだす。

 最初はびっくりしたけど、どうやらリエットはあまり変わっていないみたいだ。

 思わず笑みがこぼれてしまう。

 つられてオミロスも笑う。


「もう! 何よ! みんな!!」


 リエットの頬がふくれる。

 その様子が可愛くて、その場の全員が笑うのだった。






◆黒髪の賢者チユキ


 日が暮れて、戦士達はそれぞれの夜を過ごす。

 まあ、戦士達の大半は酒を飲んで大騒ぎするのが何時もの事だ。

 私達の居る場所でも、その声は聞こえる。

 行軍中に酒を飲む事は良く無い事だと思う。

 それは将軍であるポルトス達も同じように思っているみたいだが、特に何も言うつもりは無いみたいだ。

 もちろん、酒を飲まない真面目な戦士もいる。

 真面目な戦士達は武器の手入れや、戦闘の練習をしている。

 武芸の稽古の方法は多様だ。中には捕えたゴブリンを使って剣の練習をしたりもする。

 もちろん、ゴブリンは素手だが、生きて抵抗する相手と戦う方が鍛錬になるのだろう。

 これは自由戦士だけでなく騎士や兵士も行っている練習方法だ。

 たまに闘牛のように見世物にする事もある。


「ねえ、チユキさん。ほら、彼が見てるよ」


 私の横にいるリノが笑いながら私に言う。

 私達はポルトス達と共に夕食中だ。

 目の前には料理が並んでいる。

 戦士や兵士達の食べる携帯食では無く、王族や貴族用の特別な料理でパンは固く無く、スープは塩辛く無い。

 さらに、明日はいよいよ突入と言う事で行軍中の食事が一番豪華だったりする。

 さらに吟遊詩人の歌まで付いている。

 リノのいう彼というのはその吟遊詩人の事だ。

 この吟遊詩人は昨日までいなかった。

 何でもレイジに会うためにここまで追いかけて来たそうだ。

 吟遊詩人は勇者や英雄の歌を作りたがる。彼もその口なのだろう。

 しかし、その事は特に珍しい事では無い。レイジの歌を作りたがる吟遊詩人は多い。

 ただ、この吟遊詩人は普通と違う。

 何よりもとんでもない美男子なのである。

 さらっとした髪にすっと通った鼻。顔の造形も完璧だ。声も美しく、彼が歌う英雄譚は私達だけでなく、その場にいる全員が聞き惚れている。

 その彼が時々こちらに意味ありげに視線を向けて来る。その瞳は艶めかしい。

 そのため、リノが横でうるさく騒ぐ。

 騒いでいるのはリノだけでは無い。私達を世話するために来た女性達もまた騒いでいる。

 レイジは面白く無いかもしれない。その表情を見る限り、平静を装っているが、内心はわからない。

 彼の歌が終わると拍手が沸き起こる。

 歌い終わった彼がこちらに来る。


「初めまして勇者レイジ殿。お会いしたかったです」


 吟遊詩人の瞳がレイジにまっすぐに向けられる。

 美形が互いに見つめ合う状況にリノや周りの女性達がどよめきはじめる。


「これは中々絵になるっすね、チユキさん」


 こういう事には騒がないナオまでも目が離せないみたいだ。

 もっとも当の本人のレイジにはその気がないのが残念である。あったらすごく目の保養になったのに。

 吟遊詩人の彼に挨拶されたレイジの顔に変化は見えない。普段と変わらない。


「そいつは良かった。所で何者だい?人間じゃ無いんだろう?」


 レイジがそう言った瞬間だった。吟遊詩人が竪琴を小さく鳴らす。


「えっ?」


 リノの慌てた声。

 なぜなら、私やレイジにリノとナオ以外が動かなくなったからだ。

 ポルトスの目が虚ろになっている。それは他の者も同様だ。

 間違いなく魔法だ。その魔法を発動させたのは目の前の吟遊詩人に違いない。

 何者だ?


「さすがは光の勇者。レーナが呼んだだけの事はありますね。僕の正体に気付くなんてね」

「いや、正体はわからない。だが、只者じゃ無い事ぐらいはわかる。何者だ色男?」


 レイジが立ち上がり不敵に笑う。

 これは戦う時の表情だ。私達も彼に対して立ち上がり身構える。


「今は貴方と戦うつもりはありませんよ。光の勇者レイジ。美しい御嬢さん達も身構えないで下さい。僕の名はアルフォス。レーナの兄です」


 そう言ってにっこりと笑う。

 とても素敵な笑みだ。リノはもちろん私とナオまでため息を吐く。

 そして、アルフォスと言う名には聞き覚えがある。

 歌と芸術の神アルフォス。

 噂ではエリオスで一番の美男子らしい。

 そして、知恵と勝利の女神レーナの兄だ。その神が私達の前に現れるなんて。

 私はアルフォスを見る。

 アルフォスは左手に竪琴を持ったまま、右手を開いて戦う意志が無い事を示している。


「なるほど、レーナの兄か。確かに顔が似ているな。で?俺に会いたかったのは妹の恋人だからか?」

「その通りですよ。噂の恋人に会って見たくて、ここまで来ました。だけど、意味はなかったみたいですね」

「なに?どういう意味だ?」

「言葉通りの意味ですよ。貴方がレーナの恋人とは思えない。だから、真偽を確かめに来たのです。会って話してみれば、納得できるかと思ったのですが……」


 アルフォスは首を振る。

 その動作もまた優雅である。


「納得できなくても、それが真実さ。可愛い妹が他の男に取られたくない気持ちはわかるけどな」


 レイジはふふんと自信たっぷりに言う。


「そうですか……。まあ、そう言う事にしておきましょう。ですが、私以外にも納得していない者も大勢いますよ。彼らから勝負を挑まれたらどうします?」


 アルフォスはそう言うとレイジを見つめる。

 レイジはその視線を正面から受け止める。


「もちろん! 全員叩きのめす!!」

「すごい、自信ですね。彼らの数は多いですよ」

「レーナを賭けての勝負なら退く事はしない。勝負を受ける事も愛された男の宿命だからな」


 レイジは自信たっぷりに答える。


「すごい自信ですね。レーナの愛を疑っていないのですか」

「もちろん!!俺とレーナが出会うのは運命だと思っている!!」


 私はそれを聞いてある意味すごいと思う。どうして、ここまで自信たっぷりに言えるのだろう?

 まあ、レイジらしいといえばらしいのだが。


「そうですか……。それではこれ以上は何も言いません。彼らの挑戦を受けると良いでしょうね。僕は傍から見ていますよ。ああそうだ。1つだけ忠告しておきましょう。もし勝負を挑まれても黒い獅子の男だけは殺さない方が良いですよ。レーナの愛を得たいならね」


 アルフォスは意味ありげな笑みを浮かべる。


「なんだ、そりゃ?その言い方だと俺がレーナから愛されていないみたいじゃないか」


 しかし、アルフォスは答えない。


「忠告はしましたよ。光の勇者」


 アルフォスが再び竪琴を鳴らす。

 すると、その姿が霞のように消える。


「あれ?これは一体? 先程まで吟遊詩人がいたような。チユキ殿一体何が?」


 アルフォスが消えるとポルトス達が動き始める。


「何でもありません。ポルトス将軍。気まぐれな神が去っただけです」


 私がそう言うとポルトスは首を傾げる。

 だけど、説明するのは面倒くさい。


「すごい、美形だったね。チユキさん」


 リノが楽しそうに私に言う。

 久しぶりにレイジ並みの美形に会ってうれしいのだろう。


「そうね。確かに美形だったわね……」


 それにしても彼は何をしに来たのだろう?それが少しだけ気になった。


アルフォスとレイジ達の初顔合わせ。

次回はようやくクロキ達の出番です。


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