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暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第6章 魔界の姫君
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野営

◆黒髪の賢者チユキ


 グリフォンに乗った私の眼下には野営の準備をしている戦士達の姿が見える。

 日が沈むのにはまだ早いが準備は今からしないと間に合わないだろう。

 野営の場所はかつて国があった所だ。

 もし国が今でも存在していたら最大で5百人は住めた国には、今は誰も住んでいない。

 何が原因で国が滅んだのかは、わからない。

 しかし、守るべき者がいなくなった城壁は半ば朽ち果て所々壊れているが健在だ。野営をするには丁度良いだろう。

 問題は戦士達全員を収容するには狭すぎるぐらいか。

 収容できない、殆どの戦士達は城壁の外で野営をする事になる。

 だけど特に不満の声は聞かれない。

 彼らの殆どは野外で生活をしているからだろうか?

 裸の戦士達が笑い合っているのが見える。

 彼らの多くは碌な装備をしていない。

 それどころかトールズの戦士の中には普段から服を着ていない者もいたりする。

 狂戦士と呼ばれる彼らは防具を身に付けずに戦う事を信条にしている。

 だけど、鎧を着ないのは良いが、せめて下着ぐらいは履いて欲しい。

 そのため、目のやり場に困る時がある。

 そんな私の様子をリノやナオは笑うのだ。

 彼女達は平気なのだろうか?

 シロネも平気みたいだ。

 彼女が言うにはあれぐらいなら可愛い物らしい。

 過去にもっとすごいものでも見たのかもしれないが、怖くて聞けない。

 そのシロネはここにはいない。

 ここからすぐ近くのアルゴア王国へと飛んで行った。もちろんナルゴルに入らないように言ってある。

 まあ、朝までには戻るだろう。


「ねえレイジさん。そろそろ降りようよ。疲れちゃった」


 ナオと一緒にヒポグリフに乗っていたリノがレイジに言う。

 堪え性の無いリノはヒポグリフに乗っている事に疲れたようだ。


「わかったよ。リノ。そういうわけだ。チユキ。そろそろ降りて休もう」


 レイジが私を見てにこやかに笑う。


「わかったわ。みんな。ポルトス将軍に予定を聞いておきたいし、そろそろ降りましょう」


 ペガサスに乗るレイジの言葉に頷くとグリフォンを国の広場に当たる場所へと降ろす。


「良い匂いがするっすね。今夜はいつもよりも御馳走を作っているみたいっすね」


 降りるとナオが周りを見ながら言う。

 涎が出ている。はしたない。

 広場では野営追行者達が夕食の準備をしている。

 野営追行者は戦士では無いヴェロス王国に雇われた人達だ。

 主な仕事は物資を運んだり食事を作ったりする事と、私達の世話をする事だ。

 彼ら1人が木箱から塩漬けの肉を取り出しているのが見える。

 この世界にも私達の世界と同じような保存食がある。乾燥に塩漬け等がそうだ。

 ただし、私達の世界と違って魔法による保存食もあるのが異世界らしさを物語っている。

 この魔法による保存は食材を劣化させることは無く、私達の世界の保存技術よりも優れている。

 ただし、この魔法を使える者は少なく、魔力が乏しい人間では最大でも効果が3日ぐらいが限界のようだ。

 そのため、多くの保存食は魔法を使わずに作られる。

 ただし、魔法を使わない保存食は美味しくない。塩漬けは塩気が強く、乾パンは固くて水に浸しながらでなければ食べる事はできない。

 私も試しに食べてみたが美味しくなかった。


「これは勇者様方。天幕の用意はできております」


 私達に気付いた野営追行者の女性の1人がやって来て頭を下げる。

 彼女は私達の世話係の1人である。

 ヴェロス王のエカラスは特別に私達の世話をしてくれる人を付けてくれた。

 旅に慣れない彼女達は他の野営追行者とは違い馬車に乗って来た。そのため服が全く汚れていない。

 さらに、私達だけの寝床や風呂場に料理を作る人にペガサスやグリフォンの世話を人までも付けてくれた。

 全く至れり尽くせりだ。

 どうもエカラスは私達が問題を解決してくれるのを期待しているみたいだ。

 だけど、期待に応える自信は無い。


「ありがとう。世話になるよ」


 レイジが微笑むと彼女の頬が赤く染まるのがわかる。

 ちょっと面白く無い。


「それじゃあレイジ君。私はポルトス将軍の所に行くわね」

「ああ。頼むよ。チユキ」


 不機嫌な顔を見られたくない私は1人でポルトス将軍の陣幕へと向かう事にする。

 さて将軍はどこにいるのだろう?

 手の空いている野営追行者を探すと1組の男女が歩いて来るのが見える。


「あれ? レムス君じゃない? こんな所で何してるの?」


 歩いて来ているのは赤熊の戦士団のレムスとカリスだ。


「これは黒髪の賢者様。食事の配給の手伝いですよ。不正に食料を取る者がいないかどうか確認しないといけませんので、カリスは僕を手伝ってくれているのです」


 すると横にいるビキニアーマーを着た女の子が頷く。


「なるほど、それは大変ね。でもレムス君なら大丈夫かな。だって優秀だもの」

「そんな……」


 私が褒めるとレムスは顔を赤くする。

 中々整った顔をしているので、からかいがいがある。

 レムスとは行軍中に知り合った。

 トールズの戦士団に所属しているのにしては珍しく読み書きや計算ができ、しかも一度見た顔は決して忘れないという特技を持っている。

 戦うしか能の無い者ばかりでは組織の運営は難しい。

 彼のような者がいるおかげで赤熊の戦士団は大いに助かっているだろうと思う。

 ただ、彼は戦士としては華奢すぎる。

 レムスはトールズの戦士にしては珍しく服を着ているので上半身は見えないが、筋肉は無さそうである。

 荒くれ者が多い戦士達の中でやっていけるか心配になって来る。

 もっとも、本人は戦士団を抜けようとは思わないだろう。それは隣にいるカリスが原因だ。

 カリスはかなり可愛い女の子である。

 ビキニアーマーから覗く褐色の肌がとても健康的だ。

 カリスは戦女神アマゾナの戦士だ。

 華奢な外見をしているが、獣の霊感を得ているためか、かなり強い。

 同年代の男の戦士も彼女には敵わないらしい。

 シロネには負けたが、かなり見事な動きだったのを思い出す。

 そのカリスは赤くなったレムスを見て面白くなさそうにしている。

 なんとも微笑ましいではないか。


「それよりも賢者様。賢者様こそどちらに行かれるのですか?」

「ええと、ポルトス将軍を探しているのだけど、レムス君。知らない?」

「ああ、それでしたら。この先の天幕にいらしゃるはずです」


 そう言ってレムスは指さす。


「そう、ありがとう。それじゃあ2人さん、お邪魔な私は行くわね」


 私がそう言うと2人は驚いた顔をする。

 そして、すぐ後で顔を赤くする。

 全く羨ましい関係だ。

 さっさと離れる事にしよう。

 私は2人を置いて歩く。

 レムスの案内でそれらしい天幕はすぐに見つかった。

 なぜなら明らかに自由戦士とは違う兵士らしい男達が沢山いるからだ。

 そのポルトス将軍の天幕は壊れた城壁を補強するように作られている。

 ポルトス将軍は城壁の中は遠征のための物資やそれを運んで来た野営追行者等の非戦闘員が主に寝泊まりするのに使うようだ。

 ポルトス将軍が連れて来た騎士が6名に兵士が50名。

 彼らも城壁の外で寝泊まりするようである。

 兵士の1人に来訪を告げると陣幕の中に案内してくれる。

 天幕は立派で、そこら辺の宿屋よりも快適にすごせそうだ。

 入るとポルトス将軍達がすでに集まっていた。


「これは黒髪の賢者殿。そろそろ来られるのではないかと思っていました。お待ちしておりましたぞ」


 立派な鎧に身を包んだ太った男が立ち上がり、私を席へと案内してくれる。

 この太った男が戦士達を率いるのはポルトス将軍である。

 ヴェロスの名門貴族の出で騎士の称号を持っているらしいが、とてもそうは見えない。

 騎士の鎧を着ていなければ普通のどこにでもいる、中年太りのおじさんにしか見えないからだ。

 本当に馬に乗れるのだろうか疑わしくなってくる。


「いやあ、ここまで来ることができたのも、ひとえに勇者殿達のおかげです。感謝いたしますぞ」


 ポルトスがそういうとその場にいる者達がうんうんと頷く。


「本当に大変でしたな。将軍閣下。何しろ奴らは規律を守りませんからな……。夜に襲って来るゴブリンよりも、奴らの方がある意味危険でしたな。ましなのはアルカス殿が率いる赤熊の戦士団ぐらいですからな」


 ポルトスの横にいる初老の男が相槌を打つ。

 この眼光の鋭い初老の男の名はホーネス。

 彼はヴェロス王国の自由戦士組合の組合長である。

 ヴェロス王国の自由戦士組合は自由都市テセシアの自由戦士協会と違い、ヴェロス王国の市民しか加入する事ができない、閉鎖的な団体だったりする。

 ホーネス率いるヴェロス市民の自由戦士達もまたこの遠征に参加している。

 そして、ホーネスのいう奴らとは市民権を持たない自由戦士達の事だ。

 実はこの遠征に参加している自由戦士は大別すると2種類に分かれる。

 どこかの国の市民権を持った自由戦士と、どこの国の市民権も持たない自由戦士だ。

 そして、この軍団の戦士達の大半は市民権を持っていない者が多い。

 きちんと教育を受けた市民権を持つ自由戦士は規律を守るが、市民権を持たない自由戦士は規律を守る者が少ない。

 彼らはいつ死ぬかわからない生活をしているせいか、後先を考えずに刹那的な生き方をする。

 金が有ったらすぐに酒と女に使い。貯蓄をしない。

 欲しいものがあったら盗み取る者さえいる。

 行軍中も物資を盗み取ろうとする者が後を絶たなかったと聞いている。

 レムスやカリスが所属する赤熊の戦士団は本当に例外なのである。

 そのため、騎士や兵士とホーネスの仲間達は物資を勝手に持ち出されまいとかなり苦労したみたいである。

 ホーネスからすれば彼らは無法者と変わらないようだ。

 それはポルトスの配下の騎士達も同じ気持ちのようだ。

 頷く者達もいる。


「本当に困った者達でした。彼らは我らを壁に隠れている臆病者とさえ呼んでいます。全く不愉快な奴らです」


 騎士の1人が怒ったように言う。


「まあまあ、皆落ち着け。それも今日で終わりだ。明日は彼らに存分に働いてもらおう。そのためにも今日はいつもよりも多く酒と料理を出すように命じている。」


 ポルトスが笑いながら言う。


「その事なのですが……。ポルトス将軍。あの森は本当に危険です。今からでも中止した方が良いのではないでしょうか?」


 私は中止を再度提案する。


「賢者殿。また、その話ですか?そうは言った所で戦士達は納得しないですぞ」


 ポルトスが困った顔をして言う。

 殆どの戦士達にとって戦う事は仕事である。私の提案は彼らの仕事を奪うものかもしれない。

 特にトールズの戦士にとって戦って死ぬことは名誉な事だ。

 また、そうじゃない戦士達の中には今回の報酬目当ての者もいる。

 ここまで、来て今更やめる事はできないのかもしれない。


「確かに、そうですが……。そもそも、私達でも危険かもしれないのですよ」


 私は声を落として言う。

 シロネの幼馴染の暗黒騎士はいなくても、白銀の魔女は危険だ。

 何が起こるかわからない。


「大丈夫ですぞ。賢者殿。その時は我々だけでも撤退します。そもそも情報を持ち帰るのが我らの仕事ですからな」


 ポルトスはにこやかに笑う。

 これで何人の戦士が犠牲になるのだろうか?

 彼ら自身が選んだとはいえ頭が痛くなるのだった。






◆赤熊の戦士団の団員レムス


 夕日が照らす森の中を僕は1人仲間達がいる所に戻る。

 カリスは勇者様の付き人の女性が御菓子をくれるらしい。

 ちょっと遅れて戻るそうだ。

 暗くなっているので足元が見えず歩きにくい。

 僕が所属する赤熊の戦士団はもっとも外れた場所に野営をしている。

 なぜなら、アルカス団長がもっとも危険な場所を引き受けたからだ。

 いかにも団長らしいと思う。


「黒髪の賢者様。すごく綺麗な人だったな」


 先程の事を思い出す。

 あんな綺麗な人から優秀と言ってもらえるのはすごく光栄な事だ。

 思わず笑みがこぼれる。


「ごきげんじゃないか? レムス」


 横から声がした瞬間だった。

 突然足払いをかけられる。

 僕は体勢を崩してそのまま地面に倒れ込む。


「何をする! トルクス!!」


 僕は倒れたまま振り向くと足払いをかけた人物を怒鳴る。

 声は僕と同じ赤熊の戦士団の団員のトルクスだ。

 聞き間違える訳が無い。


「何をするんだって? 壁の中に籠る臆病者に尻尾を振りやがってよ。それでも俺達の仲間か?」

「将軍閣下の手伝いなら! 団長の命令でもある! やましい事はしていない!!」


 僕は大声を出すと、木の陰に立っている者を睨みつける。


「何だ! その口のきき方は! ろくに戦えない奴が偉そうに!!」


 トルクスが近づくと僕の胸を踏みつける。


「ぐふっ!!」


 息が出来ない。

 何とか足をどけようとするがびくともしない。


「おいおい。軽く踏んでるだけだぜ。これぐらいでへばるのかよ。どうして、お嬢もこんな奴なんか……」


 トルクスの声には怒りが含まれている。

 トルクスのいうお嬢とはカリスの事だ。

 トルクスはカリスの事が好きなのだ。だから、いつも一緒にいる僕の事が気に喰わないらしい。

 彼は僕と同じ歳で、同年代の戦士達の中ではカリスの次に強い。

 強さを価値基準にする戦士団で弱い僕がカリスの側にいる事が許せないらしい。

 だけど、そんな事は知った事か。

 僕は闇を睨みつけて何とか足をどかそうともがく。

 しかし、足は動かない。

 獣の霊感こそ得ていないが、トルクスの強さは本物だ。

 本人には軽く踏んでるつもりかもしれないが、それでも僕の全力よりも強い。


「はあ、情けない奴だな。本当に死ねよお前」


 トルクスの冷たい声。

 胸を踏む足の力が強くなるのを感じる。

 まずい!!死ぬかもしれない!!


「何やってんの! トルクス!!」


 意識が朦朧として来た時だった。

 カリスの声が聞こえる。

 トルクスが僕から離れるのを感じる。

 僕は息を吸うと上体をおこす。

 闇の中で金色に輝く瞳が見える。

 間違いなくカリスだ。


「何もしてませんよ。お嬢。ちょっとレムスに稽古をつけていただけです。そうだよな。レムス?」

「嘘! だったら倒れているレムスを踏むの! 必要はないでしょ! 殺す気なの?!!」


 カリスの怒声。

 豹の霊感を得た彼女は普段でも暗視の能力を持っている。

 僕達の様子は見えていたはずだ。


「待って! カリス! トルクスの言っていた事は本当だよ! 僕がトルクスに稽古を頼んだんだ」


 荒い息を吐きながら僕はカリスを止める。

 僕は同年代の男の戦士達の中で、嫌われている。理由は弱いくせに団長やカリスに目を掛けられているからだ。

 それに対してトルクスは強く、若い戦士達から人気がある。

 その僕を助けるためにカリスがトルクスを怒れば、若い戦士達とカリスとの間で溝が出来るだろう。

 それは避けなくてならない。

 だから、僕は我慢する。


「本当だよ。カリス……。だから何も心配することは無いよ」


 僕はそう言って無理やり笑顔を作る。


「そう言う事です。お嬢。俺はもう行きますね」


 トルクスは去って行く。


「レムス……。どうして?」


 カリスが僕の側に来る。

 どうしてトルクスを庇うのかと聞きたいようだ。

 だけどそれは言えない。

 トルクスとは争えない。弱い僕とトルクスが争えば団員達はトルクスを応援する。

 そうなれば、さすがの団長も僕を追放するしかないだろう。

 僕はカリスの側にいたい。

 だから、我慢する。


「本当に大丈夫だから……」


 僕はカリスを心配させまいと明るい声を出すのだった。



何とか日曜日中に更新しようと思ったら日が変わってしまいました。

明日起きれるか心配です。

相変わらずダメダメですね(T△T)


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