表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第6章 魔界の姫君
103/195

黒い獅子

◆黒髪の賢者チユキ


 不愉快な道化師と出会ってから10日、ようやく私達は目的の蒼の森の中心部へとようやく辿りつく。

 こんなに時間が掛かったのは余りにも集めた自由戦士の数が多くなったからだ。

 数が多くなればそれだけ動きも鈍る。

 エカラスは喜んでいたが、この計画を立てた貴族の話だと、戦士を募集しても千人も集まらないと思っていたようだ。

 しかし、予定の3倍以上の人数が集まってしまった。

 そのため、ヴェロス王国政府は戦士を選別して少なくするか、計画を立て直すかで決断を迫られた。

 そして、結局後者を選んだらしい。

 そのため、準備に時間が掛かり、行軍にも時間がかかってしまった。

 蒼の森へと向かう自由戦士は約4千人。

 かなりの大軍である。

 私達はグリフォンやペガサスに乗り、上空から自由戦士達が進むのを眺める。

 その大軍が進むのはかなり壮観である。

 ただし、その行進はバラバラで一糸乱れぬ動きでは無い。

 自由戦士は個人の武勇では兵士に勝るが、集団になればなるほど規律が保てなくなる。

 下を見ると酒を飲みながら歩く者も見える。

 この軍団を率いているポルトス将軍も頭が痛いだろう


「あれ、大丈夫っすかね。チユキさん」


 ヒポグリフに乗ったナオがグリフォンに乗った私の横に来て言う。


「さあ、まあでも心配しても仕方がないでしょ。私は止めたのに彼らは行くと言うのだから」


 私は冷たく言う。

 これから行く場所は私達でさえ危険な場所だ。

 あの道化師からは、とても危険な何かを感じた。

 だから、私はそう言って遠征を取りやめるように進言した。

 だけど、当の自由戦士達から反対の声が出た。獲物を横取りするなと、そして金を稼ぐ機会を奪うなと。

 こう言われては私も止める気は起きない。

 せめて、私達に協力してもらおう。

 そう思ったからこそ彼らに合わせて私達も進んでいるのだ。


「ねえ、やっぱり。シロネさんの幼馴染が待ち構えているのかな?」


 リノが不安そうに言う。

 おそらく道化師の事を思い出しているのだろう。


「それはわからないな。リノ。だが、奴はいないような気がする。なぜかわからないがそんな気がする」


 ペガサスに乗ったレイジが前を見ながら言う。

 レイジの視線の先にはピンク色の靄がかかった場所がある。

 おそらく、あの靄の中に御菓子の城があるのだろう。

 しかし、レイジの言葉が少し気になる。

 彼がいないとはどういう事だろう。

 私はナオを見る。

 しかし、ナオは首を振る。

 ナオは私達の中で一番鋭敏な感覚を持つ。

 そのナオがわからないのにレイジには気配がわかるのだろうか?


「レイジ君の言う通りだよ。私もあの中にクロキはいないような気がする。それに、もしクロキがいるのなら、多分もう出てきているよ」


 一番前を飛んでいたシロネがピンクの靄を睨みながら言う。

 どうやらシロネは彼がいない事を確信しているようだ。

 レイジに続いてシロネも同じ意見ならきっと彼はいないのだろう。


「なるほど、2人がそう言うのならきっといないのでしょう。だけど、あの道化師が何もしてこないとは思えないわね。きっと何かを仕掛けて来るはずよ」


 私がそういうと全員が頷く。


「確かにそうっすね……。あの靄の中から嫌な気配を感じるっす。うかつに飛び込めば大変な事になりそうっすよ」


 ナオの言葉で私達はピンクの靄を見る。


「うわ~。何か嫌な感じがする。道化師なんか放っておいて、もう帰らない?」


 リノが魅力的な提案をする。


「確かに帰りたいわね。そもそも道化師の言葉に従う理由なんかないのだから」


 私はレイジを見ながら言う。


「え~! 駄目だよ! クロキはいなくても、あの子はいるはずだよ! あの子が何を企んでいるのか確かめないと!!」


 当然のごとくシロネが反対をする。

 彼女は幼馴染を取り戻したいと思っている。その彼を操っている白銀の魔女を放ってはおけないようだ。


「確かにそうだな。折角の美女の誘いだ。断る事はできないな」


 レイジが不敵な笑みを浮かべる。

 暗黒騎士の彼がいないと思った途端にこれだ。頭が痛くなる。


「まあ、良いわ。ポルトス将軍達が野営を始めるみたいよ。突入するにしても明日になるはずだわ。私達も降りて休みましょう」


 私はそう言って溜息を吐くのだった。






◆ゴブリンの王子ゴズ


「ああ~! 勇者達が来てしまったよ!!」


 御菓子の城の大広間。

 魔法の映像には勇者達が映っている。

 母がそれを見て慌てている。


「ゴズ! ヘルカート様はまだ戻って来ないのかい!!」


 母が俺に尋ねるが当然知るわけがない。

 あの醜いカエルの女神はここにはいない。

 何か仕込みをすると言ってどこかに行ってしまった。

 そもそも、何で俺が知っていると思うのだろう?


「そんな事を言われても母上……。わたくしにはわかりませんよ……」


 俺は母を宥めるように言う。


「ちっ! 全く使えない子だね! お前は!!」


 母が悪態をつく。

 本当に死ねよ、この糞ババア。と思うがもちろん口には出さない。


「いやあ。これは本当に見捨てられちゃったのかもね~。かわいそ~」


 道化師の格好をした男が楽しそうに空中を跳びはねながら言う。

 仮面を被っているから表情は見えないがこれっぽっちも可哀そうとは思っていないに違いない。

 それにしてもこの男は落ち着くと言う事を知らないのだろうか?とてもうざい。


「くう~! こうなったら! 私の美貌で勇者を虜にするしかないようだね!!」


 母が不気味に身をくねらせる。

 凄く不気味だ。近くにいる側近のゴブリン達ですら吐きそうになっている。

 案外そうした方が勇者を退けられるのではないだろうか?

 この気持悪さにさすがの勇者も逃げ出すだろう。

 そんな事を話している時だった。

 突然、空中に魔法陣が現れる。


「どうやら間に会ったようだね。ゲロゲロゲロ」


 魔法陣から現れたのは三つ首のカエルの頭を持った女神ヘルカートである。


「ヘルカート様ああああああああああ! 何処に行っていたのですぁ~!!!!!!!!!!!!」


 母が鼻水を垂らしながらヘルカートにしがみ付く。


「全く、どうしようも無い奴だね。頼もしい助っ人を連れて来てやったのさ」


 ヘルカートがそう言うと、いくつもの魔法陣が空中に現れる。

 その魔法陣から出て来るのは複数の影。人間のような姿の者もいれば、異形の者もいる。

 何者だ?


「あの~。ヘルカート様。この方達は一体?」


 母が首を傾げながら尋ねる。


「ふん、こいつらは女神レーナに求婚している男神共さ。もっとも全員袖にされたようだがね。ゲロゲロゲロ」


 ヘルカートの言葉で現れた者達を見る。

 全員がとんでもない威圧感を発している。


「聞き捨てならねえな。ヘルカート。俺様は袖にされたわけじゃねえぞ。ただ俺の良さがわかってないだけだ。何が光の勇者だ。あんな野郎。ぶっ殺して誰がレーナに相応しいか思い知らせてやる」


 怖ろしい顔をした男神がヘルカートに詰め寄る。


「そうだ。なんでぽっと出の異界の者に我らの天上の美姫を奪われねばならん。このまま黙っている事なぞできようか?」

「そうだ! そうだ!!」

「あんな! 軽薄そうな男に天上の美姫はふさわしくない!!」

「私は何百年もレーナに思いを寄せているのだぞ! それが何であんな男に!!」

「そうでしゅ! レーナちゃんはぼくの物でしゅ!!!」

「あ?! 誰が手前の物だって! 表出ろや! 俺の物に決まっているだろ!!」

「君達こそ、何を言っているのかね?彼女のように美しい姫は私にこそふさわしい」

「何だと! このキザ野郎が!!」


 男神達が喧嘩をしそうになる。


「まちな! 喧嘩はやめな!」


 ヘルカートから強力な魔力が放出される。

 その圧力にちびりそうだ。

 突然の事に男神達はヘルカートを見る


「誰が天上の美姫に相応しいかは、勇者を殺した後で決めるんだね。それからでも遅くないはずだよ。ゲロゲロゲロ」


 ヘルカートがにんまりと笑いながら言うと男神達は顔を見合わせる。


「確かにそうだな……」

「ああ、あのすかした野郎を殺すのが先だな」

「それまではこの勝負はお預けですね」

「ぼくのレーナを奪おうする奴を真っ先に殺すです!!」


 それまでの殺伐した雰囲気が嘘みたいだ。

 危うくこの城が崩壊する所だった。

「さあ、話はこれで終わりだよ。後は勇者が結界に入って来るのをまつだけさ。そうすりゃ誰も中の様子がわからない。誰が愛しい者を殺したのかわからない以上はレーナから恨まれる心配はないさね。ゲロゲロゲロ」


 ヘルカートが笑う。

 ヘルカートはこの城にいない間に光の勇者に恨みを持つ者達を集めて回っていたようだ。

 これだけ、短期間に集められたと言う事は前もって計画していたのかもしれない。

 そんな事を考えている時、1つの魔法陣が現れる。

 魔法陣から現れたのは黒い獅子の頭を持つ者だ。背中に巨大な大剣を持っている。


「ふん。まさかこれ程集まっているとはな。身の程知らずが」


 黒い獅子の頭を持つ者が集まっている男神達を見て呟く。

 獅子の頭の口が動いていない。黒い獅子の頭はおそらく被り物なのだろう。


「おやまさかお前さんまで来てくれるとはね。意外だったよ」

「ふん。カエル婆か。本当ならぶっ殺してやりたい所だが、しばらく見逃してやる。光の勇者を名乗るあの野郎を殺すのが先だからな」


 黒い獅子から強烈な殺気が放たれる。

 それはヘルカートにだけではない。この場にいる全員に対してだ。

 その強烈な殺気に再び男神達に緊張が走る。

 あの黒い獅子の頭を持った者は何者だろう?


「へえ~。まさか、彼まで来るとはね~。こりゃ面白い! クーナ様に早速報告だ!!」


 俺の後ろにいた道化が楽しそうに言う。

 どうやら道化には黒い獅子が何者かわかったようだ。


「さしもの勇者もこれだけの神々を相手に勝てないだろうよ。そして、モデス坊やの仲間じゃない男共がいくら傷ついても何も問題無いさね。ゲロゲロゲロ」


 ヘルカートの笑い声が御菓子の城の大広間に鳴り響くのだった。






◆天上の美姫レーナ


「どうしたの? トトナ? 貴方が私を尋ねるなんて珍しいわね」


 エリオスにある私の館の玄関でトトナを出迎える。


「ちょっとした用事。レーナ。兄さんを見なかった?エリオスにいないみたい」

「兄さん?トールズがどうかしたの?エリオスにいないって?どういうことなの?」


 トールズはエリオスの守る役目を背負っている。

 そのため、エリオスを離れる事は滅多に無い。


「わからない。だけど、兄に外部の者が接触した形跡がある。兄が貴方に相談しているのではないかと思ったのだけど違った。邪魔をした。帰る」


 そう言ってトトナは去って行く。

 トールズに外部の者。どういう事だろう。

 トールズはエリオスに属さない者を嫌う。

 常にエリオスの外にいる海王トライデンが考えられるが、トライデンなら隠れて接触したりはしない。

 そのため、外部の者はエリオスに属さない者と言う事になる。

 それが、トールズに接触した?しかも、追い返さずに会ったらしいみたいだ。どういう事だろう?

 何だか嫌な予感がするのだった。


今回はちょっときつかったけど何とか更新できました……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ