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暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第6章 魔界の姫君
102/195

氷海のクラ―ケン

◆暗黒騎士クロキ


 アスピドケロンの頭の近くで自分達は海上へと姿を見せた大海蛇シーサーペントを見る。

 大海蛇シーサーペントは体調12メートルぐらいである。

 その大海蛇シーサーペントから敵意は感じない。

 こちらに襲うために来たわけではないようだ。


「あの……クロキ先生。まだ、何か来るみたいです」


 横にいるポレンが自分に言う。

 どうやらポレンも大海蛇シーサーペント以外の存在を感じ取ったようだ。


「はい殿下。大海蛇シーサーペントは何かから逃げて来たようです」


 自分がそう言った時だった。大海蛇シーサーペントの周囲から水しぶきが上がる。


「何なのさ! あれは!!」


 プチナが大声を出す。

 大海蛇シーサーペントの周囲から出てきたのは何かの触手。

 その触手1本は大海蛇シーサーペントよりも太く大きい。

 触手は大海蛇シーサーペントに巻き付くと再び大きな水しぶきを上げて沈む。


「あれはクラーケンの触手。しかし、何と巨大な……」


 リブルムが呻くように言う。

 どうやら、あの触手はクラーケンの物のようだ。

 だけど、リブルムは過去にクラーケンを見た事があるはずだ。何でそんなに驚いているのだろう?

 しかし、疑問を抱いている暇は無いようだ。

 別の触手がエザサ達の船を襲おうとしている。

 突然6本の触手が現れるとエザサ達の船に巻き付き海に沈めようとする。

 エザサ達の船はかなりの大きさなのに触手は船体に巻き付くほど長い。


「まずい!!」


 自分は黒血の魔剣を呼び出すと飛ぶ。


「はああっ!!」


 回転しながら剣を振るい、斬撃を飛ばす。

 斬撃はエザサ達の船に巻き付いた触手を斬り裂く。


「おお!!」


 周囲からどよめく声が聞こえる。


「リブルム将軍! 転覆した船の乗員を急いで救助して下さい!!」


 触手は斬り裂いたが、幾つかの船が横転している。

 その船からオーク達が投げ出されているのが見える。

 急いで助けないといけない。


「わかりました閣下。お前達。エザサ殿達を助けよ!!」


 リブルムの配下のリザードマン達が空を飛び救助に向かう。

 普通ならリザードマンは寒い所が苦手だ。

 しかし、普通のリザードマンと違って有翼のハイリザードマン達は冷気に対する耐性を持っているのか、館の結界の外でも問題無く動けるようだ。

 海に落ちたオーク達を次々に拾い上げる。

 斬り裂いた触手がうねりながら引いていく

 自分は再びアスピドケロンへと降りる。


「さすがはクロキ先生! カッコ良かったですぅ~!!」


 ポレンが拍手をしながら出迎えてくれる。

 褒めてくれるのは嬉しい。

 だけど、ポレン以外の者達の様子がおかしいのが気になる。

 しかし、今はオーク達を救助するべきだろう。

 触手によって横転した船は2隻。

 先頭を航行していたエザサの船も沈んでしまった。

 オーク族は人間に比べて強靭な体を持ち。脂肪が多いので海に沈まないらしいので全員無事のようだ。

 リブルムの配下によってエザサが運ばれてくる。


「大丈夫ですか? エザサ殿?」

「はい。閣下。何とか……」


 エザサの様子を見る限り外傷は無い。

 しかし、浮かない顔をしている。船が沈んだ事が落ち込んでいるのだろうか?


「それにしても、触手1本で簡単に船を沈めるとは……。初めて見ましたが、クラーケンとはあれ程巨大なのですね」


 自分がそう言うと助けられたオーク達は顔を見合わせる。


「いえ、閣下。普通はもっと小さいのです。触手の1本ぐらいでは船を沈める事はできません。先程のクラーケンはあまりにも規格外です」


 エザサがそう言ってこちらに来る。

 オークの女性は男性よりも体格が良く、しかもエザサはその中でも特に体格が良い。

 2メートルを超える巨体が近くに寄って来るので、すごい迫力だ。


「閣下。あのクラーケンは異常です。あれを捕えるのは無理です。ここは一旦引きましょう」


 エザサは鼻息を荒く顔を寄せて来る。

 ちょっと近いよ。


「閣下。エザサ殿の言う通りです。あれ程巨大なクラーケンは見た事がありません。ここは退きましょう」


 リブルムもまたエザサと同じように言う。


「待って下さい! それでは僕達セルキーはどうなるのですか! 仲間も犠牲になっているのですよ! また、あのクラーケンは大食いで、この辺りの魚を食い尽くされています! このままでは僕達はここで生活ができません! お願いですクラーケンを退治して下さい!!」


 側にいたイヌルが大声を出す。

 セルキー達は生活が懸かっている。必死にもなるだろう。


「何を言っている。殿下を危険な目に会わすつもりか?セルキーは身の程をわきまえぬ者ばかりのようだな」


 リブルムが睨むとイヌルが青ざめた顔をして下がる。

 セルキーは弱い。八魔将軍であるリブルムに睨まれれば怖いだろう。


「まったくだね。普通のアザラシのように皮をはいで食べてやろうか?」


 エザサが自分から離れてイヌルの方へと向かう。

 自分から離れてくれたので、正直助かったが代わりにイヌルがピンチである。

 そういえばオークはアザラシをも食べるはずだ。

 イヌルの表情が恐怖で歪むのがわかる。


「そんな……。殿下はクラーケンを退治してくれる事を約束して下さいました……」


 イヌルがそう言うと、全員の視線がポレンへと向かう。


「あれ? えーっと。ははは。確かにそうだね。…………しよう」


 ポレンが頭を掻きながら言う。

 確かにポレンの名で助ける事を約束した。それを反故にする事は良く無い。

 それにポレンが折角やる気になっている。

 ここは自分が助け舟を出すべきか迷う。

 先程のクラーケンはかなり危険な存在みたいだ。

 ポレンの安全を考えれば退く方が良いかもしれない。

 しかし、セルキー達も助けたい。だとすれば自分が行くしかないだろう。


「リブルム将軍! エザサ殿! 殿下はクラーケンを退治する事を約束されました! ここで退いては殿下の名に傷がつきます! しかし、殿下の身を危険に晒す事はできません! ですから自分が代わりにクラーケンを退治します!!」


 そう宣言する。

 ポレンの代理で自分が行けば良い。そうすればポレンの身の安全もセルキーとの約束も守れるはずだ。


「あの……。クロキ先生。良いのですか?」


 ポレンが申し訳なさそうな顔をする。


「大丈夫です。殿下。まあ……なんとかしてみせます」


 正直に言うとクラーケンと戦うのは初めてだ。

 海面から出ているならともかく、海に潜られると厄介そうである。

 水中戦もそんなに自信があるわけではない。

 勝てるだろうか?

 しかし、こうするしかない。

 その時だった。

 海の向こうから強力な敵意を感じる。


「すごい敵意を感じるのさ!!」


 プチナが海を見ながら大声を出す。

 敵意を感じたのは自分だけでは無いらしい。

 リブルムやエザサも海を見る。

 巨大な気配がこちらに向かって来る。先程の大海蛇シーサーペントよりも遥かに大きい。


「どうやら、撤退する暇はないみたいですな……」


 リブルムが呟く。

 巨大な気配が近づくと同時に、巨大な波がアスピドケロンを襲う。

 普通の波では揺らぐことのない巨体がゆれる。

 イヌル達の悲鳴が聞こえる。

 だが、怖ろしいのはこれからだ。

 波が過ぎ去った時、複数の触手が海の中から現れてアスピドケロンに絡みついてくる。

 その数は太いのから細いのも含めると数十本はある。

 一番太い触手の長さからみても、島と同じ程の大きさのアスピドケロンよりも大きいようである。


「ク! クラーケン!!」


 エザサの配下のオークが叫ぶ。

 クラーケンはその長い触手をアスピドケロンへと巻き付け海に引きずり込もうとしている。

 複数の触手がアスピドケロンに乗っている者達に襲い掛かる。

 強力な敵意と怒りを感じる。

 おそらく、自分が触手を斬った事に怒っているだろう。


「まずいな……」


 どうやら、戦う以外にないようだ。






◆魔界の姫ポレン


「あわわわわわわわわわわわわわわわ! 揺れているよ! 揺れているよ! ぷーちゃん! 私泳いだ事ないのにっ!!!」


 巨大な触手が現れてアスピドケロンを揺らしている。

 足元がぐらぐらするので立っている事が難しい。

 複数の触手が海面より現れて私達を襲う。


「危ないのさ! ポレン殿下!!」


 ぷーちゃんが突然に私を押しのける。

 すると私が立っていた場所に触手の1本が襲い掛かりぷーちゃんを締め上げる。


「のわ―――――!!!」

「ぷーちゃ―――――ん!!!」


 触手は数ある触手の中でも細い方だが、力の強いぷーちゃんを簡単に捕えてしまった。

 このままでは海に引きづり込まれるだろう。

 私を庇ったばかりにそんな!!


「危ないプチナ将軍!!」


 飛び上がったクロキ先生がぷーちゃんを捕まえた触手を斬り裂く。

 そして先生はそのまま触手の数本を斬り裂き、他に触手に掴まった者達を解放する。

 その動きはとても綺麗だった。

 先生は空中に投げ出されたぷーちゃんを抱きとめ降りて来る。

 お姫様抱っこだ!!すごく羨ましい!!


「助かったのさ。閣下……。によほほほほほ」


 降ろされたぷーちゃんが嬉しそうに笑いながら、お礼を言う。

 ぷーちゃんの頬が少し紅い。

 くうう―――――!!私も抱きかかえられたい!!

 触手を斬り裂かれた事でアスピドケロンの揺れは止まる。

 だけど敵意は消えていない。

 また襲ってくるだろう。


「ポレン殿下! 自分が海に入ってクラーケンと戦います! 殿下は急ぎ残った船へと移動して、ここから離れて下さい!!」


 クロキ先生が私を安全な場所へ逃がそうとする。

 だけど、それでは駄目だ!!

 私もクロキ先生に助けられたい!!私はここに来た当初の目的を思い出す。

 危ない目にあったら先生が私を抱きかかえて助けてくれるはずだ。

 泳いだ事はないけど!!そんな事はどうでも良い!!私もお姫様抱っこをされたい!!


「いえ! 先生! 私も行きます!!」


 私がそう言うと先生が驚いた顔をした後、嬉しそうな顔をする。


「わかりました殿下! 一緒に行きましょう!!」


 先生が手を差し出して力強く言う。

 先生の目がキラキラしているちょっと恥ずかしくなってきた。


「ど! どうしたのさ! 殿下! 何か変なものでも食べたのさ?!!!」


 折角良い所をぷーちゃんが邪魔をする。


「ぷーちゃんは黙ってて!!!!!」


 自分だけお姫様抱っこをされてずるい!!と言いそうになるのを我慢する。

 クラーケンが触手をさらに伸ばしてアスピドケロンを揺らす。


「一刻の猶予もありません殿下! 誰か殿下に武器を!!!」

「いえ、先生。私の武器なら大丈夫です。来なさい轟雷の大鎚よ!!!」


 私が叫ぶと巨大な大金鎚が私の手に現れる。

 この鎚はお父様が下さった武器の中で、唯一私の力に耐える事ができる武器だ。

 先生がいるから、必要はないかもしれないが一応持って行こう。


「さあ! 行きましょう先生!!」


 私と先生はアスピドケロンの端まで走ると、大きく息を吸う。

 これで海の中でもしばらくは大丈夫だろう。

 私と先生は海へと潜る。

 海に入るととても寒い。浮き上がろうとするのを何とか耐える。

 目を凝らすと暗い海の中に巨大な何かがいる。

 巨大な何かは触手を伸ばして私達に襲い掛かって来る。

 触手が私を襲う前に、先生が前に出て斬り裂く。

 おしい。

 これでは先生は私を助けてくれない。

 私は手をバタつかせて、クラーケンへと向かう。


「殿下! 前に出過ぎです! 下がって!!」


 海の中だというのに先生の声が聞こえる。

 おそらく何かの魔法だろう。

 だけど、聞くわけにはいかない。

 泳ぐのは初めてで、泳げないと思っていたけど何とか前に進めた。

 何でもやってみるものだ。

 クラーケンの触手が私に向かって来る。

 先生の慌てる声が聞こえる。

 やがて触手が私に巻き付き、頭の方へと運ぶ。

 少し苦しい。

 私は轟雷の大鎚でクラーケンの頭を軽く叩く。

 すると触手の締め付けが緩む。

 これで良い。

 後は先生が私を助けるのを待つだけだ。

 先生ならこの程度のクラーケンにも勝てるだろう。

 妄想が捗る。

 颯爽と駆けつけた先生がクラーケンから私を助け、優しく抱きかかえてくれるところを。

 さあ、クロキ先生!!私を助けに来て!!

 だけど、助けに来ている先生が途中で止まる。

 どうしたのだろう?

 それに何だか締め付けがすごく弱くなったような気がする。

 クラーケンの様子を見る。

 何故か敵意が消えている。それに先程まで赤く光っていた目から光が消えている。

 私を捕まえたクラーケンが浮かび上がる。

 そのまま巨大なクラーケンと共に海面へと出る。

 力が抜けた触手が私を離す。


「見事ですポレン殿下! まさか一撃でクラーケンを倒すなんて!!」


 海の中から出たクロキ先生が私の所に飛んで来る。

 ちょっと軽く叩いただけなのに、あれで死んだの?

 嘘でしょ?

 うう、こんな事なら轟雷の大鎚を持って来るのでは無かった。

 私は後悔する。


「えーっと……」


 私は頭を掻く。こんな事ってあるのだろうか?

 ちょっと泣きたくなってきた。


「みんな! クラーケンはポレン殿下が退治されたぞ―――!!」


 先生が私を置いて空を飛び。叫びながらアスピドケロンへと戻る。

 せめて抱きかかえて、連れ戻して欲しい。

 アスピドケロンから歓声が聞こえる。


「すごい! すごいよ! ポレン殿下!!」

「すげえ! あのクラーケンを倒しちまった!!」

「さすがは魔王陛下の御子! このリブルム! 感服しましたぞ!!」

「ああ!!殿下! さすがです!!」

「ポレン殿下! ポレン殿下!!」

「ポレン殿下! 万歳!!!」

「殿下―――! 一体何を拾い食いしたのさ―――! 早く薬師に見てもらうのさ――――!!!」


 みんなが私を褒め称える。

 だけど、約一名すごく失礼な事を言っている子がいるが、聞かなかった事にしよう。

 リブルムの部下とエザサの船が私を迎えに来る。

 私はまだ先生に助けられていないのだけど……。


「やり直しを! やり直しを要求しますっ!!」


 しかし、私の声は歓声に打ち消されるのだった。




取りあえず更新です。

もう少しクラーケンとの戦いをうまく書きたかったのですが、更新を優先しました。

後で書き直すかも……。


また、良く考えたら可愛いアザラシの姿や美少女の姿にもなれるセルキーはある意味最強の存在なのではないだろうか?

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