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暗黒騎士物語(なろう版)  作者: 根崎タケル
第6章 魔界の姫君
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海に潜むもの

◆暗黒騎士クロキ


 一晩が経過して、自分達を乗せたアスピドケロンはセルキーの里を離れる。

 セルキーの里は里と言っても家が有るわけでは無く、ただセルキーが群れを作っているだけだ。

 セルキーは人の前に出ない時はアザラシとして生活している。

 つまり、里と言っても特に何も無く、ただ氷が沢山あるだけだ。そのため特に見るべきものは無かった。

 窓の外を見るとオーロラが見える。

 この世界のオーロラはエリオスの神々の母神であるミナが、この世界に現れた時の影響で生まれたと聞いている。

 ミナはこの氷の島の上空でオルギスの呼び声に応えたらしい。

 ミナがこの世界に現れた時、オルギスはその虹色に輝く美貌に夢中になった。

 その時に残った輝きの残滓がオーロラとして漂っているそうだ。

 オーロラはミナがいなくなった後も氷の島の上空を美しく彩らせている。

 もっとも破壊の女神ナルゴルにとっては忌まわしい美しさだろう。

 館の部屋の中を見る。

 自分がいるのは館の最上階の一室だ。

 部屋は広く綺麗で、ここからだと周囲の景色が良く見える。

 ポレンがセルキーの若者に囲まれている。

 だらしない姿に見える。しかし、クラーケンを倒すと宣言した時のポレンは真剣な表情だった。

 困っているセルキー達を助けたいと真剣に考えている瞳のように感じた。

 自分はどうやったらポレンをクラーケン退治に乗り気になってくれるのか考えていた。

 だけど、自分程度の浅はかな知恵なんか何の役にも立たない。

 現にポレンを動かしたのはセルキーの涙である。

 セルキーの真剣な訴えがポレンを動かしたのである。

 無力だと思うと同時に嬉しく思う。

 これから動くのはポレンの意志だ。自分はその手伝いをするだけである。

 ポレンは若い男性セルキーに囲まれてだらしない顔になっている。

 しかし、きっとその奥に熱い闘志を秘めているに違いない。

 ……うん、きっとそうだ。


「クロキ様。お飲み物はどうですか?それとも私はどうでしょうか?」


 セルキーの女性が自分に飲み物を差し出してくれる。

 セルキーの若者達同様、セルキーの女性達もこの島に来ている。

 そして今、彼女達はアザラシの皮を脱ぎ人間形態になっている。

 男性陣と同じく彼女達もまた美形だ。

 ただし彼女達の格好はアザラシの毛皮を体に巻きつけるのではなく裸に貝殻のビキニである。そのため、目のやり場にすごく困る。


「ありがとう。飲み物をいただくよ」


 自分が飲み物を受け取るとセルキーの女性は何故か少し残念そうな顔をする。

 だけど、心を動かされるわけにはいかない。

 貝殻ビキニを着た少女達が周りを取り囲んでいる状態で下半身がのっぴきならない状態になっている。

 これは、自分の中にある竜の力の副作用のせいか、節操が無くなっている気がする。

 何とか気を反らさなければいけない。

 下手をすると、ここがとんでもないエロ時空に変わってしまう。それだけは避けなくてはいけない!!

 自分は周りにいる三人のセルキーの女性達をなるべく見ないようにする。


「あれ?」


 下を見た時だった

 セルキーの女性達の足元に小さなアザラシがいる事に気付く。


「きゅ~」


 自分が見ると小さなアザラシは可愛らしく鳴く。


「イヌラ! あなた?! ついて来たの?! 里にいなければ駄目じゃない!!」


 セルキーの女性の1人が小さなアザラシを抱き上げる。


「その子は?」

「申し訳ありません! 勝手に付いて来ちゃったみたいなのです!!」


 セルキーの女性が自分に謝る。


「別に構わないけど、この子は人の姿になれないんだね?」


 自分は小さなセルキーに近づく。


「はい。この子の名はイヌラ。私達の代表であるイヌルの妹でございます。まだ子供ですので皮を脱ぐ事はできません。ですから、クロキ様の御相手はできないのです。お許しください……」


 セルキーの女性が頭を下げる。

 おそらくセルキーの子供は人型になる事はできないのだろう。

 だけど、人型にならなければならない理由はない。

 そもそも、何の相手?!!と心の中でつっこみを入れる。

 そして、イヌルというのはポレンの相手をしているセルキーの若者だ。

 この小さなアザラシは彼の妹らしい。

 アザラシ状態のセルキーの見分けはつかないので、そもそも男の子か女の子の区別がつかない。

 しかし、どちらにせよもふもふしていて、とても可愛い。


「別に構わないよ。可愛い子じゃないか」


 そう言うと小さなアザラシは可愛らしく鳴く。

 こちらの言葉がわかるのか恥ずかしがっているみたいだ。

 この小さなアザラシを見ていると小さい頃にシロネと行った水族館の事を思い出す。

 2人で見に行った水族館にはアザラシの親子がいた。

 母親に寄り添う生まれたばかりの小さなアザラシはとても可愛かったのを覚えている。

 シロネが小さなアザラシに触りたくて水槽に入ろうとしたのを止めるのが大変だった。

 これは自分とシロネの思い出の1つだ。

 今頃、あのアザラシはどうしているだろうか?

 子供の頃の気持ちに戻ったおかげで下半身が落ち着いてくるのがわかる。

 助かった。


「きゅ~」


 セルキーの女性の腕にいたアザラシが身をよじる。

 何だかこちらに来たがっているみたいだ。


「いいよ、おいで」


 自分は小さなアザラシを受け取る。

 すると小さなアザラシは甘えるように自分の胸に鼻をすりつける。


「よしよし。可愛い子だね」


 頭を撫でると小さなアザラシは嬉しそうにする。


「あの……。もしかしてクロキ様はイヌラが御望みなのですか? 私達もアザラシの姿になった方が良いのでしょうか?」

「いえ!! そのままの格好でお願いします!!」


 しまった!!思わず本音が出てしまった。

 少し大きな声を出したので小さなアザラシが驚く。


「きゅう?」

「いや。何でもないよ」


 小さなアザラシの頭を撫でながら見る。

 小さなアザラシの瞳はとても純心だ。自分のようにいやらしい事など考えもしないだろう。


「ところで、君達の里から、かなり離れたみたいだけどクラーケンはいる場所は遠いのかい?」


 話題をそらすように言う。


「えっ? クロキ様、すでにもうクラーケンのいる海域に入っていますよ」


 その言葉に驚き外を見る。

 特に変わりはない氷が浮かんでいるだけだ。

 目を閉じて意識を集中させる。

 何か巨大な何かがこちらに向かって来る事に気付く。

 敵意を感じないから気付くのが遅れた。


「ちょっと、まずいかもしれない……」






◆魔界の姫ポレン


「ぷーちゃん。やっぱり……。ちょっと無理かも……。そもそも私泳げないし、外出るの苦手だし、クラーケン退治なんて無理だよ……」


 私は周囲にいるセルキーの殿方に聞こえないように言う。


「ポレン殿下~。今更それはないのさ~。良かったのさ? あんな大見得をきって?」


 ぷーちゃんが痛い所をつく。


「ぶー。失敗だったかも……。あの時は思わず。セルキーの殿方が魅力的だったからさつい……」

「はあ……。まあ、確かに、その方が殿下らしいっちゃ、らしいのさ。何だか安心したのさ」


 ぷーちゃんがやれやれと首を振る。

 ぷーちゃんの中の私っていったいどうなっているのか気になる。


「ポレン様。御菓子をもってまいりました。いかがですか」


 セルキーのイヌル達が御菓子を持って来てくれる。

 イヌル達には私の名前を呼ばせている。なぜなら美男子からは直接名前を呼んでもらいたいからだ。

 クロキ先生にもできればなるべく名前で呼んでもらいたいが、真面目な性格のためか中々呼んでくれない。

 そのかわりに何故かセルキーの女性達がクロキ先生を名前で呼ぶようになった。

 まあ、真面目で清廉なクロキ先生ならセルキーの女性達を見ても心動かされる事は無いだろう。

 だから、安心だ。


「うん。ありがとういただくね。あーん」


 私は直接食べさせてもらう。

 セルキーの綺麗な手から直接口にいれてもらう。

 蜂蜜を材料した御菓子はいつもよりも甘く感じる。やはり、美男子に食べさせてもらうのは良い。

 イヌル達の格好は裸にアザラシの毛皮だ。

 スラリした肢体が半分以上見えるので眼福である。

 時々、股間のアザラシが見えてしまうのではないかとドキドキしてしまう。


「むは――――!!」


 鼻息が荒くなる。

 だけど、その事に気付かれるわけにはいかない。

 イヌル達はキラキラした瞳で私を見ている。

 きっと、私がクラーケンを退治してくれると信じているのだろう。

 正直申し訳ない。

 だけど、私が何もしなくてもクロキ先生がクラーケンを退治してくれるのではないだろうか?

 なにしろ先生はお父様も認める最強の暗黒騎士だ。

 おそらく、お父様を除けばナルゴルで私と互角の腕力を持っているのはクロキ先生ぐらいだろう。

 うん、先生にまかせておけば問題無い。

 だから、御菓子を食べてても良いのだ。

 すると、突然館がゆれる。

 どうやらアスピドケロンが急に止まったようだ。


「ど! どうしたの?!!」


 すると、セルキーの子供を抱きかかえたクロキ先生がこちらにやって来る。

 セルキーの子供は甘えるように兜を外した先生の頬に鼻をこすりつけている。

 すごく羨ましい。ええい!!その場所を変われ!!


「ポレン殿下。どうやら巨大な何かがこちらに向かって来ているようです。ですからここで迎え撃ちます」


 クロキ先生が頭を下げて報告してくれる。


「そ? そうですか?! クラーケンが出たのですか?」

「わかりません。ですがクラーケンの可能性もあります。おそらくリブルム将軍殿とエザサ殿達は応戦の準備をしているでしょう。ですから殿下も準備をなされて下さい」

「えっ? 私も動くの?」

「えっ?」


 私とクロキ先生は不思議な顔をする。

 そこで私は思い出す。

 そう言えば、クラーケンを倒す約束をしたのだった。

 お調子者である私が恨めしい。


「ああ! そうですね! すぐに行きます!!」


 私は準備をするとクロキ先生と共に館を出る。

 アスピドケロンの頭の部分に行くと、そこには竜魔将軍のリブルムが既に待機していた。


「これは殿下に閣下。すでに先行するエザサ殿の船団が迎え撃つ準備をしています」


 リブルムが跪いて答える。

 前方を見るとオークのエザサが率いる船団が待機しているのが見える。

 その先の海を見るが特に何も見えない。


「殿下。目を瞑り意識を集中して下さい。殿下ならばきっと感じ取れるはずです」


 小さなアザラシを抱えた先生が私の肩に手を置く。

 先生に触られると心臓の鼓動が速くなるような気がする。


「はい。先生」


 眼を閉じて意識を集中する。

 すると、感覚が広がったような気がする。

 エザサの船団のはるか先から何かが来るのがわかる。

 かなり、大きい。

 おそらくエザサ達では止める事はできないだろう。


「リブルム将軍! エザサ殿に下がるように伝えて下さい! おそらく止められない!!」


 クロキ先生は小さなアザラシをセルキーの女性に渡すと前に出る。


「クロキ先生! どうするのですか?!!」

「安心してください殿下。自分が止めます」


 先生はそう言って手を前に出す。すると強力な魔力が先生の体から噴き出す。

 その強力な魔力に周囲からどよめく声が漏れる。


「なんと?!!」

「すごいのさ……」


 先生から放たれた魔力は向かって来る巨大な物にぶつかる。

 エザサの船の前で巨大な水しぶきが上がる。


「「「蛇?」」」


 水しぶきから出てきた物を見て周りの声が重なる。

 私達の所に向かって来た巨大な物の正体は巨大な大海蛇シーサーペントだった。


新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いしますm(_ _)m



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