勇者を倒すために魔王に召喚されました
◆召喚された青年クロキ
目を覚ますと化け物の大群に取り囲まれていた。
正直何がどうなっているのかわからない。
石造りの広いホール、その地面には円形や図形の中に文字が書かれうっすらと光っており、自分はそこに寝かされていた。
そして、目を覚ますと自分の周りを沢山の化け物達が取り囲んでいたのである。
犬の顔をした化け物、鳥のような姿をした者、触手が生えた者、大きな目だけの者、人間に近いような恰好をした者も少数いたが大半は人間からかけ離れた姿をしている。
こういう時、映画とかだったら恐怖のあまり絶叫とかするのだろうか?
しかし、実際にそういった状態に自分が置かれるとどうして良いかわからず、固まってしまう。
あまりにありえない光景に脳がショートしてしまったのだろうか?
化け物達は自分を遠くから取り囲むだけで近づいてくる気配はないようだ。
遠巻きに見ているだけだ。
もしそのまま包囲をせばめてきたら、今度こそさすがに絶叫しただろう。
しかし、近づいてこないことで少しだけ思考を取り戻す。
ここはどこだろう?
ここに来る前の記憶がぼやけている。
少なくとも日本にある自分の部屋ではないのは確かだ。
なぜ、自分はここにいるのだろう。
これは、夢なのだろうか……?
しかし、冷たい床の感触がこれが夢ではないことを教えてくれる。
夢でないならここはなんだ、地獄なのか?
だとしたら自分は死んでしまったのだろうか?
色々な考えが頭をよぎる。
「よくぞ来られた、我が救世主よ!!」
突然ななめ上の頭上から声がする。
救世主? 自分の事なのか?
その声は明らかに自分に投げかけられている。
声のした方に顔を向ける。周りを取り囲む化け物達、その中で化け物がいない隙間があった。
暗がりの奥に何かがいるのを感じる。
目を凝らすと、そこには巨大な化け物がいた。
闇の中であるにも関わらず、なぜかはっきりと見ることができた。
その化け物は周囲の化け物達とは明らかに違う、強力な力を感じる。
その姿は直立に立った巨大な豚のような姿をしていた。頭には巨大な角、口には逆さに生えた牙。巨大な鼻からは黒い炎のようなものを吹いている。
漆黒の上品なローブを着こんでいるがその身から発する暴力的な気配は隠しようもなかった。
その巨大な化け物が自分の方へと近づいてくる。
そいつは、自分の前まで来ると頭を下げた。
「我が名はモデス。魔王と呼ばれる者である。そして、このナルゴルの地を治める者。救世主殿、名前を聞いて良いですかな?」
魔王を名乗る化け物が顔をこちらによせてくる。
「あっ……はい……クロキ……。行崎黒樹で……す」
魔王の迫力に負けて馬鹿正直に答えてしまう。
「おお、クロキ殿と申されるのか!!どうかクロキ殿!このモデスをお救い下され!!」
モデスが自分に対して更に頭を下げる。
自分を簡単に殺せてしまえそうな巨大な化け物が、自分に対して頭を下げる。
ますます訳がわからない。
「あの、すみません……、意味が良くわからないのですが……、なぜ自分の助けが必要なのですか?」
自分が恐る恐る尋ねてみると。
「おお、そうですな……。いきなり召喚されて助けてくれと言われても訳がわかりませんでしょうな」
モデスは頭を上げ、少し顔をそらし説明を始める。
「実は今現在、このモデスの治めるナルゴルは侵略を受けているのですよ」
「侵略?」
「そう、侵略です。エリオスの女神レーナが異界より召喚した勇者によってね……。この私をエリオスの地から追放しただけにあきたらず我が宝までも奪おうと……」
モデスは顔に哀しみの表情を浮かべる。
そして、再び自分を見て不気味な笑みを浮かべる。
「クロキ殿には、その勇者と戦って頂きたいのです」
勇者だって……。ゲームやマンガでしか聞いたことのない単語だ。
「勇者ですか……」
「そう勇者です。この世界の勇者や英雄ではこのモデスに敵わない。だからレーナは異界の地から勇者を召喚したのです」
モデスの話を聞き、何じゃそりゃと思う。
異世界から勇者、まるで昔読んだファンタジー小説だ。
確か、現代の日本に住む少年が女神に召喚されて魔王を倒しに行く話だったはずだ。
ただ、自分の置かれた状況はそれとは全く逆。
どうやら自分は勇者と戦うためにこの魔王を名乗るモデスによって、この世界に召喚されたようだ。
魔王に召喚され勇者と戦う……。
これじゃ悪役じゃないか……。
「クロキ殿、その勇者の姿をお見せしましょう。モーナ!!」
「はい、貴方」
モデスの呼び声で一人の女性が化け物達の中から出て来る。
声の主を見た時、世界が止まったような気がした
とても美しい女性だったからだ。
黒絹のような艶を持った腰まである美しい髪。
横を向いた非常に整った美しい顔。
目を奪われる胸の豊かなふくらみ。
白いローブにうっすら透けたシルエットは、彼女のスタイルが良いことを知らしめている。
あまりの美しさに目が離せなくなる。
周りが醜い化け物の中、その女性の周りだけ光輝いて見えた。
彼女から目が離せない。
「どうです、クロキ殿美しいでしょう。彼女の名はモーナ。私の最愛の妻でございます。モーナ、クロキ殿に挨拶をなさい」
モデスが自慢げにモーナと呼ばれた女性を紹介する。
かなり衝撃的だった。
こんなものすごい美女がモデスの奥さんだなんて。
モデスと彼女では完全に美女と野獣だ。正直うらやましい。
「初めましてクロキ様、モーナと申します。以後お見知りおきを」
モーナが挨拶し、自分に微笑む。
その笑顔はまるで桜の花が咲いたようだ。
思わず見とれてしまう。
「モーナ、君の魔力でクロキ殿に勇者の姿を見せるのだ」
「はい、あなた」
モーナは両手を広げ何かをつぶやく。
すると頭上が光り輝きどこかの映像が映し出される。
そこには、戦いが繰り広げられていた。
化け物の大群がたった数人の人間に襲い掛かっている。
しかし、少数にもかかわらず、優勢なのは人間の方だ。
良く見ると自分と大体同じ年齢の男女だ。どう見ても20代よりも年上ということはないだろう。
男が1人に女が5人という構成だ。
男は光輝く剣を振り、化け物達と戦っている。その恰好はファンタジー小説に出てくる騎士のような恰好だ。
その後を続く女達の恰好も、またファンタジーだ。
女の恰好は剣士のようなのが1人、魔法使いのような恰好が3人、忍者のようなのが1人だ。
その彼らは男を先頭に化け物達を相手に獅子奮迅の戦いぶりを見せている。
「クロキ殿、あれが勇者レイジとその仲間の女達でございますぞ」
モデスはその人間の中心で戦っている一人の男を指す。すると、その男を中心に画像が拡大されていく。
「なっ? あれ、あいつは? それにレイジって……」
その男を見た瞬間思わず声が出る。
知っている顔だった。そしてその名前にも聞き覚えがあった。
美堂怜侍。通称レイジ
それがあの男性の名だ。
自分にとってあまり思い出したくない人間だった。
後ろにいる女達の顔を見る。いずれも知った顔だ。
自分の記憶の中の姿と少々変わっているが、間違いない。
長く美しい黒髪が特徴の魔法使いのような恰好をしている、水王寺千雪。
その後ろにいる、白いローブを着た亜麻色の髪の少女は、吉野沙穂子。
髪をツインテールにして手から炎を出している少女、佐々木理乃。
ショートカットの髪であたりを元気にはねて小剣を振るっているのは、轟奈緒美。
そして最後に長い髪をポニーテールにした女剣士は、自分の幼馴染の赤峰白音。
何れも自分が通う学園で有名な美少女達だ。
そしてレイジと彼女達は行方不明になっているはずだった。
そんな彼らが映像の中で戦っていた。
初投稿です。過去に書いたけど表に出せなかった小説を載せてみようと思い投稿しました。