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スミカ  作者: 狐冬迓
8/9

第八話

「負けるのを怖がるのは結構だが、逃げるなら早くしてくれないか」


 ジェイカーの眉がピクっと動いた。

 見栄を張るのが仕事だと言っても過言ではない。

 ここで引き下がるのは威厳に関わる。

 余興にはなるかとジェイカーは勝負の確認に入った。

 ひとまずはネオに軍配が上がったのだ。


「勝負は受けてやる。しかしだ。まずは七百万見せろ。お前たちが燃えるのを見た所で一銭にもならんからな」

「ネオ見せたげて! 私が借りたお金を」

「ほう。借りたのか」


 借りたという言葉に反応したジェイカーは、紙袋から出した七百万を子分に調べさせた。

 金額も間違いなく、調べ終わった子分が合図を送る。

 ネオが札束を子分の手からブン取り、紙袋に投げ入れると部屋の隅に置いた。


「もういいだろ。サッサとルールを言え」

「細かい確認は、ここでの基本だ。気を悪くするな」


 ニヤっと笑いながらジェイカーはトランプを用意させる。

 上から床が見える透明のテーブルにトランプを箱ごと投げ置くとネオに調べさせた。

 ネオとハルノがトランプとテーブルを調べている間にジェイカーが説明する。


「ルールは単純だ。カードを並べ、交互に一枚ずつめくる。めくったカードと同じ数字を出したら負けだ。これなら最長でも十四回めくれば終わる。お互い暇でも無いし、手っ取り早く済ませようや」


 様子を伺うこともなく、すでに勝った気でいるジェイカーを見ると、何か仕掛けているのは分かりきっていた。

 仕掛けを見つけられないネオは、調査を兼ねた予防線として追加の要求をしてくる。


「ルールは飲んだ。だが、こちらにも譲れない部分はある。一つは子分を全員、そっちの壁際に集めろ」


 子分はジェイカーに指示を仰ぎ、壁際に移っていった。

 ハルノとネオの後ろから子分が消え、全員視界に捉える。

 おかしな動きをするのを防げる上、子分が後ろで何かするような仕掛けでない事が判明した。

 ネオは次に現金の入った紙袋を指差し。


「紙袋もそうだがカードやテーブルにも一切触るな。カードに触って良いのはオレとそこのボスだけだ。これを破ったら、その時点で負けだ。良いな」


 葉巻を灰皿に押し付け火を消すと、次の葉巻を子分に用意させる。

 子分がライターの火を点けジェイカーは新しい葉巻を吸い出した。

 独特の間を醸し出すと、呆れたようにこう言った。


「少しは考えたようだが、みっともないぞ」


 ネオはいつも通り動揺する素振りはなかったが、ハルノにも瞬時に看破される程、取るに足らない策だった。

 やはり付け焼刃でどうにかなる相手ではない。

 少なくとも一フロアー制覇したのは伊達ではないのだ。


「触ってイイのはカードとテーブルにして貰おうか。そうしないと別のゲームになってしまう。俺は運の勝負がしたいんだ」


 ニタニタ笑うジェイカー。

 疑い無く運の勝負などするつもりは毛頭ない。

 分かっていてもハルノは手が出せない。

 制限を掛けられるかもしれないので助言も、ここぞという時に備えて温存しておきたかった。


「ああ、それで良い。ルールは以上だ。オレたちは勝とうが負けようが、すぐに帰る。この件は、これで終いだ」

「契約成立だな。では始めるか」


 ネオがカードを切って、テーブルに並べ始めた。

 誰も何も言わず、滞りなく並べ終わる。

 ジェイカーはネオに先攻を譲った。

 このゲームでは、一回目は絶対に数字が被ることはない。

 お互い被らずに十三枚引くと後攻の負けになる。

 つまり先攻の方が有利なのだ。

 それでも先攻を譲ったのは仕掛けが機能している事を表した。


 ネオが一枚めくる。

 ハートのAだった。

 次にジェイカーがめくる。

 ダイヤの8。


 未だに仕掛けを見抜けないネオが不利なのは変わらない。

 カードをめくる手が止まる。

 考えてもカードが透けて見える訳でもはない。

 トランプに細工が無いのは確認済。

 注意深くジェイカーと子分を見張るも動きはない。


「せっかく早く終わるゲームにしたのに意味がない。少なくとも一分以内にめくる事にしよう。異論は認めん。どうせ運なんだ。気楽にめくればイイ」


 心にもない言葉だ。

 だが時間稼ぎは出来ない。

 一分以内にめくるのはルールでは無いが、ないがしろにも出来ない。

 暗黙のルールというヤツだ。


 相手の正論を否定もせず無視する。

 人道に反する行為は法律では罰せられなくても、状況を悪くするには十分な効力がある。

 責め立てられると非常に厄介極まりない。

 言葉の駆け引きはジェイカーの方が一枚上手だった。


 仕方なくお互いめくっていくが、六枚づつめくっても被らなかった。

 キングだとセーフ。

 汗ばむ手を服で拭いカードに手を伸ばした。

 ハルノが緊張しながら見つめる中、カードをめくる。


「クローバーのキングだ」


 そう言うとカードを投げ捨て、紙袋を取りに歩き出した。

 ハルノが大喜びする声だけが聞こえる。

 なぜか子分たちに動きはない。

 微動だにせず立ったままだった。

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