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スミカ  作者: 狐冬迓
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第五話

 契約書が必要なのは他人に契約した事を証明する為。

 しかし、ここでは証明は第二の太陽がしてくれる。


「極端な話だが『口約束』でも契約になるのか」

「当たり。私はそれで騙されたの。『個人間の契約』は『基本的な法律』より優先される。お互いの合意があれば人殺しも許される。まあ、その時に契約してない人を傷つけたりしたら罰を受けるけどね」


 話は理解した。

 それでも女の子との関係までは分からないでいたネオの前で衝撃的な事件が不意に訪れる。


「ぐわああああぁぁぁぁ!」


 成人男性と思われる断末魔と共に、激しい光が辺りを照らす。

 光は熱気を伴い、不快な臭いを運んできた。


 ネオは瞬時に理解した。

 男が燃えていたからだ。

 奇怪な事に服は一切燃えていない。

 汚れた服を見る限り、ネオと同じく外の住人だった。

 しかし確実に男は燃えている。

『死ぬ事も出来ず数日間焼かれる』とは妙な話と思っていたが、この光景が総てを教えてくれた。


「あの炎は罪人を焼くだけ、他の人や物が燃えることは無い」


 燃え盛る炎を見ながらハルノが呟いた。

 異様な光景だったが、それ以上に異様だったのは住人たちの方だ。

 ハルノが大声を出した時は皆一斉に注目していた。

 しかし今は人が燃えているのに誰も見向きもしない。

 何にでも興味を持つ子供や、人が死ぬ姿を子供に見せたくないはずの親ですら一切気にしていなかった。


「ここでは人が燃えるのが日常だから、誰も驚きはしないわ。それよりも知ってて欲しいのは燃やした子供の方よ」


 子供? 

 外の世界でも子供が銃を持って戦っていたが、この平和な場所で? 

 そう思うネオの方が普通なのかもしれない。

 だが真実は残酷だった。


 この一見平和に見える世界でも殺し合いは続いていた。

 ここで女の子の話に戻る。


「さっきの女の子の手口を教えるわ」


 そう言うと恐ろしいカラクリを教えてくれた。

 先ほど外の住人が殺されたのは仕方ない。

 ハルノが居なければ自分も死んでいたとネオは生唾を飲んだ。


 カラクリとは『個人間の契約』だった。

 ネオをハメようとした方法は、まず『頭に付けてるの、それ何?』と聞く。

 そうすると『ゴークル』と答えた。

 ここが肝だ。


 次に『それ、ちょうだい』と聞かれる。

 この時にネオは『ゴーグル、ちょうだい』と勝手に解釈していた。

 それが罠だったのだ。


 もしここで『いいよ』とでも答えていたらゴーグルでは無く、違う何かを請求されていたはずだとハルノは話を続ける。

 焼かれた男も到底払えない何かを請求されたのだろう。

 仮に目や舌を請求されたとしたら、普通は断るか無視する。

 結果は実際に目撃した通りになってしまう。

 この罠にハマらないような人間。

 例えば二人を襲った強盗のようなタイプは、恐喝した挙句に銃を乱射し死んでしまうらしい。

 ハルノが言うには外の住人の、ほとんどは直ぐに死んでしまうとの事だった。


「めぐみの塔では『はい』とか『了解』を絶対に使っちゃダメ。必ず何かを失うから」


 ハルノは奪われたスミカを思い出しているのか、寂しそうな顔をしていた。


「なぜ殺す? 食料は必要無いはず」


 疑問に思ったネオの指定は最もだが、めぐみの塔の恩恵も無条件ではなかった。


「太陽の恩恵にも限度があるの。その限度人数が住人の数なの」


 ハルノが言うには『めぐみの塔』は上に五十階、下に五十階の計百階立てになっている。一の位が一の階、つまり一階・十一階・地下一階等は共同施設のフロアーになる。

 一階は出店や第二の太陽があり、地下一階はショッピングモールになっているらしい。

 それ以外の階層は全部スミカになっている。

 スミカには住居者数が決まっていて一人一人登録しないといけない。


 つまり総住居者数が恩恵の受けられる人数という事になる。

 金が無く裕福で無い人たちが、新参者の入居希望者を殺してしまう。

 それが、ここの現状だった。


「結局、ここも変わらないようだな。限りある物を取り合う」


 生きている理由は何なのか? 

 ふと気を抜くと頭を巡る。

 外の世界はそうだった。

 めぐみの塔に住む人々は、どうなのだろうか? 

 ネオは考えてはみたものの、答えが出るはずもなかった。

 いつも通り、今を生き延びなければ知ることは出来ない。

 明日ではなく今を生きる為、ネオとハルノは第二の太陽に歩みを進めた。


 一定の距離まで歩くと今までと少し変化がある。

 変化とは住人の顔つきだ。

 外からの人間は総住居者数の関係で歓迎されない。

 大半は入口付近で殺されてしまうので、ここまで来たのはルールを知っていると言っているようなものだった。


 住人は自分のスミカを奪われると思い、ネオを観察するように見ている。

 出る芽を摘むのが生きる基本なのは、どこの世界も同じだ。


 早速全身黒服で長身の男が二人に近づいてきた。

 気配を察知したネオはハルノに声を掛けた。


「悪い。先に行ってくれ。野暮用を済ませてくる」


 ハルノも黒服の男に気づいた。


「新参者を狙ってるヤツよ。無視するのが一番なのに…… まあイイわ。あんなヤツに負けるなら、このさき生きていけないわよ」


 先に進むハルノに背を向け、歩いてくる黒服の男とネオは対峙した。


「威勢がイイな小僧。多少の知識で勝てるとでも?」


 頭一つ分ぐらい背の高い男をネオは見上げた。

 見下ろす男は笑いながら言い放つ。


「ハンデをくれてやる。提案するなら今の内だぞ」


 自信しかない男。

 それは間違っていない。

 数多の出る芽を摘んできたのだから。

 しかしネオは確信していた。

 大した事はないと。

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