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スミカ  作者: 狐冬迓
3/9

第三話

「おい! いくぞ」


 見張りの一人が目線を車に向けるとそう言った。

 もう一人も軽く頷き、銃を構えながらジリジリと近寄っていく。


 ハルノは思った。

『外の世界』でしか通用しない何かがあったのだと。

 そしてそれが『セブンス』なのだと。


「ねえ。あの人たちが車を盗んで逃げるって、どうやってわかったの? 見張りが信じたのはなんで? セブンスってなんなの?」


 あらゆる質問を投げかけたがネオが答えることはなかった。

 そのまま微動だにせず立ち尽くすネオをしり目に、ハルノは顔を隠しているため何も分からない。

 聴覚だけは機能するものの砂嵐によって近くの音しか聞こえず八方塞がりだった。

 頼みのネオにダメもとで質問しようとしたその瞬間、数発の銃声がする。


 急な銃声に一瞬、自分が打たれたと勘違いしたハルノは腰が抜けた。

 少し間が空き、今度は倍ちかい銃声が響き渡る。

 かすかに聞こえた断末魔が総てを終えたことを伝えた。


「きゃっ!」


 ハルノは肩を叩かれたことに驚いたが、スカーフをずらしネオだと確認すると気が抜けるように溜息をついた。

 腰を抜かしたハルノをおぶりつつネオは車に向かう。

 丁寧に助手席に座らされ落ち着くハルノだったが、所々に飛び散った血しぶきは現実逃避させるに十分だった。


 四人の絶命を確認したネオは運転席に乗り込み、車を反転させると来た道を戻り『めぐみの塔』に再出発してしまう。


「何が起こったのか、まったく分からないんですけど」


 幸か不幸か砂嵐とスカーフのおかげで直接死体を見ることがなかった為、すぐに話すことができた。 

 だがネオは暫く答えることはなかった。

 なぜなら、それこそが質問や『セブンス』について大きく関わっていたからだった。


 無言のネオに道案内をするハルノ。

 しかし怒っている訳ではないようなので、それを察したハルノは気さくに話しかけた。


「はじめは車を盗んで逃げるのが分かった理由だったな」


 眠くなりかけていたハルノに話しかけると、驚いたあとに『今更かよっ』と言いたそうな顔をしたハルノをネオは無視して話しだした。


「車を盗むかどうかは知らなかった。正確には知る必要がなかったかもしれないが」


 あっさり切り出された答えはハルノにとっても、どうでも良かった。

 想像した以上に内容がなかったからだ。

 なかば興味のなくなっていたハルノに次々と真相――いや『セブンス』について話しだした。


「二つ目の『見張りが信じたのはなんで?』と『セブンスってなんなの?』は同じなので答えは一つだ。オレの『セブンス』は『自分の言葉を完全に信じ込ませる』ことが出来る。もちろん副作用はあるがな」


 ハルノがネオの言葉の意味が理解できないでいたのには理由があった。理由とは単純なものだ。

 『セブンス』自体を知らないからだ。


 二人は会話が噛み合わない事に気付き、一からまとめていった。

 『セブンス』とは過酷な環境に適応する為の進化の一種とされている。

 第七の感覚という意味で、ある時急に使えるようになる。

 原理を理解する事なく、感覚的に使えるので第七の感覚『セブンス』と名付けられた。


 例えば『強靭な肉体の作り方が分かったり』『指を回して相手を眠らせる』等の事を呼吸をするかのように自然に出来るようになる。

 セブンスを知らないのはハルノだけでなく、過酷な環境に居ない塔の住人は全員知らない。

 逆に外の住人には知っていて当たり前の事だった。


 セブンスは個人によって違う。

 ネオの場合は『自分の言葉を完全に信じ込ませる』こと。

 ハルノと出会った時に『絶対危害を加えないから』と力を使った事で友好的な関係をすぐさま築く事ができた。

 強盗の時は四人が共倒れしたのは運が良かっただけだが、見張り二人が殺しにいったのはネオのセブンスによるものだった。


「ひょっとしたら塔にも超能力みたいなの持ってるヤツがいたけど、そのセブンスってのだったのかも」

「オレの知る限り、半分以上の人間は持っていた。セブンス持ちが塔に逃れてきたとしても、おかしくない。塔を探せるような力の存在も同様だな」


 強力な助っ人を得たハルノは期待が高まっていた。

 ほぼ万能に近い力をネオは持っている。

 浮かれている上に楽観的な性格が災いし、相手にもセブンス持ちがいる可能性をすっかり忘れていた。


 そこへ未来は明るいと意気揚々に進む二人の前にめぐみの塔が現る。

 めぐみの塔は高く、そして何より巨大だった。

 ハルノにとっては念願の帰郷になったがネオにとっては新たな生活が始まる瞬間。


 荒れ果てた大地に、深刻な食糧不足。

 この酷く劣悪な環境を考えればヌルい。

 それは隣に座るハルノを見ても感じていた。

 ネオにも危機感はない。


 視界に入ってからも、ひたすら走り続けること小一時間。

 ようやく入口に着き、二人は一度上を見上げた。


「もう二度と見る事はない。ネオの力があれば何でも出来る。バシバシ、セブンスを使ってお金を稼いでね!」


 ハルノは、ネオの背中を叩きながら言った。

 ネオには『お金を稼ぐ』という言葉に引っ掛かりながらも、すぐに分かる事だと思い、聞くのを止める。

 しかし、もう一つに点いては言っておかねばならなかった。

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