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スミカ  作者: 狐冬迓
2/9

第二話

「ネオ? それは苗字? フルネームは?」


 今度はネオが『外の世界』について語りだした。

 200年前、すでに水や大地は汚染され建物は崩壊していたが人類は希望を持っていた。

 だが人類は何も学んではいなかった。

 少なくなる食糧を奪い合い、各地で紛争が多発した。

 結果、100年前に訪れた世界の終焉で作物が育たない世界になる。


 一筋の希望として有能な科学者たちが度重なる品種改良により、荒廃した大地でも育つ野菜を開発した。

 しかい今はその野菜の奪い合いをしている。

 これが『外の世界』だった。


 ネオのように強盗にならないと生きていけない。

 ましてや車は最高級品。

 強盗にあったのは必然だった。


「こんな世界では苗字は必要ない。名前があるのすら珍しい」

「真っ先に奪うのは食糧。だからお金がないって言った、私の事を不思議に思ったのね。納得したわ」


 お互いの世界を知り二人の結論は一致した。


「ねえ。私のスミカを取り返してくれたら一緒に住んでもいいわよ。そうすれば食糧に困る事もないし」

「ああ。連れて行ってくれ。この世界に希望はない」


 二人を乗せた車は『めぐみの塔』に向け走り出した。

 ネオには特に問題はなかったのだが、ハルノには確認しておかなければならない事がある。


「次に会う強盗が親切とは限らないから頼んじゃったけど、何もできないようなら連れて言っても仕方ない訳で」


 言いづらそうだがハルノの言い分は最もであった。

 当然、ネオも自身の力を証明しなければならなかった。


「話を聞く限り、遅れをとる事はない。金でもスミカでも取り返してやる」

「ごめん。言い忘れてた」


 ここでハルノは言い忘れていた。

 重大な事を。


 ガタゴト揺れる車の中で『第二の太陽』の裏の顔を教えていった。

 『第二の太陽』は金を払い住む善良な住人には恵みを与える。

 かたや悪人には天罰を与える。

 天罰とは太陽らしく悪人を焼く事だ。

 罪の重さにより罰が変わる。

 軽い罪ならヤケド程度だが、重い罪になると数日間に及び死ぬ事も出来ず業火に焼かれ続ける事もある。

 太陽は常に総てを見守っているのだ。

 そして罪は必ず裁かれる。


 何も知らずに行けば暴力の世界で生きてきたネオに任せると真っ先に焼かれてしまうだろう。

 斡旋したハルノも同罪だ。


「暴力は使えないのか。なら銃やナイフも不要か。だが一つ気になるのだが」


 ネオが気になったのは、ハルノの『悪い奴に騙されスミカを奪われた』という言葉だった。

 奪われたのなら奪った相手は裁かれているはず。

 ネオは勿論聞いた。


「それは着いてから説明するわ。とりあえず合法的な手段で取り返さないといけないの。そういえば『外の世界』で法律ってあるの?」

「ないが、昔の法律なら知っている。父親に教えられた」

「塔の法律も昔の人が、昔の法律を元にして作ったものだから問題ないと思うわ」


 二人の会話が進み、もうすぐ到着するはずだったのだが……。


「面倒だな」


 ネオが呟いた数秒あとにハルノも気付く。

 本日二度目の轟音。

 何とか岩をよけ、ぶつかる事なく難を逃れると細い路地に入り込んだ。


「危なかったわね。って!」


 細い路地を擦りながら抜けると大きな広場に出た。

 広場は袋小路になっており、そこには銃を構えた男たちが四人も待ち構えている。


「何も持たずに出て来い! いいか! すぐに出て来い!」


 二人はすぐに車から降りた。

 何もない広場の真ん中で囲まれている。

 凄腕のドライバーなら、バックで路地に戻り逃げることもできた。

 だがそうしなかったのはハルノにそんな腕はなかったからだ。


 手を上げる二人を車から引き離し荷物を漁る。

 ネオは銃やナイフを全て取り上げられた。


「おい! 食料がないぞ! どこに隠した!」

「食料は持ってないです。ちなみにお金も……」


 勿論、嘘ではない。

 食料は恵みの塔では娯楽用品。

 税金も多く掛かる為、お金のないハルノには車とガソリンしか買えなかった。


 そんな事情を知る由もない強盗たちは、色彩鮮やかな目立つ服を着たハルノを裕福な富豪と勘違いしている。

 今にも殺されそうなこの状況でネオが信じられない事を言った。


「ちょうど良い。オレが役に立つという所を見せる。教えたくはないが贅沢は言えないからな。これがオレの『セブンス』だ」


 訳の分からないハルノは困惑していた。

 困惑しているハルノにスカーフを渡し、ネオは顔を隠すように指示をする。


 広場は風通しが良く砂が舞うため、慣れている外の住人ですら厳しい環境だった。

 当然ハルノにはとても耐えられない。

 目・口・鼻を砂から守る為にスカーフを渡したのは必要不可欠だった。


 この間に強盗四人の内、二人が車を荒らしている。

 残り二人は見張りとして銃を背中から突きつけていた。

 ネオは砂から口を守るため、手で塞ぎながら見張りの二人にボソっと呟く。


「あの二人あのまま車ごと奪って逃走するつもりだ。食糧も十分積んでたのに『どこに隠した』と聞いていただろ。オレも最初は意味が分からなかったが、ようやく意味が分かった」


 そう言うとネオは黙った。

 風の音に遮られながらもハルノにも聞き取れていた。

 見張りの二人も騙されるほどバカではない。

 いくらなんでも仲間の二人を信じるはずだ。

 現に今も車内を探している。

 無い食糧を見つけることは神にだって出来ないのだから。


 そう思うハルノの考えは間違いではない。

 しかし現実は違った。

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