第8話 『Brave And Cats Waltz』
それにしても、と
『来たのは二度目だけど、随分呑気な場所だなぁ』
と、呟く。
葛西エリアの基地から数十分程で狩り場を訪れていたミキヒサとゴーライオー。
『そう言やミキヒサは此処来るの初めてだったよな』
『まぁ、な』
そう言って敵であるJGに向けて銃口を向け、引き金を引いて風穴を開ける。
現在、先行して狩っていた二人は大島小松川公園で雑魚JGである“クラブ”と“ピジョン”を次々と屠っていく。
といっても昨日の“ラプター”の様な異様な出現率で現れている訳でもない。
『――と…また『ピジョンウイング』か』
『こっちは『クラブボディー』だ』
両者はお互いにストレージに送られたドロップアイテムを確認し合う。
コモン級とはいえ、この様なものでも新たな機材を作るための素材となるのだから世の中何が有るのか解らないのである。
ふう、とミキヒサが一息を吐いていると目の前に『スカイフェニックス社』の機体であるフェニカが三機が現れた。
アイコンは“緑”である。
『先着が居たか』
自分達より遥かに年上の男性の声。
『ど、どうも』
ゴーライオーが挨拶した。
『おう、そう身構えてくれんな。同じPPCだろ?』
そう言ってPKされては此方が非常に困るのだが、と言おうとしたがぐっと堪える。
『ああ自己紹介がまだだったな。俺は『チーム勇者』のリーダーのEXカイザーだ』
『俺はダグON』
『私はファイ・バード』
『俺はミヒヒサ』
『ゴーライオー、です』
それにしても、と言葉を一旦区切る。
『凄い名前ですね』
まぁな、と得意気に胸を張るEXカイザー。
訊けばこのプレイヤーネームは昔放送されていたロボットアニメが好きで、それに因んで付けたのだとか。
「どんなロボットアニメなんだろう」と不思議に思ったのだが、その疑問は後から合流するであろう“彼”にぶつければ良い事だろうと考え、話を進めた。
『そう言えばEXカイザーさん達はどうして此処に?』
『そりゃあお前、俺等の拠点が此処の近くだからだ』
『え、そうなんですか?』
まさか元々ミネルヴァと同じ区域で活動していたとは思いもよらなかったので、二人は驚いてしまう。
『それに、周りは攻略に忙しいからと取り残された結果なんだけどね』
と、苦笑交じりに彼女、ファイ・バードは語った。
『成程、レベリング重視で置いて行かれた訳か…』
『どうするよ、ミキヒサ?』
『俺に聞くな。そもそも話聞いてる分じゃ、昨日みたいにお前等に突然襲ってくる様な悪い人達じゃないだろ?』
『んまぁ、そりゃそうだ』
『それに或る程度の情報の共有と戦力はこの世界じゃ必要だ、βで嫌という程散々叩き込まれただろ?』
その言葉に、確かにと言わざるを得ないゴーライオーであった。
ファンタジー系でもそうだが、この世界ではBEMという巨大な鉄塊が存在する分更に顕著に現れている。
『EXカイザーさん、ファイ・バードさん、ダグONさん?』
『何だ?』
『取敢えずフレンド交換してくれますか?』
『来たぞ、ミキヒサ!』
『了解!』
“レイヴン”に向けて銃口の標準を合わせると、躊躇無く討ち抜いた。
『おしっと…お、核ゲット…って事はコイツ【V】か』
ゴーライオーがドロップ品を確認して喜ぶ。
しかし、ミキヒサ以外の三人は解らないらしく首を傾げていた。
『【V】? それは一体何なんだ?』
当然、聞き慣れない単語なのでカザミネ・ゴーライオー両名に訊ねる。
『【V】って言うのは言わばエネミー版レア度だな。ランクとは違って解り辛いけど、その分手に入るドロップ品は希少なモンばかりだぜ?』
『と言われてもなぁ』
イマイチ状況が呑み込めずに疑問が深まるばかりなので、いち早く理解できたファイ・バードが助け船を出した。
『ファンタジー系なら【変異種】と言えば解り易いじゃない?』
『あ、そうそう、それそれ』
『ったく、調子の良い奴』
ミキヒサはゴーライオーの調子の良さに呆れて溜息を吐く。
『でも、そんな物集めてどうすんの?』
ファイ・バードの疑問も全くその通りである。
スクラップ当然の鉄屑なら溶鉱炉にでもぶち込んで解かしてしまえば良い。
だが、流石に核をどうするのかまでは解る筈が無かった。
『利用できる目処は或る程度着いたからな、後は“細工は流々その後は、仕上げをじっくり御覧うじろ”だ』
『あらま、どっかで聞いた事あるフレーズね』
『…そんな事より、狩りを再開するぞ?』
『そうだ。今は狩りに専念しろ、じゃないと雑魚相手に思わぬ苦戦を強いられるぞ?』
『おっと、そいつぁおっかねぇや』
そう言いながらも、きっちりJGを仕留めていくミキヒサ。
『それにしても随分儲けたな』
『技術者が泣いて喜ぶ素材らしいからな――――最も、今の所ウチ等だけだけど』
此処のエリアが幾ら出現するJGが少ないとはいえ、かなりの数を屠っている事には変わりは無い。
『ちょっと待ってっ…巨大エネルギーを感知! 何かが、来る!?』
地震と共に敵は突如として現れた。
ミキヒサとゴーライオーは現れたJGのステータスを見るなり、驚きを隠せなかった。
【デストロイ・クロムキャットLv15】
・エリアボス
・デストロイ級
・六価クロムで苦しんだ捨て猫の怨念が、産まれたばかりのJGの核と反応して誕生したJG。
他と違い、致死性の瘴気を撒き散らすため倒さなければ明日は無い。
『ね…猫……?』
詳細よりも、その異様な姿に肝を冷やす。
あくまで猫だと表記しているものの、その姿は奇形としか言い様がない程醜態である。
しかし、それ以上に、不覚にも周りの猫に囲まれていた事実に驚愕していた。
――――昨日の今日で、また厄介なものを…と心の中で悪態を吐く。
D級。
以前戦った時はボス級でも下位のTであり、ミネルヴァが類稀なる操縦センスで何とかなったが、EXカイザーを中心とした三名は自分達とどっこいどっこいと言った具合である。
幾ら戦力が増えた所で絶対に勝てるとは思えない。
『…どうする、ゴーライオー?』
『どうするっても、よぅ』
『どうしても、か?』
『どうしても、だろうよ?』
『仕方が無ぇ…』
『『やってやろうじゃねぇか!!』』
猫達が攻撃を仕掛けたと同時に攻撃を開始する両名。
『ちょ…君達!?』
ファイ・バードは制止を掛けようとしたが、此方側にも猫が襲いかかってきたのでフェニカの所有する剣で斬り裂いていく。
『ああ、もう鬱陶しい!』
『散開しろ! 固まっているとすぐに墜ちるぞ!』
ミキヒサとゴーライオーは前回のラプター襲撃を経験していたので素早く行動に移せたが、『チーム勇者』は初めての経験である、対応が遅れて既に機体に何割かダメージが入ってしまっていた。
眷属の猫に関してはラプター同様、個々の能力は低い。
しかし、圧倒的な物量でそれを補っており、たまにV級が混じっているので侮る事等、到底無理な話である。
だが、ミキヒサとゴーライオーはそれでも耐えねばならない。
いや、耐えてくれねば困る。
後から合流するであろう、新たな力を引っ提げてやって来る彼等に一縷の希望を掛けて。
利用されない様に銃をへし折って投げ捨てると、ナイフを大腿部から取り出し、刺し貫く。
或いは首を断ち斬り、殴り、踏み付けながら猫を駆逐していく。
『くそ…明らかに不利だ』
『今は耐えるしか無いだろ』
『そうは言ってもよ! 増援の可能性は』
『来る! 絶対に、来る! それまで堪えてください!』
『アテがあるのか!』
『ああ! 俺等の仲間だ。後から合流すると約束してるからな』
ナイフを握りしめたまま殴り付け、飛び掛かってきた猫を破壊すると、足元の猫を踏み付けながら屈んで腰を落とし、低姿勢の状態でそのまま斬り裂く。
破壊する旅に飛び散るオイルで、機体を黒く染めながら大群を駆け抜けていき、クロムキャットに、同時にチャージを入る。
少しは効いた――――様に思えた両者だったが、重心がしっかりとしていた事もあって逆に吹き飛ばされてしまった。
『かってぇ!』
地面に何度も叩き付けられてしまったが、態勢を立て直しつつ、眷属の猫を蹂躙していく。
ここで『銃が有ったのなら…』と考えてしまうが、流石に“銃如きで”時間をロスしたくも無いと、その思いを振り切り、一心不乱に狩りまくる。
『ぐぁ!?』
それは突然の出来事だった。
ダクONの叫びに彼の機体に視線を向けると、機体の膝から下が“溶けて”いたのだ。
溶けた先には紫色の煙。
『――――! 瘴気か!』
何と言う事なのだろう、眷属の猫を駆逐するために目を離していたばかりに、その隙を狙われ味方に被害を齎してしまったのだ。
『ダグON! くそっ』
『落ち着け、ゴーライオー』
焦る|ミキヒサとゴーライオー《両者》。
それでも幾分か慎重なのは、“初戦”の賜物である。
それでも巨猫に対する警鐘は、大音響で鳴り響いている事には変わり無い。
不意に巨猫が哭き、同時にその身から瘴気が両脚を失ったダグONに向けて“放射”された。
『くっそ!』
ミキヒサとゴーライオーはダグONの前に躍り出ると、盾で防ぐ。
じゅう、と嫌な音を立てながら金属が腐っていく様子がモニターに映し出される。
それでも、緩める事は許されない。
『もう良い…もう、止めてくれ! これ以上君達を巻き込ませる事は出来ない、俺の事は諦めて――――』
『嫌だね!』
『――――っ!』
ダグONの叫びを遮り、それを拒絶する。
『何故!? このままでは被害が大きくなる、君達だけでも生き延びるんだ!』
絶望色の着いた彼の言葉は、或る意味真っ当で正しいのかもしれない。
しかし、両名が駆るDONEのモノアイの輝きは消え失せてはいなかった。
『ダグONさん、別に俺等は貴方がどうなろうと知ったこっちゃありません。俺等の動く理由…敷いて言うなら仲間との約束を守るためです!』
『そうそう。俺等の事は気にしないでくださいよ』
『…君達』
彼らの言う、仲間が来てくれるのか解らない。
しかし、それとは裏腹に自信に満ち溢れた少年達の台詞はダクON自身の行動理念と合致していたのだ。
(そうだ…彼等が動く理由は)
ダグONは自由の利く両腕で上体を上げると、ブースターを展開した。
(脚は無くとも、まだ立ち上がれるっ!)
嘗て某ロボットアニメの赤い彗星は言った――――『足はただの飾り』だと。
気力を振り絞り、上空へと持ち上げ、両肩に装備された翼を両手に構えて巨猫を睨み付けた。
『ぐあっ!?』
遂に限界を迎え、朽ち壊された盾と共に二機のDONEが吹き飛ぶ。
『クソ猫、今度は俺が相手だ!』
思いっきり、ブースターの火を限界値まで噴かせ突撃を開始した。
『うおぉぉぉぉぉ!!』
反撃を開始したダグONは眷属である猫を両翼の剣――――ウィング・レーザーブレードで次々と斬り裂いていく。
『スカイフェニックス社』から出ている機体ーーーー主に『チーム勇者』の駆る機体――――はどちらかと問われれば、低コスパの量産型のBEMである。
しかし、基が近接型のせいか、遠距離攻撃に乏しい状態にあった。
にも拘らず、兵士に好まれた理由はそれを補って有り余る機動力を所持し白兵戦に長けていたためであった。
それ以上に中空での戦闘にもその性能は大きく表れていた。
殆ど地上での戦いをメインに置いているBEMの中でも『ジオラマ社』や次点である『ジェネラル社』の機体と遜色無く肩を並べる程の優秀な性能を発揮した機体、それがBEM『フェニカ』なのである。
『捉えた!』
猫の攻撃を掻い潜り、懐に飛び込んだダグONの機体は、巨猫の命を絶たんと刃を振り上げ首を斬り付けた。
『浅い!』
手応えは有ったものの、ぎりぎりで避けられたせいで一部を僅かに斬り付ける程度に留まってしまう。
だが、諦めなかった。
再び、攻撃を仕掛ける。
懐に飛び込むも、それを前もって理解していたのか跳躍する。
――――が、それがいけなかった。
慢心しきった巨猫が上空で爆発音と共に横に吹き飛んだのだ。
『聞こえる、二人とも!』
『ミネルヴァ!』
上空を見ると、輸送艦が此方に向かって、奔ってきていたのだ。
思わぬ援軍に、安心を憶えた所で吹き飛ばされた巨猫へと視線を戻す。
先程の一撃で警戒しているのか、巨猫を守る様に現存している眷属の猫が囲っていた。
『取り敢えずは大丈夫そうね、あんた達』
『ウイドー、そりゃねえぜ』
『まぁいいわ。兎に角反撃開始、て事でそこの人達も後方に退散させてくれないかしら?』
『了解』
『兎に角、カイザーさんもファイさんも待避してください』
『む、しかし』
『あの子達の指示に従いましょ?』
『カイザー。ファイがそう言ってるんだ、大人しく指示に従った方が良いぞ』
『…解った。此方『チーム勇者』、そちらの指示に従おう』
『了解。じゃ、ちゃっちゃと終わらせましょう』
『そのつもりよ。――――主砲展開! “コアハートエンジン”起動!』
ブラックウイドーが指示を出すと、輸送機より巨大な砲身がその存在を露にした。
『目標確認…誤差修正…『ブリザードカノン』発射用意…3――2――1――――発射!』
砲口より収束されていた蒼空色のエネルギーが解き放たれた。
エネルギーがエネミーである猫の集団に着弾すると、“凍り付いていた”。
嘗て出力過多で幾人もの犠牲者を排出した死神は、変換された冷気エネルギーを射出する砲にたった今、生まれ変わった瞬間だった。
名前:ミネルヴァ
性別:男性
【PS】
・『空間認識』Lv8(初期)
・『地形利用』Lv6(初期)
・『適材適所』Lv9(初期)
・『設計開発』Lv5(初期)
・『修理』Lv6(初期)
・『精密作業』Lv8(Unlock メイキング系でより精密な作業をこなした)
機体:『ギルマルチ=マイス』Lv10
【AA】
・『レーザークロー』(初期)
・『クローシューター』(初期)
・『テイルアタック』(Unlock 尻尾でエネミー撃破報酬)
・『ハウリング・ヴォイス』(シュミレーションチュートリアルクリア報酬)
・『ブレイクファング』(LvUP)
・『クローシューター・ザンバー』(Unlock マニュアル操作で『クローシューター』を発動)
・『クローシューター・スナイパー』(Unlock 良く見据えて『クローシューター』を発動)
プレイヤーネームがあからさま過ぎた気がする、という苦情は受け付けません(汗)