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ACTIVATION MACHINERY ONLINE  作者: 沖 智美
Second Tittle
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第6話 『Underground』

 UGアンダーグラウンドに降りると、そこは大勢のNPCと個人PCで溢れ返っていた。


 『UGトーキョー』

 それがこの街の名前だった。

 二十世紀から二十一世紀に掛けての『メガトキオシティー』の再現。

 それはJGジャンボロイド・グレイヴァーが出現する以前の街並みでもあったのだ。

 人工太陽に、周期的に降る雨、川や海までも再現され、存在している。


 「おお…凄ぇ…」


 地上しか知らなかった彼等はその圧倒的な街並みに感動していた。


 「僕は今日からの新規ユーザーだけど、おススメのお店とかってある?」


 「それなら大丈夫、アテがあるから」


 「へぇ? …どんなの?」


 「着いてからの秘密って事だな」


 「そうそう、その方が絶対に面白いって」


 「ゴーライオーは絶対ノリで言ってるだけだから気にするな」


 「んだとミキヒサぁ!」


 「はぁ…これだからウチの男子は…済みませんミネルヴァさん」


 ミキヒサとゴーライオーの言い争いに溜息を吐くブラックウイドー。

 その様子に苦笑しながらもやっぱり仲間と一緒に出歩くのは悪くないと思ったミネルヴァであった。

 それから十数分位して到着したのは一軒のお店だった。


 「いらっしゃい…あら」


 「アリウムさん」


 出迎えてくれたのはアリウムという女性PCだった。


 「いらっしゃい、ウイドーちゃん、ミキヒサちゃんにゴーライオーちゃん」


 「ちゃん付けは止めてくれって」


 顔を真っ赤にして慌てるゴーライオー。


 「そうかしら? じゃあとどろ――――」


 「すとぉーーーーーーっぷぅ!」


 「じょ・う・だ・ん・よ」


 「いや、冗談でも止めてくれぇ…」


 頭を抱えて「ううあああ…」と恥ずかしさのあまりに絶望に浸っている。


 「…で、此方の方は?」


 「僕は“ミネルヴァ”と申します。えーっと」


 「アリウムでいいわよ」


 「はい。今後とも宜しくお願いします」


 にっこりとほほ笑みを返す。


 「…ほら、アタシの前でなーに見惚れてんのよアンタ等」


 ギロリとミキヒサとゴーライオーを、殺気を込めた眼差しで睨み付ける。


 「あらあら…ウイドーちゃん、嫉妬は駄目よ?」


 「う…」


 屈託の無い微笑みでウイドーを諌めるアリウム。


 「それにしても良いパイロットスーツですね?」


 「そうでしょう? 自信作なの」


 この世界では被服の装備は所謂おまけオプションで、戦闘には余り用をなさない。

 精々が防寒や防湿等、環境に合わせた効能しか発揮する事は無い。

 しかし、防具としての役割が出来なくても人はオシャレを楽しみたいと感じる生き物でもある。

 そんなプレイヤーの為に生まれたのがPPC仕立屋テイラーが展開する『オアシス』であった。

 そして、その店の店主がウイドー達のβからのフレンドである『アリウム』だった訳である。


 「βで街を駆け巡って漸くNPCの師匠マエストロを見付けて…それからだから……」


 彼女も一応はBEMを所持しているものの、基本的にはこの街で服作りがメインである。


 「アリウムさんも三人のチーム何ですか?」


 ミネルヴァはぼそりと、素朴な疑問を口にした。


 「ええ。と言っても補欠辺りだけど……パイロットスーツなんかも担当してるわ」


 アリウムは非常に優秀な人材である様で、ソロだと思っていただけに、この情報はミネルヴァにとって僥倖であった。


 「流石、ですね。此方にとっての“当たり前”を解っていらっしゃる」


 「ご謙遜は止して頂戴な。――――で、それで? 今日は何をお求めでこざいましょうか?」


 営業スマイルを崩さない。


 「そうね…今は持ち合わせが少ないから安い上下セットをひとつ…これをお願いしようかしら?」


 ブラックウイドーが手にしたのは黒を基調としてワンポイントに黄のラインを配色した服とスカートだった。


 「ふふ…やっぱり何時もの“ウイドースタイル”ね?」


 それ以外に何があるの?と言いた気な表情でアリウムに手渡す。


 「歪みねぇな。あ、俺はこれ」


 そういって黒と白が絶妙に組み合わさったパンク風のセット服を手渡した。


 「何よ、ミキヒサの癖に」


 「はいはい、そこまで」


 「む…」


 理不尽な物言いに突っ込みそうになるも、すかさずアリウムがウイドーを(なだ)めた。

 彼女は未だに納得できない、と頬を膨らませて恨めしそうにカザミネを睨む。


 「…うーん、子供心って複雑」


 世の中の理不尽を受けていたミネルヴァとしては、この状況にどう突っ込んでいいか解らず、苦笑するばかりだった。


 (ま、僕も世間一般から見たら充分子供だから人の事は言えないけどね…はぁ…)


 更に微妙な心境に、思わず胸中溜息を吐いてしまうのであった。

 考えても仕方が無いので、ミネルヴァも服を選んでみる。

 が、なかなか見つからない。

 アリウムの作る作品はどれも素晴らしい物であったが、男性服では見つからなかったので女性服で探す事にした。


 「其方は女性用になりますが…?」


 「…僕の姿って、これですからね…コッチじゃないと正直キツい」


 ミネルヴァの体型は現実世界リアルでも微妙なラインで、非常に珍しい事に女性に近かった。

 それもあるが容姿のせいで彼自身、男性用の服装に僅かな違和感を感じてしまっている。


 「仕方が無いと言えば仕方が無いと言うべき何だろうけど…正直誇るべきか、羨むべきか、それとも…怨むべきなのか……反応に困る、と言うべき…なんでしょうか…」


 半ば諦めた表情でやるせない笑顔を見せる。

 慣れた、と言っても辛い事には変わらず、その声には救済の色に染まっていた。


 「…ごめんなさいね」


 聞いてはならないならない台詞に気分を落としてしまうが、そっとミネルヴァの手を取り、彼を見つめて


 「でも今は貴方独りじゃない。少なくとも此処には貴方を支えてくれる人が居る。貴方の心を糾弾する人がいたなら私達が撃退を手伝ってあげる」


 と、背中を押してくれたのだ。


 「ありがとうございます」


 アリウム達の優しさに、「ああ、このゲームをやって良かった」と心から安堵を憶えたミネルヴァであった。




 ミネルヴァが買ったのはガーリッシュモデルで、白シャツにオーバーオール、追加でハンチング帽を購入した。

 因みにゴーライオーは赤と青の組み合わせた服装とジャケットを購入。

 本人曰く、ヒーローっぽくて格好良いとの談だが、果たしてそれが有っているのか微妙と言わざるを得なかったのはここだけの話である。


 「そう言えば、アリウムさんはパイロットスーツも作るんですよね?」


 ミネルヴァはふと思い出して、アリウムに訊ねてみた。


 「予定、ね。ほら、まだ貴方達以外に買ってくれる人がいないから素材に掛けるお金があまり無いのよ」


 「でも構想は有るんですよね?」


 「構想だけならね」とスケッチブックを取り出してミネルヴァに見せた。

 途中、ブラックウイドー・ミキヒサ・ゴーライオーの三人も見たいと言うのでカウンターに置いて開いた。

 そこには燃え盛る炎をメインに添えたデザインの、スタイリッシュ且つ、動き易いフォルムのスーツデザインであった。


 「炎が色抜きなのは、個人の好みに合わせてなんだけど…それよりも機能!」


 生地は撥水、耐熱、防寒・通気に適し、それでいて軽くて丈夫な新素材・アズラウル製を使用し、その裏に布状の基盤を配置する。

 こうする事で、エネルギーフィールドを発生させて鎧という名のオーラを纏わせて、対衝・対刃といった耐久力を持たせようという物であった。


 「ほぼ科学で作成されたヒーロースーツの構想と言っても差し支えが無いじゃないか!」


 目を輝かせて、食い入る様にスケッチブックに描かれたパイロットスーツのデザイン画を見詰める。


 「うん、ありがとう。参考になったよ」


 「あら、そう?」


 元々自分で作ったロボットを駆って活躍したいという理由で『AMO』というゲームの門を敲いたのだ。


 (基盤なら作れそうかな? …うん、機械製作とかプログラムの作成は得意だからこれは早々にクリアできそうだ)


 期待が現実になっていく様子が脳内でプレイバックする。


 (…C言語だけじゃ無理だったけど“以前やってたVRMMO”の技術を応用すればほぼ可能に近くなる…!)


 既に構想が固まってきただけに、その燃焼振りが解る。

 これだけでも充分な収穫が得られた様で、その表情は実に晴れやかなものだった。




 『オアシス』を後にした彼等はこれからの戦いに備えて、視察のためにジャンクショップを訪れていた。


 「へぇ…こんなお店が有ったんだ」


 ウィドーは正規のショップしか知らなかった様で、この様な雰囲気の店に入るのは新鮮な体験であった。


 「ふぅん…『ナイトメア』製のラジエーターねぇ……」


 「そいつは止めた方が良いぜ、お客さん」


 ミネルヴァがマジマジと眺めていると、奥からガタイの良い、口周りを髭で蓄えた男性がいた。


 「そいつは欠陥品だ」


 「じゃあどうしてここに置かれてるんだよ、売り物だろ?」


 ゴーライオーがもっともな疑問を男性に投げ掛けた。


 「そいつはな…強すぎたんだ…冷却システムが、な」


 ラジエーターは機体の温度の上昇を食い止めるパーツだ。

 だからしっかり効果を発揮しないと、機体に負荷が掛り結果、BEMの寿命を縮めてしまうのである。


 「…何もしらねぇガキに押してておく…そいつは別名“コキュートス”だ」


 コキュートス、それはギリシア神話で地獄を流れる川の名で、『裏切者』が氷漬けにされていると伝えられている。


 「昔、それを積んだ『エピック』社製の試作機体『カロン』『ハーデス』『タナトス』『ペルセポネ』『タルタロス』『ヘカテー』の六機がJGと戦闘中周りを巻き込んで氷漬けになっちまったのさ…パイロットも死亡……それ以来この忌まわしい事件を『地獄の氷川事件』として永久に封印された…それが真実だ」


 「知らなかった…」


 四人はあまりの驚愕の事実に、言葉を失ってしまった。

 時用すれば操縦者ごと氷の棺に閉じ込められる。

 しかし、それでも独りだけは違っていた――――顔色一つ変えずに。


 「貴方の言い分は解りました。……そのラジエーター、僕が買い取ります!」


 「ちょ…ミネルヴァ!?」


 「あぁ!? テメェ人の話聞いてたのか!? コイツは危険物なんだ! 常人が! それに触れていい筈がねぇ!」


 「だったら! …だったら何故、これを商品に含んでるんですか!?」


 「…そ、それは――――」


 「兎に角、僕はラジエーター(コレ)を購入します。文句は、僕のアイディアが悉く失敗に終わってしまったら、です!」


 男性に向かって、啖呵を切る。

 静寂が店内を支配する。


 「……解った、何処に運べば良いんだ?」


 「売って、くれ…るんですか?」


 「何度も言わせるなガキ共! テメエ等見てねぇで、とっとと手伝いやがれ!」


 五人掛かりで箱に梱包した一行は基地へ運び込まれ、基地に備わっている“ラボ”に押し込む事に成功した。

 そこには“ラボ”と言っても解らない程に、ドッグと同等の巨大な空間が広がっていた。


 「取り敢えず、だ…。お前のアイディア、活かせなかったら承知しねぇぞ?」


 「肝に命じておきます」


 ミネルヴァに釘を刺す様に怒鳴り付けた男性は基地を後にし、店へと帰って行ったのであった。




 「…どうするのさ、これ」


 『ナイトメア』製のラジエーターを見て、困惑した様な口調でぽつりと呟いた。


 「あたしに聞かないでよ」


 ゴーライオーの呟きに不機嫌になり、思いっきり脛を蹴り付けた。


 「――ってぇ! おいコラ、お前に言ったつもりはねぇぞ!」


 「何ですって!?」


 ゴーライオーの全うな弁解に頭に来てしまったブラックウイドーは掌を握りしめ拳を作り、振り翳した所でミネルヴァとミキヒサが止めに入る。


「放して! じゃないとアイツ殴れない!」


 「ウイドー、それは理不尽」


 「…だって!」


 「落ち着け! 原因はコイツじゃない、ミネルヴァさんだ」


 「そう、ミキヒサ君の言う通りだ! あれをどうにかする名目で僕が購入したんだから、不満をぶつけられるのは僕に有る」


 「――――あ…あぁ……う…」


 ミネルヴァの言葉で正気を取り戻した彼女は顔を青くして俯いてしまった。


 「…と…取り敢えず今はこの問題を置いといて、戦果を確認しよう? ね?」


 ミネルヴァはこの状況を打破しようと話題を変えて、或る提案を出す。


 「…そうだな。そういや今の今までドロップ品を確認してなかったな」


 「…う、うん…そう…ね」


 歯切れ悪くも、その提案に乗る。

ミ ネルヴァはメニューを開き、ストレージを確認してみると、見慣れないアイテムがそこには有った。


 ・ジャンクメタル・アイアン(コモン)×50:何の変哲もない鉄屑。鋼鉄製。


 ・ラプターフレーム(アンコモン)×21:ラプターを構成していた外骨格、一般的な鋼鉄製で出来ている。


 ・レックスハート(レア)×1:タイラントレックスを動かしていた核、未だに謎に満ちている。


 どうやらレアドロップを手に入れていた様である。


 「ミネルヴァさん凄いっす…俺なんてレアはラプターハートが三つだから…」


 「充分レアじゃねぇか! 俺なんか一度も出て無いし」


 「贅沢言わないの! あたしなんてそもそも倒してないし! BEM用のバックパック手に入れたって意味無いし!」


 「BEMて…ああ、あれか」


 ゴーライオーは先程のPK戦を思い出していた。


 「何かあったんだ?」


 「さあね」


 「教えろ!」


 「だが断る」


 「汚ぇ!」


 「はいはい、痴話喧嘩は他でやって頂戴ね」


 「「痴話喧嘩ちゃうわ!!」」


 (やっぱりゲームはこうでなくっちゃ)


 この光景に、ミネルヴァは感謝と安心感を憶えていた。


 「取り敢えず今日はこの辺でお開きにしましょう?」


 現在の時刻は午後四時を回っていた。

 夕食の準備等で動き始める頃である。


 「それじゃ残りの集合時間はどうする?」


 「九時くらいで良いかな?」


 「じゃあその時間になったら集合!」


 「了解」

 名前:ミネルヴァ

 性別:男性

 【PSプレイヤーズスキル

 ・『空間認識』Lv7(初期)

 ・『地形利用』Lv6(初期)

 ・『適材適所』Lv8(初期)

 ・『設計開発』Lv2(初期)

 ・『修理』Lv6(初期)

 ・『精密作業』Lv1(Unlock メイキング系でより精密な作業をこなした)


 機体:『ギルマルチ=マイス』Lv10

 【AAアタックアビリティー

 ・『レーザークロー』(初期)

 ・『クローシューター』(初期)

 ・『テイルアタック』(Unlock 尻尾でエネミー撃破報酬)

 ・『ハウリング・ヴォイス』(シュミレーションチュートリアルクリア報酬)

 ・『ブレイクファング』(LvUP)

 ・『クローシューター・ザンバー』(Unlock マニュアル操作で『クローシューター』を発動)

 ・『クローシューター・スナイパー』(Unlock 良く見据えて『クローシューター』を発動)

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