第5話 『Journey』
今更ながら、機会に詳しくない(汗)
食事を終え、自基地の部屋へと赴いた。
元々、ロクに部屋を見て回って無いため引き払う際の私物は全く無い状態である。
ドッグ内に有るエレベーターでギルマルチと共に外へと出ると、メニューを開き、引き払うための申請を終えると、ウイスパーを通じてミキヒサから連絡が入った。
『お待たせ』
『やっほ。今引き払いの申請を終えた所だよ』
『なら丁度良いかもな。今どこに居る? 迎えに行くけど』
『輸送手段を持ってるの?』
『ウイドーがBEM選ばずに輸送機を選択して手に入れてるからな。あいつ、昔っからこの手の操縦ゲームは何故か得意なんだよ』
『もしかして幼馴染?』
『ゴーライオーもだぜ?』
『へぇ…羨ましいね』
『そうか?』
『僕の場合、特に僕に対する苛めが酷かったから』
『…なんか、ごめん』
『ううん。さっきは普通に接してくれて嬉しかった。出会ったのが君達で良かったって思ってる』
このVRMMOの世界も一枚岩では無い。
当然、“所詮はゲームだから”と言ってタカを括り、プレイヤー、及びNPCを傷付け、苦しめて喚起する人達が居る。
ミネルヴァも以前プレイしていたファンタジーVRMMORPGでも、その様な横暴を目の当たりにした経験がある。
チャットスレによる誹謗中傷、謂れの無いPK、パワハラ、セクハラ、etc…。
勿論良識的なユーザーも居たが、多くはミネルヴァを責め(攻め)続けた。
GMもそれについては彼等を非難した。
ミネルヴァの軌跡であり、功績で有る所の『魔科学』は原作者にも認められ、開発したアイテム等も公式に、そして正式に採用されゲーム内に組み込まれる程の存在として確立する事となった。
しかし、その甲斐も無く、引退。
そしてアカウント削除。
――――現在に至る訳である。
『そっか…嬉しい、か…』
恥ずかしそうな口調でえへへと笑う。
『あー、あー…聞こえるか?』
と、ゴーライオーが突然会話に割って入ってきた。
『わ、わ…びっくりした』
『もしかして会話中だったか?』
『そーだそーだ、シリアスな空気を返せー』
『ちょっ…ミキヒサまで!? まぁ、納得いかないが、もうすぐそっちに着く』
『あれ、場所って教えたっけ?』
『さっき恐竜野郎と戦ってる時にウイドーがミネルヴァさんの機体情報を登録して、それを探知してるからな』
『相変わらずお手の早いこって』
『妙に誤解する様な台詞は止してくれ』
すると、飛行機が発すると重低音の音が聞こえてきた。
音の方向へ向くと、カーキーに塗装された輸送ヘリが此方に向かって移動していたのだが、初めて間近で見たので、その凄さを、身を持って味わったミネルヴァであった。
ギルマルチを輸送機に格納すると、ブラックウイドーとフレンド登録をし、目的地である彼等の基地へと移動した。
「しっかし…『NEXT』にこんな機体が開発されてるとは、な。盲点だったぜ」
ゴーライオーはミネルヴァのBEM『キルマルチ=マイス』を眺めながら、感嘆の声を漏らす。
彼も『NNEXT技工』のBEMには興味が無かった訳ではない。
寧ろ、【X-ZAY】シリーズにおける人間の動きをトレース出来る操縦機能に憧れを抱いた。
『NEXT技工』といえばスズキグループが民間事業向けにBEMを開発している企業(という設定)である。
その生物的な奇抜なメカニックデザインは『ジオラマワークス・エレクトロニクス社』や『ロード・インダストリー』の機体に通じるものがあるのだ。
曰く、
『――――ロマンとリアル(と効率さ)を掛け合わせて何が悪い!』
という訳である。
他に有るとすれば、『ジェネラル・テック・ウォー・インダストリー社』と同程度のミリタリーグッズを、傘下の提携会社である『SUZUKI GRERT TECNIXS社/SGT社』が民間向けにそれを改良・編集して販売している。
『ザストゥン社』も一応“刃銃・セクンドゥス・デリンジャー”というエネルギー射出型の剣銃を出しているが、今世紀で最高のミリタリーグッズの有名メーカーは『SGT社』と『ジェネラル』この二社であると言っても過言ではない。
「それにしても君達こそ、その年で『ジェネラル』の機体を選ぶなんて珍しいね」
彼等三人は外見を見るに幼い。
良くて中学三年生と言った所だろう。
「あ、ミネルヴァさんにはまだ言って無かったですね。俺等は中学入ったばかりです。で、肝心の機体選択なんですけどACの影響なんです」
「その年齢でAC好きって…あー、人の事言えないかも」
ミネルヴァもロボ好きな人種であったためACの様なアクション性の高いゲームを好んで、毎日遊んでいた。
無論それが興じて、以前彼がプレイしたVRMMOでも、現在ではそこそこ定評のある種族“キャスト・ゴーレム”を初めて誕生させたのは記憶に新しい。
「因みに僕は高校二年ですね」
「…同世代でも無かった訳か」
「ふふっ。まぁ、けど今の僕等は“初心者”だし、それに同じ仲間だから少しくらい気楽に話し掛けてくれても罰は当たらないと思うんだけどね」
ミネルヴァはそう言うと、くすりと微笑んだ。
(――――綺麗だ)
その光景にゴーライオーは不覚にも見惚れていた。
一般的な男性からは決して出せないふんわりとした雰囲気を醸し出すミネルヴァの姿は、美少女というよりも、大人の女性としか言いようが無かった。
「ほらそこの男子っ、何見惚れてんのよ? あ、もしかしてソッチ系が趣味な訳? ふぅ~ん?」
「言い掛かりだ! そして俺はノンケだ!」
「へぇ~そう? その割には――――」
「……えーっと…お兄さん、どうしたら良いのかな?」
「あっ……ごめんなさい」
「あまり、ゴーライオーを責めてあげないで、ね?」
「…いえ、私こそミネルヴァさんの居る前なのに…」
ブラックウイドーは先程の失言が応えたのか、しょ気てしまっている。
「…取り敢えず顔上げて、操縦してくれないかな? 今君は僕等の足になってくれているのに何時までも縮こまってたら余計、前に進めなくなっちゃう」
「……うんそうね――――」
そこまで言い掛けた時、激しい轟音と震動が船内を襲った。
「ひ、被弾確認! 右翼前方ダメージ、よ……45%!? マズい!」
ほぼ1/2のダメージが入っていると良い。
外を覗いてみると黒煙が勢いよく噴いていた。
「10Kmレーダーに反応あり…って、緑アイコン!?」
”緑”アイコン。
それを指し示すものは“個人プレイヤー及びBEM”…つまり“味方機”だ。
「しかも反応は3…コイツ等、何考えてんだ!?」
原則として、この世界では緑アイコンのプレイヤー・BEM同士の戦闘は禁止されている。
しかし、禁止されてるだけで絶対に攻撃してはならないという訳ではない。
その理由として、プレイヤー等による暴走の鎮圧での攻撃は可能となっている。
そうして物語のキーパーソンや、一般NPC達を失ってしまえば元も子もなくなってしまう。
それ以上にペナルティーが厳しい。
「! また、来る!」
とっさの判断で、機体を左斜めに傾けながら船体をずらすと一筋の白い閃光が通り過ぎて行った。
「ビーム!? ――――! このぉ!」
次々と光の槍の雨が地上から降り注いでくる。
ウイドーはそれを巧みにかわしていくが、輸送船なのでアクロバティックな飛行は出来ない。
「兎に角出撃! ハッチを開けて!」
「了解! 本艦はこれよりBEMによる迎撃態勢に移行する!」
ミネルヴァはギルマルチに乗り込み、OSを起動させる。
ゴーライオーもDONEの起動できた様で、後部のハッチに向かって言った。
バックパックの炎が火を噴き、艦体の上へと移動し、射撃体勢に入る。
『3…2…1……相殺成功! 次弾接近…相殺成功!』
『クローシューター』で次々とレーザー光線を相殺していく。
(あれか!)
2Km圏内に突入し対象を発見するとマニュアル操作に切り替え、『クローシューター』を活動させた瞬間に爪を、空を切り裂く様に射出した。
僅かな“溜め”のタイミングを計り、引っ掻く様に振るったエネルギーは、斬撃の性質を持ちながら爪先から射出された。
相手はギルマルチから射出された斬撃エネルギーを相殺しようと何度もビーム弾で攻撃するものの、その都度逆に真っ二つに両断されて無力化されてしまう。
そうこうしている間に斬撃エネルギーは相手BEMを巻き込みながらアスファルトの地を切り裂いていった。
【Unlock NEW! オリジナルアビリティー『クローシューター・ザンバー』を取得しました!】
【Unlock NEW! アビリティー『クローシューター・スナイパー』を取得しました!】
(おいおい…………剣から斬撃を飛ばすっていうのは有るけどさ、爪でも出来るのかよ)
ゴーライオーはミネルヴァの取った行動に絶句していた。
初心者は基本的に普段【自動】か【半自動】で行うのが一般的だ。
【手動】操縦はかなりの経験を積まないと、いきなり“やれ”と言われても出来ない。
『あー…いっとくけどギルマルチの【手動】は他と比べて簡単だから出来た手法なんだけど?』
『ギルマルチ=マイス』は一般の素人でも操縦し易い設計になっている。
ほんの少しでも慣れてきたら子供でもお年寄りでも【手動】操縦が出来る仕様となっているのだ。
相手を確認すると、先程巻き込まれた形で直撃したために装甲もボロボロ、所々間接部位がもげている。
どうやら反撃は成功したらしい。
と、そこでブラックウイドーからウィスパーかとんできた。
『ゴーライオー、現在の様子は?』
『お、おう。ミネルヴァの攻撃により、相手の被害は甚大、反撃・及び撃破に成功した』
『OK…うーん、ちゃんとジャミングしてた筈なのに…』
『それは兎も角として、『修理』してくる』
『スキルとか、持ってるの?』
『まぁね。兎に角ゴーライオーは戻っといで』
『了解!』
そういうと、ミネルヴァは被弾した右翼の場所に向かう。
『良かった…タービンは破壊されてない』
そう言うと、ギルマルチに格納されていた『リペアセット』を取り出すと、破壊された翼の修理に充てる。
丁寧に、それでもって有る程度の飛行の延長が出来る様に。
まず、煙を消すと焦げ付いて穴の空いた箇所の周りを綺麗に切り取った後、鉄板で穴を塞ぎつつ四方に穴を開けてきっちり閉じる。
『ギルマルチ=マイス』があらゆる状況に対応した“汎用機”だったお陰で精密作業も滞りなく終了し輸送機の格納庫へと戻って行った。
【Unlock NEW! プレイヤーズスキル『精密作業』Lv1を取得しました! これにより今まで出来なかった作業が可能となります】
ミネルヴァはまたもや流れるインフォに驚きを隠せないでいた。
開始数時間にして、アンロックを確認したのであるからだ。
その内の一つは“オリジナル”である。
この手のゲームでは自由な創造と発想、そしてそれを実行に移せる程の大胆な行動が力となるが故に起きたものだった。
基地へと到着したミネルヴァは留守番で一人残っていたミキヒサに出迎えられ、その後、輸送機のログを調べる。
「どうだった?」
付き合っていたブラックウイドーが、不安そうに訊ねてくる。
「ラプター、だっけ? あれの発生源の探索の時にどうやら引っかかっちゃってたみたい」
POP元がタイラントレックスだと発覚する以前、ブラックウイドーは形振り構わず探索を行っていた。
その結果、今回はそれが災いして他プレイヤーからの強襲を許してしまったのであった。
「そっか…」
「気にしないで? あの時は、あれが最善の方法だったんだから」
「でも…」
「良いかい? どんな優秀な人でも失敗する事があるんだ。大切なのは失敗した事じゃ無く、その後の対応なんだよ?」
先程の襲撃に際し、十分な対応で妥協せずに十分な戦力を投入してくれたおかげでリカバリができた。
「今後、僕等は様々な厄介事が舞い込んでくる…否応無しに、ね。でもその都度きっちり対応していけば振り払う事も不可能じゃないんだ」
ミネルヴァは優しく、ブラックウィドーの頭を撫でる。
「ん…」
「…取り敢えず、気分転換に皆でアンダーグラウンドに行こうか」
「そう、ね。立て続けに大きい戦いが有った訳だし」
「うんっ!」
ブラックウイドーは年相応の笑顔で応えると、ミネルヴァを含めた他の三人を引き連れて基地の更に地下…UGトウキョーへと降りて行った。
名前:ミネルヴァ
性別:男性
【PS】
・『空間認識』Lv7(初期)
・『地形利用』Lv6(初期)
・『適材適所』Lv8(初期)
・『設計開発』Lv2(初期)
・『修理』Lv6(初期)
・『精密作業』Lv1(Unlock NEW! メイキング系でより精密な作業をこなした)
機体:『ギルマルチ=マイス』Lv10
【AA】
・『レーザークロー』(初期)
・『クローシューター』(初期)
・『テイルアタック』(Unlock 尻尾でエネミー撃破報酬)
・『ハウリング・ヴォイス』(シュミレーションチュートリアルクリア報酬)
・『ブレイクファング』(LvUP)
・『クローシューター・ザンバー』(Unlock NEW! マニュアル操作で『クローシューター』を発動)
・『クローシューター・スナイパー』(Unlock NEW! 良く見据えて『クローシューター』を発動)