第0話 『Day Bfore Yestaday』
「そろそろファンタジー系に飽きてきたなぁ…」
機械的なフォルムの鎧に身を包んだプレイヤーと思われる男性アバターは暗がりでぼそりと呟いた。
他に誰もいる訳でもない。
詰まる所、“ボッチ”である。
「もうちょっとしたら“あれ”が届くから、この作業が終わったら正式にアカウントを削除だね…よっと…『遺物化』」
と、男性アバターはこれまで記録された資料らしきものを床に配置すると課金アイテムを使用し、『遺物』へと変換させる。
これはゲームにおける引退者が軌跡を残す――“残存”させる――ためだけに使用する、スキルであり、他の大勢プレイヤーに“探求”させながら譲渡させる事のできる特殊なスキルアビリティーであった(そのためにはスキルショップ及びプレイヤーズギルドにて冒険者の引退の趣旨を伝えなければならないのだが)。
(まぁ、“発見”されても使用されずに売り払われるのがオチか)
「ラボラトリー:第零研究所の魔力転換炉・魔力増幅炉及び全てのスパコン、OSを休止…そして『遺物化』!」
全ての作業を終えた男性アバターは名残惜しそうに、まっ白い天井を見上げながら、消えていくのであった。
たまに見かける、引退してから始まる物語です。