<血夜の黒い戦い>
今回は一応本編です。いつも本編ですけど。
メインラインというかなんと言うか、一番大事なところみたいな?
今期間5つ目の夜。普通、夜は7日で終わるのであと2日で終わる。
深夜零時。俺は借りた宿から出て怪しげな街中を1人歩いていた。
本当はセンスとヘネスも呼ぶべきなのだろうが、出会ったばかりの他人を巻き込むわけにも行かない。だが、日中のセンスの様子からすると、フラりと現れたりしないだろうか? と、やや心配になる。
街中は今日もといった具合で静寂の支配を受け、生きる音が1つも聞こえてこない。獣のうなり声はおろか、足音すらも聞こえはしない。
視界にあるものは闇だけで、たまに石造りの天井を支える柱も写る。足音は発てないようにしているが、こうも静かだと発ててもいい気がしてくる。
刹那、生暖かい風と共に男のものと思われる甲高い悲鳴が届いた。その声は遥か後方からのもので、石造りの床と天井を響き渡り届いた。
音の正体はすぐに察しがついた。かなりの高確率で噂の人斬り亡霊だ。宿の店主も最近は不気味で夜は誰も立ち歩かないと言っていた。
俺は足早に悲鳴の聞こえた方へと足を動かした。不思議と落ち着いていて、足は止まることはなかった。
そうして、悲鳴の根元――亡霊の許へと、俺はたどり着いた。
しかし、そこにいたのは闇にとける黒いローブを羽織った黒髪の少女だった。
少女は今だこちらに気づいていないのか、ペッタリと座り込んでいる。
「あんたがエルエスの亡霊か?」
少々荒々しい気のする言葉だが、ここで甘くして『もしも』があったら困るのだ。
「あなたは、だれ?」
俺は少女の言葉を聞くが答えはしない。再び亡霊か、と聞く。
「あなたは光なの? 闇なの?」
正直言ってこの切り返しの言葉は驚いた。少女はこちらをじーっと眺めながら俺が口を開くのを待っている。
「光だ、と言ったら?」
「……殺すわ」
その宣言と共に少女の体は踊るようにこちらへと向かい、ローブの懐から1本の長剣を取り出した。
その動きに一瞬動きが遅れ、俺の黒いコートローブに一筋の切れ口ができた。その後の攻撃は難なく回避し、俺もフードを脱ぎ、背中から剣を抜いた。そして迫り来る刃を受け止める。
キィンッ、と微かな火花を散らした2本の剣はお互い負けを譲らなず攻撃を続ける。
一度距離を置き、お互いにお互いを睨みつけ、大技を発動させるために体勢を整える。少女は左手で持つ剣を下方へ抜け、右手を後ろへやった。その姿は少女の持つ剣が細剣である事から、突きの体勢であると予測させる。それに比べ、俺は腰を低くはするものの、右手に持つ剣を左へ回し、左手もそれを上から支えるようにそっと添える。これは相手を横なぎにする姿勢だ。
俺はそのまま流れに乗ってスキル《ソニック・ストライク》を放つ。少女ではあるが、こちらから仕掛けなければ殺られる。
しかし、予想通りではあるのだが、少女はまたも踊るかのように華麗に風を纏った剣を避けると、こちらに剣を向け反撃してきた。
目にも留まらない速さの突きを直感的に何とかすれすれでかわすと、今度は次の一撃へ移る速さに驚かされた。通常の突きをかわされると、今度は剣に魔力を付与させ、高難易度スキルを放ってきた。
ゆっくりとステップを踏みながら剣で不規則に突き、それであって確かに急所を狙ってくる。不規則であるにもかかわらず隙はなく、迷いも1つもない。今までに見たことがないほど見事なスキル《スピニング・スプラッシュ》だ。
その攻撃に圧倒されるものの、俺は一発残さず剣で受け流すが、あろうことか少女の剣に付与されていたのは高レベルな氷の魔力で、剣をかわしても俺の皮膚を鋭い霜が切り裂いた。
「あなたも所詮その程度。私の相手ではないわね」
「ってぇな。この野郎……」
この瞬間、けしてキレたわけではないが、多少頭に血が上りついつい闇の魔力と風の魔力を同時に開放させてしまった。俺の足元を黒い霧が漂い始め、シルバークロスをそれと同じきりが包み込んでいる。
それを見た少女は1つ息を呑み、剣を下すとともに言葉をもらした。
「あなた、闇じゃない」
「だから、どうした?」
俺は聞き返す。
「それなら、私とあなたが戦う意味は無いわ。私たちがけすべきは、光の力。リノを苦しめた光」
「リノ?」
少々わからない事が多いが、今目の前にいる少女が俺と同じ闇の力を継承していて、間違った事をしようとしていることは分かる。
「お前のその復讐は、何も意味がないぞ。俺たちが消すべきは、光でも闇でもなく、その間に割って入ってバランスを崩したヤツだろ」
しかし少女はそれを他愛無い事と思ったようで、首を軽く横に振った。
「……それでも、リノを苦しめたのは光よ」
「その、さっきから言ってるリノって誰なんだ?」
「リノはリノ。私にとっていなくてはならない人間よ」
「…………」
その一言を聞いて、俺の記憶の断片が浮かび上がった。思い出したくもない忌々しい記憶。それでいて、忘れてはならない記憶だ。
この少女のいうリノって人がどんな目にあったのかは知らない。だが、それでいちいち復習をしていては、この世界は本当にダメになってしまう。それを伝えなくては、この少女はこれからも人斬りを続けるだろう。
しかし、俺が沈んだ表情の顔を上げる頃には、もうそこに彼女はいなかった。
その代わりに太陽が顔を出し始めていた。
俺はこの日、この世界の抱える大きな問題を見た気がした。
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