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<家族のもとへⅠ>

「なんで、なんでなんだよ……。嬉しくない訳じゃない、嬉しいに決まってる……。でも、あのときお前は光になって散っていった。いったい何が起きたのかと思った。いったい、お前に何があったんだ……?」

 エルナードは氷塊に手をあてながら、震える声で呟いた。

 もう体温も下がりきり、足にも手にも感覚は残っていない。すこしでも力を加えられたら倒れてしまうだろう。

 白く色づいた息もだんだん薄くなり、体温の低下を視覚的に感じさせている。

 そして、地下から指す神秘的な光は、影を埋めるかのように強くあった。

「でも……こういうのを運命っていうのかな? 死んでなかった。まだ時間は残ってる。それだけでいまは十分だ――」

 そびえる氷塊。冷気で白くなった先に見える人影。

 エルナードの頬で一筋の流れる水が凝結した。

「――そうだろ、アイリス……」

 ブロンドのロングヘアー、透き通るような白い肌。かつて光となって散った幼馴染み、兄弟姉妹、初代ギルドマスターである《光明のアイリス》。そんな彼女を凍てつく氷塊のなかに見つけ出したのだ。

 エルナードは必死に考えた。どうしたらアイリスをこの中から助け出すことができるのかを。

「なあアイリス、俺に助けを求めたのはお前なんだろ? だったら教えてくれ、どうしたらお前を助けられるんだ? どうしたら……」

 エルナードはただひたすらに問いかけた。

 しかし、答えが帰ってくることはない。

「…………」

そして、ついに冷気によって体力が奪われ続け、限界が来たことをさとる。

 とうとう感覚がないどころか、腕も足も動かないのだ。だんだん意識も遠退いてきた。

 それでも、エルナードがその場を離れることはない。

 すると、後方から呼ぶ声が近づいて聞こえた。その声になんとかギリギリ視界に入るかどうかというくらいで首を回した。

 体中がきしむなか、目に映ったのはユマだった。

「エルナード! やっと追い付いた。リノちゃんが心配してたよ? ……って、これ、何……? え、中に誰かいない?!」

 氷塊を見たユマは声を張り上げて驚いた。

「ああ、ユマか、ちょうどいいところにきてくれた。ちょっと、手伝ってくれないか? 俺だけだと、わからないんだ……」

「手伝うって……なにを? まさか、この人をココから出すとか?」

 ユマは驚いたまま見事答えを言い当てた。

「ああ。こいつを、こっから助け出すんだ。でも、俺にはどうすればいいのか分からない」

エルナードは俯く。

「エルナードの、大切な人なの……?」

「世界で一番大切な……家族だよ」

「お姉……さん……。リノちゃんに聞いたけど、どうしていきなり走り出したの? この場所を知ってた、なんてことはないよね?」

 ユマの疑いのまなざしに、エルナードは反応する事ができなかった。

「知らなかったよ。彼女に知らされたんだ。自分でもよく分からないけど、声が聞こえたんだ」

「そう、声が……。本当に大切な人なのね。絶対に、絶対に助けよう」

ユマはそっと微笑んだ。

「でも、一体どうしたら……。いくら呼んでも答えてくれないし、叩いてもビクともしない。どうしたらいいのか、俺にはわからないんだ……。急がないと、早くしないと、制限時間は着々と進んでる。わかるんだ。あとどれだけでこいつが止まってしまうのかが」

エルナードはだんだんと早口になり、震える声で訴えた。

 そしてこの時、気の所為かもしれない、思い違いかもしれないが、水面下から発せられる光が強くなっている気がしていた。

「エルナードはきっと、焦りすぎなんだよ。冷静に、真剣に、お義姉さんの事を想って呼んであげて?」

「焦りすぎ……か。そうか、そうかもしれないな。ありがとう、ユマ。おかげで、何とかなりそうだよ――」

 エルナードは瞳をつむり、念じた。

――アイリス、聞こえてるか? 一緒に、一緒に我が家に帰ろう。仲間とともに、家族の待ってるところへ帰るんだ――

 足元に薄っすらと黒い霧が漂い始める。エルナードの右の瞳は金色に染まり、そして、霧が徐々に濃くなっていく。しかし、空間はけして黒く染まるのではなく、氷塊の冷気と触れ合ってダイヤモンドダストのような美しい輝きを発し、不思議と優しい香りが感じられた。

 感覚のなかったはずの体はいつの間にか氷の冷たさを感じられるようになっていて、気付けば冷たさではなく人肌の温かみを感じられた。

 そして、ここで視界が強い閃光によって遮られる。

 何が起きたのかと想った。アイリスを氷の呪縛から解き放つ事ができたのか心配だった。

「――グアアァァ……!」

 そのとき、ユマの耳にはエルナードの悲痛の叫びが響いた。

「エルナード!?」

 ユマは強い光によって弱った瞳を必死に擦って、エルナードの身に起きた異変を視界に納めようとする。

 そして、そこでユマの両の瞳に写ったのは、右手を失ったエルナードだった。

 まだ完全に目が慣れたわけではなく、エルナードの失った右腕の行方は、まだ分からない。

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