<光となって散る>
「昔、俺はアイツと約束したんだ――」
今回はちょっと過去についてのお話です。
――遠い過去。
どうしようもない嵐の日。依頼を受けてきていたのはシュルトからずっと北に向かったところにある聖都《パカストル》だった。
聖都というだけあり、神聖な空間で人々の賑わう豊かな都かと思っていたが、それはひどい思い違いで、実際はどうしようもなく寂れた《思い出の都》となっていたのだ。
「ひどいもんだな。ここってもっと神聖な、《光の都》かと思ってたよ」
「なに夢みたいな事言ってんのよ。ほら、今回はユウカがこれなかったせいで私とエルしかいないんだから、ちゃんと仕事すんのよ?」
「はいはい、わかってるよ。毎回しつこいんだよなぁまったく……」
「なによ文句あんの?」
「イイエ、ナイデス」
俺はあの日、孤児仲間のアイリスと2人で仕事に出かけていた。
孤児だった俺達を引き取ってくれていた先生が死んでから1年が経っていたときのことだ。
残された俺達は3人でギルドを立ち上げて、少しずつ世界に馴染んでいった。1年ですでにシュルトのなかで1、2を争うほどの実力になって、毎日仕事で忙しかった。人数は10人にも及んではいなかったのだが……。
そんななか、俺とアイリスが受けていた依頼内容は簡潔には『暴徒の鎮圧』だ。まぁ、もうすこし難しくすれば『聖都陥落を狙う暴徒達の徹底的鎮圧』だ。大して変らないか。
アイリスは少し、いや普通に気が強くて、仕事に行くたびに俺に注意していた。へまをやらかした覚えは一度もないのだが……俺が一番年下だからか?
まぁそんなことはともかく、俺たちが寂れた都のなかをあちこち情報を求めて歩き回った。
そして、2つの答えにたどり着く。
――聖都を収める長は長い間外界から一切の交流を断っていること――
――暴徒の存在を誰の一人も知らないということ――
正直なんだかわからなかった。
依頼主はこの聖都の長。なのに、住民にいくら話を聞いても、答えは全て同じなのだ。
「知らない」
この答えの所為で、その次にある《暴徒》についての情報をまったく聞き出せないでいたのだ。
そしててとうとう、何の情報も得ることのないまま、依頼主との対面になった。
「どうですかな? 聖都というのにずいぶんと寂れた様子で、さぞ驚いたことでしょう。しかし、やはり交流というものはするものですな。助けを求めれば、すぐに救済者が現れる。それも、何の根拠もない……偽りの危機のためにね……」
「――ッ!?」
気付けば、無数の戦士に囲まれていた。
そう、あれは何者かによって仕組まれた罠だったのだ。狙いはほかでもない、この俺。闇の遺志を継いだ、後に《片翼》と呼ばれるこの俺だと思っていた。はじめのうちは……。
「おい! 狙いは俺か? だったら、アイリスには手を出すな!」
「おやおや、これは自意識過剰というヤツですかな? いや、あなたにも勿論用はありますが、あなたはそっちの娘のオマケですよ。本当にあの方が消したいのはそっちの娘のほうなんですからね」
俺は驚いた。いままで、自分以外に狙われる要素を持っている人は周りにいないと思っていたからだ。
だが、それは違った。
理由は知らない。でも、それがどうであれ、俺はアイリスが殺されるのをただただ見過ごすわけにはいかない。
俺はまだうまく使いこなせていない闇の魔力を一時的だが解放した。アイリスにも止められたが、絶体絶命という状況を打開する術はこのほかになかった。
部屋には黒い霧が漂いはじめ、開いた窓の向こうからは強い風が吹いていた。
幸いその場にいた人間はいきなり起きた事態に戸惑い、警戒が緩まった。その隙をついて、俺はアイリスの手をつかみ、床を抜刀と同時に斬りつけ、下の階へと落ちた。
そしてそのまま警備網を勢い任せに突破した。
「このまま都を出よう。こんなところで終わる事はない」
俺は走った。アイリスの手を引きながら。
荒々しい嵐の中、無数にある水溜りのうえをバシャバシャと駆けた。
――すると、急に手を引かれた。
「……どうした? アイリス、疲れたのか?」
「ううん。違うの。私はここに残る。エルだけ、逃げて……」
俺はアイリスがなにを言っているのかさっぱり分からなかった。何故、自分の命を狙われる状況下に留まろうとするのか、何故、彼女が命を狙われるのか……。
その答えは今でも分からない。
あの後のことは、なぜか記憶が途切れ途切れになっているんだ。
はっきりと覚えているのは、アイリスとの最後だけ。
「なんで、なんで一緒に逃げなかったんだよ……。死ぬ事なんてないだろ? 逃げ切ることだってできたろ?」
雨は降り続けている。水溜りの水が血で赤く染まっていた。そこらにはばたばたと人が倒れている。聖都の人間達だ。
アイリスは、瓦礫に背中を任せてぐったりとしていた。
「ごめんね。私は、もうココにいるわけにはいかない。エルのためにも、ユウカのためにも――」
笑っていたアイリスの最後は、目に焼きついて離れないものだった。
徐々に淡い光に包まれていき、ついには光とともに消え去ってしまったのだ。夢を見ているのかとさえ思った。でも、アレは現実だった。
俺はそれからしばらく、どこに向かうわけでもなくさまよった。森を歩き、山を歩いた。
ただただ、現実と《あの方》と呼ばれたものに納得がいかず、そして、先生に合わせる顔がなかったのだった……。
本日2回目の所為か、なんか変な文章になっちゃったな;




