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<透明な声Ⅲ>

 どこか急いでいるかのような足音が、洞窟の岩肌とタイルの床とを響いてわたった。

 その音にリノはふと振り返り、頭の中に浮かんだ疑問に対して、何の躊躇もなく忠実に行動した。

 ふぅーっと大きく息を吸い込み、そして発声する。

「……やっっほぉーー!!」

 少し抑えてはいたものも、リノの声が洞窟中に日々か渡る。もし敵だったらどうするつもりだったのだろうか……。

 その後、足音は急に音を上げて、そして速度を上げてリノの許へ着々と進行していった。リノもエルナードを負う足を止めたわけではないが、それでも確実にペースが少しずつ落ちてきたいた。

 足音の正体が地上で別れてしまったセンスやヘネス、ユマたちではないかという期待を抱いたからだ。

 しかし、あまり期待しすぎるとその期待が外れたときのショックも大きくなる。そのうえ今は一刻も早くいきなり走り出して行ってしまったエルナードを追いかけなければいけないということもあった。

 リノは後ろを向くのをやめて、真っ直ぐと前を向いてはるか先を走っている背中を追いかけた。

 それからしばらく、背後から響く足音は速度を変えることなく、その強さを増してきていた。それでも、振り返ることなく走る。

――するととうとう、とある変化が訪れた。

 リノの前に自分の影ができたのだ。

 理由までは分からないが、先ほどから進むにつれて前方からやや強い光が来ていて、影は自分の後ろにできていたはずなのだ。

 それなのに影が前に。それはつまり、後方から何らかの光源が近づいているということを意味していた。

 リノは突然の変化にすぐに足を止め、後ろを振り返った。

 すると、全体的に洞窟内が暗い所為ではっきりとは見えないが、確実になにかが近づいてきていた。

「……おーい!」

 向こう側もこちらが足を止めた事に気づいたのか、声を掛けてきた。

 聞き覚えのある声だった。というかつい数刻前まで聞いていた声だった。

「ヘネスさん!」

 そう、しばらく後方から聞こえていた足音の正体はヘネスたちだったのだ。

「リノっ! やっと見つけた!」

ヘネスは血に塗れたローブの上からセンスをゆっくり下ろすと、1つ深呼吸をする。

 リノはその様子に驚き、まったく声がでなかった。ヘネスもどうやらそれとは少し違うが声がでないようで、代わりにユマが言葉を並べた。

「リノちゃん、詳細はおって話すから、今はとにかくセンス君の傷を直して欲しいの。できる?」

「う、うん。やってみる」

 リノはそっとセンスの腹部に両手をあて、目を瞑った。するとあたりを光が包み込み、そして、センスの体も薄く光を纏った。

 傷口は深く、小さいが貫通している。普通なら死に陥っているのだろうが、幸い急所を僅かに外れており、急死には至らなかったようだ。

 徐々に光は強くなっていき、そしてセンスの傷口を見る見るうちに塞いでいった。

 しかし、リノの治癒の能力は無から有を創造することはできない。散ってしまった血液は再生できないのだ。量を増やす事はしたが、それは応急処置程度のもので、生き残っている細胞を血液の代用にしたまでだ。

 そのうえ、傷口が深すぎた所為でセンスの体力を大幅に削る治療になってしまった。

 生きるか死ぬかは、センスの精神力次第だ。

 いつのまにかセンスを纏っていた光が徐々に薄まり、どこかへと消えていった。

「……一応、これで傷の回復はできました。でも、まだセンスさんは安静にしていないとダメです。ですから、ここからはゆっくりといきましょう」

「わかった。いきなり悪かったな」

「いえ、私、この力を他人のために使った事なかったから、役に立ててよかったです」

リノは微笑んだ。

 そして、思い出したように言った。

「あっ、そうだ、師匠がなんか急に走り出して、もうかなり先に行っちゃってるんです。急がないと……あぁでも、センスさんが……。あぁ、どうしましょうぅ」

 あたふたするリノを見て、ユマがとある提案をした。

「じゃあ、いま体力が残ってる私がエルナードを追いかけるわ。だから、ヘネスくんは引き続きセンスくんを背負って、リノちゃんはもしものために一緒にいて」

「わ、わかりました」

 リノがおろおろしながらも頷き、ユマはリノに変って走り出した。

 徐々に光の強くなる道を、ひたすら駆けたのだ。

「――センスくんもなんとかなった。リノちゃんとも合流できた。あとはエルナード一人だけ。でも、なんでいきなり走り出したんだろう。この先に、一体何があるっていうの……?」

 足元を照らす水色の光。あちらこちらに散らばる水溜り。

 そのどれもがユマの疑問を強いものにしていく。

――そうしてたどり着いた、その全ての答えのつどう場所。

「ここは、一体何なの……?」

 ユマは、強い光を放つ蒼い泉にたどり着いた。そして、エルナードもまた見つけることとなったのだ。

 だが、ユマは声を掛ける事ができなかった。エルナードは何かに執り付かれたように、泉の中心に浮かぶ岩場で何かを呟いていたからだ。

 中心にそびえる謎の氷塊を叩きながら……。

目標まで後もうちょっと!

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