<独蛇の尻尾Ⅱ>
「いま、やっと分かったよ。あなたの力が……」
センスは勝ち誇ったように微笑んだ。
「なんですって?」
その言葉に、メリーも驚きを隠せない様子だった。
「さっき、僕が火球を放って洞窟が照らされたとき、あなたの側にあんなに大きかった蛇がいなかった。そして見たんだよ。普通じゃありえない向きにあなたの影が落ちているのを。そしてそれが、まるで明かりを避けるかのように移動した。それも、僕が狙った位置のすぐ目と鼻の先、つまり、僕の狙った蛇がいるはずの位置で、だ」
「なにが言いたいのよ……?」
メリーは眉間にしわを寄せた。
「……あなたは突然変異型の魔力を持っているんだね。ほんとにあるものだとは知らなかったよ」
松明の火が揺れる。
「僕の予想だと、あなたの持っているのは土の魔力の突然変異。大方、影を操れるんじゃないのかい? だからあなたは影の中でも自在に動き、常に影に身を寄せた……」
その言葉を聞きメリーの表情が静止した。
「どうやら、図星みたいだね」
「ふんっ。私の力の正体が分かったところで、一体なにになるって言うのかしらね!」
メリーはなかなか負けを譲らない。しかし、額に汗を浮かべているのは確かだ。
「あの大蛇の正体はあなた自身の影だ。そして、その影を操るとき、あなたは自身の行動を制限させられる。それに加え、僕の火はあなたの影を退ける。勝負ありだよ……」
この時、空気が凍りついたようにさえ思えた。メリーはなにも言う事はなく、ただ、俯いていた。
「……私は、私は、絶対に負けない……。四天王として……負けられない……! 私は四天王。邪神様に仕える戦士。戦う事こそが存在意義! もういい!! 遊びは終わりよぉぉ!!」
「もうその手は食わない!」
メリーは背後からギラギラと松明で照らされるなか、唯一影を伸ばす事のできる方向――センスへ向けて一直線に、黒い刃を放った。しかし、その黒い影も、センスの放つ火球の光によって消失してしまう。
何度センスの急所を狙っても、全ての攻撃は命中の前に消されてしまう。
「クソックソックソッッ!!」
どれだけ加速させようとも、どれだけ攻撃を一点に集中しようとも、センスの影を照らし損ねる事はなかった。
一度だけ消失せずセンスの至近距離まで行くものもあったが、それもセンスが槍で応戦しようとするや否や、すぐに後退した。
次から次へと爆裂音や風斬音が耳に、洞窟に響き、瞬くように繰り返される閃光が、洞窟の中を隅から隅まで瞬間的に照らしていた。
「何度やろうと、結果は変らないよ! いい加減、諦めて負けを認めるんだ! 無駄な魔力の消費はお互い不利益でしかない!」
「ウルサイウルサイウルサイ!! 私はここでお前達を全員殺す! この先は絶対に誰も通さない!」
メリーは更に攻撃を続けた。ほかの者の介入を許さないほどに。
――そして、とうとうその時が訪れた。
「ッ!」
センス、そして背後の2人はこの一瞬、絶句した。
メリーの黒い刃が、センスの腹部を貫いた。
鋭刃の影の上、蒼い明かりに照らされる岩に、赤い血がどろどろと流れ落ちた。
《時間切れ》。
センスはダメージの所為か、攻撃に集中しすぎていて、大事な事を見落としていた。メリーは土の突然変異型魔力を有している。それは影を操る能力を持つことと、更にもう1つ土の魔力特有の、毒を扱えるということ。
センスの体を、いまこのとき、初撃と2撃目でうけた神経毒が体中にまわりきっていたのだ。メリーと激しい攻防戦を続けるうちに、とうとうそのタイムリミットが来てしまったのだ。
「センス!!」
「センス君!!」
ヘネスとユマ、この2人が名を叫んだことに、センス本人は気付かなかった。いや、聞こえなかった。もはや、センスの耳に周りの音はほとんど聞こえていないのだ。
「ハハッ……アーッハッハッハッハ!! やってやったわ! とうとう止めを刺してやった。わかったかしら? 勝つのは私なのよ、私こそが勝つのよ!」
メリーは勝ち誇ったように高らかに声を上げた。
「次は誰かしら? どっちから殺ってやろうかしらね?」
アハハハハ!! と、メリーは笑い続ける。
――すると、その高らかな笑いが途絶えた。
「ア……ア……アァ…………」
どこにも外傷はないはずなのに、いきなりメリーの口から血が垂れ流れた。
「あ、あんた……」
メリーはセンスを睨みつけた。
「……1つ……言い忘れてたよ……。はぁはぁ……。あなたの弱点……影を操ってる……ときは……感覚も、そっちに持ってかれるってこと。さっき、僕の反撃に……あの刃なら、簡単に弾けるはずなのに……槍を……避けた。それは……槍に当たると、なんらかの……リスクが……あるからだ。はぁはぁ……。これで、本当に……勝負……ありだね。ははっ……うぁ……」
そして、センスは意識を失った……。
それとともに、体を貫かれたも同然のメリーも、その場に倒れた。
「センス! おい、しっかりしろ!」
戦いが終わると、ヘネスはすぐにセンスの許へと向かい、その傷を見た。
「これは……いそがねぇと、本当にこいつぁ死んじまうぜ……」
「そんな……」
ユマの顔が青ざめた。
「とりあえず、オレには応急処置程度しかできねえ。あとは、あの人知を超えた力に、リノの闇の魔力に、賭けるしかねえ……。急ぐぞ! ユマ!」
ヘネスは急いで応急処置を施し、センスを背負うと、リノとエルナードを探して洞窟の奥深くへと駆け出した。




